- Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103041344
感想・レビュー・書評
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安倍首相とアメリカをユーモラスに皮肉っていて面白いけれど、語り手の「私」にどうも馴染めない。
語り手の作家は、何か面倒が起こるたびに「うんざりする」。ただ、その状況が尋常ではないにもかかわらず、うんざりする余裕があって思弁的で、一方、紙と鉛筆をパラノイアックに所望するくだりがよく出てくるので、上から目線な感じがして、共感しては読めない。本作は物語的面白さを割と求めているので、そうすると語り手への共感をもう少しそそる書き方にしてほしいと読者としては思う。
あと、「母親」とか「ゴッドファーザー」とかいうモチーフは、正直どうでもよかった。とくに、母親のテーマは本作の根幹をなすテーマの1つのはずなのに、水に浮いた油のような感じがした。もういいからそれ、とツッコミを入れたくなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
墓参りに行く電車の中、夢の中で聞いた母の声。
気が付くと、いつの間にか作家は「現在の日本」ではない「日本」に迷い込んでいる。
虚構と現実を自在に行き来する、作家の「お話」は読むのが辛くなるほどリアルで息苦しい。
「お話を現実に現実をお話に書き換える」ことのできる作家だからこそ
現実に戻ってきてこれを書いたのか?或いは?
「逃げながらでもいいから、お話を作り続けなさい」母は励まし続けることしかできないけれど。 -
パラレルワールドに迷いこんだ小説家のはなしで戦争と独裁者に対する筆者の批判なのであろうとは思ったが面白みが見つけられず挫折。
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20150702読了。
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タイトルは現在の日本の首相を連想させるし、最後の演説部分はまさしく彼の口調そのままのようで、戦争主義的世界的平和主義なんて、上手いこと言うと思った。だけど、「ゴッドファーザー」と「城」あと三島にオーバーラップさせた本筋の物語は、言葉を弄んでいるだけで読むに意味がない感じだった。
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クセのある読みにくい文体には馴染めないが、オーエルの1984を思い出しながら読んだ。
アメリカの植民地、旧日本人、日本人、どちらでもある日本人、ものがたりにするとこんな感じ、ぐちゃぐちゃになるのかな? -
第二次世界大戦後、欧米諸国による日本の占領が、我々の現実のようには行われなかった、パラレルワールドでの話。
我々の現実世界から、宰相Aの世界に紛れ込んだ小説家Tの目を通して、Aの世界を描く。
アングロサクソン系の日本人の中に、ひとり象徴として存在する宰相A。そして、我々日本人は旧日本人として、人権をもたない存在となる。
支配者の力、差別されている集団内部の暴力。
民主主義、自由、積極的平和主義のもつ意味を再度考えさせられる。 -
書き出しは完全に私小説なのに、マジックリアリズムみたいに非現実がぬるりと忍び寄ってきて、いつの間にか完全にSFの世界に迷い込んでしまっている。
私小説の方法論で書かれたSF、とでも言うべきか。
SFの姿をした私小説、とでもいうべきか。
言及されていないけれど、『城』だけでなく、オーウェルの『一九八四年』も物語の根底にあるのだろう。結末に至る展開がよく似ているし。
1948年のヨーロッパで、「今のこの政治体制がずっと続いたとしたら世界はこうなるかもしれない」という仮定のもとに描かれたのが『一九八四年』であるのなら、
2015年の日本で書かれたこれは、もしかしたら『二〇五一年』の世界の姿を暗示しているのかもしれない。
「戦後世界の別の姿」という意味では、PKDの『高い城の男』を思い浮かべたりもした。
まあ分類なんてどうでもいいことなんだけど、とにかくいろんな意味で「野心的」という言葉がぴったりだと思う。著者一人の系譜から見ても、文学の系譜から見ても。
この著者がこれからどんな小説を書くようになるんだろうと、とても楽しみになってくる作品でした。