- Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101800226
作品紹介・あらすじ
「私、死んでいるの?」「はい。ご愁傷様です」梶(かじ)真琴(まこと)が、喫茶店で耳にした不可解な会話。それは、保険外交員風の男が老婦人に契約書のサインを求めている光景だった。漫画家志望で引きこもりの梶が、好奇心からその男を追及したところ、死んだことに気づかない人間を説得する「死神」だと宣(のたま)う。行きがかり上、男を手伝う羽目になったのだが──最期を迎えた人々を速やかにあの世へ送る、空前絶後、死神お仕事小説の金字塔!
感想・レビュー・書評
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うっすらと場面は覚えている。
ただ死神が、死神死神し過ぎてる感があった。(言いたいだけのフレーズに聞こえますが、そんな感じでした。)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
死 ― 誰にでも訪れるが、誰もがその訪れを自覚して迎えるとは限らない。そして自分が死んだことに気づかないでいる者は、肉体が崩れ去るまでルーティンどおりの行動をとるという。
そんな「生ける屍」状態の者を放置しておくと社会に支障を来たすことになる。そこで登場するのが死神だ。
死んだことを説明して納得させ、死を受け入れる契約書にサインさせる。そんな奇妙な営業活動を明るくこなす死神を描くオカルトファンタジー。
◇
うたた寝から目覚めた俺はノロノロと起き上がった。そのまま洗面所に行き顔を洗う。今朝はなぜか水の冷たさをさほど感じない。まだ2月とは言え、どうやら今日はあまり寒くないようだ。
鏡を見る。陰気そうな顔が映っている。重そうなひと重瞼にボサボサの眉。笑顔とは無縁の暗い表情。人を不快にするだけのその顔は、30歳になった今でも「死神」という中学時代の渾名そのものだ。
時計を見る。午前7時35分。昼夜逆転生活をする引きこもりの俺にとり、朝は1日の終わりを意味する。
今日も何もしなかった。クリエイターになりたいと思ってはいるが、そのための努力をしていない。浪費した時間だけがどんどん過ぎていくばかりだ。
父親も愛想が尽きたのか、先月から仕送り額を減らしてきた。ため息をつき、俺は出かける用意をした。
目指すは喫茶ニルヴァーナ。ワンコインでモーニングが食べられるし、何よりマスターが無口なのがいい。
店に入るといつものように奥のテーブルにつきアメリカンモーニングを注文する。
ぼんやり座って待っていると、うしろのテーブルから若い男の声が聞こえた。
「苦しまずに、楽に死ねればいいのに、と思うでしょう? ねっ、斎藤さん」
立て板に水のごとく話し続ける男の明るい口調とは裏腹に、その内容はあまりに物騒だった。
気になった俺はそっと振り返り、観葉植物に隠れて様子を窺うことにした。そうすると……。
( 第1話 ) 全5話とエピローグからなる。
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軽いながら、人生の指針となる内容を盛り込んだファンタジーらしい作品でした。つい読んでしまうのは、設定や構成のうまさがあるからでしょう。
まず死神。なかなか新鮮でした。
大鎌を手に人の生命を奪いに来るような禍々しいイメージの死神ではなく、自分の死を自覚していない人の前に現れて死を認め受け入れるよう説得し、書類にサインをもらうという営業マンのような死神です。
明るくポジティブな性格や、マンガ家志望の梶真琴の蔵書を速読して楽しむところなども親しみが湧きます。
次に主人公の梶真琴。
死神とは対照的な暗くてネガティブな性格。そして、どんなことでも、先にできない言い訳を探して動かない自分を正当化するという、脳みそにカビでも生えているのかと思うほど鬱陶しい男です。
物語は、喫茶ニルヴァーナで知り合った死神と梶が行動を共にすることで進んでいきます。
死神の仕事を梶が手伝うことになるのですが、すでに死んでいることを告げられた人たちの反応や死に様を目の当たりにするうちに、梶が成長していくといった構成になっています。
終盤に死神が淡々と梶に告げるセリフ。
「人間ってのはね、いつか自分が死ぬことを知っている唯一の生物だよ。」のくだりは十分な重みがあり、思わず人生に対する自分のスタンスを見直してしまいました。
また、本編最後にちょっとした仕掛けがあり、ラノベながら印象深い作品に仕上がっています。
そして、エピローグは第2部と言ってもいいような内容で、死神の存在感を際立たせるエンディングです。
感動巨編ではありませんが、重い作品のあとの箸休めに適しているのではないでしょうか。 -
