競争と公平感: 市場経済の本当のメリット (中公新書 2045)
- 中央公論新社 (2010年3月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121020451
作品紹介・あらすじ
日本は資本主義の国のなかで、なぜか例外的に市場競争に対する拒否反応が強い。私たちは市場競争のメリットをはたして十分に理解しているだろうか。また、競争にはどうしても結果がつきまとうが、そもそも私たちはどういう時に公平だと感じるのだろうか。本書は、男女の格差、不況、貧困、高齢化、派遣社員の待遇など、身近な事例から、市場経済の本質の理解を促し、より豊かで公平な社会をつくるためのヒントをさぐる。
感想・レビュー・書評
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大竹文雄(1961年~)氏は、京大経済学部卒、阪大大学院経済学研究科博士課程退学、阪大社会経済研究所助教授・教授・所長、阪大副学長、日本経済学会会長等を経て、阪大大学院経済学研究科教授。専門は、労働経済学、行動経済学。日本学士院賞等を受賞。
私は新書を含むノンフィクションを好んで読み、興味のある新刊はその時点で入手するようにしているが、今般、過去に評判になった新書で未読のものを、新・古書店でまとめて入手して読んでおり、本書はその中の一冊である。(本書は2011年の新書大賞第4位)
章立て及び内容は以下である。
Ⅰ.競争嫌いの日本人 ●なぜ日本人は競争が嫌いなのか? ●競争の好き嫌いは何で決まるのか? ●競争のメリットは何だろうか?
Ⅱ.公平だと感じるのはどんな時ですか? ●競争は格差を生む。その格差の感じ方に差が出るのはなぜか? ●価値観や選好は、経済のパフォーマンスにどう影響するか?
Ⅲ.働きやすさを考える ●競争と公平感は、私たちの働く環境にどのような影響を与えているか? ●働きやすい環境を作るポイントは何か?
著者の基本的なスタンスは、「市場による自由競争によって効率性を高め、貧困問題はセーフティネットによる所得再分配で解決することが望ましい」という、(2010年当時の)多くの経済学者と同じであり、本書は、リーマンショック後に日本社会に広がった「行き過ぎた規制緩和と自由競争への反発」に対して、市場競争のメリットを改めて強調し(もちろん、市場競争にもデメリットがあり、それを小さくする規制や再分配策の必要性は認めているが、具体的な言及はあまりない)、市場競争重視の価値観を再醸成することを主な狙いに書かれたように見える。
一方、私の昨今の主たる関心事は、行き過ぎた資本主義(=新自由主義)を元凶とする世界的な諸問題(経済格差の拡大に留まらず、環境問題や気候問題等も含む)に対して、我々は今後どのように対処していくべきなのかという点にあり、本書についても、「競争と公平感」という題名から、そうした問題意識に対する何らかの示唆が得られると思って読み進めたのだが、残念ながら期待は外れた。尤も、ピケティの『21世紀の資本』(2013年)、水野和夫の『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014年)、斎藤幸平の『人新世の「資本論」』(2020年)等がベストセラーになり、資本主義の問題や限界に対する様々な議論が高まったのは、本書出版の後と思われる(2010年当時の状況はあまり記憶には無いが)ので、本書に多くを求めるのは酷なのかも知れない。
また、本書には、「競争」と「公平感」に関わる、生物学・脳科学的な(行動経済学につながるような)研究結果の紹介も多数あるのだが、今となっては目新しい内容は殆ど見られない。
経済書はその性格上、賞味期限があるものが多いが、本書も多分に漏れず、残念ながら今読むには物足りなさを感じざるを得ない。
(2022年10月了)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本人がなぜ資本主義なのに市場競争に拒否反応が強いのか。
たしかに市場経済の授業ってまともに受けたことなかったなあと。
慣れのない中で「負ける苦痛」もそうですが「勝ち続ける苦痛」も耐え続けるのがしんどいんやろなあと思います。
本書を読むと「生産性の低い人」は辛いことになるんやろなあと思います。
例えば残業規制が緩かった時は長時間労働で帳尻合わせてたのが時間内で結果を出さざるを得ないようになると仕事が追いつかなくなるんですよね。
仕事の持ち帰り規制があって長時間労働規制があって有給取得義務化につながるとますます「生産性」が仕事できる人になれるか否かに直結するようになるんやろなあと思います。
大竹先生の本もかなり読み進めることができました。 -
(2015.06.24読了)(2013.07.16購入)
副題「-市場経済の本当のメリット-」
経済に関するエッセイという感じです。かつて、竹内宏さんや飯田経夫さんの著作を楽しく読ませてもらいました。
この本は、視点やテーマは面白いのですが、説得性に乏しいという印象でした。
【目次】
プロローグ 人生と競争
Ⅰ 競争嫌いの日本人
1 市場経済にも国の役割にも期待しない?
