プリズンの満月 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117393

感想・レビュー・書評

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  • 冷徹な無駄のない文章、最高ですね。

  • 今や、池袋のシンボルになっているサンシャイン60。その場所は、以前は、A級戦犯を含め数多くの戦犯が捉えられた巣鴨プリズンであったことを改めて知った。法律の根拠もない、監獄、裁判がどのように進められ、形骸化していったことがわかる。

  • この作家の人物描写はオーバーで無く冷静な目で見ていると思う。文体は簡潔だが余韻がある。特に最後の文章にそれを感じます。刑務官を務めあげてから多分サンシャインビルの工事現場の監督を務めそれも無事に勤め上げる。刑務官時代の一時期巣鴨プリズンで戦犯と向き合った時の回想を描いている。確かに戦争の後始末把握戦勝国が決めていく。第二次大戦で言えば広島長崎への原爆投下もあれが無ければもっと多くの犠牲者が出ていただろうと正当化されてしまっている。理不尽を感じる。戦犯の中にはこんな理不尽のうちに処刑されたひとも大勢いたはずです。吉村あきらの本を読むもう少し読んでみようと思いました。

  • 戦争は、終わってなかったのだなと、感じた。そして、地続きで戦後が始まっているのだなとも。敗戦がいかに惨めで、その時間を乗り越えてきた先人に頭が下がる。

  • 実在した森田石蔵という元刑務官の話や、彼が作ったという年表をもとにして書かれた小説。完全にフィクション。
    ドラマのような感動や、物語の起伏はない。むしろ時間軸場所軸が前触れなく変わるから、吉村昭に慣れない人には読みづらい印象。
    それでもやはり、あとがきにも書かれていたけど「共苦」の感情を作品の基底においてあるところが、日本人たる自分の心を揺さぶる。
    戦争責任なんて、個人はおろか、国単位で考えてももしかしたら存在しないんじゃないかと思った。

  • 戦後、戦争犯罪人が収容されていた巣鴨プリズン。
    戦勝国、アメリカから一方的に戦争犯罪人と言われ収容された者たち。
    敗戦国、日本としては従うしかない。
    だが、自分たちが何をしたのか、何故、収容されているのか分からない。
    徐々に処刑されていく者たち。
    残されていく者たちには、恐怖しか残らない。
    日本人を処刑する道具を日本人に作らせるアメリカ兵。
    作った者たちは、処刑されていく戦争犯罪人を見て徐々に狂っていく。
    全てが狂っていた時代だったのか。
    巣鴨プリズンの跡地は今、サンシャイン60として戦争犯罪人の墓石のように高々と聳えている。

  • 巣鴨プリズンに勤務する刑務官の視点で、その誕生から消滅迄を淡々と描いた歴史小説。一種の政治犯として収監された戦犯たちの、国際情勢に翻弄される姿が生々しく描かれている。彼等に同情を寄せる刑務官等の心意気と細かな心配りに、救われる思いがした。

  • へえー、巣鴨プリズンの話かあと思って読んでみたら、「羆嵐」の吉村昭さんでしたか。

    巣鴨プリズンって名前は聞いたことあるけど、どんなところだったのかとかは全く知らなかったので、とてもためになりました。
    サンシャインシティって、その跡地に建ったんだ……、それすら知りませんでした。
    後半はほとんど刑務所の用をなさない感じだったんだなあ。
    戦犯に対する思いは複雑。戦争になったのはお前のせいじゃ!と言いたくなるような人もいただろうし、罪もないのに一方的に犯罪者扱いされた人もいただろうし。
    勝った側が一方的に負けた方を裁くっていうのもねえ……。本文にもあったけど、原爆落とした国にお咎めなしってどうよ。
    モンテンルパの渡辺はま子さんの話は、以前テレビで見たことがあったので、ここで再び読むことが出来てよかったです。

  •  刑務官を退職し、悠々自適の生活を送ろうと思っていた鶴岡。そんな彼の元にかつての上司から、ビル建設の警備の責任者の依頼が舞い込む。ビルが建設されるのは、鶴岡がかつて勤務していた、戦犯が収監された巣鴨プリズン跡地。鶴岡は警備責任者から退職する日に、かつての日々を回想する。

    「正義は勝つって!? そりゃあそうだろ 勝者だけが正義だ!」

    『ONE PIECE』というマンガで出てきた言葉ですが、巣鴨プリズンというのは、まさにその言葉通りの場所だったのだな、と読んでいて感じました。

     戦勝国のアメリカによる一方的な裁判で、罪を問われ収監された囚人たち。もちろん、彼らが戦争を指揮し、あるいは人を殺したという事実は変わらないわけですが、じゃあ、アメリカの軍人や上層部も同じことをしたのに罰せられたのか、というとそういうわけでもなく。結局のところ戦勝国の正義ですべては決められてしまったわけです。

     そうした巣鴨プリズンですが、刑務の実務をするのは鶴岡をはじめとした日本人たち。戦争をした国民が、同じ国民の刑を執行します。しかし、徐々に刑務官たちは、囚人たちに同情を感じるようになります。そして巣鴨プリズンはどんどん形骸化していくのです。

     例えば、囚人たちの外出がほぼ自由になったり、収監されているにも関わらず、就職し仕事終わりに酒を飲んでプリズンに帰ってきたりと、刑務所とは思えない状況に。

     そして、囚人たちは状況に応じて釈放されていくわけですが、刑期を終えたから、というよりかは国際政治のバランスを考慮して、というのがまた複雑なところ…
    結局、正義とか罪とかって何なんだろう、と巣鴨プリズンって何だったんだろう、と考えさせられます。

     こうした問いかけを可能にしたのが、綿密な取材から書かれる当時のプリズンや世相、社会状況や国際政治の説明や描写。この描写の詳細さと、冷徹な視線が吉村さんの持ち味であり、唯一無二のところだと思います。

     ページ数的には短めの長編、といった感じですが、内容がしっかりと詰まった吉村さんらしい作品でした。

  • これは多くの人に読んでもらいたいなぁと。
    特に戦後の連合国の処置に夢を持っている人には。
    私の母なんかはそうなんだけど、「アメリカが助けてくれた、軍国主義者をやっつけてくれた」ってよく言うんだけど、そういうもんじゃないんだって。

    戦後70年、そういうものに目を向けるものがほとんどなく、切ない節目だった。
    だから、繰り返すんだろう。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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