おぱらばん (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.86
  • (39)
  • (56)
  • (39)
  • (7)
  • (2)
本棚登録 : 634
感想 : 46
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101294742

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • そこはかとないウィットとノスタルジーを感じられる本。未だ知らなかった海外作家の情報を得られるのもよし。なかなか読み進められなかったのが不思議だ。貯水地のステンドグラスが1番のお気に入り。

  • 「のぼりとのスナフキン」というエッセイが素敵です。

  • 「おぱらばん」という不思議な語感は、実は"auparavant"というフランス語の単語。
    収められている短編はすべて、パリで出会った人々や出来事と、同時に出会った本の中の世界とが不思議にシンクロする話。
    堀江敏幸らしい静謐な文章を味わえる佳作。

  • 表紙の体裁とタイトルの響きが好きな本。「でたらめに発音記号もでっち上げて、よくできてるなぁ」と思ってました(使ったことないもん:笑)。表題作は、80年代、フランスへ入国する中国人が急増した時代が題材。そういえば、このあたりのちょっと後にフランスへ行ったとき、必ず「中国人でしょ?」と尋ねられた…そういうことだったんだ。しかも私のふるまいが日本人っぽくなかったんだろうなぁ(笑)。堀江さんの作品を読むと、あたりまえのことながら、「私はフランスを全然知らないなぁ」といつも思ってしまいます。アメ文なんかはだーっと読みまくったら、出てくるお菓子まで自分の手元にあるような気にさせられるのに(笑)、こちらはなんだかそこにある距離感が違う。私を含めて観光客が普通、「見るものがない+危なげ」という印象で避けてしまう場所から話が広がっていくこともあるし、いろいろ裾野が広くて、厚みもあって、しかも遠すぎて追いかけられない感じがする…。そんなところもあって、行きつもどりつ読むような。佐伯祐三の描いたパリ下町のイメージっぽいけれど、プラスチックっぽくて、寒々とした感じを受けるように思います。でも嫌じゃない。個人的には「洋梨を盗んだ少女」「貯水池のステンドグラス」「黄色い部屋の謎」が好み。決定的な不幸を描いているわけではないのに、なんだか、主人公が去ったあと、ぱりんと壊れてしまっているようなもろさをすごく感じます。それと、「のぼりとのスナフキン」の、ほかの短編とはちょっと違った、熱を帯びたスナフキン論も印象的(笑)。作中に引かれる本が本編ととけあい、どこからどこまでが堀江さんの創作か分からなくなって、気がついたら終わってるという、化かされ感(笑)が好きなので、この☆の数。

  •  彼はまず、こちらの国籍を確かめもせずに、以前、東京へ行ったことがある、とフランス語で言おうとした。言おうとした、としか書けないのは、《以前》に相当するフランス語を思い出すのに、彼がたっぷり十分以上の時間をついやしたからである。顔を真っ赤にして、声にならぬ声を漏らしながら熟考した末に出てきたのは、くだけた日常会話ではあまり使われない《AUPARAVANT》という単語であった。片仮名に変換すれば《オパラヴァン》と表記しうるこの副詞は、ふたつの行為の時間差をはっきり示すために用いられる、どちらかといえば丁寧な言葉で、私は宿舎に滞在している中国人の多くが、《AVANT》のかわりにきまってこの単語を用いるのに気づいていたのだけれど、その理由を深くつきつめようとはしなかった。先生の発音は、不揃いな歯ならびと前歯にできた穴からは想像しがたい、まことに明瞭な単音で、ポップコーンでもはじけるようにひとつひとつばらけたその音の羅列は、いささか日本風に《おぱらばん》と、じつにキュートに、遠い国の魔法使いの、とっておきの呪文みたいに聞こえるのだった。私はその響きにうっとりしつつ、ひとつの文章ができあがるまでの膨大な時間を案じて会話を断ち切り、紙と鉛筆を用いた漢字による意思疎通を提言したほどなのである。
    (「おぱらばん」本文p12-13)

  • にやり。

  • 人生における「偶然」が伏線として存在している短編集のように思われます。
    作者の精神の放浪史でもあるような。

  • 床屋へ行く。絵葉書を探す。スナフキンに思いを馳せる。友人の家を訪れる……。
    折々の日常のできごとにふれながら、筆致は、ふと横道にそれるように、様々な書物へと迂回する。
    「私にはそんなぐあいに、書物の中身と実生活の敷居がとつぜん消え失せて相互に浸透し、紙の上で生起した出来事と平板な日常がすっと入れ替わることがしばしばある。」
    迂回すること。その愉悦と贅沢。

全46件中 31 - 40件を表示

著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

堀江敏幸の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×