ヒトごろし

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 101
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  • Amazon.co.jp ・本 (1088ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103396123

感想・レビュー・書評

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  • この本の土方歳三はヒトでなしすぎてあんまり好きになれないけれど、それでもとてもかっこよかった。
    狂っているようで誰よりもまとも。
    最後まで生きる気満々で転戦していくのはこれまでになかった描き方で新鮮。
    ラストは涙涙でした。

  • 舞台は幕末。混乱した時代。その不安のせいか、熱病にうなされたか、大なり小なり大義名分があれば、個人の裁量で殺人が許されてしまう社会。
    そんなものはおかしいんだ。いい人殺しなんてもんはありえない。とぶったぎるのは新選組副長・土方歳三。
    ただ、彼自身は殺人衝動をもっているサイコパスなんです。

    ぶっ飛んでいるのは、沖田の方ですけどね。快楽殺人犯。
    同じ性質を持つ土方と沖田。衝動のまま殺すことに抵抗のない沖田と違って、土方は殺しのライセンスを作り上げようとします。公に殺しを行ってもいい状態。そのための新選組です。

    私情が天誅と名を変えて、正当化される殺人。
    戦争の中で、一人の人間としてでなく、一兵士という戦闘単位失われていく命。

    どちらにも、人を殺すことは大罪だ、と断言。一刀両断です。
    ただ、そういう土方自身が殺人衝動を抱え込んで、何度も殺人を実行しているという人間。

    『一人殺せば殺人者。百人殺せば英雄』とはよく言ったものですが、人殺しはどれだけかっこつけても大罪人だと突きつけられてます。
    古今東西の英雄譚に突きつけてますね。

    しっかし、相変わらず分厚いです。

  • 土方さんが所謂人でなしの設定である本作。
    愛さんも当時、先生から色々とお気遣い頂いたと仰っていた。相当の内容であろうと思いもしかして嫌な気持ちになるかもしれないと覚悟して読み始めたが
    流石京極先生、非常に面白い本だった。
    勿論一般的な土方さんのイメージでは無い、人殺しが楽しい人ではあるのに、要所要所でかっこいいと思わされるところが心憎い。

    多分、史実を勉強している人ほど楽しめるのではないかと思う。
    逆に史実を知らないとよくわからないまま、長い話でぐだぐだして感じて終わってしまうかもしれない。
    時間軸を前後して回想形式が入りつつ、地元から箱舘で戦死するまでという
    最期まできっちり描かれており
    その中に現在に伝わっている逸話や史実が取り込まれている。
    この取り込まれ方が、なるほど京極先生はそれを選択したのかと唸ってしまう。

    たとえば山南さんの読みがさんなんであったり、小野派一刀流を修めているとしてあるところが良い。
    近藤さんに、芹沢さんに対して「侍として堂々と行き百姓に戻って謝れ」
    とアドバイスしたり、端から芹沢を切りたいと思っていたのは面白い。
    芹沢に頭を下げさせたのは俺。これから先あんたに頭は下げさせない
    という台詞自体は恰好良いのに、腹の中に渦巻いているものが暗い。

    清河を幕府は江戸に戻して処分する腹づもりだろうと読んでいるところも良かった。
    どうするか考えるのは山南、なった後のことを永倉と原田は考えろという
    土方さんが彼らの持ち味をそう捉えていたことも納得がいくところ。
    戦の前に興奮ぶりなど
    全体的に江戸っ子っぽさや男所帯っぽさが感じられる描写だった。

    近藤さんのことを「看板を盾にできるかよ」と言い草も良い。
    局長の間違いを正すのじゃなく間違わないようにするのが俺たちの役目。
    反対じゃなく助言しろ。看板に泥を塗るな。
    というのも良かった。
    ”地頭が良い”永倉さんや山南さんと確執があったように描かれがちな関係を
    こうした考えでまとめられちえるのが面白かった。

    新見の読みをしんみの説を取ったところも興味深い。

    刀を変えたのかと気づくところも良かった。現代で言えば、スマホ変えたんだくらいのノリで相手にそれなりに興味があれば気がつくところだと思うし
    何に変えたかで相手の好みや考えも見えてくるだろう。

    根岸、家里、殿内を巧妙に陥れていき、芹沢を暴れさせるため、
    わざと会津召し抱えになったときに給料の交渉もしなかったことや
    古高の拷問をしたのは沖田になっているところも目新しい。

    遠くなんてものは顔を上げりゃ誰にだって見える。見えないなら遠すぎる
    という台詞がかっこいい。

    池田屋騒動の時、残念ながら沖田さんはこの時点で労咳説だったものの
    組を3隊にわけた説をとっていて嬉しかった。
    会津が遅かった理由、池田屋に突入しなかった理由について
    土方さんの策略説を取るフィクションはそれなりに多いが
    狭いから入れないから、という方便を使っているのがおかしかった。

    隊旗の誠も、試衛ではなく誠衛では説を山南さんが主張して
    誠の文字を決めたことになっている。
    池田屋の後制服を黒の小袖と袴に新調したこともきちんと書かれている。

