かもめの日

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104444038

感想・レビュー・書評

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  • 「一つひとつの作品は、単独で完結したものでありながら、それぞれの話が互いにどこかで有機的につながっている。そして、それらの全体が、この世界のような姿をなしている。」
    そういう話を書きたい、と登場人物の小説家が作中で言っているが、本書はまさにそういう作品のように思う。
    かもめや宇宙、ラジオに関連する人々の毎日が重なっていき、徐々に人々の関係が明らかになり、読後には人間の生活の悲喜こもごもがもたらす切なさみたいなものが残る。

    恩田陸さんが好きな小説だと書いていたため読んだのでだけど、本書の不思議な構造は恩田さんの小説に近い印象も受けた。
    ただ、同じような構造でも恩田さんはサスペンスやミステリーなどのエンタメ寄りの作品にすることが多い中、本書はがっつり純文学。
    図書館で借りたのでざっと一度読みしただけで返さなきゃなのですが、ほんとは何度か読んで、様々な暗喩を探して考察した方が楽しめると思う。

  • 視点の切り替えがかなり頻繁。
    それぞれの視点で描かれる話は、まるで寄せては帰る波のよう。
    形がそれぞれ異なっているけれど、読み手が意識を少し引いて全体を眺めると、あぁ海だ・・・と気付く感じ。

    交錯する人たち(ラジオ局のナビゲーター・朗読用ショートストーリーを作る作家とその妻・AD・女子アナ・少女と少女を心配する青年)も、変に繋がりを持たせすぎないで、あっさり書かれているところに作者の力量を見ました。
    とりとめのない話のようで、大きな意味のある話のようで・・・。
    読む側によって、いくらでも化ける本だなぁという印象。
    玄人好みな本、でもあるかも。
    女性初の宇宙飛行士・テレシコワのセリフ「ヤー・チャイカ(わたしはかもめ)」が妙に好きで、しかもチェーホフ(でも「かもめ」より「ワーニャ伯父さん」が好き)も好きなので、この2つが好きな自分にとってはたまらなく魅力的な一冊でした。

  • FM局のフリーアナウンサーの妻が、仕事をやめた。自分は番組の朗読の作家。バレエ教室の帰りに自転車から落ちて死亡。
    警察の調査でDJから直前に電話があったことを知る。浮気をされていた。
    番組のADは若い頃、集団で暴行をしていた。大人になった少女に復讐される。
    交通博物館が閉鎖になる。そこで働く男は航空工学を志望していた。ロシアの女性宇宙飛行士が「私はかもめ」と宇宙遊泳したのがきっかけ。
    女性宇宙飛行士はすでに妊娠していた。人体実験だったかもしれない。生まれた子供は医者になった。両親は子供が成人後に離婚。
    FM局のアナウンサーは全員がフリー。40歳に近くなると首。
    「わたしはかもめ」と連呼したのは、無重力により、頭がおかしくなっていた可能性もある。
    ロシアの技術の飛行士に着陸技術を要求。女性宇宙飛行士は優秀なパラシュート隊員だった。

  • 時代小説をここのところ読んでいる私には、小説に登場する普通の人たちがどんな世界にいるのか読みながらさまよっていた。

  • あるFM放送局に関わる人達と心も身体も傷ついた一人の少女をめぐる物語。千恵と絵理はニーナでもあり、テレシコワでもあるのだろうか?現在形で綴られる文体は、読みやすいようで読みにくいような。ラジオでのしゃべりを意識してるのかな。

  • 真暗闇に浮かぶ宇宙船の窓から見える青い地球がだんだん近づいてきて大気圏に突入し、雲を抜け日本の地形が現れ、ビル群が現れ、都会の朝の光景へとズームインしていく…そんな映像が目に浮かびました。登場人物が現れては消え、またひょこっと別の場面で顔を出しと連鎖していく様子もまたズームイン・アウトの映像的な印象を受けました。

  • 金曜夜のラジオのナビゲーターを務める幸田昌司。
    彼とコンビを組むフリーアナウンサーの西圭子。
    ラジオドラマのシナリオを書いている瀬戸山春彦。
    元アナウンサーで急死してしまった瀬戸山千恵。
    ディレクターに反感を抱くADの森ちゃん。
    昔まわされたことを今も恨みに思っている絵理。
    絵理を道端で拾った研究員のヒデ。
    だんだん見えてくる彼らのつながり。
    装丁:新潮社装丁室

    たたみかけるような現在形で淡々とした文体が特徴的です。
    ヤー・チャイカが何を象徴しているのかがよくわからなかった。
    空への憧れ?仕組まれた結婚?
    装丁がストーリーと合っていると思う。

  • 衝動買い、あんまり。
    文学っっぽかったのがあんまり。
    明るい夜に手を出そう

  • 誰に勧められたのか忘れたけれども、勧められて読んだ。冒頭の文体とテンポでもっていかれて、するすると流れるように、いろんなチャンネルが切り替わり、巻き戻り、時につながり、して、ラストまで流れていく。いろんな人の人生がサンプリングされている趣向で若干物語くさくはあるけれども、なんともいえない読後の余韻は、あー小説読んだなーって感じて、僕的には良作。

  • 派手な事件はなく、淡々とシーンが入れ替わる。そして読み終わった時には登場したシーンがつながってゆく。抑えた感じさえ感じる書きぶりは洗練さも感じられる。おそらく、ゆっくり時間があるときに余裕をもって読むべき本であろう。

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著者プロフィール

作家。1961年京都市生まれ。同志社大学文学部卒業。1999年、初の小説『若冲の目』刊行。2008年『かもめの日』で読売文学賞、13年刊『国境[完全版]』で伊藤整文学賞(評論部門)、14年刊『京都』で毎日出版文化賞、18年刊『鶴見俊輔伝』で大佛次郎賞を受賞。主な作品に『もどろき』、『イカロスの森』、『暗殺者たち』、『岩場の上から』、『暗い林を抜けて』、『ウィーン近郊』、『彼女のことを知っている』、『旅する少年』、評論に『きれいな風貌 西村伊作伝』、『鴎外と漱石のあいだで 日本語の文学が生まれる場所』『世界を文学でどう描けるか』、編著書に『〈外地〉の日本語文学選』(全3巻)、『鶴見俊輔コレクション』(全4巻)などがある。

「2023年 『「日本語」の文学が生まれた場所』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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