北方領土交渉秘録: 失われた五度の機会

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103047711

感想・レビュー・書評

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  • 著者は対ロシア外交の最前線に立ち続けた東郷和彦氏。『国家の罠』を著した佐藤優氏の外交官時代の上司にも当たる人物。
    そして、この本が出たのが2007年。外務省が鈴木宗男氏を排除するための謀略を起こし、それに巻き込まれる形で東郷氏が外交官としての地位を追われたのが2002年とのことで、それからたった5年しか経っていない、まだ北方領土交渉が世間の関心を(2020年の今よりは)集めていた時期にこの本が世に出たことになる。

    この本を2007年当時の熱量で読めていたら、きっと今とは違う感想を抱いたと思う。東郷氏の北方領土交渉にかけた強い思いはこの本の隅々から感じることができるし、外交の最前線にいる人たちの鬼気迫る粉骨砕身の努力を垣間見ることができるし、日本とロシア双方の政治の内紛とゴタゴタの中で北方領土を取り戻せたかもしれない惜しい時機を悉く逃したことへの憤りと喪失感を、2020年の今ですら感じることができる。

    東郷氏によると、北方領土交渉においてロシア側を日本に振り向かせる機会は少なくとも5回あったらしい。しかし、そのすべてにおいて日本、もしくはロシアのどちらかの政治情勢が悪く、交渉を進展させるに至らなかったというのは、運が悪いの一言で片づけるにはあまりに切ないし、口惜しい。
    特に5回目の交渉の窓が閉じた理由が、田中真紀子がロシア交渉を白紙に戻すというバカな宣言をしたためで、それが2007年当時において、交渉のための日露の信頼関係を破壊するには十分すぎるほどの決定打であったということを考えると、やはりバカは政治の表舞台にも裏方にも、どこにも出てきてはいけないのだ、ということをつくづく感じさせる。
    400ページ弱の大作だが、徐々に史実に引き込まれていく中でページは勝手に進んでいくので、読み終えるにはそれほど時間を要しない。

    巻末の佐藤優氏の解説も、解説の域を超えて一つの論評として十分に読める。何より、普通ならば著者の全てを肯定し褒めたたえることの多い「解説」の冒頭において「本書の書き出し部分、プロローグ、第一章、第二章はプロの小説家のような見事な筆運びで、読者もぐんぐん中に引き込まれていくことと思う。また、末尾の第十四章以降も読みやすい。しかし、これらの間に挟まれた各章がやや読みにくい。せっかく本書を取った読者が途中で放棄してしまうことがないようにするためには、ちょっとした道案内が必要である」などという「注文」を付けるあたりが微笑ましい。東郷氏と懇意だからこそ、こうした厳しい指摘もできるのだろう。

    ちなみに、「道案内が必要」の言葉通り、佐藤氏は20ページ超に渡って「解説」をつけている。通常、解説は本文を読み終えて順番通りに最後に読めばいいのだが、この本に限っては「解説」から読んでも面白い。佐藤氏自身、北方領土交渉に身を投じていたこともあり、東郷氏とは異なる視点、考え方で交渉が霧散した理由を分析している。これも、この本の「解説」が開設の域を超えて読み応えがあると感じられる一因である。

  • 国家の外交とはこういうことなのか。必読。

  • 先日の森ープーチン会談の引き分けについての興味から見つけたのがこの本。2001年のイルクーツク宣言に至るまでの過程が綿密に描かれている。

    出だしはムネオバッシングに始まった佐藤優の裁判から。イスラエルのロシア問題権威の教授の日本招聘やテルアビブ大学で開かれたロシアをテーマにした国際学会への派遣を日露支援協定に基づいた支援委員会の資金から拠出したことが目的外支出の背任に当たるということだが、この立件は条約局長の決裁を正当な手続きに沿って進められており意味不明。当時はむしろムネオハウスの方がマスコミを騒がせていたが自民党内や外務省内の権力闘争が領土問題より優先されたことになる。

    個人批判にならないようにかなり気を使って書かれているが内容を見る限り2001年3月のイルクーツク宣言の後、ちゃぶ台をひっくり返してしまったのは田中眞紀子で結局それを指名した小泉の失敗なんだと思う。しかし4月の小泉政権誕生、911とアフガン侵攻があり、2002年1月に田中眞紀子更迭、9月に北朝鮮訪問、2003年イラク侵攻と見ているとこの時期に交渉が進展するのは難しかったんだろうなあと思う。

