地中の星

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103542216

作品紹介・あらすじ

渋沢栄一を口説き、五島慶太と競い、東京に地下鉄を誕生させた男の熱き闘い! 資金も経験もゼロ。夢だけを抱いてロンドンから帰国した早川徳次は、誰もが不可能だと嘲笑した地下鉄計画をスタートアップし、財界大物と技術者たちの協力を取り付けていく。だがそこに東急王国の五島慶太が立ちはだかる! 『家康、江戸を建てる』の著者がモダン都市東京の揺籃期を描く、昭和二年のプロジェクトX物語。

感想・レビュー・書評

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  • 東京の地下鉄創設に命を懸けた人々の物語。
    こんな苦労があったなんて!
    大正から昭和初めにかけての、時代の空気感が伝わってきて読み応えがありました。

  • 日本で初めて地下鉄を作った「地下鉄の父」早川徳次の奮闘、そして浅草ー上野間の切開覆工式の地下鉄工事の苦労の数々を描いた快作。シャープ創業者と同姓同名とは(ただし、シャープ創業者はとくじ、地下鉄の父はのりつぐ)。

    浅草ー新橋は徳次が掘って(元々は浅草から新橋経由で品川まで掘る予定だった)、渋谷ー新橋は後発の五島が掘って、すったもんだした上で両線を繋げたという経緯、全く知らなかったな。

    資金力にものを言わせた五島慶太の強欲ぶり。まあ、競争激しいビジネス界における全うなビジネス活動ではあるのだが、ちょっとなあ。苦労に苦労を重ねたパイオニアが報われず、2番手以降の追従者がおいしい思いをする。このパターン、よくあることだがちょっと悲しい。歴史に名が残るのはパイオニアの方だとしても、それでよいのだろうか?

    東京の地下鉄の場合は、戦争直前ということもあり、地下鉄事業は結局国に召し上がられ、両者痛み分けとなったようだ(そして営団が創設された)。地下鉄を利用する際、こうした過去の歴史に思いを馳せるのもいいな。

  • 『プロジェクトX』と昨年の大河ドラマ『青天を衝け』を掛け合わせたような物語。
    今や通勤通学など都市部で暮らす人々にとって無くてはならない”足”のような存在の地下鉄。
    そこに無いものを有るものにする。言うのは簡単だけれど、実現させる苦労は並大抵のことではないと改めて思い知った。
    ロンドンなど西洋の文明国にしか存在しなかった地下鉄を、東京の地中に造る。
    「地盤がゆるい、地震がこわい」誰もがそう言って反対する中で強行突破する意志の強さ。
    未経験の仕事にぶつける男たちの技術者としてのプライド。
    そんな熱き心が、今の日本の文明水準を押し上げたと言っても過言ではない。

    それにしても、この『地中の星』というこの表題は、中島みゆきの『地上の星』を意識してのことに違いない。
    お陰でずっと頭の中で中島みゆきの歌が繰り返された。

  • 東京に初めての地下鉄をもたらした早川徳次と、事業に関わった男たちの物語。

    大隈重信や渋沢栄一を説き伏せての資金集めから、実際の工事まで、数々のトラブルを乗り越えて地下鉄ができるさまは、まさに宣伝文句通り、昭和2年のプロジェクトX。

    シールド工法などできないから、もちろん手で穴を掘り、日の当たらない地下で作業をする。
    完成までずっと道路を通行止めにはできないから、路面覆工で地上は元通りにする。
    膨大な工事排水や土砂の搬出方法も、考えなければならない。

    本当に難工事で、その大変さを改めて感じる。

    苦労、創意工夫。
    彼らの頑張りは、読みごたえがあった。

    共栄共存ではなく、足の引っ張り合いになる民間。
    そして民間の努力を、横取りする官。

    これが事実だったのだろうが、最後のほうは醜い話になり、やや残念。

  • 日本で最初の地下鉄(銀座線)を作った時の話で、テーマとしては凄く興味があり、タイトルにも惹かれたのだが、最後まで読みきれなかった。
    当時の東京の盛り上がりはすごかったんじゃないかな。
    機会があれば再読しよう。

