最初の悪い男 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901509

作品紹介・あらすじ

愛するベイビー、いつになったらまたあなたをこの腕に抱けるの? 43歳独身のシェリルは職場の年上男に片思いしながら快適生活を謳歌。運命の赤ん坊との再会を夢みる妄想がちな日々は、衛生観念ゼロ、美人で巨乳で足の臭い上司の娘、クリーが転がりこんできて一変。水と油のふたりの共同生活が臨界点をむかえたとき――。幾重にもからみあった人々の網の目がこの世に紡ぎだした奇跡。待望の初長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 60代の役員フィリップを前世で夫だったと慕い、クベルコ・ボンディと呼ぶ少年と結ばれる運命にあると信じ、家事の手間を極端に省くシステムを実行し、現実を回避する為に感情を切り離した結果、喉に心因性のしこり(ヒステリー球)を持つ40代前半のシェリル。上司の20歳の娘で怠惰で不潔で足が臭く暴力的なクリーが居候として住むようになると彼女の「尖った部分を取り除いた快適な生活」は破壊され、生身の戦いが始まり、現実の生活に引き摺り出される。二人は最初は反発するが、クリーのゲームを察したシェリルは磁極を反転させ求め合うようになる。
    著者の意図は理解できないまま、後半のシェリルの人生を読み終え「生まれようと欲するものは一つの世界を破壊しなければならない。」というデミアンの言葉がふと浮かんで来た。

  • 予備知識無しでタイトルと装丁でなんとなく借りてみたら、全く予想もしなかった内容で、戸惑いながら読み進む。43歳で独り暮らしが長いシェリルはそれほど社交的でも明るくもなく、知らず知らずのうちに独特の雰囲気をまとい自分一人だけの妄想世界に沈み込んでしまっているような感じの女性。誰でも自分だけの妄想とか多かれ少なかれありながら、だいたいは他人や社会ともそれなりに折り合って共通のルールに従って上手くやり過ごして社交性を身に付けているものだけれど、学校を卒業し就職し同じ仕事を同じメンバーと延々と繰り返して新たな出会いも特になく独り暮らしを何年も続けていると、うっかりシェリルのように運動音痴ならぬ「社会音痴」(穂村さんの『世界音痴』のような)になるのは普通に想像できる、と自分にもその気配は有るしと、恐る恐るこわごわ読む感じでした。正直なところタイトルとエピローグはなるほどと思いつつもストーリー展開はナニソレナンデソウナルノ?!?!の連続で少し疲れました。でも変に偏ってて異様にどうでもいい細かいことを延々と綴るシェリルのモノローグ部分はとても面白かったです。不思議本。読み終わって他の方々のレビューを読んで好評価が多いのが意外でした。好き嫌いのハッキリ分かれる種類の作家さんだと思います。

  • netflixのドラマのようにゴクゴクと読んでいけちゃう喉ごしでありながら、しっかりと人間のアブない深淵を覗かせてもくれる一冊。笑い、泣き、慄きました。

    個人的に一番キてるな〜と思ったのは、シェリルが玄関でカタツムリ百匹ぶちまけながら自慰にふけってしまうシーン。その後人間同士の関係は驚くべき変化を遂げていくのに、カタツムリは後半に至ってもまだ屋内を這っていたりする。また、クリーが去った後もしばらく彼女の搾乳したミルクがジャックに与えられ続ける描写などもあって、一瞬で変化する物事とマイペースに連続性を保った物事との対比が面白く、もの悲しい。

    奇妙な筋立てにリアリティーを与える細かな描写もいちいち印象に残った。「いまやわたしたちはいっしょに救急車に乗り、内側からサイレンを聞いた仲だった」とか、「これは政府が国じゅうの出産中の女たちのために配布した道具だ」とか、本当にそういう経験した人からしか出て来なそうな表現で感心してしまう(馬鹿みたいな感想ですが)。

    子育て中の身にとっては、夜中の授乳時に自分の人生の可能性について思いを馳せてしまうシーンが、男であっても共感せずにはいられない。訳者あとがきによると本作は妊娠中から出産の三年後まで執筆されていたようだから、これらのシーンの異様な説得力にも納得できる。

  • 一番ここに似合う人、あなたを選んでくれたものに続いて。こんなに1人の人の著書を読むのは久々。人があえて文字にしたり口にしたりしないような人間のどろっとした事や世界の一部を冷静かつプッと笑っちゃうような表現でひとつの作品にしちゃうのがこの人のすごいところ。動物の鳴き声が「たすけて」に聴こえてもその動物にとっては全く違う意味かもしれないし、とか。しょーーもないんだけど確かに真理だと思わせられる面白い表現がいっぱい。端的に書こうと思えば全然書けそうなことを良い意味でダラダラ書いてて、でもそのどうでもよさに登場人物たちの生活を感じる。短編もドキュメンタリーも面白かったけど長編は読み終わってこのミランダジュライワールドの人達とお別れするのが寂しくなった。

  • これもまた奇書。

    前半は空回りが激しいイタイ中年女性のひとりコメディ。
    しかし、中盤以降物語の性質が一気にかわる。

    本当に同じ主人公なんだろうか、同じ物語なんだろうかと不思議な感覚になる。

    中学生が一気に大人になる様を見ているようだ。

    孤独、親、妊娠と出産、子育て、そして死の物語なんだろうとは思う。

    しかしこの物語に重みはなく、どこか軽薄なところが好みが分かれるところなんだろうか。

    中盤、物語の転換場面で思わず、えっ、と声が出てしまったけれど、その他の部分で面白みはあまりないかもしれない。

    その他、胡散臭いセラピーやら主人公が勤務する存在意義不明の財団(税金控除対策なんだろうけど)が米国都市部在住のアッパーミドルカルチャーっぽく笑いどころのはずが笑えない。

