この土の器をも―道ありき第二部 結婚編 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.77
  • (44)
  • (50)
  • (75)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 542
感想 : 43
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101162041

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 第一部から第三部と3冊の文庫本が在る。その中の第二部である。少し前に第一部を読了していて、「続き」に相当する部分も多い訳で、興味深かった。
    美瑛を訪ねた際に、十勝岳の噴火災害の経過ということで話題になる小説の『泥流地帯』を手にしてみて、三浦綾子作品に関心を抱くようになった。何作かに触れた中、その来し方を綴った内容の『道ありき』が佳かったとする知人の感想を聞き、比較的短い期間で本作に触れる機会を設けてみた。『泥流地帯』について聞いてから手にする迄にはかなりの時日を要したと思うが、『道ありき』については何時迄も放置せずに、聞いてから然程の時日を経ずに手にしたのだった。
    『道ありき』は、三浦綾子の自伝と言われている。が、作品を読む中では「小説を発表し、作品が好評を博して名を成した主人公が、御自身の来し方を振り返っている物語」という「純粋な小説」というような感も抱く。そういう雰囲気が好いように思った。
    第一部では、戦前に就いていた小学校教員の仕事から退いた戦後に病を得てしまい、婚約を破棄して療養生活に入り、そうした中での様々な出会いを経験して来た様子が綴られる。そして障害の伴侶となる三浦光世と出会い、「病気がよくなったら…」と申し出を受け、何年も経って結婚をした。
    この第二部では、結婚をした後の暮らし振りと、「小説家 三浦綾子」が世に出る契機となった『氷点』を綴って新聞社の懸賞に応募し、入選する迄の時期を振り返っている。
    長く療養生活の中に在って、外を歩き廻っていないので、外に出れば眼に留まったモノに一つずつ感銘を受けて「あれ!」と感嘆して、傍らの「ミコさん」に話し掛ける綾子である。その「傍らに話し掛ける人が在る」ということの「歓び」が溢れている様子が凄く強く感じられた。
    現代の言い方では「1K」というような感じになると思うが、1部屋に台所や御手洗が在るという小さな家に三浦夫妻は暮らし始める。そういう中で、以前から縁や交流の在った人達との間で、新たに出会った人達との間で色々な出来事が重ねられる。やがて家主の都合も在って、夫妻は移転を余儀なくされる。そして色々と経過が在って、思い切って小さな家を建て、綾子は家で雑貨店を営むようになって行った。
    そういうような経過が、夫妻が詠んだ短歌も交えながら綴られる。三浦綾子は短歌の同人誌に参加して作品を発表するようなことは続けていた。そして雑誌の募集に応じて綴ったエッセイが誌面に掲載されたという経過も在った。が、特段に「文学的履歴」という程のモノは無かった。文学の世界では無名な、客観的に言って「旭川の雑貨店のおばちゃん」という以上でも以下でもなかった。そこから思い立った小説を綴り、「12月31日消印」という締切だったので、その日に郵便局へ走って懸賞に応募した。それが入選した訳だ。
    本作を読み進めると、御夫妻や身近な人達の来し方に纏わる挿話が色々と出ていて、「あの作品の、あの人物の設定に反映?」というような内容も在り、そういう「小説作品のバックステージを観る」という面白さも在るかもしれない。
    しかし、そういうこと以上に心動かされるのは「御夫妻の生き様」というような事柄だと思う。『道ありき』という題名そのものに様々な意味合いは込められていると思うが、自身が感じるのは御夫妻が生きる“道”を見出して、歩んで来た“道”の途中で少し振り返っているというような様子だ。長い病気療養を経て、何事にもとにかく熱心な綾子と、彼女を包み込むように傍らに在る光世の御夫妻、互いに「傍らに話し掛ける人が在る」ということを「生きる歓び」のようにしている生き様と感じられた。
    出会い、紐解くことが叶って善かったと強く感じた作品であった。広く御薦めしたい。

  • (10.03.2016)

    道ありき•青春編に続く結婚編。三浦綾子氏は素晴らしい人脈に恵まれたなと羨ましくなる。夫である光世氏の深い愛と信仰がなければ三浦綾子という名は世に出なかったであろう。本物の結婚、夫婦、愛、そして信仰とは何なのか改めて考えさせられた。

  • 三浦綾子の人生は間違いなく神様に導かれてると思う。私の人生はどうなのだろう‥そう思える人生に、どうしたらできる?

