二十四の瞳 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101102016

感想・レビュー・書評

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  • とても有名なタイトル。
    不朽の名作と謳われていながら、未読でした。
    時代は昭和初期。自立した芯のある女性と無垢な子どもたちの交流を描いた物語、だと思っていました。
    物語が進むにつれ、忍び寄る戦争の影に、この時代の空気を感じました。貧しくとも明るい、いたずらや意地悪さえも振り返れば懐かしく思えるような毎日が、「戦争」というものによって失われていく。時代の理不尽さを前に、怒るでもなければ、叫ぶでもなく、大事な教え子を慈しむ眼差しに、なんだか泣きたくなりました。

    教え子たちを戦争に取られてしまうのも切ないけれど、平和な時代を知らない自分の息子が、戦地に行きたい、名誉の戦死を誇らしいと思うのを目にするのは、どれだけ辛いことでしょうか。
    自らの命を大事にするという当たり前の価値観さえ揺らがせる、戦争というものが怖くなります。むしろ、自分を、相手を大事にするという価値観を持ち続けていては、戦争はできないのでしょうね。

    戦争は悲愴。それでいて、本書は暗くない。
    あとがきには、「壺井さんの文学にはえくぼがあった」と書かれているけれど、本当にそのとおりで、こんな辛い時代においても、明るさを失わない、人の温かみのようなものがある。これが、戦争を糾弾するような物語であったなら、こんなにも長く人々の間で読み継がれることはなかったと思います。
    戦争はよくない。
    それはもちろんのことですが、そんな時代を逞しくも生き抜いてきた私たちの祖先に想いを馳せることができる、そんな1冊でした。

  • 有名な作品だが、初めて手に取った。

    平仮名や方言が多く、始めはなかなか文章が頭に入ってこなかった。

    先生と生徒の学校生活の物語だと思いこんで読み進めていたので、何故この先生が人気者になるのか?と疑問だった。

    しかし私の視点が違った。
    この本はそのような本ではないと気づいてから、読書のスピードが上がった。

    後半は一気に読み進めてしまった。

  • 小学生の時に何度も読んだ本。
    自分が母親になるとまた昔とは違った感想ももつ。
    生きる大切さ、そして生命の大切さ、戦争の悲惨さを教えられる本。



    ・一年生の子が弟や妹の子守りをするとは
     今の大人でさえ育児は大変なのに、本当に本当に大変だと思う。

    ・環境の力を感じさせられる。
     生まれた時代、場所、家によってこんなに運命が変わってしまうとは。

  • 祖母が小豆島出身と知り、手に取りました

    戦地へ向かう生徒、経済的事情で“男として生まれたかった”と呟く生徒…

    私の祖母やその家族も似たような経験をしたのかな…そう思うと、戦争体験は血筋を伝い、受け継がれている様にも思いました

  • 昭和初期、師範学校を卒業して小豆島の分教場に赴任してきた大石先生と12人の教え子との愛情あふれる物語。(文庫裏表紙説明より)

    読む前は先生と生徒の物語なのかな、と思っていたけどどちらかというと戦争のことを描きたかった作品なのかなと思いました。
    大石先生にすごく感情移入してしまいました。赴任したての大石先生の苦労や戸惑いには私も思わず「あるある」と苦笑(笑)
    子どもは生まれる家や時代を選べないんだなぁ、生まれた環境で、時代で、順応して生きていかなければならないというのは今も昔も変わらないことなのだなぁということを改めて感じました。それを、学校の先生や親含め周りの大人がしっかり理解して子どもたちを伸ばしていってあげないといけないんだなぁと思います。

    あたたかくて、さびしい物語でした。

  • 今更ながら、改めてこの有名な作品を読みました。
     貧しさゆえに苦しみ、小さいなりに必死でその状況を受け入れて生きていた子ども達。時代は変わっても子ども達は精一杯、様々なことと戦っていることは変わらないな、と思います。幼いゆえに比較も非難もせず、必死に生きている。令和を生きる子どもたちも、そうなんですよね。
     ひたひたと押し寄せる言論統制に苦しむ、心ある先生。軍国少年として育った息子の心‥などなど、名作だけに、歳を重ねてから読むと、本当に読み応えがありました。

  • 何十年ぶりかに読んでみた。落とし穴に落ちた大石先生のくだりが記憶に残っていたが、全体を流れるのは反戦の悲しい話だった。もうこんな話が理解されない時代になっているのか・・・