2 勤勉さよりも運やコネ?
3 男と女、競争好きはどちら?
4 男の非正規
5 政策の効果を知る方法
6 市場経済のメリットは何か?
Ⅱ 公平だと感じるのはどんな時ですか?
1 「小さく産んで大きく育てる」は間違い?
2 脳の仕組みと経済格差
3 二〇分食べるのを我慢できたらもう一個
4 夏休みの宿題はもうすませた?
5 天国や地獄を信じる人が多いほど経済は成長する?
6 格差を気にする国民と気にしない国民
7 何をもって「貧困」とするか?
8 「モノよりお金」が不況の原因
9 有権者が高齢化すると困ること
Ⅲ 働きやすさを考える
1 正社員と非正規社員
2 増えた祝日の功罪
3 長時間労働の何が問題か?
4 最低賃金引き上げは所得格差を縮小するか?
5 外国人労働者受け入れは日本人労働者の賃金を引き上げるか?
6 目立つ税金と目立たない税金
エピローグ 経済学って役に立つの?
競争とルール あとがきにかえて
参考文献
●たばこ(114頁)
「たばこを吸う人の多くは、ギャンブルもやるし酒もやる」
たばこを吸う人は吸わない人よりも不幸であり、その不幸の程度は、年収が約200万円減ったのと同じだという。スモーカーやギャンブラーは、住宅ローン以外の負債を抱えている比率も高いそうだ。
●所得・資産格差(127頁)
小泉首相は「格差が出ることが悪いとは思わない」、「成功者をねたんだり、能力あるものの足を引っ張ったりする風潮を慎まないと社会は発展しない」とも発言している。
失敗しても再挑戦可能な社会を目指すべきだと訴えている。
●所得格差(129頁)
1990年代の終りから2000年代の初頭にかけては、若年層での所得格差が拡大している。この若年層の格差拡大は、超就職氷河期で急増したフリーターと失業者が原因である。
所得税の累進度の低下も可処分所得の格差を拡大させ、消費格差を拡大する要因になる。
●才能と学歴(133頁)
アメリカでは「学歴が所得を決定する」と考えている人の割合は77%であるのに対し、日本では43%にすぎない。また、アメリカでは「才能が所得を決定する」と考えている人が60%であるのに対し、日本では29%である。アメリカ人が重要だと考えているのは努力、学歴、才能の順番であるのに対し、日本人は努力、運、学歴の順番である。
●不況の原因(147頁)
需要の減少が不況の原因だと考えるほうが自然である。
●経済停滞(176頁)
90年代の日本の経済停滞の要因は、生産性の上昇率が低下したことに加えて労働時間が短縮されたことであった
●長時間労働(179頁)
長時間労働の規制が必要なのは、他に職場がないために仕方なく低賃金で長時間労働をせざるを得ないという場合、長時間労働の職場であるということを知らずに就職し、転職市場が十分ないために長時間労働をせざるを得ない場合である。
●税抜き価格(211頁)
消費者はたとえ売上税を正しく知っていたとしても、店頭の価格表示でそれが示されていないと、消費行動は店頭価格だけに依存してしまうことを意味している。つまり、売上税が店頭表示されないと、消費者はそれに影響されないで消費量をきめてしまうので、売上税を実質的に負担してしまうことになる。
☆関連図書(既読)
「アダム・スミス」高島善哉著、岩波新書、1968.03.20
「アダム・スミスの誤算 幻想のグローバル資本主義(上)」佐伯啓思著、PHP新書、1999.06.04
「ケインズ」伊東光晴著、岩波新書、1962.04.20
「ケインズ」西部邁著、岩波書店、1983.04.14
「超訳『資本論』」的場昭弘著、祥伝社新書、2008.05.01
「超訳『資本論』第2巻」的場昭弘著、祥伝社新書、2009年4月5日
「超訳『資本論』第3巻」的場昭弘著、祥伝社新書、2009.04.05
「高校生からわかる「資本論」」池上彰著、ホーム社、2009.06.30
「マルクス・エンゲルス小伝」大内兵衛著、岩波新書、1964.12.21
「賃労働と資本」マルクス著・長谷部文雄訳、岩波文庫、1949..
