宰相A

著者 :
  • 新潮社
2.73
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本棚登録 : 234
感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103041344

感想・レビュー・書評

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  • 安倍首相とアメリカをユーモラスに皮肉っていて面白いけれど、語り手の「私」にどうも馴染めない。
    語り手の作家は、何か面倒が起こるたびに「うんざりする」。ただ、その状況が尋常ではないにもかかわらず、うんざりする余裕があって思弁的で、一方、紙と鉛筆をパラノイアックに所望するくだりがよく出てくるので、上から目線な感じがして、共感しては読めない。本作は物語的面白さを割と求めているので、そうすると語り手への共感をもう少しそそる書き方にしてほしいと読者としては思う。
    あと、「母親」とか「ゴッドファーザー」とかいうモチーフは、正直どうでもよかった。とくに、母親のテーマは本作の根幹をなすテーマの1つのはずなのに、水に浮いた油のような感じがした。もういいからそれ、とツッコミを入れたくなった。

  • 宰相Aは安倍だ~いくらエッセイを書いても小説を書きたくても書けない苛々が募り,30年前に蛸のぬめりを塩でしごいて取っている最中に心臓発作で死んで,O町の教会に葬った母の墓を参れば,小説を書けると列車に乗った。金メダル確実と言われたアメリカの女性フィギュアスケート選手が転んで金を逃し,笑みを浮かべていることから始まる僕の生まれた年の話を母の声で聞いたが,これは夢に違いない。目が覚めると目的のO町だったが,O町はOとだけ表記され,列車から降りると,周りの人々は驚愕の表情を浮かべているが,皆が皆,緑の制服を着た人々は金髪・蒼眼を持っていて,英語を喋っている。N・P(ナショナル・パス)を持たないため,軍に連行され,ようやく話が通じる女性が説明するには…日本国にときどき紛れ込む旧日本人がいる…平和の為の戦争をアメリカと共に展開している日本に旧日本人は協力するでもなく反抗するのでもなく,同化するのを拒んでいる…旧日本人が日本人になる道がない訳でなく,首相は旧日本人のAである…間もなく釈放され居留地へ連れて行かれるであろう…。居留地に行くと,伝説の反逆者Jの生まれ変わりだと言われ,肖像写真と手記を教会内で見せられる。確かに僕Tとそっくりで,僕の出現を予言している。緑の制服を作る工場で働くことになったが,工場長と同僚によって虐げられ,緑の制服も手に入らない。何よりも母が飲む薬を手に入れねばならないのだ。制服代を天引きされつつ,もう一着分を支払って制服を手に入れて帰宅すると,母は自ら命を絶っていた。翌日,鉈を手に職場へ向かい,手当たり次第に斬りつけて,捕まった…裁判に期待できず,間違いなく死刑だ。勝手にJの生まれ変わりだと期待されても,こちらは只の小説家だ。墓を探して小説を書きたいが,紙と鉛筆がない。紙と鉛筆が欲しいだけだ。飲み屋でかつてJの生まれ変わりと期待されて飽きられた痩せた男が翌日捕らえられ,橋の上で吊された。暴動の雰囲気に,例の軍に所属する女が,居留地で僕の身柄の引き渡しを求めてきた。旧日本人は議論するだけで何も結論は出せない。居留地に掛かる橋に,交渉役の女が車を乗り入れてきた。僕は話し合いのために車に乗り込むが,女は僕を相手に性的欲求を満たしたいだけだ。話し合いは進まず,緑の軍団は包囲網を縮めてくる。最後の拠点,教会も崩壊し,僕の上にJの肖像画が落ちてきて気を失った。皮製の拘束衣を着せられて連れてこられた映画館の舞台では肉体関係を持った女が逆さに吊られ,気持ちを通じさせただろうと拷問を受ける。最初は水で,次は汚物で,最後に性器に熱した油を掛けられて…。僕に対しては電極を通じて電流が送られ続ける。僕は…認可作家だ~宰相Aは戦争主義的世界的平和主義に基づく平和的民主主義に基く平和的民主主義的戦争の既決たる,戦争及び民主主義が支配する完全なる国家主義的国家…ま,ナンセンスっで事!