  • はじめの方の穏やかで素朴な1年生の子どもたちが、章が進むに従って、それぞれの人生を歩んでいく。戦争が子どもや親、村に落とした大きな影を描いていた。

  • 小学4年の頃、国語の授業の題材として時間をかけて読んだ本作。当時の記憶として、月賦、治安維持法や海千山千といった初めて目にした難しい言葉の意味や、荒城の月の歌詞もなぜか頭の中に残っていたし、戦争の不条理さも感じ取ったことは憶えている。

    それからふたむかしどころではない時間が経ち、今度小豆島へ旅行に行く計画を立てたことをきっかけに、図書館で文庫版を借りて読み返してみた。

    各所で作品紹介を見れば本作の大きなテーマは反戦であると必ず書いてあり、確かに物語の後半は特に、戦時下の庶民の暮らしの悲惨さが強く伝わってくる。しかし、今回読み返すと、丁度今自分に小学生になったばかりの娘がいることもあってか、物語前半でまだ幼い頃の個性豊かな子どもたちと大石先生との交流、そして子どもたちの成長を見守る大石先生の愛情の深さの表現がむしろ強く印象に残った。辛く苦しい時代を乗り越え、年を取っても消えない先生と子供たちの絆は、暗いテーマに反して読み手の気持ちを軽くもしてくれ、それが本作を似たテーマの数多くの他の作品から際立たせているのだろう。

    やはり名作と言って間違いない。小豆島では岬の分教場に必ず立ち寄ろうと思った。

  • 言わずと知れた不朽の名作。
    実は未読でした。
    読む前は「ヒューマニズムを前面に押し出した感動作」だとばかり思っていました。
    それは短絡的な見方です。
    面白いのです、笑えるのです。
    主人公の大石先生は一本松のある本村から、赴任先である岬のある村の分教場に自転車で通っています。
    往復16キロの道のり。
    ある日、嵐を含んだ風が頬をなぶり、大石先生は橋があればいいのにと空想します。
    海に七色のそり橋がかかります。
    45分も早く着いたものだから、
    「さあたいへんです。わたしのすがたを見た村の人たちは、いそいでとけいの針を四十五分ほどすすめるし、子どもたちときたら、見るも気のどくなほどあわてふためいて、たべかけの朝食をのどにつめ、あとはろくにたべずに家をとびだしました」
    「わたしが学校につくと、いまおきだしたばかりの男先生はおどろいて井戸ばたにかけつけ、手水をつかいはじめるし、年とったおくさんはおくさんで、ねまきも着かえるまがなく、しちりんをやけにあおぎながら、かた手でえりもとをあわせあわせ、きまりわるそうなていさいわらいをし、そっと目もとや口もとをこすりました。目のわるいおくさんは、朝おきるといつも目やにがたまっているのです……」
    吹き出しました。
    こういう思わず笑みを漏らしてしまう場面が随所にあるのですね。
    物語は前半、主人公の大石先生が初めて受け持った小学校1年生12人との、おかしくも心温まる交流が描かれます。
    でも、徐々に戦争と軍国主義が教室の中まで入ってきます。
    やがて男子は兵隊にとられ、女子も身をやつします。
    大石先生も、夫を戦争で失うなど翻弄されます。
    戦後、大石先生の歓迎会に集まった教え子は7人。
    12人のうち男子は3人が戦死、1人が失明(歓迎会には参加)、女子は1人が病死、1人は消息も知れない。
    陰惨な話にしようと思えばいくらでもできるでしょう。
    でも、読んでいて不必要に暗くならないのは、筆者の筆が明るいからです。
    それだけに逆に泣けるんですよね。
    文章は簡易平明、漢字はかなりひらがなに開かれていて、ちょっと読みにくいほど。
    小学生でも読めるでしょう。
    好戦的な発言が違和感なく受け入れられるどころか、喝采をもって迎えられる世の中です。
    「今は平時ではなく戦時なのだ」と喝破するジャーナリストもいます。
    そんな時代だからこそ、心静かに読みたい1冊です。

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著者プロフィール

1899年、香川県小豆島生まれ。1938年、処女作である「大根の葉」を発表後、「母のない子と子のない母」など、数多くの作品を執筆。1952年に発表された「二十四の瞳」は映画化され、小豆島の名を全国に知らしめた。1967年、気管支ぜんそくのため67歳で死亡

「2007年 『二十四の瞳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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