数学する身体

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103396512

感想・レビュー・書評

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  • 数学者・岡潔の足跡を主軸においた、数学エッセイといった趣の書。なので数式は一切出てこず、数学の歴史、ひいては人間と数の関係性を追うという完全に人文系の本だった。数学と身体性のつながりは奥深い。数の概念から始まり最後には宇宙観にまで進むというスケールの大きさ! 人生に疲れたときなんかに読み返すといいかも。

  • 書店に行ってこの本を手にとって第一章だけでもまずは読んでみてほしい。数学の知識はいらない、身体だけあれば大丈夫。認知科学の知見なども引用しながら、数学という行為がどのように発生してきたのかをじっと見てみる。わずか数十ページながらとても贅沢な知的な旅ができて、この時点で僕は完全に引き込まれてしまった。人工進化、天命反転などのワードが飛び交い、みごとにひとつの線で結ばれていく様子は圧巻の一言。ものごとを横断するなにかが存在する、と思っている人に強くおすすめします。本当に面白いです。

    第二章「計算する心」には、道具として生まれた数学が、どのような発展を遂げていくかが続く。「証明」に重きを置くギリシャ数学の誕生は、考えてみればそれまでの数学からすればまさに革命だったということがよくわかる。その後の「無限」の発見はシンプルにめちゃくちゃアツい。ヒルベルトやゲーデルの時代まで数学の抽象化の過程を描いたのち、話題はついに本題の「心」に至る。玉ねぎの皮を剥いていくように心に肉薄しようとしたチューリングの一生を追って幕を閉じる。

    第三章「生成する風景」からは岡潔という一人の数学者に重点が置かれる。ここでも第一章で見たような、見事な編み物のような著者の思考の過程を追いかけることになる。我々の感覚が、いかに自分の身体という小さな入れ物で閉じていないかを再び浮き彫りにする。

    第四章「零の場所」は、岡潔がその生涯の中でいかにして難問に立ち向かったかの変遷を追う。ここが本書の真骨頂で、最終的に丘がたどり着いた「わかり方」、その先にある生きていく喜びのことこそ筆者が情熱をもって伝えんとしていることだと思う。「わかる」の究極はそれに「なる」こと、そうしたなかで見る風景を言葉に落とすことで数学を進めたのが岡潔だった。


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    ここまでが自分なりのまとめで、ここから先はとても個人的な感想です。

    ハードカバー版で読んだけど、人に貸すためだけに文庫版も買った初めての本になった。改めて読み返してみて思ったのは、これは岡潔が晩年にみた「もののわかり方」を説いた本だったのではないかということ。並んで重要なのが、それが人と通い合うという事実。情というものがあるからこれが可能だという。数学というもののユニバーサリティは実に不思議だ。たまたま丘潔という人物の、たまたま数学に対峙するやり方が紹介されている本書だが、数学であることは超えて、世界の中に生きるということを考えるにあたっても実りのある本だと思う。喜びは切り離された個から生まれるのではない。そこには通い合う情がある。
    一方で、主体にしかアクセスできない情緒の総和こそが人のオリジナリティの源泉なんだと思う。風景の、人と共有できる部分と、自分にしか見えない部分、どちらも大切で、後者を磨き抜いた上に、前者を広げていくことができる。それもまた本当に不思議なことだ。書いてみるとこれは研究という行為そのものだ。学問に限ったことではなく。

    研究をやっている身としても参考になる記述が大いにある。自然は最強の計算資源であること。環世界と情緒がひとが見る風景を編む。身体化された思考過程の精度を上げること。「零までが大切」という言葉。ついでに言えば冒頭で荒川修作の存在を知れたのも大きい。まさにlive foreverを目指した人のひとりだ。同類。生きることにまじめな人が好き。しかも天命反転住宅は普段いる天文台から徒歩圏内だ。びっくりしちゃった。森田さんそこに住んでたというからもっと驚いた。

    ライブ感のある詩的で情熱的な文章にとても親しみを感じる。特に岡潔の思想を語る部分には愛がこもっている。岡潔はやっぱり確信のあることを全力でしゃべる人なので、彼の思想に興味があるといって彼の言葉に直接あたってみるとラディカルすぎて引くというのがあるかなぁと思うんだけど(『人間の建設』でちょいちょいあった)、この本はそういう意味でもバランスがよく、成功していると思う。

