凍える牙 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101425207

感想・レビュー・書評

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  • いきなりの火だるま死体、次いで獣による咬殺。物騒このうえない連続事件だが、ミステリーではなかった。音道貴子という、女性刑事のヒューマンドラマ。捜査員紅一点である貴子は、容姿端麗だがバツイチになり、やや男性不信。そんな彼女の相方になったのは、超男尊女卑の化石のようなオッサン刑事、滝沢。不協和音が響く中、やがて『獣』の存在に行きつくのだがー。もう1人の主役はこの獣だろう。思わず画像を検索。貴子はカッコいいし、滝沢もムカつくがまあちょっとは理解できる。良作だと思うが、犯人自体や謎解きが面白くないのが若干惜しい。

  •  1996年第115回直木賞受賞作で、女刑事音道貴子シリーズ第1作目。
     警察という男組織の中で奮闘する女性刑事の活躍を描く。現在では本作に書かれているような状況はあまりないのではないかと思うのだが、本作発表時はまだまだ女性の社会進出が進んでいなかったと想像できる。孤独な女性刑事という印象が強いが、相方を組むことになった滝沢という中年刑事とのやり取りはなかなか面白い。双方の視点から描かれていることもあって、情景が想像しやすい。
     本作ではウルフドッグという犬が登場するが、その疾走シーンは爽快感がある。推理小説の部類に入るので事件解決が中心なのだが、個人的にはウルフドッグの疾走シーンが非常に印象に残る作品である。

  • 女性蔑視の男性社会を扱き下ろしながらも、貴子の男性への偏見も相当なものなのでお相子かな...。貴子の母親の典型的なラベル貼りにイライラ。こうした人間像を表現するのがうまいなぁ。最後はあっけないくらいにシンプルだったが、まあ十分に楽しめた。

  • かなり楽しめました。著者の力量で高い水準に纏まった良い作品だと思います。ただし、ミステリーではなくて刑事ドラマですね。あと、蛇足だか巻末の解説が恐ろしく酷い文章。こんなのに解説させるなよ…

  • 久しぶりの日本ミステリーです。
    中学から大学にかけての濫読期の後は、ほとんど日本のミステリーには手を出していませんでした。食傷したせいも有りますが、溺れないよう意識的に避けてきたところも有ります。手にとるのは多くて年に数冊といったところ。今回はLeons
    heartのりょうさんが激賞されていたので、手を出して見ることにしました。
    なかなかのものです。突っ張った女性刑事と”女なんて”の中年刑事の張り合い。そういう背景や人物像が、全編を通して適度な緊張感を生んでいます。だれる事が無い・・・一気に読み通せました。そして、もう一人主人公・狼犬の疾風の魅力。”子役と動物には勝てない”という言葉もありますが、まさしく地で行く感じです。もっとも疾風はかわいいというより毅然とした魅力ですが

  • まだまだ男性社会である警察組織。
    女性というだけで周囲の目はどこか冷たく、ベテラン刑事である滝沢も貴子にどう接していいのかなかなか掴めずにいる。
    「こいつが男だったら」とつい考えてしまい、貴子と組むことに面倒臭さを感じている。
    孤独だが気高く生きているようにみえる疾風。
    貴子は、強いがゆえに一方的に負わされた罪に疾風への哀れさと切なさを感じる。
    与えられた使命を必死に果たし、傷つき、それでも闘いを終えることが出来ずにいる。
    貴子もまた、どんなに頑張っても色眼鏡で見られることから逃れられない世界に身を置いている。
    捜査に対する真摯な姿勢も、刑事としての優秀さも、男たちへの強烈な対抗心も、貴子が警察社会で生き抜いていくためには必要なものだ。
    だからこそ、孤独な疾風に感じるものがあったのだろう。

  • 丁度、「気負わず読める娯楽小説」を求めているときに、本屋さんで買いました。以前から気にはなっていたので。
    まず、面白かったですね。

    音道貴子さん、という、
    ●婦人警官
    ●バツイチ30過ぎ独身
    ●バイクが趣味でバイクの扱いが上手い
    ●男性社会で細く傷つきながらも情熱をもって警察勤めしている
    という人が主人公さんですね。
    1996年の初版小説なんで、2013年現在からすると、17年前になりますね。
    まだ携帯電話じゃなくてポケベルの時代ですね。