  • 墓参りに行く電車の中、夢の中で聞いた母の声。
    気が付くと、いつの間にか作家は「現在の日本」ではない「日本」に迷い込んでいる。
    虚構と現実を自在に行き来する、作家の「お話」は読むのが辛くなるほどリアルで息苦しい。
    「お話を現実に現実をお話に書き換える」ことのできる作家だからこそ
    現実に戻ってきてこれを書いたのか?或いは?
    「逃げながらでもいいから、お話を作り続けなさい」母は励まし続けることしかできないけれど。

  • パラレルワールドに迷いこんだ小説家のはなしで戦争と独裁者に対する筆者の批判なのであろうとは思ったが面白みが見つけられず挫折。

  • 下関に住み、いやS市に住みちまちまと?小説を書いている主人公がスランプになり長年行っていなかった母の墓参りに出かけた事で、別の日本に到着するというSF調の小説。

    その日本はアメリカに占領され、アメリカ人が日本人で日本人が旧日本人という差別された世界。

    そこの総理大臣が宰相A容貌や風体の表現から、今の日本のA首相とそっくりな年寄りの首相。
    その首相は、アメリカの言う事をそのまま代弁し、旧日本人たちをこの世界の日本で押さえ込む政策に荷担している。

    この物語の中で演説する宰相Aの言葉がいまのAとオーバーラップする(^^;)

    「我々は戦争の中にこそ平和を見出せるのであります。戦争を通じてのみ平和を構築出来るのであります。平和を掻き乱そうとする諸要素を戦争によって殲滅する、これしかないのです。これこそが至高の方法なのであります。最大の同盟国であり友人であるアメリカとともに全人類の夢である平和を求めて戦う。これこそが我々の掲げる戦争主義的世界的平和主義による平和的民主主義的戦争なのであります。」

    まさに現日本のAが言いそうな言葉で、思想で、これを揶揄したこの反骨精神の作家のパロディなのだと思います。

    主人公はこちらの日本では、いつかこの日本を救いに来ると言われた伝説の英雄とうり二つで、旧日本人達から一緒にこの日本を我々の日本に戻しましょうと祭り上げられるのですが・・・

    さて、最後は?という事で今の時代のパロディとして読めば、それなりに笑えるかも知れません。

    ただ、この人の小説にはあちらこちらに棘があるように思え、前回の芥川賞受賞の共食いと同じ空気感を感じました。どちらかというと苦手なのかな?私は。
    という事で評価は★三つです。

  • 20150702読了。

  • タイトルは現在の日本の首相を連想させるし、最後の演説部分はまさしく彼の口調そのままのようで、戦争主義的世界的平和主義なんて、上手いこと言うと思った。だけど、「ゴッドファーザー」と「城」あと三島にオーバーラップさせた本筋の物語は、言葉を弄んでいるだけで読むに意味がない感じだった。

  • クセのある読みにくい文体には馴染めないが、オーエルの1984を思い出しながら読んだ。

    アメリカの植民地、旧日本人、日本人、どちらでもある日本人、ものがたりにするとこんな感じ、ぐちゃぐちゃになるのかな?

  • 第二次世界大戦後、欧米諸国による日本の占領が、我々の現実のようには行われなかった、パラレルワールドでの話。
    我々の現実世界から、宰相Aの世界に紛れ込んだ小説家Tの目を通して、Aの世界を描く。
    アングロサクソン系の日本人の中に、ひとり象徴として存在する宰相A。そして、我々日本人は旧日本人として、人権をもたない存在となる。
    支配者の力、差別されている集団内部の暴力。
    民主主義、自由、積極的平和主義のもつ意味を再度考えさせられる。

  • 書き出しは完全に私小説なのに、マジックリアリズムみたいに非現実がぬるりと忍び寄ってきて、いつの間にか完全にSFの世界に迷い込んでしまっている。
    私小説の方法論で書かれたSF、とでも言うべきか。
    SFの姿をした私小説、とでもいうべきか。

    言及されていないけれど、『城』だけでなく、オーウェルの『一九八四年』も物語の根底にあるのだろう。結末に至る展開がよく似ているし。

    1948年のヨーロッパで、「今のこの政治体制がずっと続いたとしたら世界はこうなるかもしれない」という仮定のもとに描かれたのが『一九八四年』であるのなら、
    2015年の日本で書かれたこれは、もしかしたら『二〇五一年』の世界の姿を暗示しているのかもしれない。

    「戦後世界の別の姿」という意味では、PKDの『高い城の男』を思い浮かべたりもした。

    まあ分類なんてどうでもいいことなんだけど、とにかくいろんな意味で「野心的」という言葉がぴったりだと思う。著者一人の系譜から見ても、文学の系譜から見ても。
    この著者がこれからどんな小説を書くようになるんだろうと、とても楽しみになってくる作品でした。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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