  • 現在の東京メトロの前身である東京地下鉄道は大正時代に創業された。本作は東洋初の地下鉄建設に関し「日本地下鉄の父」と呼ばれた早川徳次や建設に関わった人びとの人間ドラマである。作品の表現手法はNHKのヒット番組「プロジェクトX」そのもの。タイトルも中島みゆきの番組主題歌「地上の星」をもじったものと思われる。
    早川は、早稲田大学出で南満州鉄道で修行後、中央官庁である鉄道院に入り、その後は栃木の左野鉄道や大阪の高野登山鉄道を再建した。彼には大望があり、欧州を視察、帰国後は東京でロンドンにあるような地下鉄建設に乗り出す。計画当初は「地盤が軟弱」という意見、庶民の恐怖心もあり、誰からも共感が得られなかったが、大隈重信や渋沢栄一の協力、銀行からの資金援助を得て、なんとか株式会社を設立する。
    だが、建設にあたっては関東大震災、崩落事故、資金不足、大正天皇の崩御など様々な苦難が待ち受けていた。
    それを乗り越える過程で描かれているのは、土留め、杭打ち、履工、掘削、コンクリート施工、電気設備といった現場に携わるリーダーたちの活躍。前人未到の難工事に挑む彼らの葛藤、衝突、矜持を伝えることに力点が置かれている。
    また、工事の過程で「スキップホイスト」、「エンドレスバケット」、「ベルトコンベア」、「ATS」など新しい技術、百貨店の地下フロア直通の地下駅設置といった新しいアイデアの創出があり、情熱と知恵で前進する人間のたくましさも伝わってきた。
    終盤には、早川の地下鉄工事の技術を後発者の有利を生かして横取りするかのような五島慶太の新線建設、営団という形での国による乗っ取りもあった。最終で五島は早川を尊敬していたことを明らかにし、現場監督、技術者、無数の人足たちを「地中の星」と称し、そのほとんどが、いま、肉眼で見えないと結んでいる。まさに、感動的な「プロジェクトX」のエンディングそのものであり、頭の中に中島みゆきの歌声が響き渡った。

  • ページ数増えてももっと深く描いて欲しかったです。

  • 東京に初めて地下鉄を作った『地下鉄の父』早川徳次を主人公に据えた物語だ。
    何か人がやったことのない新しい事業をしたい、という気持ちで、ロンドンで見た地下鉄を東京にも作ろうと決めた早川だったが、日本は地震の多い国で地盤が不安、そんなものは作れるわけがない、と彼の考えは誰にも受け入れられない。

    難題を乗り越えて、いざ事業に取り掛かる、となってからも、次から次へと問題が起こる。

    そうか、いま自分たちが当たり前のように利用している地下鉄の始まりには、こんな苦労があったのか、としみじみさせられる。

    物語は主役の早川だけでなく、人力で穴を掘り、東京の地下に鉄道を敷いた名も残らない職人たちにも視点を当てて語られる。彼らのプライド、工夫、人望、努力。
    現代のように重機もなく、知見もないまま命の危険と隣り合わせで働く汗臭く泥臭い仕事に、何とも言えない気分になった。

    最後の一文がいい。
    銀座駅にあるという早川氏の胸像を見に行きたくなった。

  • 淡々とした文体が小気味よい。

  • 地下鉄の父早川徳次と工事に命をかけた職人たちを描いたノンフィクションノベル。

    現在の地下鉄銀座線の原型東京地下鉄道かを上野浅草間で開通したのは昭和2年。地上鉄道に比べて圧倒的に工費のかかる地下鉄を事業として起こし実現する早川徳次と本邦初の工事に苦闘する職人たちの姿が描かれる。

    実は当初の計画では新橋から品川まで第一京浜を通ることに。資金難から新橋止まり。別に東京高速鉄道が渋谷から築地までの計画で渋谷新橋間を開通させている。
    両者の対立から官が、介入し営団となっている。今も民営化されたとはいえ東京地下鉄の株主にその影響が見てとれる。

    筆者は忘れられた歴史の狭間の人物を描くのに定評がある。題名のとおり目に止まらない地中に隠れた星に光をあてた傑作でした。

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著者プロフィール

1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパーズ」で受賞しデビュー。15年に『東京帝大叡古教授』が第153回直木賞候補、16年に『家康、江戸を建てる』が第155回直木賞候補となる。16年に『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、同年に咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。18年に『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞。近著に『ロミオとジュリエットと三人の魔女』『信長、鉄砲で君臨する』『江戸一新』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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