    これでお金を稼げるのが信じられないけれどそれが米国のアッパーミドルという人たちなんだろう。
    日本も同じような気もするが・・。

  • 映画「君と僕の虹色の世界」「The Future」そして、短編集「いちばんここに似合う人」、ドキュメンタリー「あなたを選んでくれるもの」で、ちょっとイタイ・なんかズレてるこじらせアート女子による、抜群のセンスを見せてくれたミランダ・ジュライの待望の長編小説です。

    や、もうこれ、文句なしの傑作で、そのこじらせと妄想が100倍にスケールアップしていて、私は女子ではないんですが、なんかおんなじようなこと考えてる人いるのか!と感情移入しすぎてページ進まないので困りました。松岡茉優の「勝手に震えてろ」も名作でしたがこじらせと妄想はミランダが圧倒的に上です。容赦なくこじらせてます。世界の40代女子のこじらせを一人で引き受けて、まるで「地球のみんなオラに元気をわけてけろ」と孫悟空が元気玉を集めて放つ時のような超エネルギーを爆発させてます。

    主人公シェリルの一人称小説で、もはやミランダ本人の私小説といっても過言ではなく、どこまでも赤裸々にそしてカオティックに散乱するディテールの集合体なのですが、内に籠りすぎたエネルギーが容量オーバーで爆破してしまい、溢れんばかりのエモーションをこちらにぶつけて来ます。

    ここに書かれているのは、個人的ななにかではなく、おおきな全体のような気がしてなりません。たとえばドストエフスキーのような全体です。それは小説が根源的にもっている本質のことです。

    ボリス・ヴィアンとミシェル・ウェルベックがマウンテンハウスで相談しながら女性になりきって書いたみたいな本作は、ミランダ・ジュライのミランダ・ジュライによるミランダ・ジュライとちょっと変わり者と言われる我々のための小説です。猛烈にお勧めします。タイトルについては読めばわかるんですが、センスがありすぎる。

  • 読み終わって、タイトルに唸る。すげーや。

  • 恋愛、幸せ、理想の人生、そういうものを思い描く時、抗い難いほど固定観念に捕らわれていたことを思い知らされた。シェリルの重ねる妄想と行動、やがてそれを一枚づつ捨て去り現実と向き合う。その時に人生は何度も輝くのだ。そこには無駄もなく近道もない。この物語はあらゆる人々に捧ぐ人生賛歌だ。

  • ずっと気になってたミランダ・ジュライ。
    U-NEXTのポイントは書籍に使ってくことにしたので、
    初の長編小説という今作を読んで見ました。

    いや〜マジでよくこんな話を思いつくなと。
    もうひたすら面白かったのは2人が取っ組み合いを始め、
    そしてビデオを模倣して絡み合うようになる展開。
    結局、ここでクリーがふいに口にするセリフが
    意味深なタイトルになってるとこも本当にイケてる。

    シェリルは私の頭の中で完全にエイミー・アダムスだった。
    たぶん「メッセージ」の印象かな。

    シェリルが自己完結してて閉じてる故に
    押しの強いクリーやフィリップスに対して受動的であることが
    結果的に頭のおかしい展開を作り出し、
    ある意味、夢見てたものを得る結果になる。

    ぜんぜん自分と属性の違うシェリルなのに、
    まさにその受動性や自分の確信が揺らぎ、
    他者に巻き込まれて納得してく感じに
    切なさややるせなさを感じつつも、
    確実に強くなってるとも思えるからおもしろい。

  • ”43歳独身シェリルの孤独な箱庭的小宇宙に、美人で巨乳で足の臭い20歳のクリーが転がり込んできて…” 【帯】この時点でクリーの最高さが分かる(笑)

    クリーの最高レベルは想像以上であり、この女二人の生活を覗き見した先の展開には、胸を打たれるものがあった。

    中でも、シェリルとクリーのバトルシーンはとにかく可笑しい。暴力的描写はあまり好みではないけど、岸本佐知子さんも何処かのインタビューで言われていたとおり、”女同士が暴力を振るい合うシーンはなかなかない” この部分を読み想像した時に気づけば笑ってしまっている。ドラマの好きなシーンを戻してエンドレスで観てしまう要領で何度も読み返してしまう。

    孤独なもの同士が触れ合うことで、いい意味でもわるい意味でも変化させられる、その面白さを存分に楽しめる本だった。

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著者プロフィール

ミランダ・ジュライ(Miranda July)
1974年、バーモント州バリー生まれのアーティスト、作家、女優、映画監督。本名はミランダ・ジェニファー・グロッシンガー。
バークレーで育ち、16歳から舞台の脚本、監督を務めている。カリフォルニア大学サンタクルーズ校に入学するが2年目に中退、ポートランドに引越してパフォーマンス・アートを始める。1996年に短編映画集製作のプロジェクトを始め、2005年に映画「君とボクの虹色の世界」を監督・主演。非常に高い評価を得る。
2005年から小説の執筆を始めている。代表作に『いちばんここに似合う人』。ほか、『あなたを選んでくれるもの』『最初の悪い男』など。

ミランダ・ジュライの作品

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