廃墟大全 (中公文庫 た 67-1)

著者 :
制作 : 谷川 渥 
  • 中央公論新社
3.29
  • (3)
  • (8)
  • (15)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 72
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122041837

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ローマの遺跡やパリのサン・ジノサン墓地など実在の廃墟から、絵画やアニメに描かれた表象としての廃墟、あるいは廃墟が持つ「甘美なメランコリー」をコピーした〈新築の廃墟〉まで、16名の執筆者による論考でさまざまな角度から廃墟とは何かを問う評論集。


    編者の谷川渥が『廃墟の美学』でこの本の話をしていて、ずっと読みたかった一冊。谷川論文は前掲書で、また巻頭の巽論文は『恐竜のアメリカ』で既読だったが、他の執筆者も読み応え抜群で面白かった。
    特に小池寿子のフランスから岡田哲史のイタリア、谷川・森利夫のイングランド、今泉文子・岡林洋・種村季弘のドイツと、西欧の中世から近現代へスムーズに視点移動していく構成が見事。小池論文はカタコンブができる前のパリの共同墓地だったサン・ジノサンの成り立ちと凋落を語り、パリという都市の特殊さを浮かびあがらせている。
    考古学と古美術趣味と廃墟観光が同時に発生したということをピラネージ中心にまとめた岡田論文、ピクチャレスクな景観を求めて人工廃墟[シャム・ルーイン]がこぞって建築された18世紀英国式庭園の姿を追う森論文も非常に面白く読んだ。谷川・森・四方田の3名が廃墟ムーブメントとは「それを見て喚起されるエモーションが本物なら廃墟自体は偽物でもいい」という考え方に基づくものであると指摘していることをおぼえておきたい。
    ヨーロッパ勢と比べてしまうと、アジア勢は中野美代子と四方田犬彦がいるとはいえずいぶん手薄で味気ない。中国に触れたのが中野と四方田(半分)だけ、残りは近現代以降の日本オンリー。東京大空襲や阪神淡路大震災の〈復興〉にばかり急いで、傷痕を隠そうとする日本の体質に苦言を呈す飯島と日野はなぜ原爆ドームに言及しなかったんだろう。
    本書は廃墟"論"の本なので基本的には文章が主体となっているが、〈廃墟写真〉の歴史を図版で辿る飯沢論文は短いながらもローマの遺跡から戦火の焼け跡、廃車が積まれた処分場、そして〈人体という廃墟〉まで、本書で扱われているテーマをコンパクトに取りまとめている。
    各論がリンクしあい補完しあう構成と総論の丁寧さを見て編者の好感度が上がった。ここに取り上げられなかったアジアの国やアフリカ、南米の廃墟文化についても興味が湧いた。

  • 豪華執筆陣が「オレの好きな廃墟」について好き勝手に書いている本。
    ローマのコロッセオのような石造りのいわば遺跡(ruins)がメインなので、日本の俗悪建造物の廃墟(abandoned)も取り上げられてるかもと読んだので若干肩透かしでした。が、面白かったです。なーんだ、皆んな廃墟好きじゃん。お金持ちになったら庭に修道院の偽廃墟を作りたいなと思いました。

    欲をいえば廃墟との関係性、拒絶感とか断絶感とかその辺りを考察したものを読んでみたいです。それから、鬼怒川とかかつての熱海あたりの俗悪な建造物が廃墟と化したときの蠱惑的な感覚とかも言語化して欲しいなと思います。(自分としては破壊され蹂躙されているのを傍観する心地良さかなとモンヤリと考えてます。)

  • 一度読んだはずなのに、明確に書名が思い出せず、長いこと探していた本に先日古本屋でばったりと。廃墟…というと建築物がまっさきに浮かぶが、それにとどまらず、哲学、文学、映画、美術、さまざまな分野の文章が集められ、きらびやかな伽藍を構成する。/イエイツ「記憶術」、「記憶の宮殿」の再解釈、デュシャン「1水の落下 2燈用ガス/があたえられるとすれば」、ピラネージの古代ローマ建築の遺跡から「語りかける廃墟の精神」を汲み取り、紙上に再現しようと試み。18世紀英国で人工廃墟の建設に狂奔する人々。18世紀後半英国で歌われた「ゴシックの廃墟」…ホーム「キリスト教の要素」、グレイ「墓辺の哀歌」、マックファーソン「オシアン」。魅惑的な断片やキーワードの数々に魅了される。/”廃墟はしたがって、帰りこぬアルカディア、過ぎ去った黄金時代の記憶という倍音をふくむ。そう、「昔はよかった」のだ。さればこそ、廃墟は、古き好き時代への甘いノスタルジーをかきたてる。ということは、黄金時代に比べるなら一切が時とともに衰退し悪化する、という歴史観が廃墟の美学を支えている、ということにほかならない(p188-189)”

  • 2003-03-00

  •  一冊まるごと廃墟なんて体にもたらされる幸福で息ができなくなるかと…というか文庫あるんだ!!
     日本の都市は死を受容しようとしないから特例をのぞいて廃墟もあんまり認められないみたいなのが最も印象に残った。最近考えていた震災遺構の問題とかもこの辺りと絡むのかなあと。

  • たまに読み返す。廃墟とか好きなんだなあ。本物の廃墟が好きな人にはオススメしない。ま 小さい頃からオカルト好きだから色んな方向からの視点には興味持つ。が、青二才的なものも多くアラーキーに至っては…

  • 古書店A

  • 2009/11/24購入

  • 廢墟論文集。難易度はやや高め。
    あらゆる面から廢墟を考察しており、興味深かった。
    こう云う本のリンクを辿って讀書の幅を拡げてゆくのも樂しいかも知れません。
    実は表紙のフリードリヒに惹かれて購入 ^ ^

  • 廃墟を語る論文集。ちょっと内容が難しく感じました。映画、絵画、アニメ、文学いろんな方向から廃墟が語られていますが、それぞれ元になってる、文学作品を知らないと、…という感じです。でもそれぞれの考え方は興味深いです。

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

飯沢耕太郎(いいざわ こうたろう) 写真評論家
年生まれ 年筑波大学大学院芸術学研究科修了。
主な著書に『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書、年)『私
写真論』(筑摩書房、年)、『デジグラフィ』(中央公論新社、
年)『写真を愉しむ』(岩波新書、年)、『増補 戦後写真史ノート』
(岩波現代文庫、年)、『アフターマス――震災後の写真』([共著]、
出版、年)、『キーワードで読む現代日本写真』(フィルムアー
ト社、年)ほか

「2023年 『インタビュー 日本の現代写真を語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

飯沢耕太郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×