電撃戦という幻 (上)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120033643

感想・レビュー・書評

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  • NDC:076
    海老名市立図書館所蔵

  • 著者カール=ハインツ フリーザーは明らかにアメリカのストラテジスト、ジョンボイドのOODAループの影響を受けて、この著書を書いていると思われる。
    劣勢勢力によるOODAループの意図せざる活用によるワンサイドゲーム、という展開に刮目。欺瞞、混乱、高速テンポによる撹乱により、相手の指揮命令系統に干渉して、ほぼ戦わずして、連合軍が混乱、消滅、壊滅していく有様がライブに描かれていた。後にプロパガンダとして過大に喧伝された電撃戦という概念も、この西方戦役においては、ほぼ偶然の産物。ポーランド侵攻後、イギリス、フランスに宣戦布告されて仕方なく、計画を練ったが、第一次大戦で塹壕戦で停滞の憂きにあったシュリーフェンプランの焼き回しで四苦八苦している参謀部を尻目に、機甲戦が突破口になるというマンシュタイン(計画後に左遷)とグーテリアン(機甲戦の実際の指揮者)の作戦レベルのコラボ案件が採用され、当初乗り気でなかった参謀部がやっているうちに本気になった、偶然の産物であったということがよくわかった。電撃戦という概念は時代の節目に偶然に生まれたものだった。
    下巻はヒットラー含む司令部までが電撃戦の威力に恐れをなして混乱に陥っていく(無駄な侵攻停止を乱発し、後のダンケルクの奇跡を生み出し、イギリス反攻のきっかけを生み出してしまう)有様が展開されるのだろう。近代のハンニバルのカンナエの戦いの再現、意志貫徹ができなかったことにより、作戦面では成功を収め、当時史上最強と謳われたフランス軍を崩壊させるも、イギリス軍を中心とした連合軍を取り逃がし、反攻の目を詰むことができなかった、戦略上の失敗の結果。歴史の節目、異なる概念の衝突が、ドラマチックに描かれる。秀作。

  • 戦史研究を専門にするドイツ軍人が書いた、「電撃戦」の記録
    もっとも成功した「電撃戦」であるフランスの戦いを分析し、その泥縄・棚ボタっぷりを明らかにすることで、「電撃戦」のイメージが幻であると解き明かす。
    著者のリサーチに裏打ちされた興味深い主張と、エンタメに近い活劇の描写の質・バランスが絶妙です。

    現代の戦争は「ドクトリン」に規定されている。
    ある一定のコンセプトに、兵器はもちろん、個々の兵隊の役割から、軍全体の戦略までを隷属させる。これがドクトリン。
    定説では、ナチスドイツも、「電撃戦」ドクトリンというものに即して、システマチックに軍隊を整備したとされる。
    それは「戦術空軍に支援された機械化軍団で一気に敵軍を打ちのめせるよう軍隊を整備し、この戦術面での解決で戦争そのものを勝利に導く」
    というようなものだ。
    ところが、著者は「電撃戦」ドクトリンという物は、ドイツのフランス侵攻成功後に後付で作られた伝説にすぎないと著者は説明する。
    敵失や即興、それに担当者の独断が功を奏して成功裏に終わったフランスの戦いを「前からの計算通りだ」と宣伝したかったナチスドイツと、「すごい戦法にやられた」と説明づけたかった連合軍が、戦線のこっち側と向こう側から、声を揃えて「電撃戦、すごい」と叫んだ。
    こうして、ナチス・ドイツは偶然の産物ではなく「綿密に用意された電撃戦ドクトリン」で成果を手にしたことになった。

    ドラマや小説よりも現実の組織は混乱していて、あるべき姿を共有することは難しい。
    そこへ歩調をそろえて進むのも難しい。
    プロセスがうまくいっていなくても、仕組みが整っていなくても、驚異的な成功を収めることもある。


    著者は散逸しかけたドイツ軍の戦闘報告を収集し、銃弾飛び交う最前線から、ヒトラーと大将達のトップレベルの戦争指導まで範囲を拡大・縮小しながら、ドイツ軍の進撃を描いている。
    スケールの振れ幅が大きいが、図表などが整備されているうえ、用語も専門書っぽくなく、数字や専門用語をつかうのを極力避けたくだけた内容になっている。

    …そして、著者はドイツ軍人ですが、あと一歩のところでドイツは勝利を逃した!戦車隊が脱出港のダンケルクで停止命令を受け取らなければ大勝利だったのに!と地団駄を踏んでいるテンションの高さを感じる。
    これらがまとまって読ませる。
    とりあえず落ち着け著者。これは、ナチスドイツの邪悪な侵略の話なんだ。
    ドイツ人もあの戦いであともうちょっと、もうちょっと上手くやれば…戦争には勝てたかどうかはともかく…あの戦いは惜しかったなー…とか妄想してしまうのだろうか。

    図書館で借りました。

  • ナチス・ドイツの連勝の代名詞ともなった「電激戦」。それは、ヒトラーの天才に帰されることも多い。しかし、それはナチスのプロパガンダが作り出したもので、実際にはそんなものは存在しなかったというのがこの本の一番の主旨。

    ヒットラーは作戦を戦術レベルでしか捉えていなかったが、参謀は戦略レベルで捉えていた。

  • レン・デイトン「電撃戦」とほぼ同内容だが、フランス侵攻作戦に焦点を絞った作品。本書を読むといかに対フランス戦がドイツ側にとって際どい勝利だったかがよく分かります。


    そしてこの勝利がドイツの戦争政策に多大な(悪)影響を与えたであろうことも推察されます。

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