- Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103753070
作品紹介・あらすじ
1968年夏。沖縄、アメリカ、ハノイ。フィリピンに生まれ、カデナの米軍に勤務する女性曹長フリーダ。サイパンで両親と兄を喪い、沖縄で一人戦後を生き抜いてきた朝栄。朝栄夫妻にかわいがられ、地元のロックバンドで活躍する青年タカ。朝栄のサイパン時代の旧友で、那覇で再会するベトナム人安南さん。-4人は、カデナ基地からの北爆情報を刻々とベトナムに伝える「スパイ」となる。だがそれはフリーダにとって、B‐52機長である恋人の大尉、パトリックを裏切る行為でもあった…。
感想・レビュー・書評
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爆弾を落とせば、人が死ぬ。そんな当たり前のことが忘れ去られることがある。あるいは、忘れたふりをされることがある。
できることなら誰も死なないほうがいい。でも、たとえば死ぬのが他の国の人だったら、目の前にいる人でなかったら、人は爆弾を落とせば死ぬという当たり前の事実に目をつぶって、どこまでも残酷になることができる。
また、その一方で、誰も死なないほうがいいという思いのもとに、会ったこともない人たちを助けようと危険をおかす人がいる。そして、爆弾を落とす任務に恐怖する人も。
相手の立場に立てる想像力と、相手を信頼する心。その二つがあれば戦争など無くなるはずなのに、それがいまだ人類には難しいようだ。核による威嚇など、自分の首を絞めるようなものなのに。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
なかなか入り込めずダラダラ読んで、最後の方にちょっと面白くなってきた。やっているミッションはかなり緊迫感のあるものだけど、淡々と語られている。最後の方はちょっとやりきれない。
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この夏5作目の池澤小説は沖縄旅行に因み。読む程に作者に惹かれる。本作はエンターテイメント性と純文学性の両方を兼ね備え、戦争に翻弄される市井の人の心の暗い澱みを描く。登場人物にあわせた文体の微妙な使い分け等の日本語技術も高等。池澤作品に共通の上質な読後感。
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ベトナム戦争末期の嘉手納を主な舞台に、米軍人の父とフィリピン人の母を持つフリーダ=ジェイン、沖縄生まれでサイパン帰りの嘉手苅朝栄、バンドのドラマー・タカの視点から、そのとき沖縄やベトナムの置かれていた状況が描かれます。
淡々と物語は進み、終わりますが、読後に深く心に残るものがある作品でした。 -
沖縄に引っ越したのを機に、知人に勧めてもらっとこともあって手に取りました。
学生の頃の平和教育以来、いわゆる戦争ものは避けてきました。自分の中で受け止めきれず。それを誰かが現在進行形で受け止めているのですが。。
この作品はそんな私でも読み切れました。感想はうまく言葉にできないけれど、沖縄に生きるということのイメージを少しだけ掴んだ気がします。 -
現実の生活の中に基地がある沖縄。そのことについて目を背け続けていた自分自身に気が付いて愕然とする。
ここに暮らしているのは「私」であり、大切な「あなた」だ。
戦争と平和。生きるということについて考えさせられる。心に深く刻まれた一冊。
(内田樹さん推薦本) -
池澤夏樹は好きで、過去の作品は結構読んだ。個人的には「ハワイイ紀行」なんか好き。けど、小説は元々そんなに作品数が多い人では無いので、しばらく手に取っておらず。これは出てすぐ手に入れたけど、何となく読まずに置きっぱなしだった一冊。
最近はどうも上段に構えた戦争物が多い気がするけど、僕はこう言う方が性に合うみたい。淡々と、そして池沢作品に共通する救いがあるのが良い。派手な盛り上がりには欠ける文章だけど、添い寝するみたいに読めるから。
最後、主人公の男の子に、若き日の大工哲弘の面影を見いだした。北海道出身ながら10年以上沖縄に住んでいたこの人のウチナー愛、かな? -
