スカイ・クロラ (中公文庫 も 25-1)

著者 :
  • 中央公論新社
3.62
  • (550)
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  • (39)
本棚登録 : 7137
感想 : 707
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122044289

感想・レビュー・書評

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  • 恥ずかしながら、森博嗣先生の作品を拝見したのは今作がはじめてになります。代表作といえばミステリの傑作「すべてがFになる」ですが、このような作品も書かれることを知りました。

    本作「スカイ・クロラ」は、一見戦闘機と少年という若年世代向けに見えますが、実はそこかしこにテーマが散りばめられており、大人に響く寓話テイストの作品ではないでしょうか。というのも、キルドレと呼ばれる「大人にならない少年」を題材にしており、その世界観を存分に生かすことで、大人の知性と少年の矛盾する感情を描くことができているのではないかと思うのです。中でも「僕たち子供の気持ちは、大人には決してわからない。どうしてかっていうと、僕らは理解されることが嫌なんだ」という独白がありまして、これは自身の青春時代と重なるような気がします(当時は言葉にできませんでしたが笑)。このように、不思議な世界観でありながら、どこかメッセージ性が高くなっている印象を持ちました。

    そして、それに花を添えるのは、森先生の高い文章力でしょう。「完成された作家」とあるように、詩のような美しい文章が続きます。表紙の「僕がまだ子供で〜」と続く文を見ただけで購入された方もいらっしゃったかもしれません。

    また、解説の鶴田健司先生が仰っているように、説明がなくスムーズに話が展開されるのも評価されるべき点だと思います。このような説明しない手法は流れが軽やかですが、ときに説明不足を招く可能性もあります。そのような点を一切感じさせないのは、先生の高い実力あってこそだと思います。

    重めのテーマながら、どこか透明感の感じられる「スカイ・クロラ」は、現実から逃避させ、最後に一欠片の教訓のようなものを残してくれます。今困っている人こそ是非、昨今の先行き見通せぬ情勢から逃げ出し、森先生の世界に飛び込んでみましょう。

  • 3.6

  • 虚構のようなフィクションでありながら、
    現実のノンフィクションなんじゃないか、
    とも思えてしまいます。区別がつかない。

    背景もわからず無為に日常を送る。
    意味なんか考えずに皆、無感情に。
    これってすごい怖いことなんじゃ…

    人は生まれて死んでいくという大筋は変えられないとしても、その間をできるだけ有意義にしたいとあがく。そう願う。そうしたいと思う。
    そんな気も起こさず、願うこともせず、決められた相手に、淡々と決められた行動をするしかない、永遠に生き続ける子供、空を這うもの。

    ———キルドレ

    操縦し、索敵し、照準し、追跡し、回避し、撃墜し、被弾し、墜落し、帰還し、飛翔し、飛散し、繰返し、忘却し、終始し、起伏し、唯心し、喪神し、霞みし、迷いし、憂いし、儚い死、短い詩。

  • 森博嗣さんの死生観が見られるのだと感じました。
    あくまでも私の感じたことです。
    まだまだ謎だらけです。

  • 読んだという記憶はあったけれど、驚くほど何もおぼえていなかった。読んだ事実が欲しいそういう読み方をしてしまっていたのかもしれない。あるいは自分の中の何かが以前と変わったのかもしれない。ただ今回はとても記憶に残る良い小説だったなと感じた。けれども、もしかしたらこの感想だけが後の記憶に残るのかもしれない。

  • 自分を高いところから見下ろしているような,そんな俯瞰的な視点で思考をする主人公。静かな物語と強い言葉。

  • クールを通り越して空虚な少年少女がすがすがしく格好良かった。途切れ途切れで改行で空白の多い文章も良い。こういうのが鼻につく人もいるのも分かるけど、この軽さは無理やり引き伸ばしたからではないと思う。

  • 映画を見てから前情報なしで読んだので結末が違うことにびっくり。考察サイト等を読むと作品に込めた思いが原作・映画で違うのではないかというものがあり納得。
    説明過多の時代にぼんやりとした設定を用意しつつ深い入りしない点が非常に新鮮であった。
    映画は基本的に原作に忠実であるが何点か相違点がありそういったところを追いながら読むのもまた楽しかった。
    森博嗣の文体やキャラクタは気取った感じがしてそれほど好きじゃないところもあるが、かっこいいなって思わされてしまう妙がある。

  • この透明感溢れる世界観はなんだろう?
    「戦闘機乗り」の特殊な感覚や感情は判らないけれど、「空」を飛びたいという気持ちは素直に共感できる。「地上」に戻りたくないという気持ちも。
    だから、彼(彼女)らは永遠の子供なのだ・・・と思う。

  • 灰色。
    ここにある世界は全体が灰色に包まれていて、
    過去も未来も遠くに霞んでいる。
    特別な子どもたち。彼らはその運命を知りながら、闘い続ける。
    映画も見たけれど、淡々とした言葉の中に、微かに心が揺らぐ場面ーそれはそっと風が髪を揺らす程度の場面ーが印象に残っている。
    幼さと大人びた感情という相反する感情の表現がとても上手く描かれた作品。

  • シリーズを読み終えました。正直、淡々としているし、理解が追いつけない部分が多々あったように思う・・・。でも全てを一読で理解する必要もないようにも思われた。文章中にも理解されたいと思わないってあったし・・・(笑)
    ただ、わけの分かんない感じのなかにもキルドレたちの透き通ったような感情や感性が伝わってきて、圧倒されたような気がした。
    アニメもあるようだし時間をかけて、スカイ・クロラシリーズを味わいたいと思う。

