塩狩峠 (新潮文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101162010

感想・レビュー・書評

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  • 序盤は真面目な明治男の清々しい姿。
    後半はキリストの教えに真摯にその生を捧げた男の姿。
    生きるとは。愛とは。

  • 心に重くずっしりと残る小説だった。
    キリスト教を"ヤソ"と毛嫌いする少年から、身を賭して他人の命を救う大人になるまでの信夫の生涯。
    信夫の転勤をふじ子に伝えるシーンで、ふじ子が布とんを顔まで被って涙を流す描写など、細かい描写の仕方が私の心にスッと馴染んできた。読んでいて心地よい部分が沢山あった。ふじ子の美しさ、人の会話、自然の様子、信夫の葛藤など、言い出すとキリがないが、どれも美しく伝わってきた。
    また、若くして愛する親の突然の死に対峙する信夫の心情、絶体絶命を意識して生きた父の姿などは、これからの私の生き方に影響を与えるだろう。日々家族と過ごす幸せの中で、家族を少しでも蔑ろにしそうにする瞬間に彼ら親子のことをふと思い出すだろう。
    私は信夫や菊ほどの信仰心を宗教に向けられる性根ではないが、信仰に生きる生き様も立派なものだなと強く感じた。読んでいて理解し難い登場人物の気持ちや行動もあったが、自分の知らない考え方や生き方を知れてよかった。
    この小説を読んで、現代は消費の時代であると改めて強く感じた。ネットがなく、人々が自分のことや世の中のことについて深く考え抜き、"今"を生きている姿がとても美しかった。

  •  たくさんの教えが詰まった本だと思いました。どう生きたいか考えさせられるなあと思いました。
     私も聖書を頻繁に読む環境にあって、「ああ、この言葉知ってる」と思い、今も昔も聖書は変わらず伝えられてきたのを思いました。信夫が次第にキリスト教に目覚めていき、隣人を愛するということを徹底して、最期は身を犠牲にして列車を止めた場面では感涙です

  • この作品紹介こそ、ネタバレでは無いでしょうか

    感動と自らの生き方を振り返るお話しでした。

  • 北海道の塩狩峠で実際に起きた鉄道事故で命を落とした青年を主人公にしたキリスト教小説。
    キリスト教徒の崇高さが全面に押し出されており、冷静に読むとキリスト教女性信者が描いた形を変えた布教本のようにも読める。

    主人公は男性だが、思春期から青年期にかけて長々と語られる性への苦悩もリアルさはなく、そこはやはり作者女性にはわからない部分なのだろう。

    自分の身を挺して多くの乗客の命を守った、しかも長年恋慕していた女性との結納のために彼はその列車に乗っていた…となれば、小説自体を絶賛するしかなさそうだが、主人公の行為は絶賛できても、小説の評価はまた別だ。

    極端なキリスト教礼賛がむしろ実在の人物が亡くなった事件を薄らぼやけたものしており、どれだけ読み進めても登場人物は平面的なままで、身近に感じられることはなかった。

    それでも最後に涙するのは、実際の事故の悲惨さと作者の文章力の高さかもしれない。

  • 読了直後、心の底に重石を乗せられたような重い感情が残った。
    終盤の衝撃的な場面を除き、全般は信夫の生き様がとても繊細に巧みに表現されている小説。
    信夫の人生の道のりには読み進めるほど想像を超える成り行き、行動、心情があり心惹かれるものがある。
    そしてやはり最終章はとても魅せられた。自分には、その日たまたま出会った見ず知らずの他人の為に自分の命を犠牲にできる自信は今のところ微塵もない。
    しかし、本の中では信夫の視点から書かれているため、不思議と自分も信夫と同じ行動ができる気がしてくるのである。
    もし客車に実際に自分が乗り合わせていたら。
    何の変わりもないいつもの通学電車に事故が起き死の覚悟をせざるを得ない状況に置かれたら。
    その時最期に自分は何を、誰を想うのか。
    多くの人々にその死に様を“立派な死”と讃えられるとしても、そんな名誉より命が惜しい。同じ場に居合わせている人々の誰よりも、自分だけは幸運に生き残りたい。神や仏に死にものぐるいで助けを乞うことだろう。
    自分は欲深いと思う。だが、人間ならばこの程度の欲は誰しも持ち合わせているものではないだろうかとも思う。
    そう信じて疑えないが故に、なぜ信夫にはあのような行為が成し遂げられたのだろうと、本書を読み終わった後でもほろ苦いような後味が残っている。


  • 読みやすいし、シンプルに心を打つ。

    たまに出会う、人間の本当の価値について考えさせられる小説だった。

    主人公の弱さ、そして葛藤もしっかりと描かれていてその中で信じる心を培っていくのがよかった。
    完璧な人間なんていない。神様でもないのだから。


    主人公のように腹に力がこもった人間になりたい。

  • なんでこんなタイトルなんだろうなー。どこかで出てきてたっけ。って読み進めていって、それが分かった時には衝撃につつまれた後だった。

    道端で会った伝道師の「これはぼくも試みたことなんだが、君もやってみないかね。聖書の中のどれでもいい、ひとつ徹底的に実行してみませんか。徹底的にだよ、君。」の言葉を愚直に守り、実行していく主人公の原点に、ヤソ嫌いの祖母の影響も見えることが、人間とは奥深いものだという印象を受けた。
    しかしその愚直な信仰が昇華される瞬間の、なんと悲劇的なことか。
    信仰は引き継がれる。と結ばれていくラストも、衝撃の大きさで真っ白になった頭には入らなかった。

  • ふじこさんはこの後どのように行きていくのだろうか。幸せになってほしい。

  • 実際に塩狩峠で起った鉄道事故の犠牲者である、鉄道会社の社員をモデルにした物語。
    作者はキリスト教徒であると思うが、明治後期のヤソ、つまり邪教として扱われていた背景をきちんと描き且つ主人公もキリスト教嫌いであり、そこからどのように改宗していくかが鮮明に描かれていたように思う。
    ただ、あまりにも主人公の清廉潔白さが際立ち過ぎており、天邪鬼な自分は、堕落的な部分と宗教観との対比といものを見てみたいと思った。
    史実が入っているのでしょうがないのだけれど。

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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