1968年の夏、沖縄嘉手納基地を舞台に四人がベトナム戦争に関わっていくスパイ活動。
戦争にはいろいろな形があり、受け止め方にもいろいろな形があるのだと改めて感じた。
淡々と、そして確かな筆致は池澤夏樹ならでは。 -
テーマと設定が面白い。沖縄に住んだ経験も活きているのだろう。サイパンがこうであったのか?改めて知ることも多かった。
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2013/12/31 淡々としながらも虚無感がそこはかとなく感じられる本でした。沖縄、サイパン 戦地だったことを思い出しました。
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これはベトナム反戦の話であり、家族の話なんだなと思った。
朝栄さん、阿南さん、タカ、フリーダ。
4人の持つバックグランドはまったく違うけど、危険な任務の遂行に向かわせる動機は、多くの人の命を救いたいだけではなく、それぞれの家族に対する思いにあったんじゃないかな。
だからパトリックとフリーダには家族になって欲しかったな。
何年か後に打ち明けて、許しあって。 -
ベトナム戦争当時の沖縄。米国兵相手に模型店を営む嘉手苅朝栄、空軍基地で働くフィリピンで米国人とフィリピン人の間に生まれたフリーダ曹長、軍人相手のロックバンドでドラムを叩くタカ。三人はベトナム人「阿南さん」の指示のもと、それぞれの反戦活動を行うことになる。
沖縄的なのんびり感、戦争の現実、日本への返還、基地への反感——、などが暖かさと調和を持って描かれる不思議な小説。まあまあ面白かった。 -
池澤夏樹初めて,時代の空気が感じられるとてもよい小説だった.
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読んで良かったと思った。飛行機で飛んでいって、荷物を下ろすだけ、の感覚、地図にプロットするだけ、の感覚、ほんとうに恐い。荷物が特別なもののときには、荷物を下ろしたあとの行動が違う…なんか、文字だけ書いているこの感覚も気持ちが悪い。
B52、ミグ、1968年…たった40年前のリアルな現実。しかし、沖縄はまだ。 -
ベトナム戦争も末期に差し掛かり、
厭戦気分が漂いつつある時代の、沖縄嘉手納基地。
ひょんな事から繋がった4人がベトナム人を戦火から守る
「戦い」を始めた。
B52に象徴される、米軍の「正義」のカタチは
反対側から見れば常に圧倒的な暴力に過ぎない。
この過ちを懲りずに今も繰り返している。
それに対抗する「小さなレジスタンス」を
ふつうの人が行う事にこそ、
作者は希望を見出そうとしているように思う。
沖縄、米軍、戦争....。
この異常な状況が平常となってしまっている
沖縄の現状を、私たち本土の人間は
やはり理解しきれていないと思う。
そんな重いテーマにもかかわらず、
どこか軽く、笑い飛ばすような調子で
話を進められるのはやはり、
作者が10年以上も沖縄に暮らしたからこそ
出来ることなのだろう。 -
ベトナム戦争時代の沖縄の物語。
…というだけで,興味がわきました。読んでみて,いろんな立場からの戦争に対する感覚というか,感触が伝わってきました。4人のその後も読んでみたいです。 -
何を信念とするか?人を助けるとは?人を裏切るとは?「ママへの手紙」がすべて。
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「嘉手納」という文字を見ると、いろいろなことを考える。
基地、オキナワ、戦争、占領、アメリカ、交渉、ベトナム戦争・・・
文字で見てしまうと、思考はそこから進まず、その圧倒的な事実を前に萎縮してしまう。正直、あまり考えたくないなーと。
この小説は「カデナ」だ。
そこに基地はあるが、血の通った生身の人間たちが生きているのだ。
ベトナムの最前線に爆弾を「配達し」に行く、パイロット。
パイロットを愛しながらも、彼の仕事を否定するような密偵行為を続ける、フィリピン人。
戦争で家族を全て失いながらも、アメリカ人相手の仕事を続ける男。
基地でライブを続けながら、基地からの脱走兵の手助けをする少年。
