友情 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101057019

感想・レビュー・書評

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  • 若い時に読んでいたが再読。なんという残酷な友情だろう。かけがえのない友情をコントラストにすることで、それでも抑えきれない恋の瑞々しさや眩しさが際立つ

  • 若い時に読んでいたが再読。なんという残酷な友情だろう。かけがえのない友情をコントラストにすることで、それでも抑えきれない恋の瑞々しさや眩しさが際立つ

  • 【あらすじ】
    若い脚本家の野島が、知り合いの妹、杉子を好きになったことから始まる。
    新進気鋭の作家として世間から一目置かれ始めた、年上で親友の大宮に、野島は恋した事を打ち明ける。野島に対して大宮が親身になって相談や恋の後押しをしてくれるが、杉子を狙う相手も多く、中々踏み切れないでいた。
    大宮の親戚である、武子は杉子の親友で、武子との繋がりもあって距離は少しずつ縮まっていく。
    しかし、野島は杉子が他の男や大宮の事を好きにならないかという心配が尽きる事は無く、その度に大宮に励まされ続けていた。
    やがて大宮は西洋で絵画や音楽、彫刻といった芸術に触れる為、数年の渡航を決意する。
    その後、野島は杉子へ求婚を行うが、断られてしまう。
    野島の仕事は徐々に認められていくが、それでも一人きりという淋しさは付きまとい続けていた。
    そんなある日、大宮から謝罪の葉書が届き、大宮を尊敬している人たちが出版した同人雑誌を見てくれと書かれていた。
    その同人雑誌には、杉子から大宮にすがりつくような愛の告白から始まる、杉子と大宮との葉書による一連のやり取りが収められていた。
    当初は野島を勧めていた大宮は、野島との友情への後ろめたさに苦悩しながらも杉子への愛を吐露し始める。
    誰よりも欲していた杉子の恋が成就した様を見せつけられ、野島はかつてないほどに苦しむ。
    友人の真摯な態度に感謝や怒りや落胆といった多くの感情を抱きつつ、大宮に宛てた手紙を書き、これからも続く淋しさを憂いて日記を書く所で物語が終わる。

    【感想】
    最初は恋愛小説を装ってはいるが、どうせ手のひら返しが来ると思っていた。
    けれど、このまま野島と杉子がうまくいくかもしれないと思ったりもした。
    野島と大宮は互いに心から尊敬しあっているのが所々感じられ、それだけに最後の手紙は本当に効いた。
    野島の理想を杉子に押し付けすぎているのは作中の序盤でも語られており、杉子もそれを感じ取っていたから、振られたのはやむなしだと思った。
    しかし、きっかけや動機がなんであろうと、杉子への想いの大きさが凄かっただけに、杉子からの駄目だしと、大宮を大いに苦悩させたことに対する、野島のショックは計り知れない。
    ここの所は野島が気の毒で、読んでいて辛かった。
    どうしようもない出来事というのは世の中いくらでもあるけれど、それが人の気持ちだと立ち直るのに時間がかかるよなぁ、と思った。
    野島は一時的には辛いが、まだ決して不幸になったとは、俺には思えなかった。
    野島を含めた主要人物全員、この一連のやり取りで傷付きながらも成長するキッカケになっていると思うし、大宮や野島本人が述べている通り、この経験をバネにして大成してもおかしくはないだろうと思う。
    最後の野島は相当打ちのめされているが、大宮への手紙の中でいつかは立ち上がって大宮に負けないような事を成さんとする意志が見て取れたのが心に響いた。
    この手紙には虚勢や意気込み、大宮と杉子への怒りと赦し、優しさ、恥じらいといったありとあらゆるものが詰まっているように感じる。
    読む人によって最後の解釈は別れるだろうけれど、野島にいつかは再度立ち上がって欲しい、と願わずにはいられない素晴らしい作品だった。

    【好きな所】
    野島はこの小説を読んで、泣いた、感謝した、起こった、わめいた、そしてやっとよみあげた。立ち上がって室の中を歩きまわった。そして自分の机の上の鴨居にかけてある大宮から送ってくれたベートオフェンのマスクに気がつくと彼はいきなりそれをつかんで力まかせに引っぱって、釣ってある糸を切ってしまった。そしてそれを庭石の上にたたきつけた。石膏のマスクは粉微塵にとびちった。彼はいきなり机に向かって、大宮に手紙をかいた。
    「君よ。君の小説は君の予期通り僕に最後の打撃を与えた。殊に杉子さんの最後の手紙は立派に自分の額に傷を与えてくれた。これは僕にとってよかった。僕はもう処女ではない。獅子だ。傷ついた、孤独な獅々だ。そして吠える。君よ、仕事の上で決闘しよう。君の惨酷な荒療治は僕の決心をかためてくれた。今後も僕は時々寂しいかも知れない。しかし死んでも君達には同情してもらいたくない。僕は一人で耐える。そしてその淋しさから何かを生む。見よ、僕も男だ。参り切りにはならない。君からもらったベートオフェンのマスクは石にたたきつけた。いつか山の上で君達と握手する時があるかもしれない。しかしそれまでは君よ、二人は別々の道を歩こう。君よ、僕のことは心配しないでくれ、傷ついても僕は僕だ。いつかは更に力強く起き上がるだろう。これが神から与えられた杯ならばともかく自分はそれをのみほさなければならない」