    著者が切々と書いているのは交渉は相手があることでありお互いの主張を言い続ける限りは平行線に終わり交渉にならない。受け入れられなくても相手の主張を聞きその中で部分的にでも合意できることを積み上げて行くべきだということ。東郷氏の祖父からの言葉を母親からの遺言として聞いた言葉が51対49。
    「交渉では、自分の国の、目の前の利益を唱える人はいっぱいいる。でも、誰かが相手のことも考えて、長い目で自分の国にとって何が一番よいかを考えなくてはいけない。最後のぎりぎりのときにそれができるのは、相手と直接交渉してきた人なのよ。その人たちが最後に相手に『51』あげることを考えながらがんばり通すことによって、長い目で見て一番お国の
    ためになる仕事ができるのよ」

    プーチンは平和条約締結とその後の色丹、歯舞の引き渡しには同意しているが国後、択捉の引き渡しは考えていないし、平和条約締結後には領土問題は存在しないと言う立場を表明している。

  • 最初の方は文体・内容が堅めの印象があって、「最後まで興味を持って読み切れるかな・・・」と心配だったが、読み進めるうちに内容に引き込まれていった。

    最後の終わり方もどこかの小説のような感じで、なかなかうまいこと書くなぁ、という感じがしました。

    おすすめできますね。

  • 仕事上必要になり読んだ本。文庫が出ていることにレビューを書こうと思った今さっき気づきました。しまったわー。

    内容は、結局裁判一歩手前まで行った元高級外務官僚、東郷和彦氏の回想とロシアとの交渉記録です。文壇的には佐藤優氏の方が圧倒的に有名ですが、言ってしまえばこちらの方が元締めですからね。解説でも話している通り、佐藤優の本が交渉に関して場面場面の精密で情念的な描写や分析をしているのに対して、東郷和彦の本は鳥瞰図・歴史年表的な描写・分析をしています。個人的には解釈や指針をふんだんに取り入れてくれる佐藤優の本の方が好みですが、多少オラオラ系の匂いもあるので、どちらが読みやすいかは好き嫌いがあるかも。内容に八方隙がない優さんより、一平卒時代、新人外交官時代のちょっとした話、少しだけ背を伸ばせば公務員や官僚としてうまくロールモデルにできると思えそうな東郷さんの方が内容的には共感できるかもしれません。実際はそんなことないんですけどね。

    早いところ北方領土関連の話を抜き書きしてまとめたいと思います。

  • 北方領土返還交渉担当であった元外交官の回想録。佐藤優氏とともに第一線で活躍した東郷和彦氏の著。彼の祖父は開戦及び終戦時の外相・東郷重徳。
    鈴木宗男・佐藤優逮捕事件から始まった内容は、彼の入省時からの流れの中で、ゴルバチョフ、エリツィン、プーチン各政権との交渉経過の醍醐味を余すところなく書いている。
    これまでの四島一括返還論ではロシアとの交渉は難しいと判断し、二島先行返還し、残りの二島については、ロシアが受け入れ可能な案でまとめるという東郷氏の現実的対応は評価できると考える。しかし、国内には四島一括返還論の固執する者が如何に多いことか。東郷氏の退官により、そうした一括返還論への回帰が強まり、その後の対ロシア外交は停滞することになる。それはH21年10月現在、とても悪化しているよう感じられる。
    交渉で大切なのは、相手の利益を考えること。相手の立場を思いやることができないと、交渉は成立しない。ウィンウィンの関係と言うことか。また、東郷重徳の減として、交渉は51対49で行うべきだという。自分側が49なのだ。それぐらいの気持ちで行わないと、両道交渉という難しい問題は解決しないのだろう。
    実務的なことも学び取った。
    交渉では相手の言わんとしていることがなんなのか、亜ITネオ質問内容を良く聞き、その意図を良く読み取ることが重要。また、交渉では、自分の主義主張をまずは確認し、それをはっきり示すこと。
    東郷氏が外交官として如何に優れていたのか、それがそのような形で退官することになったことに非常に悔やまれる思いだ。

  •  外務省にて、ソ連課長、東亜局長など、ロシア関係で十七年を勤務した著者が、北方領土を含むロシア交渉の現場を語る。交渉がまとまりそうな時に、相手にどんなメッセージを送り続けるか。そのために一言一言のニュアンスをいかに大切に文面に取り入れていくか。また相手側からの文章の一語から、どういったメッセージを読み込んでいくか。ひいては、ロシアとの交渉とは一体どういうものなのか。そんな交渉のスリリングな現場の雰囲気を、あくまで淡々と語る文体に酔う!

  • 長い....確かに国と国の間の交渉は、一字一句こだわり、過去の歴史に基づき進められるとは思うが、読んでいてしんどかった。

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著者プロフィール

静岡県対外関係補佐官、静岡県立大学グローバル地域センター客員教授

「2021年 『一帯一路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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