大本営参謀は戦後何と戦ったのか (新潮新書 400)

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  • / ISBN・EAN: 9784106104008

作品紹介・あらすじ

大本営参謀たちにとって、敗戦は「戦いの終わり」を意味しなかった。彼らは戦後すぐに情報・工作の私的機関を設立し、インテリジェンス戦争に乗り出したのである。国防軍の再興を試みた者、マッカーサーの指示で「義勇軍」を作った者、そして吉田茂暗殺を企てた者…。五人の誇り高き帝国軍人は何を成し遂げようとしたのか。驚愕の事実がCIAファイルには記録されていた。機密文書から読み解く昭和裏面史。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F開架:210.76A/A72d//K

  • 大本営参謀たちにとって、敗戦は「戦いの終わり」を意味しなかった。彼らは戦後すぐに情報・工作の私的機関を設立し、インテリジェンス戦争に乗り出したのである。国防軍の再興を試みた者、マッカーサーの指示で「義勇軍」を作った者、そして吉田茂暗殺を企てた者......。五人の誇り高き帝国軍人は何を成し遂げようとしたのか。驚愕の事実がCIAファイルには記録されていた。機密文書から読み解く昭和裏面史。

  • 河辺、有末、服部卓四郎、辰巳そして辻正信。彼らもと参謀が戦後も活発に活動し、今まで想像していた以上に戦後日本の形が作られる際に影響力を行使してきた事に驚く。また、特に辻正信氏は時に見せる鋭い分析力(特に訪ソ後の報告)と行きすぎた発想の同居で評価しかねる。ただし、後書きにある筆者の主張(というか現状分析)には全く同意できないものである。その二つは全く別の話

  •  この2つの事件は、われわれが何をなおざりにしてきたかをはっきりと示した。十分な防衛力を持ち、自衛できなければ、一国の総理大臣が不退転の決意をしても、自国内の外国の一基地を移転させることすらできない。また、自国の意思だけで自衛権を発動できない国は、自国の領土に対する主権を主張するのにも他国の顔色を伺わなければならない

     大本営参謀 辻 「罪の万分の一を償う道は、戦争放棄の憲法を守り抜くために余生を捧げることだ」と語っていた
     そのために彼がすべきと考えたことは、自衛力を放棄することでなく、自衛できるだけの防衛力を築くことによって、戦争に巻き込まれないよう、アメリカやソ連や中国に対して日本が中立を保てるようにすることだった。

     すくなくとも、戦争放棄を自衛力の放棄と履き違えて、なすべきことをなさず、今日の惨状を招いてしまったわれわれに、「しなかった」彼らを責める資格はないのではないか

  • 2010年刊。著者は早稲田大学教授。

     戦後直後、米国占領下の日本で、軍の再構築と軍人の政治的復権を意図しつつ、GHQの走狗と化した軍人らの模様を、近時公開された米国秘密文書の分析から解読する。

     旧軍グループの思惑で見れば、
    ① 軍の再構築(ただし、治安維持組織からの昇華案と、治安維持組織とは別組織の構築案との二派に分かれる)。
    ② 反共を期し、
     ⑴ 中国国民党の支援軍として大陸・台湾等へ渡る者と、
     ⑵ ソ連等共産圏へのスパイ活動に従事する者。

    ③ ①②の重畳的存在として、小規模ながら政府のインテリジェンス部門に従事した者
    に分類可能か。

     勿論、GHQ内でも路線対立のある中、旧軍関係者への後援者が徐々に離日していく。

     一方で、重武装の軍隊を支える経済力のない戦後直後の日本。吉田茂らや米政府主流派に支持された、米軍日本駐留と日本軽武装戦略の採用に伴い、これらに障害となる旧軍の主要なGHQ協力者は、一部例外を除き表舞台から退場していく。

     また、旧軍に比べ、自衛隊幹部という明確に数の少なくなった椅子・ポストを取り合う様が感じ取れる。それは潰しの効かない職業軍人という職種の在り方を物語る点でもある。

     そんな中、消えずに残った存在がある。
     勿論、無名人物が自衛隊に復帰等して残った存在は別儀だ。
     だが、例えば辻政信。就中、児玉誉士夫は如何にかような存在となったかは、興味をそそる。
     本書では覗い知れないけれど…。

