幻影の書 (新潮文庫)

制作 : Paul Auster  柴田 元幸 
  • 新潮社
4.03
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本棚登録 : 653
レビュー : 72
  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102451144

作品紹介・あらすじ

その男は死んでいたはずだった-。何十年も前、忽然と映画界から姿を消した監督にして俳優のヘクター・マン。その妻からの手紙に「私」はとまどう。自身の妻子を飛行機事故で喪い、絶望の淵にあった「私」を救った無声映画こそが彼の作品だったのだから…。ヘクターは果たして生きているのか。そして、彼が消し去ろうとしている作品とは。深い感動を呼ぶ、著者の新たなる代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 初めてのポール・オースター作品。

    読後感がかなり複雑でなんともいいようかない。
    ただ読み終ってしばらく他の作品を読めなくなる位、
    後に残った。
    面白いという言葉では片付けられない、
    一旦読み始めると、読者を読み終わるまで
    「離さない、引っ張り続ける」、
    そしてとことん「迷わせる」、
    泥沼、もしくは樹海のような、
    厄介さと魅力のある物語。

    人生は死ぬまで続く夢物語、
    いや悪夢なのか。
    光と影、軽と重、罪と罰、喜劇と悲劇、
    自己否定と自己陶酔、救世主と悪魔、希望と絶望、
    誕生と破壊、そして再生・・・。
    様々なワードが、泡のように頭に浮かんでは消える。

    本のページをめくるごとに、
    そんなワードに結び付くような情景が
    重なり続けるように、次から次へと
    白紙に映し出される感覚を覚える。
    軽い目眩すら生み出す幻影達。

    「The book of illusions 」・・・
    「幻影の書」はまさしくこの作品の
    タイトルにふさわしい。

  • 妻子を飛行機事故で喪い、酒浸りの日々を送っていたジンマー。
    彼の心が、まだ死んでなどいないと教えたもの。それは60年前の無声映画だった。
    ふとしたきっかけで知った、かつて無声映画時代に一時活躍し、忽然と姿を消したという俳優ヘクター・マン。
    ヘクターの作品を丹念に追い続け、やがて一冊の研究書まで上梓したジンマーのもとに、ヘクターの妻を名乗る女性から手紙が届く。
    死んだと思われていた彼は生きていて、そして映画を撮り続けていた。
    決して、誰の目にも触れることのない映画を。そして今、ヘクターの人生とそれらの映画のすべてが葬り去られようとしている。

    多くのものを手にしながら、すべてを失い、かわりにまた何かを得て、希望の光が見える一瞬。その一瞬でまた、すべてを失う。それが人生というなら。

    『俺の人生を救おうと思うなら、まず破滅の一歩手前まで行くしかない』

    誰にも知られることのない人生。鑑賞されることのない映画。忘れ去られていく人々と作品。失ってなお遠くなってゆく愛した人々。
    実体を失い、触れることも目にすることもできなくなった多くの人生。それが幻影なのか――。
    読後には虚脱感あふれる一篇。

  • 希望は時に絶望によく似ている。
    たやすく生を食い尽くす。

    彼は救済されたのではなく、延々と死後を生きているのだと思う。
    よく使われる言葉を借りるならばそれは「オマケの人生」。

    だから「感動した」という感想はもはや適切ではなく、私は「怖かった」です。

    【illusion】Anything that seems to be something that it is not.

    「存在するのに見えない、見えないけど存在する」という亡霊のメタファー。
    父親、あるいは父性的なものに対する希求。
    語られること、再構成されること、複製されること、反復されること。
    これらはオースター作品にお馴染みの要素であって、その意味で期待を裏切らない作品ではないかと。

  • 「幻影の書」。この魅惑的なタイトルに引き寄せられ購入した。

    最愛の妻と子を不慮の事故で無くし、絶望の淵を彷徨う主人公の大学教授は、
    ひょんなことから目にした無声映画に引き込まれる。
    それは、1920年代のある一時期にだけ活躍し、その後一切の消息が不明となった
    「ヘクター・マン」という俳優兼監督の作品だった。
    これらの作品に没頭し、「ヘクター・マン」の研究書を書くことで絶望から抜け出そうとする。

    その書はその後、二人を予期せぬ出会いへと導くことになる。
    このようにして物語が展開していく。

    特に嘱目すべきは、主人公がヘクター・マンの作品を鑑賞するシーン。
    細部に渡るまで表現された文字、文章は、
    読む者の脳内のスクリーンに厳密に投射され、
    我々はヘクター・マンの映画(即ちオースターが架空で創った映画)を
    明瞭に鮮烈に目撃することになる。

    そして、その他全体のオースター(訳者の柴田 元幸氏)が紡ぐ美しい文章自体にも、
    映像を想起させる力が備わっており、
    まるで映画を題材にした映画を観ているような感覚に捉えられる。