    なぜ僕がこの本にこれほどまでに惹かれるかというと、何を嬉しいと思うかが森田さんとそっくりだからだと思う。ものごとがつながっていくときの感触、「零」に至った瞬間がなによりも心地良い。発見の喜びを知る人と出会うこと自体の喜びよ。ついでにいうと文体も似ていると思ったし、なりたい未来も似ている。自分がなりたいものには名前がないと思っていたけど、ほとんどそれにあう言葉が見つかってしまった。独立研究者になりたい。丘潔もそうだった。彼は数学に「新たな意味を吹き込」み、「文化として根付かせ、そこに自前の思想的文脈を与え」る(本書175ページ)ことに挑戦し続けた。そういうことを、天文学やらなんやら自分が愛するもろもろに対してやっていけたら幸せだと思う。

  • のめり込んでしまって、自分にしては短期間で読めた。
    最近読んでいる数学関係の本の影響もあるが、数学史にとても興味が出てきた。
    ある概念(例: 群)のもとになる実体(例: 対称群)がどのように考えられて、それがどのように抽象化されてきたかなどに興味がある。

    「数学する身体」にはヒルベルト計画の記載がある。
    「数学セミナー」の足立恒夫さんの「よみがえる非ユークリッド幾何」では完全性定理が述べられている。
    数学科時代は数学基礎論に興味はなかったけど、「数学ガール/ゲーデルの不完全性定理」を再読して《数学を数学する》ことをもう少し理解したい。

  • 100殺!ビブリオバトル No.71 夜の部 第10ゲーム「三位一体ビブリオバトルその2」

  • 数式は全く出てきません。
    数学を哲学する、著者の数学への探究心を言葉にしたものです。

  • 結構話題になってる本です。
    文系の人間にもなんとなく、数学好きな人ってこんな感覚なんだな~というのをわからせてくれ、新しい扉を開いてくれた感じです。
    マンガの「はじめアルゴリズム」と並べて置いておくといいよ。
    あ、「はじめアルゴリズム」二巻出ました!

    なのでこの三冊は学校買い!
    ようやく、数学を説明してくれる本が生まれたよ。
    でもって、未来の数学者もいまの子どものなかにいるはずで、そうしてちょっぴり不幸なはずです。
    理解されないもんね。
    図書館は、情報により、少数派を救うとこでもあるのです。
    同じ事を考えてる人がいるんだってわかると、これでいいんだ、と自信が持てるし、安心できる。
    だからこそ!
    図書館と図書館司書がそういう子を圧迫しちゃいかんよ、と思うわけです。
    だから、文系の司書もこのマンガくらいは読みましょう。
    知識が足りなくて、子どもを圧迫しないために。

    2018/03/23 更新

  • 非常に格調高い文章。「日本の田舎の山の中、まるで百姓のような格好で農耕と念仏と数学研究に耽り、国内でもいまだ無名の数学者だった岡の名がにわかに世界へと広まったのだ。」といった表現など岡潔の紹介がとてもうまく、ますます岡潔に関心を持った。ただ、岡潔とチューリングの類似性について語る部分はよくわからなかった。

  • 数学者の岡潔が気になった。

  • 数学に関する読み物です。前半は数学の通史を概観し、後半では計算機科学の祖である数学者アラン・チューリングと孤高の日本人数学者岡潔について触れられています。本のタイトルのような身体性に関する記述はあまりみられませんでしたが、知的好奇心を大いにくすぐられて、読んでいて久々にわくわくさせられました。岡潔の著作にも触れてみたくなります。良書です。

  • たくさんの気付きがありました。

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著者プロフィール

森田 真生(もりた・まさお):1985生。独立研究者。京都を拠点に研究・執筆の傍ら、ライブ活動を行っている。著書に『数学する身体』で小林秀雄賞受賞、『計算する生命』で第10回 河合隼雄学芸賞 受賞、ほかに『偶然の散歩』『僕たちはどう生きるのか』『数学の贈り物』『アリになった数学者』『数学する人生』などがある。

「2024年 『センス・オブ・ワンダー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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