大久保利通: 「知」を結ぶ指導者 (新潮選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106038853

作品紹介・あらすじ

独裁と排除の仮面を剝ぎ取り、その指導力の源を明らかにする! 旧君を裏切り、親友を見捨てた「冷酷なリアリスト」という評価は正当なのか? 富国強兵と殖産興業に突き進んだ強権的指導者像の裏には、人の才を見出して繫ぎ、地方からの国づくりを目指した、もう一つの素顔が隠されていた。膨大な史料を読み解き、「知の政治家」としての新たなイメージを浮かび上がらせる、大久保論の決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 司馬遼太郎の大久保利通観というか、単なる私自身の偏った見方という方が正しい気もするが、大久保利通に対して、実行力や交渉力のある知的で理性的な存在として思い込んでいた。それが本著を読む事で揺らぐ。

    一例として、岩倉具視の大久保評。
    木戸は先見あるも、すねて不平を鳴らし、表面に議論をせず、陰に局外の者へ何かと不平咄をなすは木戸の弊なり。大久保は才なし、史記なし、只確乎と動かぬが長所なり。

    木戸孝允の評価は、何となくこんな感じという気がする。司馬遼太郎も同じような人物評だ。大久保は才無しというのは意外であった。その根拠が本著に示される。ただ、そうは言っても幕末に影響を行使した人物。決して才がないと言う事では無い。この辺の見方が面白い所である。

  •  著者の瀧井氏は10年以上も前に伊藤博文を「知」の政治家としてとらえて中公新書に上梓したが、本書はその「知」を誰から、どのようなものとして継承したのかを明らかにした書といえる。
     それは攘夷という狂乱の騒ぎの中で福沢を始めとする洋学の徒が説いた近代的な意味の「公」publicという観念を大久保や木戸も倒幕の嵐を潜り抜けるうちに体得し、それがあってはじめて尊皇攘夷の薩長が新政府になると尊皇開国に転じて文明開化の新政府を演ずるという曲芸もどきの大転換ができたのだろう。
     たいへんな労作である。

  • 衆に動かされない、ある意味真っ直ぐな人として浮かび上がらせる視座からの本。違う見方もあるだろうとは思うが、木戸孝允への態度などはこのような見方からすんなりと頷ける

  • これまで強権的な冷酷なリアリストと評価されてきた大久保利通を、「羊飼いとしての指導者」たる、知識の媒介者としての政治家であったと実証的に描く。
    大久保利通を通して幕末維新の政治史の理解が深まった。大久保利通日記など随所でナマの史料が引用されていて、説得性があった(本文には史料の現代語訳が記載され、註でその原文もつけるという形式が多用されていたが、とても丁寧なつくりだと思った)。
    伊藤博文が漸進主義者だとの認識はこれまでも持っていたが、大久保利通こそ明治政府の漸進主義の淵源であったとの認識を新たにした。近代日本でまがりなりにも立憲制が定着したのは、大久保や伊藤の漸進主義的方針の賜という面が少なからずあると思う。
    大久保をはじめとする幕末の志士たちの学習の在り方としての、討議を重視する「会読」という概念は初めて知り、勉強になった。また、大久保と木戸孝允の関係性がこんなに密であったというのも発見だった。あと、これも今まであまり知らなかったが、台湾出兵時の清との交渉の場面が実に興味深かった。

  • 東2法経図・6F開架:289.1A/O54t//K

  • 大久保利通 瀧井一博著 富国を進めた「知の政治家」
    2022/9/10付日本経済新聞 朝刊
    本書は大久保利通(1830~78年)の評伝をとおして明治維新を再考する試みである。


    暗殺された大久保は事実上の国葬によって弔われた。国葬の最初の事例である。大久保は国葬に値するのか。おそらく当時も今も議論はわかれるだろう。「維新の三傑」と称(たた)えられる大久保の政治指導力は、近代日本の富国強兵を進めた。他方で目的のためならば手段を選ばず、大久保は人を裏切る変節漢だった。大久保の官僚主導の政治体制は、「有司(役人=官僚)専制」と批判された。

    時代が変われば評価も変わる。研究の進展もあって、今では独裁者的な大久保の人物像は修正されている。近年の研究状況を踏まえながら、本書は「知の政治家」としての大久保像を提示する。「知」は「人と人との新しいつながりを生み出す」機能を持つ。大久保は円=明治国家の中心にいて、知識を媒体として人々を結びつける。この「知」のネットワークは殖産興業路線に向かう。

    ある時はそれまでの人間関係を断つ。別の時は人と人を結びつける。こうして明治維新を実現させた大久保は、殖産興業路線の象徴と呼ぶべき77年の内国勧業博覧会を成功に導く。暗殺される前年のことだった。

    以上のように大久保が成し遂げた明治維新とは何だったのか。

    本書は明治維新=共和革命説を唱える。何とも奇抜で大胆なアイデアである。共和革命とは君主制を革命によって打倒して、国民が主権を持つ国家を作ることではないのか。対する明治維新は王政復古である。本書の共和革命の定義は異なる。明治維新とは、共に和して国民を創出し、公共的な秩序を作る運動のことである。明治維新をとおして、日本人は天皇制の下に国民として包摂され、立憲制度が構築された。

    ここに明治維新の世界史的な意義を確認することができる。大久保が独裁者ではなかったように、明治維新に独裁者はいなかった。明治維新は第2次世界大戦後の開発独裁とは似て非なるものである。大久保と他の政治指導者との合従連衡(人を断ち人を結ぶ)が近代日本の「富国」をもたらした。

    衰退の予兆に包まれるなかで、本書は日本を立て直すための歴史的な示唆を与えている。

    《評》学習院大学教授 井上 寿一

    (新潮社・2420円)

    たきい・かずひろ 67年福岡県生まれ。国際日本文化研究センター教授。専門は国制史、比較法史。著書に『伊藤博文』など。

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著者プロフィール

瀧井 一博(たきい・かずひろ):1967年生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(法学)。専門は法制史(国制史、比較法史)。国際日本文化研究センター教授。著書『伊藤博文』(中公新書)、『明治国家をつくった人びと』(講談社現代新書)、『「明治」という遺産』(ミネルヴァ書房)、『大久保利通』(新潮選書)、『明治史講義【グローバル研究篇】』(編著、ちくま新書)など。

「2023年 『増補 文明史のなかの明治憲法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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