    あくまでも私的な印象(内容では無い)だが、
    映画に例えるならば、ヴィム・ヴェンダースがニュー・シネマ・パラダイスを撮ったかのような質感を感じた。

    この作品は映画そのものだ。

    映画好きで、映画に関わってきた経験もあるオースターが、
    このような効果を狙って書いたものかは知る由も無いが、
    そんな彼の文章が結果的にこのような効果を生み出していることは偶然ではあるまい。

    そして巧妙且つ暗示的なストーリーは、
    さらにこの作品に霊妙さを纏わせている。

    もう個人的にどつぼな世界観。
    映画好きにも是非お薦めしたい。

  • いくつもの登場人物と時代が交錯しながら、現実と映画と思索が交錯しながら、常に一定のトーンに覆われている物語。希望というものが目前に見えるからこそ、深い喪失というものが詳細に描かれている。それでも読んでいて先に進みたくて仕方がなくなるのは、微細な表現によって心がつかまれるから。読後ものすごく悲しい気持ちになったけれど、この本に出会えたことそのものはとても喜ばしい。そんな物語。

  • 失意にもがくデイヴィッドをかろうじて現実につなぎとめたのは、古き映画の一場面だった。

    「幻影」という言葉がなんとぴったりなのだろう。

    その場で起きたことはもちろん、語られた話も映画の中も、どれもが眼の前で起きたことのように映像的でリアル。混同してしまいそうになること二度三度。
    にもかかわらず、である。
    このストーリー展開。今、すべてが幻影だったといわれたとしても納得してしまいそうである。
    作品、あるやいなや。

     (実体のあるものにできる「影」を思いつつ。)

  • 柴田元幸訳ポール・オースター作品もこれで11冊目。本作のハイライトは、なんと言ってもその視覚的描写の素晴らしさに尽きる。
    飛行機事故で家族を亡くして失意のどん底にいた「私」は、映画界から突如失踪した監督・俳優のヘクター・マンが作った無声映画に救われた。そして、マンに関する著作を発表したところ、彼の妻から手紙が届く。
    マンの作った映画がこの小説の中で、まるでもうひとつの作品であるかの如く描かれているのだが、その描写があまりに美しい。映画を、まして無声映画を文字でここまで生き生きと描写できるものなのか、と感動すら覚える。もちろん、描写だけでなく、その映画のストーリーも秀逸。文字を目で追っているだけで、自分の頭の中でリアルにその光景が浮かび、登場人物に感情移入してしまう。
    これまでに読んだオースター作品は、結論を敢えて書き切らず、読者の想像に委ねるものが多かったが、それらと比較すると、本作は書き切っている感が強い。しかしながら、読者に委ねる部分が減ったこと以上に、視覚的描写とストーリーテリングが素晴らしい。ごく近しい人が亡くなるなど、本来悲しみを覚える場面が多くあるのだが、読後感として残るのは美しさだ。豊かで細やかな描写がこの読後感を創出している。

  • 「誰もが彼のことを死んだものと思っていた。」
     この時点で面白そうな雰囲気がぷんぷん漂う。予想に違わず、ぐんぐんと物語の世界に引き込まれ、体を持って行かれるような経験をした。絶望の淵に立たされた主人公が仕事に没頭することで立ち直っていく、というのはポール・オースターの作品によく見られるパターンだが、そこに古典的なミステリの要素が加えられ、主人公の行く先から目が離せなくなる。

     簡単なあらすじ。
     飛行機事故で妻と2人の子供を失い、絶望に直面していたデイヴィット・ジンマーは、ある一本の無声映画に出会う。映画の主演であり監督でもある人物、ヘクター・マンは過去に謎の失踪を遂げており、すでに死んだものとされていた。しかし、デイヴィッドがヘクターの映画について丹念に調査し、一冊の書を書き上げたあと、デイヴィッドの辿った軌跡の糸口が舞い込む。ヘクターの元へ案内したいと訪ねてきたアルマから、デイヴィットのその後の人生について聞かされた。なんと彼は誰にも見せない映画を撮り続けていたのだ。せっかくヘクターの元にたどり着いたデイヴィットだったが、さらなる絶望が待っていた…。

     著者の功なのか訳者の功なのか、とにかく文章表現がすばらしい。こういう表現もあるのか!と読んでるだけでワクワクする。こんな本に出会えて幸せ。

  • 好きな作家はたくさんいるけれど、ポール・オースターを読むと、あぁ天才っているんだな、とつくづく感心してしまう。この作品も、タイトル通りまさに「The Book of Illusions(幻影の書)」。柴田元幸さんの訳もたぶん素晴らしいんだと思う。訳者あとがきで、翻訳されているのに未読の作品がまだまだあることを知る。人生の楽しみがまた増えた。

  • 物語としても文学としても高い水準の小説だと思う。いろんな想いがストックされるんじゃないかな。ゆっくり読むのが正解な作品。良い小説だと思います。

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