  • 三浦綾子の自伝3部作の2作目、結婚編。第一部「道ありき」も三浦綾子氏を囲む人々の心の美しさに感動したが、本篇は病気が治り結婚してから「氷点」が入賞するまでの記録で、夫婦の在り方を考えさせられる。
    三浦光世氏の、キリスト教に根差した、綾子氏に対する深い愛情に心が洗われる。人間って(少なくとも自分は)もっと汚いものだと思っていたが、本来ここまで美しいものなのか。支えあい、補い合える人に出会い、努力しながらも幸せいっぱいな姿、日々の健康に感謝する姿勢が感動的である。
    個人的に印象に残ったのはこの部分。「子供をもうけることだけが結婚の目的だとは、わたしたちは考えていなかった。二人がお互いの人格を尊敬し合いながら、子供のいない夫婦はそれなりに、この世に果たすべき使命があると思っていた。」
    愛を受け取るだけでは幸せになれないのかなと思った。

  • 道ありき第二弾。三浦氏との新婚生活から「氷点」入選まで。長い闘病生活を経て力強く人生を歩む夫婦に、「あっ、生きるってこういうことなんだ」と学ばせていただきました。元気をもらいたいときに読む本。

  • 日々の夫婦生活や対人関係について学ばされることが多く、生活しながらこの本に書かれた言葉を思い出して過ごした。
    閉じてしまうとすぐに忘れてしまう私。その中でも一番心に刻みたい言葉は、「氷点」が朝日新聞の懸賞の一位に選ばれたとき、夫の光世さんの言った、「この土の器をも、神が用いようとし給う時には、必ず用いてくださる。自分が土の器であることを、今後決して忘れないように」という言葉。
    いろいろな意味で私には胸にささる言葉。大事にしたい。

  • 『道ありき』の続編。三浦綾子が光世と結婚し、『氷点』が入選されるまでの話。
    夫婦とは一生の努力が必要である、などの言葉が印象に残った。
    三浦綾子が光世やキリスト教に影響されて、物の考え方が変わっていく過程が面白い。
    また読み返したい。人にも薦めたい。

  • 光世さん綾子さんの結婚直後から、『氷点』の入選まで。
    夫の光世さんは、とてもお優しいかた。その印象は初めてお会いしたときから今まで変わらない。

  • 作家三浦綾子さんの人生について。病床で洗礼を受け、クリスチャンになった後のお話。

    綾子37歳、三浦35歳での結婚。肺結核と脊椎カリエスを併発し13年臥せていた綾子を病気から治るまで5年待ち続けた三浦。どこに出張する際にも常に綾子の写真を携え、いつか共に来れますようにと祈り続けた三浦。そうしてようやく夫婦になれた二人。

    たったひと間の小さな新居を、どこにいてもお互いの声が聞こえると喜び、一緒にいられるだけで幸せを感じる三浦夫妻。

    最近イライラ気味で色々なことに不満が先立って、感謝を忘れていたけどそれを恥じるような気持ちに。心が洗われるような本。

    洗礼も受けていない無宗教の私だけどプロテスタント系の学校に通い、六年間毎朝礼拝をしていたので覚えのある聖書の言葉も幾つか。読み返すと深い言葉ばかり。

    夫妻に神父が贈る「結婚したからといって、翌日からすぐに夫婦になったといえるものではない。わたしたちが真の夫婦になるためには、一生の努力が必要である 」という言葉や、

    (人にはできないことも、神にはできる ) という聖書の一節、

    病弱な二人の結婚を批判されたときも「万一、誰も祝福してくれないとしても神様だけは祝福してくれる 」

    そして( 許すということは、相手が過失を犯した時でなければできない、人を許し受け入れること、結婚とは許し合うこと) という悟り、

    『 石にかじりついても、ひねくれまいとして生きて来た 』という三浦の妹の言葉にも胸を打たれる。

    充分すぎるほど恵まれているのに、ひねくれてなどいられない。

    また幸せ絶頂の際に二人が心に刻んだ
    「人間は恵まれる時は一番警戒を要する時です。益々己れをむなしゅうして主にご信頼なさるように。お得意にならないようにしてください 」という牧師からのメッセージ。

    ( 親孝行の金は神がくださる ) という三浦の考えや

    『なんでも祈り求めることは、すでにかなえられたと信じなさい。そうすれば、そのとおりになるであろう 』

    祈ったら、あとはもう神様にまかせておきなさい。旧約聖書のヨブ記を読みなさい。何か辛いことがあっても、「
    吾々は神から幸を受けるのだから、災をも受けるべきではないか 」。というクリスチャンとしての生き方、思い。


    吾々は土から作られた、土の器にすぎない。この土の器をも、神が用いようとし給う時は必ず用いてくださる。

    この一節はタイトルにつながる。

    思い悩んだときに読み返したい本。

  • 著者の自伝、結婚後〜氷点の受賞まで。
    「夫婦とは、一生かかってなるものです」
    許し続けることの行き着く先を初めて知った。
    一人の人間の生き様としても、信仰を持たない僕にとっては非常に刺激的な本でした。こんな綺麗で力強い生き方もあるのか…

著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三浦綾子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部みゆき
フランツ・カフカ
ヘルマン ヘッセ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×