    明保野亭事件に触れているところも良い。中々象徴的な事件のはずだが
    あまり触れているフィクションは少ないと思う。
    自分としては、史実の土方さんは葬儀で泣いていた方が真実だと思うが。

    史実で謎が多い山南さんの切腹は、
    伊東さん近藤さんどっちにもつけないと思ったからというのは
    割と納得のいく解釈ではないかと思うのだが
    「おれに士道を教えてくれたのは山南さん」と言いつつ
    土方さんが手にかけ、沖田さんが切るという流れがすごい。
    史実として伝わっている”事実”からすれば、介錯が沖田さんというのは事実でしかない。

    更に、気の毒なエピソードとして伝わる河合耆三郎さんの死にも触れているところもすごいなと思った。

    斉藤さんが「不正を働いておいて規律の厳しさのせいにするのは間違っている」
    と言うのも恰好良い。
    敵味方は関係ない、正義を行わぬものはその行いに応じた罰を受けるべきという正しい強さがそら恐ろしさも感じる。

    坂本龍馬の暗殺犯として原田さんたちが疑われたという話があるが
    はめたのは佐々木さんと土方さんという設定も面白い。
    暗殺の指示をだしたのは三浦さんで、三浦さんと近藤さんを暗殺しようという動きがあるという噂まで流しているところも流石京極土方だ。
    それを信じた三浦さんから斎藤さん経由で近藤さんに連絡がくるところがいかにもありそうである。

    鳥羽伏見はちゃんとしていれば勝てたという言及も良い。
    山崎さんの遺体は海中に投棄した説を取ったのはやや意外だった。

    甲陽鎮撫隊は勝による山流しというはっきりした書き方も良いし
    永倉さんたちが抜けてしまったのを
    永倉さんたりは徳川を見限りっているのに、徳川を担ぎ続ける近藤さんも愚かだと思ったというのはさもありなんという感じ。

    流山のシーンはとても良い。
    腹を切ろうとした近藤を殴って止めるが、理由が「切腹はきたねえからな」で
    近藤さんも「お前はきれい好きだよ」と笑うところが心憎い。
    なんだかんだでちゃんと近藤さんは土方さんや沖田さんのことはお見通しだったのも良かった。虎徹がまがい物なこともきちんと知っていた。
    土方さんと近藤さんが仲良しではない説を取るフィクションは大体土方さんが近藤さんを愚鈍と扱い見下しているものが多いので新鮮だったし嬉しい。

    死にたくはないけど命惜しみはしない。
    悪名と誉を天秤にかければちょうど釣り合う気もする。
    ここで死んでも文句はない。だが集めた連中を巻き添えにだけはしたくない。
    だから投降を選んだという考え方も良かった。
    近藤さんがもう良いと思った、諦めた、というフィクションは個人的に好きではないからだ。
    自分ひとりのことなら潔く切腹して武士として死ぬ道もあったかもしれない。
    それを投降したのは、仲間の命を助けたかったからというのは
    近藤さんの人柄を語る数々のエピソードを鑑みるに納得できるものだ。

    好青年沖田さんのイメージも徹底的に消されていて、
    実家と縁を切っていて、良順が引取を打診しても断ってきたところや
    沖田が嫌いだから畳の上で死なせたいと土方さんが思っているところも面白い。
    普通に考えれば、養生を優先させるのは優しさに見えるはずだ。

    「わかってねえな勝さん、百姓は一度受けた恩はずっと持ってるもんだ」
    という土方さんの台詞も恰好良かったし、
    、江戸城を明け渡すから邪魔者を連れて江戸から出ていってくれ、というスタンスで勝海舟が書かれているのも良い。

    鉄之介を日野へ行かせた理由も面白かったし、
    弁天台場のみんなに、迷惑だから腹を切るな、永井の指示に従え、新選組の頭は今から相馬だとするのもはっきりしている。
    近藤も、将軍も、会津も薩摩も長州も、みんな間違えたという描写は切ない。

    台場のみんなを助けるために五稜郭から弁天の方へ向かったのではなく
    そのためにここまで追ってきた涼を殺してやらねばと思って弁天から五稜郭へ行こうとしているところも面白かった。
    沖田も殺してやれば良かったかとふと思っているところも、
    「死に場所もとめて戦に出るような男じゃないだろ。あんたと生きるためにここに来たのサ」と言う涼を結局守ってやる形になるところも
    うまい書き方だと思った。
    生きたいというなら殺す、と言った相手である涼を銃弾から守ろうと、
    「こいつはおれの獲物だ」と発するところがひねくれ者らしいではないか。

    女を切るために外に出て、話し込んだばかりに撃たれたという最期は
    あっけなく、一般的に期待する土方像とはかけ離れているだろうが
    人から吹き出る美しい血潮を求めた京極版土方が
    己の血溜まりの中で息絶えていく姿はそれはそれで哀しさと美しさも感じてしまうのだ。

  • 分厚い。圧倒された。
    「壬生義士伝」で号泣した口だが、この土方歳三像はかなり気に入ったし、こんな沖田総司は世の新選組感をひっくり返したのではないか。私的には斎藤一への興味が増した。

