冷戦の起源II (中公クラシックス J 54)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121601421

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  • 永井陽之助『冷戦の起源 戦後アジアの国際環境(Ⅰ・Ⅱ)』(中公クラシックス、2013年11月)税別1,700円・1,600円

    東京工業大学、青山学院大学名誉教授(政治学)の永井陽之助(1924-2008)によるアメリカ政策決定思想を軸にした冷戦起源論。中公クラシックスによる名著復刊である。初出は叢書国際環境『冷戦の起源 戦後アジアの国際環境』(中央公論社、1978年)である。

    【構成】
    感染する思考-『冷戦の起源』の危なさについて(中山俊宏)
    第1章 序説 冷戦思想の疫学的起源
     1 冷戦の意味
     2 疫学的地政学
     3 「隔離」と「封じこめ」
    第2章 冷戦論争のアメリカ的性格
     1 歴史認識の政治学
     2 ウィスコンシン学派の風土的基礎
    第3章 リヴァイアサンの火
     1 共通の課題-海洋戦略
     2 戦後構想と原爆開発
     3 悲劇の根源-ポーランド問題
    第4章 ヤルタ体制のアジア的構造
     1 《実践規範》としての国際体系
     2 重慶・延安・ワシントン
     3 "ヤルタ的取引き"の構造
    第5章 原爆投下の決定
     1 問題の所在
     2 官僚機構内部の対立
     3 原爆と極東外交
     4 内政の拘束と機構の惰性
    第6章 「封じこめ線」の逆説
     1 「分界線」と「封じこめ線」の間
     2 原爆外交の虚と実
     3 「封じこめ」の密教戦略
    第7章 「封じこめ線」の拡大とその軍事化
     1 「封じこめ線」の内と外
     2 アチソン戦略と米ソ中関係
     3 水爆開発の危機神学
    第8章 朝鮮戦争-冷戦の真珠湾
     1 "一線を引く"好機
     2 冷戦の真珠湾
     3 三八度線突破の意味するもの

    初期冷戦の起源を辿る研究は数多いが、日本人が手がけたものの中でも永井のそれは今なお色褪せず光彩を放っている。

    本書はまったく歴史学の要素はなく、どこまで言っても政治学である。というのも細かい事実関係の精査に著者は全く関心を払っておらず、あくまで政策決定者の思考とその総体としてのアメリカ政府の政策決定の本質を抉ろうとする。

    本書の最も特徴的な点は、解説の中山氏も指摘しているように、その巧みなワーディングである。永井の作語センスの高さは夙に知られているところである。本書で言えば、「疫学的」性格を持つアメリカ冷戦政策の「顕教」「密教」の分類からはじまる序章がその最たるものであろう。

    ヨーロッパ第1主義を貫く海洋国家=リヴァイアサン=アメリカは、大陸国家=ベヒモス=ソ連とのアジアでの対決を当初想定していなかった。それは、フランクリン・ローズヴェルト(FDR)の国府中国への根本的な理解不足に端を発するものであり、同時に共産中国に対する過小評価に起因していた。

    永井のFDRに対する評価は辛く、どちらかと言えばスターリン、チャーチルに共感しているように見える。
    まぁ、それはいい。

    永井が批判的に紐解くのはアメリカの楽観主義である。

    力の真空地帯から力の角逐する場となった東アジアにおいて、明らかにアメリカは戦略を欠いていた。
    打ち手を失い、隔離・防疫を目的とした初期の「封じこめ」は軍事化した。
    終戦前後のソ連への宥和、原爆に対する初期の過信、中国の喪失(しかも失陥間際になっての認識)そして、朝鮮半島における38度線突破。それは失策の連続であった。

    事実の解釈・実証云々ではなく、唸らされる名文によって初期冷戦の本質がシニカルに語られることこそが、本書の最大の魅力である。冷戦がなぜ面白いのか、本書を読めば明らかになる。

  • 毛沢東および中国共産党は1946年以降、深まる東西冷戦の中で、内戦を勝利に導くにはグローバルな冷戦状況と局地熱戦との関係について、独自の国際情勢観と革命戦略を理論化する必要に迫られた。その実践的戦略目標ははっきりしている。中国内戦(局地熱戦)の激化が必ずしも、グローバルな東西冷戦を熱戦(原爆戦争)へ転嫁することを意味しないことに逆に各国内部の局地闘争の激化こそが東西の緊張緩和(妥協)へと導くものであり、米ソ大国間の原爆戦争の脅威によって局地紛争を抑圧することは誤りであるtこを党内外に説得する為の理論化であった。

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