その時、そこには確かに様々な人達の日常があっただろうに、
「基地・嘉手納」として視点が、全ての日常を変えてしまっているのだと思った。
池澤夏樹のこの視点、さすがだと思った。
ストレートに書くのではなく、私の知らない「カデナ」を見せてくれることが、私の中の「嘉手納」を更に深くしてくれた気がする。 -
今になって振り返ってみると、ぜんぶはパトリックがあのバカみたいに大きなB-52に乗ってカデナに来たとこるから始まった。
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ベトナム戦争当時の沖縄の嘉手納基地周辺の人々を題材にしたお話。3人の主人公の出来事が交互に語られ、交差していき、最後にぴったり…。登場人物自らが語る形式や空気が、もろ池澤夏樹です。
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池澤夏樹の小説では、一位、二位を競う秀作。沖縄の米軍基地、ベトナム戦争と、重いテーマを取り上げながら、でも、なんとなく暖かい、でも切なさもある、そんな小説。今年一番か。
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ちょっと読んだ状況がドタバタしてて、頭が整理されていない。
とても映画的。何かあってもなくても闘っていい、闘わなくてもいいということ。何より夏。夏の喜びとさびしさ。 -
久々に最近離れていた(個人的に『マシアス・ギリの失脚』以前の初期作品が好きなので)池澤夏樹の小説です。読み応えがありました。
今オキナワがやっぱりニュースで言われているので、これ読んでやっぱり他人事ではないよなぁ…と想いをはせてしまいます。
個人的にやっぱりなんで最後パトリックの×××が××したのかがよくわらなかったのですが(エロいのとネタバレなので伏字)、そういう「え、なんでここでそうなるの?」みたいな最後の展開にはやっぱり…でした。よくわからん。
個人的には朝栄さんの章が一番好き。 -
263 これでいいのだろう。分をわきまえ、人と己を比べず、余計な野心を持たぬことが果報である。
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さすが池澤ワールド。
おもしろかった。
太平洋戦争からベトナム戦争へ。
アジアとアメリカ…
戦争で傷を受けた人たちの勇気ある抵抗は… -
2010.04.22. 書架で「カデナ」というタイトルを見た時、女の子の名前かな?と思った私はばかだ。ベトナム戦争時、沖縄嘉手納が舞台の小説でした。語り手を変えて続く物語は、戦争に肉薄してるわけじゃないけれど、これが沖縄の基地というものなんだなと感じられた。誰もがそれぞれの事情を抱えていて、でもそれを全部誰かに話して預けきってしまうんじゃない。それにしても、池澤さんの描く女性は、強いところと弱いところを併せ持つ芯のしっかりした人が多いなあ。
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一気に読んだ。設定がなかなかおもしろかった。私にはわかろうと思っても理解できないような境遇の人達ばかりで、テンポも良く、読後感も悪くなかった。
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「カデナ」とは、沖縄の嘉手納空軍基地のこと。
ベトナム戦争で活気づく沖縄で、それぞれの思いを抱いた4人が、アメリカの軍国主義に対して密かな抵抗活動を開始する。
必ずしも「反戦和平」というわかりやすいスローガンで結束している訳ではない分、この4人がそれぞれ「自分は何者か」ということを考えながら行動している様子が読ませる。
特に、自分の行為が爆撃機パイロットの恋人を裏切り続けることに葛藤する女性軍人フリーダは、アメリカ人とフィリピン人のハーフという出自にもコンプレックスを抱いているように感じる。同じように、本土と沖縄、家族と自分、男と女という関係性がいくつも重なり合って見える。
戦時中にもかかわらず、戦地から遠く離れた外国の基地カデナが、単純に割り切れない思いを持った人々の舞台として、見事にぴったりはまっている。