    警察モノなんで、基本、主人公と関係なく事件は起こり、その解決に向かう主人公を通して、主人公の性格とか感情とか生活とかが見えてくる、という作りです。

    あらすじで言うと。
    事件軸は、
    ①10年前に娘をシャブ中にされて廃人化されてしまった、元警官が、その恨みを晴らす。当時娘をシャブ中にした人々を殺していく。
    ②その手段として、その人は警察犬の調教係だったので、狼と犬の合いの子のウルフドッグを使って、殺す。
    ③それと全く別線で、お金にいきづまった男が、金のために爆薬を使って人を殺す。ただ、たまたま、元警官がそれを知って、ふたつの殺しが錯綜する。

    という事件です。
    ミステリーなんで、上記の全貌がわかるのは終盤です。謎で引っ張ります。

    でも無論、優れた警官モノは必ずそうですが、この小説が面白いのは、上記の捜査を通して、

    ①男性社会で辛い思いをしながら頑張る、微妙に若くないバツイチ主人公。
    ②はじめは女だからという理由でやたらとイヤミばかり言っていた、相棒のオジサンが、だんだん打ち解けてくる。
    ③家族からもあまり暖かくされず、辛いんだけど、仕事と自分の人生になんとか誇りを持って前向きに頑張る主人公。

    みたいなことが描かれます。それが面白いですね。
    手法で言うと、基本三人称で描かれながら、音道貴子さんの目線と気持ちで描くことが多いですね。そして、時折、相棒のオジサン・滝沢さんの目線や気持ちに入って描いたりもする。

    この辺のさじ加減が上手いですね。

    あんまり、性差別で迫害される主人公の気持ちにばかり振り切れずに、迫害しているつもりはないけど、男性社会にどっぷり浸かって、女性の刑事にどう接していいか分からない滝沢さんの気持ちも分かる。読者としては、「ああ、この二人、もっと素直になれば、ストレスのない良き相棒関係になれるのに!」と思って、頁をめくるわけですね。上手いです。

    でもって、たまに犯人とか関係者の目線に入る章もあります。
    この辺はなんとなく、大沢在昌さん「新宿鮫」シリーズを思わせる技術ですね。

    ま、ぶっちゃけ、買った僕も
    「女性版新宿鮫かな。評判いいし面白いかなあ。正直、新宿鮫はヤッパおもしろいしなー」
    という意識で買ったんで・・・。

    で、正直「女性版・新宿鮫」じゃん、と言われちゃうと、それだけじゃない!という個性は、やっぱり「女性である、ということでストレスが多いけど頑張る」というところに尽きるんですけどね。

    面白かったトコロで言うと、上記の
    「(1996年時点で、男性社会の中で保守的な生き方を捨てて生きていくことを選んでしまった)女性はつらいよ」
    という孤独感が、上手いこと、鍵を握る孤独なウルフドッグ・疾風くんに重ね合わせて見える、という部分ですね。これは十分意図的に、そう作られてますけど、僕は上手くいっていると思います。

    あと、全体にオトナな作り、ちゃんとある程度ハードボイルド、であること。強引に人情話にせず。強引に主人公に花道大活躍もさせず。

    あと、やっぱり語り口とか文章が上手いと思います。
    終盤で、深夜の首都高をバイクでウルフドッグ追跡する主人公。それを追う滝沢さん。
    そんな場面とか、すごくイメージが見える感じで素敵に描かれていますね。

    一方で、微妙に手放しで大感動!という訳でもなかった点を挙げますと。

    ●やっぱり犯罪事件ミステリーとしては、ふたりの全く関係のない犯人、ふたつの犯罪が、偶然に出会った、というその偶然具合がね・・・。なんだかちょっと白けるっていうか(笑)。完全にスッキリ納得はできないなあ、と思いました。

    ●やっぱり、最終的な主人公の情熱が、いまいち分かんないんですよね。警察は男性社会だから大変ですね。それは分かります。じゃあ、なんでその大変な中で主人公は頑張るのか。

    女でもできる、ということを証明するため?犯罪捜査、市民の安全に、何か大きな動機があるのか?生活の為?他にできることがないから?