     かように、戦前戦後間の人的連続性が、旧軍→自衛隊でも見受けられる点は他書の補完となりうるか。

     その他、戦後、旧軍人によるクーデター計画。クーデター起草は暴力的共産主義者に止まらない点。また密輸やGHQ物資、旧軍横流し物資でこれら機関や関与者が潤った事実(当時の国民とは雲泥の差)を呈示。新奇である。

     ただし、所々CIA公開文書の記述でなく、著者評が脈絡なく挿入している点は注意必要。
     クロスリファレンスは良だが、引用方法には難を残すか。

  • ●:引用

    戦後の地下活動に関しては、大本営参謀本部の方針、目的(日本兵の山西省残留、日本義勇軍など)があって、各組織(各機関、中野学校、残置諜者など)はそれにしたがって活動していたのではないか。

    ●GHQは終戦まもなく宇垣と取引をした。宇垣が、宇垣派の将軍に、アメリカの占領に協力するように説得する代わり、GHQは宇垣派の将軍たちの戦争犯罪を免じ、彼らの秘密工作とインテリジェンス工作の一部も黙認するというものだった。
    ●「軍閥」は、終戦と共にG-2庇護を受けたことから、G-2やそれに関連する情報機関のエージェントのような扱いを受けた。実際、彼らはG-2のために情報を収集したり、工作したりしている。(中略)複雑なのは、彼らがG-2等の機関に忠誠を誓ったわけではなく、忠実だったとはいえないということだ。従って、彼らはアメリカ側から命じられたことすべてを実行したわけではなく、自分たちが知っていることをすべて教えたわけでもなかった。
    ●このへんのことは、GHQも承知していた。それでも、彼らが河辺機関を抱え込もうとしたのは、そうすることが彼らの監視にもなるからだ。それに彼らのやることを見ていれば、自分たちがこれからどうやってソ連や中国や朝鮮半島などに浸透していけばいいのか、いろいろ参考になる。
    ●しかし、河辺たちはG-2に情報を与えなかったわけではない。全部は渡さなかっただけだ。(中略)彼らが集めた情報は日本の国防に役立てるために集めたものなので、G-2など「外国」のインテリジェンス機関に明かすことができないものもある。占領が終わってアメリカ軍が引き揚げれば、日本は独立国になるのだ。
    ●マッカーサーが北朝鮮の「奇襲」を許してしまった原因は、(中略)参謀たちが、情報を正しく評価・分析できなかったからではなく、最高指揮官自身がそう思いたかったからだろう。
    →旧日本軍が情報を軽視したと言われるの(「トレーシー」など)はこれと同じことなのだろうか。本書や小谷賢の著作を読むとギャップが感じられる。
    ●「日本義勇軍」は、マッカーサーと中国国民党の密約によって生まれたというものだ。(略)「日本義勇軍」を作って中国国民党を支援せよというマッカーサーの命令に応じることができる受け皿は、当時の日本では「宇垣機関」だけだった。
    ●辰巳は吉田に忠誠を誓っていなかったように、CIAにも忠誠を誓っていたわけではなかった。彼が心から願っていることは、日本が大国として甦ること、それに相応しい独立した国防力とインテリジェンス機関を持つことで、この点で変節したことは一度もなかった。この願いにCIAが力を貸してくれるなら、その限りでこの機関に協力したというだけだ。
    ●辻は二重スパイというよりは、大陸問題研究所のような私的インテリジェンス機関、官房調査室や自衛隊のような政府機関のために、いろいろな国から情報を仕入れ、それをさまざまな情報機関に流すブローカーのようなことをしていたと考えられる。
    ●辻は、つねづね「罪の万分の一を償う道は、戦争放棄の憲法を守り抜くために余生を捧げることだ」と語っていた。そのために彼がすべきと考えたことは、自衛力を放棄することではなく、自衛できるだけの防衛力を築くことによって、戦争に巻き込まれないよう、アメリカやソ連や中国に対して日本が中立を保てるようにすることだった。他の4人も程度の差こそあれ、同じことを目指していた。