  • 恋愛、友情、葛藤、恋する若者の心の機微が瑞々しく描かれる。掛け値なしの名作。

  • 〜2022.10.11

    恋する男、心の内が詳細に描かれており、情景が鮮やかに浮かんでくる。

    大宮の余裕ある態度と、そこに隠された葛藤。
    男同士の三角関係。友情と恋心。
    男の側は、相手を想えば想うほど辛く、相手は遠ざかっていく。

    野島が俺そのもののようで、辛い。

  • 自分の本棚を整理するために、読んだら捨てようと思って読みはじめたのですが、読み終わるとやっぱりとっておこうと決めた作品です。昔の文章なのでやや読みにくいですが、それ以上に内容に惹きつけられるので、読んでいるうちに気にならなくなると思います。主人公の恋心、恋するとこうなる気持ち、分かります、、、。少しのことで傷つき、ちょっとしたことで有頂天になり、恋ってこういうものだよなぁと恋というステージから退場した今となっては達観して読める作品です。でも、恋なんて、ホルモンバランスだから。昔恋に溺れに溺れた経験がありますが、20年経てば全て笑い話です。特に独りよがりのものは。主人公の30年後の手記とか読みたいですね。

  •  私の中で3本の指に入る小説。中学生の時に読んで感銘を受け、何十年物の本になる。
    私にとっては、【青春時代に引き戻される本】と言うのが一番しっくりと来るかもしれない。

  • 中学生のときに初めて読んだ。そのときは文豪のくくりになる時代の小説はつまらないと思ってたので、緩急のある展開に衝撃を受けた記憶がある。

  • 特に後半以降がものすごい内容だった。これを青春時代に読んでいたらどんな気持ちで読んでいたのだろう。まさしく青春小説の傑作。

    独りよがりに好きな女性を必要以上に崇拝してしまう、なんてことをしてしまうのもまた若さゆえの行為なのだろう。思い返せば10代の恋愛なんてだいたい独りよがり
    。大丈夫、大人になればもっと良い人いるよ、人生長いよと主人公に語り変えてしまいたくなるお話。

  •  大学時代に古本屋で買ったこの本は、誰かに泣きつくほどではないけれどどうしようもなく心が苦しくなったときに、本棚から引っ張り出してくる。今回は特に何があったわけでもないのに、自分を飲み込むような孤独と寂寞を感じている。自分を取り巻く全ての人間関係が希薄に見えて、誰からも必要とされていないような気がして、そしてその原因は他でもなく私自身にあるように思えて仕方がない。沈むときはいったんどこまでも沈むしかない。そんな気分だからふと読みたくなる。

     長年、一途に想いを寄せてきた相手に実はずっと忌み嫌われていたことを、彼女と結婚することになった親友からの手紙で知った主人公の、胸をかきむしりたくなるような絶望。友情を壊したくなくてずっと彼女からのアプローチを断り続けていたという親友からの気遣いの告白が、二重苦となって彼をどん底へ突き落とす。もちろん彼自身にも問題がある。彼女への想いが強すぎて一人の人間というより女神のような存在として崇めるようなところがあるし、交際前から彼女の意思を無視して結婚を一方的に誓うなどストーカー紛いの言動も多い。あまりに一方的で重すぎる彼女への愛情がとめどなく描写される前半部分は、読みながら「ないわ〜・・・」とずっと引き気味。にもかかわらず、後半、親友からの手紙を読んでいると、どういうわけか、主人公が今まさに感じているだろう呆然とした思い、悔しさ、苦しさ、どうにもできなさを、実は過去に自分も感じたことがあるのだということを思い出して、つい共感してしまう。恋愛にも破れ、唯一と言えた友情も壊れ、ここまで全てを打ち砕かれたら「死」という選択肢が芽生えてもおかしくない。けれどこの作品では主人公は絶望からなんとか立ちあがろうとして、天を仰ぎ、神に嘆く。書く人の作風次第でいろんな終わり方が想像できるストーリーだけれど、わたしはこのエンディングが本当に好き。何度読んでもラストに向かう追い込みで心が震える。

著者プロフィール

東京・麹町生れ。子爵家の末子。1910(明治43)年、志賀直哉らと「白樺」を創刊、「文壇の天窓」を開け放ったと称された。1918(大正7)年、宮崎県で「新しき村」のユートピア運動を実践、『幸福者』『友情』『人間万歳』等を著す。昭和初期には『井原西鶴』はじめ伝記を多作、欧米歴遊を機に美術論を執筆、自らも画を描きはじめる。戦後、一時公職追放となるが、『真理先生』で復帰後は、悠々たる脱俗の境地を貫いた。1951(昭和26)年、文化勲章受章。

「2023年 『馬鹿一』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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