    この作者にしかできないでしょう、1083頁のハードカバーを手に取って読もうと思わせることは。読み終えて、平成最後の夏にひとつやりきったという達成感が味わえた。

  • 久しぶりの京極夏彦。ぶ、厚い!!
    読破に時間はかかるものの、全く長いと思わせないのは相変わらず。流石だなあ。二日かけて、ほぼ廃人状態で読んでしまった。だめ人間極まれり・・・。
    新撰組をただの人殺し集団と捉える。鬼の土方を、鬼として描く。本当は、これこそが全うな見方なんじゃないかと思う。
    粛正ばかりで、すぐに人を殺してしまう、無頼の若者集団。まともな訳がない。実際、客観的に見れば、本当に何一つ、何もしていない。
    それでも、どんな描かれ方をしても、なぜかそこに格好良さを感じてしまう。
    群像劇の面白さとか、彼らの青く熱い思いに、巻き込まれてしまうのかなあ。
    もうこれは、曲がった思い入れとしか思えない。こればっかりは、自分でも不思議だ。

    人外だと自覚しているが為に、人の枠に収まる努力をする歳三が、だんだん健気に見えてくる。
    人の方が、よっぽど酷い行いを、平然とするのだという逆説が、心に刺さる。
    山南、近藤との問答シーンが圧巻。

  • 中学生時代に司馬さんの「燃えよ剣」を読んで以来の新撰組(特に土方さん)ファンです。
    そして、京極さんの小説もほぼ読破している私・・。“京極新撰組”は、さて如何に・・。と読み始めました。
    まず副長が、ダーク。自らを“人殺し”として、そのうえで語られる生死感がキレキレ。大概の方々を論破(?)しまくっています(その時は副長、結構しゃべります)。
    そして沖田。“笑いながら人を殺す”サイコな危険人物として描かれています(沖田ファンは注意!って感じ)。
    ええキャラ揃いの監察方の面々や、見廻組の佐々木只三郎のくせ者っぷりも面白いです。
    齋藤が正義キャラで書かれているのは、個人的に意外でしたが、アリですw。
    新選組って、歴史的価値というか意味がほとんど無い集団と言われていて、本書でもそういう事をにおわせる表現が多々見受けられますが、何だかんだで、色々な作家さんの作品のネタになっている事から、魅力的ではあるはず・・。とファンとしては思いたいところです。
    そして、本書のラストはグッときました。やっぱ土方さんカッコイイです!

  • 京極版土方歳三物語。1100ページという久々のボリュームで読み応えありすぎ。
    少年時代から殺人衝動をもつサイコパスな土方が、合法的に殺人をするために新選組を立ち上げ幕末を暗躍する。
    序盤は少し冗長でダレたが、新選組結成あたりからは矢継ぎ早に事件が起き、土方視点で歴史的事件を解説するような流れになって面白い。この時代について知識があった方がより楽しめるとは思うが、そこそこしか知らなかった私でも理解できないことはなかったので大丈夫。
    読み進むうちに、狂っているのに周囲の誰よりも時代を読み、本質を見抜く土方が一番まともで魅力的に思えてくる。終盤の勝海舟との会話や、近代戦争論は圧巻。
    読了後は、自分でも驚いたがかなり泣いた。今まで見たり読んだりした中では最高の土方歳三であった。

  • 周りの見えないだらだらの上り坂を登らさせられているような読書感でした。ちょっとした苦行。
    それでも池田屋事件のところくらいから周りが見えてきてそれなりにサクサク読めました。
    長いので人にはなかなか勧められませんが、活字を読むのが好きなマニアックな人には楽しい本だと思います。
    土方歳三が「無学の百姓」と言いながらやたら頭が良くて洞察力が鋭いのがちょっと違和感。ヒトごろしですがやっぱり土方さんは格好良いです。格好良く描いちゃうのかな?

  • やっと終わった~~~
    これが正直な読後の感想。
    久しぶりの京極、そして1,000ページを超える大作、そしてそして、苦手な幕末もの…
    最後まで読み切るのがやっとだった。
    主人公は新撰組の鬼の副長・土方歳三。新撰組の有名どころでも最後まで生き残った一人。その土方の青年期から、箱館で最期を迎えるまでの自伝もの…なのかなぁ。土方からの目線でしか描かれていないので、どこまでの史実が正しいのか、どこからがフィクションなのか、なかなか判断が難しい。なので、パソコンで史実を確認しながら読んだ。
    新撰組については、曖昧な史実が多く、自分でも新撰組の歴史の位置づけがいまいち分からないでいたので、読むのは大変だったけれど、新撰組については大分理解出来た。
    坂本龍馬や勝海舟など、京極夏彦の手にかかると、こういう人物像になるんだなぁ、と変なところでも感心してしまった。こういう作品も新鮮でいいけど、やっぱり京極ファンは京極堂シリーズの新刊が読みたいっ!

  • 歴史や出来事よりも土方歳三視点で書かれている小説。他には燃えよ剣もあるけどどちらが好きかは人それぞれ。最後は意外でした。

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著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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