楠木正成〈上〉 (中公文庫 き 17-6)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122042179

感想・レビュー・書評

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  • 戦国時代や幕末に比べて、南北朝時代は複雑でわかりにくい。太平記という古典はあるものの、現代的な小説は少なくて取りつきにくい。と思っていたら、ありました。北方謙三の「楠木正成」。彼の「史記」があまりに面白かったこともあり、こちらも読んでみました。

    鎌倉幕府の世の中に不満はあっても、武士が幕府を倒すのではまた同じような世の中になる。そこで朝廷を中心とした新しい世の中を作ろうと夢見た、武士でも公家でもない、悪党の楠木正成。北方謙三の筆によって、キャラが立ち、ストーリーがスピーディーに活き活きと展開していきます。楠木正成、ハードボイルドです。

    南北朝時代が少しわかった気になりました。

  • 20190430
    焚火をさせ、そこに猪を放りこむ。まず、表面の毛を焼いてしまうのだ。それから腹を断ち割り、内臓を全部出す。洗った野菜は、なんでも内臓の代りに突っこむ。於保比留(ニンニク)など、多ければ多いほどいい。それから、竹の皮で包んだ米をいくつも入れる。切り裂いたところと、肛門を縫い合わせた。
    (p.169)

  • <上下巻を通してのレビュー>

    ときは鎌倉末期。幕府の命数すでに無く、乱世到来の兆しのなか、大志を胸にじっと身を伏せ力を蓄える男がひとり。
    その名は楠木正成。
    街道を抑え流通を掌握しつつ雌伏を続けた一介の悪党は、倒幕の機熟するにおよんで草莽のなかから立ち上がり、寡兵を率いて強大な六波羅軍に戦いを挑む。己が自由なる魂を守り抜くために!


    同時代の「悪党」をはじめ、様々な人々の角度から見た本もありますが、
    その中でも楠木正成の魅力に匹敵する人物はいないように思います。
    この時代に物流の大切さを逸早く理解していたのが、楠木正成でしょう。
    大塔宮との運命の出会い、赤坂城の戦いや千早城の戦いのあたりは、読んでいて心がスッキリします。
    欲をいえば、湊川の戦いに至る経緯や戦いの模様が割愛されていたのが残念です。

    「楠流軍学」を基にしたビジネス書などがありますが、あの戦い方は楠木正成にしか出来なかったと思います。

  • 従来自分が楠木正成に対して持っていたイメージは天皇家に最後まで忠義を尽くした忠臣という典型的なものだったが、朝廷との関わりが強いわけでもない楠木家の出でそこまで忠義を尽くした理由は腑に落ちず疑問も感じていた。それに対して、この作品で描かれている正成は、初めから忠臣であったのではなく、流通経済の発展の中で成長し始めた「悪党」(注:必ずしも悪事を働く輩ではない)の類であった楠木家の生きる道を、武士の力による支配を脱した後の天皇/朝廷の世に見出そうとした人物として描いている。その夢は空虚な理想に過ぎず、儚く散る運命が待っていたわけだが、一人の漢の生き様としてはこちらの方が現実味があり、悲哀と共に共感を覚えた。
    朝廷から鎌倉へ一旦は移った中央集権による統治が瓦解して、南北朝争乱~応仁の乱~戦国へ時代が流れて行った原動力は、武士にしろ商人や寺社にしろ地域に根差した勢力の台頭であったと認識しているが、この作品はその萌芽を体感させてくれる点でも面白かった。

  • 「武王の門」で歴史小説にデビューした北方謙三の南北朝もの最後の本です。
    著名な楠木正成を主人公にしているだけに、「武王の門」「破軍の星」の主人公のような若武者の鮮烈さはありません。しかしやはり北方さん、それでも立派な歴史ハードボイルドです。
    本当の正成はどんな人間だったのでしょうか?話には聞くものの、ほかに正成を描いた作品を呼んだことが無いので、私の中には固まった正成像はありませんでした。研ぎ澄まされた文体で男の生き様を描き出す、そこが北方さんの作品の魅力ですが、今回もちょっと格好良すぎる正成像が素直に私の中に入ってきました。

  • 各地の悪党を糾合してゆく楠木正成。北方時代劇の定番といえば定番だが、流通網を掌握することで利益を上げる広域的な陸運という新しい商売を開拓してゆく部分などは、やはり読んでいて楽しい。
    また、各地の悪党との語らいも、ネットワークの構築というだけでない独特の味がある。
    反面、時代が動いてゆくことの根拠というか時代背景のようなものがよく見えない。なぜ悪党がこのままでは生き残れないと思ったのか、なぜ天皇親政を目指す必要があるのか。民の暮らしぶりが苦しくなっているとか、そういったところを丁寧に書き込んでもらうと、もっと物語に入り込めると思う。
    芸能の世界との交流も興味深く、北方センセが芸能の社会的機能について突っ込んで考えているのがよくわかる。

  • ただの悪党が、幕府を倒し理想の国づくりを目指す。
    楠木正成は何に殉じたのだろう…。

  • なんだろう?決して悪くはないんだけど、いまいち北方の真骨頂が見られていない気がするのは。人物の造形かな?なんかこう、「夢中になって読み進める」ってところがない。

    まあ、下巻に期待。

  • 年号も用いず、主人公の心の動きから時代を描く手法にあっぱれ。北方南北朝、大好きです。

  • 権威と権力が乱立し、混乱期にある国にあり、「悪党」として、大きく戦う道をあえて選んだ武士。 自らの秋(とき)を待ち、拠って立つところから動き初める…。 のちの北方作品、三国志・水滸伝シリーズに通づる雰囲気も感じながら、まだ粗さが多く残る。 下巻で盛り上がりは来るのか。

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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