- Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105127022
感想・レビュー・書評
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ゆっくりと一字一句読んでいるから、僕はまだこの本を読み終えていない。
藤本和子さんのとても哀しげな解説まであとたった5ページしかない。
あと5ページでブローティガンが終わる。
そんなことがあっていいわけがない。
決定的な何かが終わった後の世界。
作家はそれを書きつづけてきた。
首を吊って死んだ不運な女の死。
だが、それは決して語ることは出来ない。
「わたし」はそれに近づこうと試みる。そして、必ず失敗する。
決して語りえないこと。
それはホノルルの交差点の真ん中で転がっている女物の靴のようなものだ。
誰も見向きもしない。
ただそれはそこにあって、今もあり続ける。
そして、それに触れることは出来ない。
僕たちはなにも語りえない。
語りえなければ、沈黙すること。
だが、世界はそこまで物語的にスマートではない。
「わたし」はがんで死につつある女性に電報を送る。
そこにはこう書いてある。
「言葉はなにもないところに咲く花々。あなたを愛している」
言葉は純粋になれる。
そして、その純粋さをほんとうにほんとうにうらやましく思う。
誰にも触れられないからっぽの言葉たち。
ブローティガンはそんな花々に囲まれながら今もまだそこにいる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
一言一言を纏うように読んでいかないと、身体に入ってきてくれない本です。
真剣に向きあわずには、たぶん読むことができません。
時間、かかりました。
薄い本なのに。
言葉の一つ一つがやっぱり詩のようで、この人の考える世界っていうのは、もの一つひとつが小宇宙を抱えているようなものなのじゃないでしょうか。
私は解説にあった言葉にとても心惹かれました。
最善の努力を尽くしたのに、語り得なかった物語。
これは、そういう物語です。 -
静かに死ぬこと。忘れられるように死ぬこと。夜明けにひとりで死ぬこと。穏やかな不安。