- Amazon.co.jp ・本 (140ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103032359
感想・レビュー・書評
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自らのたどってきた10~40代のどうしようもない人生経験を珠玉の私小説へと昇華させた破滅型の芥川賞作家の小説集です。笑いどころあり、教訓めいたところありで、今回も西村先生の憤怒と怨念が迸っております。
破滅型の私小説書き、西村賢太先生の私小説集です。今回もまた、西村先生の「ダメさ加減が」存分に発揮されており、読みながら何度も腹を抱えては笑い、カタルシスを覚え、と同時にどことなく寂寥感を持つ独語に、西村作品の安定した魅力がほとばしり出ておりました。
ここでの西村賢太先生の分身である北町貫多は10代、30代、そして40代と年代が飛び飛びになっているのですが、15歳で中学校を卒業してなし崩しに社会人となり、母親から手切れ金としてもらった10万円もあっという間に使い果たし、「集金」の名目で母親のところに行っては金を毟り取り、
30代の貫多はいわゆる「秋恵もの」として女性の生理的なものについてデリカシーという言葉を真正面から無視したことを秋恵に向かってのたまい、秋恵がそれに対して不快感を示すと烈火のごとく怒りだし、後はお決まりの罵倒しては殴り飛ばすという展開になるのです。そんな日々から秋恵がパート先の男のもとへと出て行った喪失感を埋めるべく買淫し、女体と一戦交えようとするも、相手の女性に対してげんなりし、女の復讐は怖いなとしみじみ思う貫多。せつないですなぁ!
そんな彼が小説を書いて芥川賞を受賞し、一時期は「芥川賞バブル」で有頂天になったものの、再び鬱勃した日々が戻ってくることを予感させたり、20年間音信普通であった母親から届いた手紙を前文公開するという荒業を私小説内で敢行したり、自らが「没後弟子」と称するまでに敬愛する物故作家・藤澤清造の命日がミーハーなファンたちによって荒らされるのではないかと思いを巡らせる…。
西村氏の1日1日が小説であるということを実証させるこれらの私小説郡に出会えたことを今回もまた、心からうれしく思っております。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
新作が出るたび、期待を裏切らない西村賢太作品なんだけど、今作は、ちょっと・・・。私小説家以外のところで忙しい作者が手を抜いてしまったのか。それとも、本作品は作風転向の決意表明であって、次作には大作が控えているのか。
ファンとしては後者であってほしい。
自身を投影した寛多を主人公にして、青年時代から芥川賞受賞後までを順不同で描く全6篇。「膣の復讐」なんて下品なタイトルはこの作者ならでは。
些細なことから、寛多が徐々に怒りの沸点に達し、暴れまくった末、後悔の懺悔をするというすばらしき黄金のワンパターンをあえて崩している短編が多い。母親からの手紙なんて、破り捨てて、その後に後悔するくらいの奴じゃないのか、寛多は。 -
貫多モノ
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現在から10代の頃まで時が飛躍しますが、貫太の行状は一貫しています。DVに遺伝的な連鎖があるのかはわかりませんが、父親の犯罪と母親からのDVが貫太の精神を大きく歪めたのだとしたら、本書ではその一端を垣間見ることができました。
自らのルーツを断ち切る貫太に、私小説家としての覚悟を感じます。それはもうどうすることもできないことへの怒りや悲しみと同時に更なる藤澤清三への没入を促し、そういう意味では絶望的な感じではなく、むしろ未来への展望を期待させられます。 -
短編集。貫太の若い日のこと、秋恵と同居してた時期、芥川賞を受賞してからの現在のことなど。
下ネタと小説的な単語とのギャップがたまらなく可笑しい。
「感傷凌轢」、子供としての彼の甘さがかわいかったんだけど、ご両親の経緯にびっくり。 -
もうそろそろネタ切れのような感じがする。
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6つの短編集。またしても苦し紛れ、焼き直しの連弾かと思いきや時間の幅もさることながら、内容的にもぐっと幅を広げた作りこみとなっている。秋恵の呪縛から解放され、花が咲いたように興奮が満腔に拡がった。出色は「膣の復讐」。性でもない愛でもない情でもない。描かれているのは即物的な女陰。映像のみなならず芳香までもが脳裏に強く残った。全編通して流れているのは即物である。一見どうでもよい日記のような記述が並ぶも、不思議にこれが読ませる。己の投影のようでもあり、ぐいぐい引き込まれる。汚れた性根を底の底から抉り出してくれる爽快があり快感があった。表題作の「歪んだ忌日」には「膣の復讐」にも似た怨念があり、凍える寒さを覚えた。
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たまに貫多の醜い話を読むと、暗いエネルギーに呆然となる。身を削るように文章を売って、貫多は今後どう老いて行くのか、興味は尽きない。
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貫太の現在、について書かれている章もあり、そこは新鮮さもあり、面白かった。
あとは読み手の力不足なのかもしれないが、多少物足りなくも感じてしまった。 -
☆2つ
なあんとも薄い本である。厚みも薄いが中身も薄い。値段は1300円なのですぐと買えるが、たったの1時間半で読み切ってしまう。
そして内容はというと、先の作品の内容を手を変え品を変えてまた語るだけの愚劣なものである。
こんなの読まんでもよい。唯一読む価値があるとすれば、時代のきまぐれだか何だかは、こういう作品までもを本にしちまうのだなあ、と思へること。すまぬ。