漫画家志望の引きこもりニート、梶は行きつけの喫茶店で老婦人と男との奇妙な会話を耳にする。保険の契約かと思ったそのやり取りは死んだ事に気づかない婦人とその立場を納得させる死神との会話だった。死神に気付かれ梶は半ば強引に死神、余見の納得業を手伝う羽目になる。美形で軽〜い余見だか発言や行動は死神視点で容赦ない。駄目人間な梶の振り回されっぷりがご愁傷様と上から目線で読んでいたけどお約束の展開に入ってからは何故か色々染みてきた。明日が来る事を当たり前だと胡座をかかずに日々より良く生きていこうと思った。ただラストがやや蛇足かなぁ。少し前で畳んだ方が好みかも。
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若い人にも、私のような平均寿命をとっくに半分以上過ぎた人にも読んでほしい作品。
私がこの10数年読んできたのは榎田ユウリ作品より榎田尤利作品の方が圧倒的に多いのだが氏の作品は読むと必ず何かメッセージを残してくれる。
この作品は終始「人は必ず死ぬのだよ」と繰り返す。人は死ぬのは当然の事だし、自然の理で誰も抗うことも覆すこともできない事実だ。
しかし死が10年先か1年先か、明日か、1分後なのか。誰も分からないのに自分の事だと思っていない。それは多分ずっと先の事だと私達はなんとなく思いこんでいる。いや、思いたいのだ。できれば死の瞬間まで自分の死には触れずにいたいのだ。(たとえ墓や葬式の心配はしても)
必ず来る自分の死を受け入れられないから、生きることも中途半端なのだ。したい事、しなくてはいけない事を怠惰に先延ばししている内に死は目の前に迫っているかもしれないのだ。
主人公の梶は最後の最後で生き抜いたのかもしれない。それは死神の気まぐれだったのか死神の上司の采配だったのか。色々想像できるけれど、ラストのエピソードがなかったとしても私は梶はちゃんと生きたのだ思うことができた。
梶は死神の手伝いをしながら人の死に向き合い、自分を慈しんでくれた人達の思いを受け取っていた事を知り、死んでいたけれど生き抜いたのかもしれない。そう思う。だから読み終わって、ひどく切ないけれど救われた思いがするのだと感じた。 -
世界が滅びる物語(他の著者の作品)の次は、死神の出てくる話へ…
滅びるとか死ぬとか、潜在的に気になっている…??
年末だなあ…(いや、年末関係ある…??)
榎田ユウリさんの作品は先に「妖き(変換されないのでひらがなで)庵夜話」を読みきっており、そちらが落ち着いたダークなお話だったのでその文章のイメージのまま、本作も手に取った。
しかし本作は、文章量はやや多めなものの文章の「軽さ」がすごくて、そのギャップに驚いた。
とは言うものの、軽さがあるということは結構読みやすい、ということでもあり、ものの2時間かからないくらいで読み終わることができた。
要は半引きこもりの梶が、いきつけの喫茶店で死神が老婆に契約書にサインを迫るのを目撃してしまい、その死神から仕事を手伝わされるようになってしまう…という、パターン的には“よくある”話。
しかし梶が死神の仕事を手伝わされるようになる理由が、そのくだりを読んでいるときは今ひとつ腑に落ちなかったのだが(死神は全然、助手を必要としているようには見えなかったし)、オチまで読むと一応「そういう理由だったのか」とはなった。
でも「そういう理由」なのかとおもったら、今度は「なぜ梶はこのオチまで“保っ”たのか…?」という疑問が出てきてしまった。
それに対するこたえは、オチの次に出てきた大オチを読むと、一応の説明はつくのだが…、この話をこの大オチで包むことが、ちょっと安易に感じてしまった。
なぜならば、この大オチが許されるならば、それ以前の話は本当に「何がおこってもいい、何でもアリ」になってしまうからだ。
(ネタバレせずに書くと、感想がすごいふんわりしててわかりにくいな…)
オチのところは、後半を読んでいると察しがつく。
大オチについては「それってアリなの…?」という気持ちにはなる。
妖き庵夜話のような緻密な構成が好きなので、こちらのシリーズは1巻を読んだ限りでは、うーんとなってしまったのだった。 -
いずれくる死の前に、生を全うする生き方をする。
内容はラノベっぽくソフトで時折笑える描写もあるけど、伝ったのはそれで。
すんなりと物語に入っていける読みやすさがありました。
近頃重い作品が多かったから、たまにはこういうのもよかった。
終わりくらいに2人のイラストが挿入されているけど。
確かにこれは死神顔だわ(笑) -
死ぬということについてちょっと考えさせられたなあ。
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人間として生きる意味と覚悟を改めて認識させるところあり、ハートウォーミングなところもあり、で凄くおもしろかった。