  • 戦後占領期の日本で、旧日本軍の幹部や大本営参謀たちが再軍備に向けて暗躍する様子を公開されたアメリカの公文書から明らかにしている。マッカーサー、ウィロビー、ダレスらの占領者に取り入ったり、ソビエト、中国、アメリカのトリプルエージェントだったりと、まるでスパイ小説のようだか、これが、今日まで続くアメリカ支配の原点だと思うと実に太い根っ子に触れた気になる。

  •  CIA文書から,戦後日本における軍閥の復活と暗闘を解き明かす。昔は素朴に戦争が終ってすぐ平和になったのかと思ってたが,もちろんそんなことない。占領期の社会は今の想像を絶する。
     旧軍の幹部には,占領軍にとって利用価値が高い者もいた。彼らはその知識・人脈を買われ,合法・非合法の情報活動・工作に従事する。もちろん過去の戦争犯罪は見逃された。辻政信なんかは,部下が戦犯として処刑されているのに…。
     温存された軍閥は,占領当初,武装解除と治安維持を円滑に行うために用いられる。逆コースに入ってからは,対ソ連のインテリジェンスや,台湾の国民党を軍事的に支援(日本義勇軍を組織)するなど,彼らの存在は欠かせなかった。彼らはいくつもの機関をつくって,GHQから予算をもらい,情報・工作活動をする。元軍幹部のこと,もちろん面従腹背で,情報をすべて渡したり,経費を正直に申告したりはしない。余った資金をプールするなどして,独自に策動する余地も残している。独立を見込んで,国防軍の創設に意欲を燃やした者たちもいた。そして占領が終り,公職追放されていた彼らも追放解除となる。辻などは,有権者に軍隊時代の部下が多く,国会議員に選ばれて国防族として活動。
     読んで思ったのは,やっぱり歴史って連綿と繋がっていて,社会が激変することはあるけれど,決して前後で分断されることはなく,あときれいごとで物事は進んでいかないよなってこと。学校で歴史を習ったときは,そんなことは気付かなかった。無味乾燥だった。

  • 写真を見るだけでも圧倒される。これだけ脂ぎった野望の塊のような面構えの老人やおじさんって今知っている限りにはいない。戦いに破れ、かつての敵に媚びてでも再度力を手中にしたいという欲望の渦巻いた話しかと思っていたが、あとがきで目が覚めた。写真のような面構えにはならなくとも、しっかりこの国を微力ながら支えて行くことの出来る人間の一人とならばと思い返した。

  • 昭和20年代に興味を持っている。このころの情報がいろいろなところから機密解除で出てきているからで、「昭和の黒い霧」が晴れると言ったところか。
    この本も、一昔前なら考えられない。油っこくておなかいっぱい。

    G-2のウィロビーとすっかり知り合いのような気分になったわけだが、この時代には山村工作隊とかあるし、右も左も謀略だらけ。それが歴史の闇から出てきた。この本もそうだけど、ときどき名前が伏せてあるのは、まだ関係者が生きているからだろうというのも生々しくてよい。

    この著者がアメリカの公文書の機密解除から得た情報で書いた本と言うと、「原発・正力・CIA」という、題名だけで鼻血の出そうな本がある。今の時代にぴったりだけど。まあ、いつかは読むだろうな。
    私は原発に賛成でも反対でもないけど、これを読んでから考えたいと思う。やはり、情報公開は大切だ。

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著者プロフィール

有馬哲夫(ありまてつお)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学部・大学院社会科学研究科教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『歴史問題の正解』『原爆 私たちは何も知らなかった』『こうして歴史問題は捏造される』『日本人はなぜ自虐的になったのか』(全て新潮新書)、『NHK解体新書』(ワック新書)など。

「2021年 『一次資料で正す現代史のフェイク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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