(2015年8月20日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
日本は資本主義の国のなかで、なぜか例外的に市場競争に対する拒否反応が強い。私たちは市場競争のメリットをはたして十分に理解しているだろうか。また、競争にはどうしても結果がつきまとうが、そもそも私たちはどういう時に公平だと感じるのだろうか。本書は、男女の格差、不況、貧困、高齢化、派遣社員の待遇など、身近な事例から、市場経済の本質の理解を促し、より豊かで公平な社会をつくるためのヒントをさぐる。 -
市場競争は豊かさを生むが、「競争」であるが故に各人の間に格差を生じさせる。
また、政府による徴税や公的扶助など、社会的システムにより再配分が行われる。
このような基本的働きの中、例えば、「公平」に重きを置けば、「競争」自体を制限することにもなりうる。日本人の競争嫌い、グレーなままに安心してしまう文化に問題提起をしている。
本書では、格差と再配分について、適切なバランスをとるよう議論を深め、社会全体としては豊かさの創出を続けていくことを唱えている。
このような資本主義のあり様は、至極当たり前のことではあるが、本書では、非正規雇用、長時間労働、夏休みの宿題への取組み方などなど、色々な側面から具体的事例を紹介しながら説明されている。
事例の紹介は多いものの、それぞれを深く掘り下げるような内容が薄く、もう一つ気持ちが乗っていかない感じであった。
私としては、「住民が公平感を感じる」=「政府への理解、納得性が向上する」という視点で知識を深めたかったので、少し残念。 -
理念と現実のズレについてあまり述べてくれなかった印象。
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経済学者が経済現象を一般向けに紹介した新書。タイトルが競争と公平感とあったので、もう少し行動経済的なミクロな内容かと思ったが、ミクロなものも含みつつ、マクロな話もかなり扱ったものだった。新自由主義的な潮流に対して、研究的な知見をあてがって補強していくような内容。タイトルの内容は一部なので、知りたい情報が知れずちょっと残念だった。新自由主義の根拠となる経済現象や研究的知見はわかったものの、それに当てはまる現象を前提の吟味なく載せているような印象を持ち、読んでの納得感はあまりなかった。
——以下、Twitter(リンクは3/16以降)
読了本。大竹文雄「競争と公平感 市場経済の本当のメリット」 https://amzn.to/4bMbUqp 心理学的に経済を眺める行動経済的な知見を交えつつ、新自由主義的な経済・金融の考え方を一般向けに解説した新書。行動経済な内容をもう少し期待したものの、思ったほど多くはなかった #hrp #book #2024b -
資本主義国のなかで、例外的に市場競争に対して拒否感の強い日本。男女の格差、不況、貧困、高齢化、派遣社員の待遇など、身近な事例から、市場経済の本質の理解を促し、より豊かで公平な社会をつくるためのヒントをさぐる。【「TRC MARC」の商品解説】
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題名でひかれて読んだだけとなった。ありきたりの事の文章で全然響かない。所詮そんなことなのかも。
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中央公論新社 新書大賞2011 4位
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近著の行動経済学につながっていく。どの章でも具体的なデータを基に様々な知見が得られ、内容が濃い。社会学的ともアプローチが近いので、経済学と社会学の橋渡し的な学びも得られるのでは。