    ・・・なんでもイイんですけどね。何かソコがはっきり分かると、主人公の生活上の哀愁っていうかペーソスっていうか、そういうものもハッキリすると思うんですよ。極端に言えば、普通のOLになろうかとか、結婚して主婦になろうか、とか悩んでいても良いと思うんですよ。でも、何かしら、犯罪捜査に燃えるものを感じてしまえばイイ訳だから。

     例えば新宿鮫だったら、ソコは非常にはっきりしている。犯罪、とくに暴力団とか麻薬とかっていう職業的犯罪を憎む、それを排除するという行為に明確に正義感とやりがいを感じる、という主人公がいますね。
     そして、警察組織の中での孤独感っていうのも、キャリア=ノンキャリアという構造を使った上で、「警察組織をゆるがす自殺した友人の遺書を持っている男」という素敵なケレンまでありますね。新宿鮫は。

     其の辺の主人公の立ち位置の魅力が、正直、「男性社会で迫害されながら頑張る大人の女性」というだけなんだなあ・・・ということですかね。
     ソレは悪くないけど、じゃあ、なんで主人公はがんばるの?っていう動機部分が欲しかったですね。

    (その代わり、新宿鮫は恐らく圧倒的に男の子娯楽小説なんですね。男の子的なローン・レンジャー、正義の孤立したオトコ、という非常に男性的思い入れの哀愁で成立しているので。あのシリーズの、主人公の恋人さんの扱い含めて、女性読者的にドウなんだろうなっていうのはありますけど。)

     でも、この作者は文章、語り口は上手いと思いますよ。
    ある種、まあ、警察ヒーローもの(ヒロインだけど)ですから。
    汚れた街を独りでバイクで疾走する女主人公、という風情は十分にありました。
    それと、オジサン滝沢さんと主人公は、最終的にある種、非常に雑に言うと仲良くなるんですけど、其の辺の感じが、とてもリアルというか。安いテレビドラマのようにクサく打ち解ける訳じゃなくて。とってもハードボイルド。そういうところ、好きでした。

     これがシリーズ第1作だそうなんで、2作目以降で、1作目を凌ぐ評判作があるなら、また読んでもいいなあ、と思いました。

  • すごかった!
    ドンドン読まずにいられない。
    さすが 直木賞!

  • 音道貴子シリーズ第1弾で直木賞受賞作品。深夜のファミリーレストランで男の身体が炎上し、その遺体には獣の咬傷が残されいた。さらに同じ獣による咬殺事件が続発。おおかみ犬の描写やそれを追う貴子の緊迫感が読み手をハラハラドキドキさせる。とても面白いシリーズ。

  •  「疾風はの全身は見事に躍動し、輝いていた。背中の中心から尾は黒に近い灰色、腹の方に下がるに従って毛は銀色に見える。自分をお追ってくる者の存在など、まるで眼中にもないように、一点を見つめて走っている。」

    走っている姿が目に浮かびます。

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著者プロフィール

1960年東京生まれ。88年『幸福な朝食』が第1回日本推理サスペンス大賞優秀作となる。96年『凍える牙』で第115回直木賞、2011年『地のはてから』で第6回中央公論文芸賞、2016年『水曜日の凱歌』で第66回芸術選奨文部科学大臣賞をそれぞれ受賞。主な著書に、『ライン』『鍵』『鎖』『不発弾』『火のみち』『風の墓碑銘(エピタフ)』『ウツボカズラの夢』『ミャンマー 失われるアジアのふるさと』『犯意』『ニサッタ、ニサッタ』『自白 刑事・土門功太朗』『すれ違う背中を』『禁猟区』『旅の闇にとける』『美麗島紀行』『ビジュアル年表 台湾統治五十年』『いちばん長い夜に』『新釈 にっぽん昔話』『それは秘密の』『六月の雪』など多数。

「2022年 『チーム・オベリベリ (下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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