  • シリーズものとは知らずに最初に読んだ。広告解説には、「哀れみ」なんて書いてあったけど、それには違和感。人間の孤独は際立ってるけど、孤独感で寂しくなったりはけっしてしない。むしろ孤独こそが住みか。俗世との遊離感や、遊離への願望は感じるけど、パイロットはみんな少なくとも「哀れみ」みたいなものを互いに感じたりしない。いろんな生死があってもそれは摂理。湿った感情はどこにもない。どこまでもスカッと澄み渡っている。それが基本になってる。それがサイコーだ。クサナギはその基本を持っている。どこかで何かを見失ったらしい。真相は明かされるんだろうか、知りたいな。

  • ずっと気になっていた小説を、薦められたのをきっかけに一気に読了。
    ひさしぶりに、すごく好きな話に出会えた。

    何かほかの人とは違う過去を持っているのを匂わせる主人公、戦闘機のエースパイロット。
    淡々と語られる彼の静かな心情。
    この世界に私が感じた謎には答えが与えられぬまま廻ってゆくストーリー。
    読むだけで脳裏に映像が浮かぶような巧みな文章に引き込まれ、短時間で読み終えてしまった。

    謎の答えを知るためにも、明日には続編を買ってこようと思った。

  • なんだろう。
    時代、状況などの外部設定は全く語られていない。

    ただ、飛ぶこと。
    それが仕事であるということ。
    それだけが与えられ、淡々とストーリーが進んでゆく。

    「仕事も、女も、友人も生活も、飛行機もエンジンも、生きている間にする行為は何もかもすべて、退屈凌ぎなのだ。
    死ぬまで、なんとか、凌ぐしかない。
    どうしても、それができない者は、諦めて死ぬしかないのだ。
    それは、大人も、子供も、きっと同じ。
    同じだろう、と思う。
    もちろん、想像だけれど…。」


    人間は、二種類に分けられる、と私は勝手に思っている。
    それは、生きる理由を問うてしまう人間、と問わずに済んでいる人間、だ。おそらく、一般に「普通」と呼ばれている人間は後者であると思う。しかし、中には意味を問うてしまう人間がいる。

    そのような人間が一度はたどり着く答え、それがこの引用文にあるような、「退屈凌ぎ」なのだと思う。

    「僕たちは、確かに、退屈凌ぎで戦っている。
    でも…、
    それが、生きる、ということではないかと思う。
    そう、感じるだけだ。
    違うだろうか?
    生き甲斐を見つけろ、と昔のマニュアルには書いてある。
    見つけられなかったら、退屈になるからだ。
    つまり、退屈を凌ぐために、生き甲斐を見つける。
    結局、昔から何も変わってはいない。
    遊びでも仕事でも勉強でも、同じだと思う。
    淡々と生きている僕たちには、それがよくわかる。
    僕はまだ子供で、
    時々、右手が人を殺す。
    その代わり、
    誰かの右手が僕を殺してくれるだろう。
    それまでの間、
    何とか退屈しないように、
    僕は生き続けるんだ。
    子供のまま。」

    僕を通して、シンプルに、スマートに語られるこの言葉たちは、すっと、心に沁みる。そうだ、生き続けるんだ。子供のまま。


    「周りのみんなは、理由をたくさん用意する。この世は、うんざりするほど理由でいっぱいだ。ゴミのように理由で溢れている。人はみんな理由で濁った水を飲むから、だんだん気持ちまで理由で不透明になる。躰の中に、どんどん理由が沈澱する」

    「そして、また…、
    戦おう。
    人間のように。
    永遠に、戦おう。
    殺し合おう。
    いつまでも。
    理由もなく、
    愛情もなく、
    孤独もなく。
    何のためでもなく、
    何も望まずに…」


    これが、森さんの提示する答えなんだろう。

    生きるために生きる。
    その、一見倒錯した論理。

    生きることに、そもそも理由なんてないのだ、という論理。

    これらは、もはや使い古された、手垢の付いた論理、とも言える。しかし、まだ、内包する真理を失ってはいない。

    森さんの淡々とした語り口で新たな血肉を与えられた思想。素朴で良質な文章。とても美味しくいただきました。

  • 『ずっとこのままだ。けれど、少なくとも、昨日と今日は違う。今日と明日も、きっと違うだろう。いつも通る道でも、違うところを踏んで歩くことが出来る。いつも通る道だからって、景色は同じではない。それだけでは、いけないのか。』

    ほんの僅かな過去と、永遠とも言える未来。遺伝子制御によって生み出された、歳をとらず、大人にならない子供たち“キルドレ”の話。一見ありふれたテーマではあるが、パイロットという設定が一次元違ったベクトルを合成している。そして思わず息を呑むような綺麗な空の描写。飛んでいること自体間違っている。レビューを書いていること自体間違っている。

  • 森博嗣の作品は完成されている。最後で一気に畳み掛ける。世界観が凄い。ミステリもいいがこのスカイ・クロラシリーズも面白い。

  • 15年くらいぶりに再読

    一貫してカンナミの視点からストーリーが語られるが、カンナミに感情の起伏がなく、生きることに価値を見出してないのにつられて、とても淡々とした気持ちでどんどん読み進められる

    世界の設定がほとんど語られないのに、世界観にとっぷりと浸かれる不思議な感覚が気持ちいい

  • 独特な世界観だなあ。少年戦闘機パイロットの話だけど、血生臭さはなくて、むしろ常に乾いた感じが作品を覆っている。
    余計な描写がなくて、どこか現実味の無い寓話のような詩のような哲学的な世界観。
    永遠の子どもという設定で、手塚治の火の鳥にも永遠に死ねない体の話があった気がするけど、それに似たゾッとする感覚があった。
    急展開にちょっとビックリだったけれど、安易なラブコメに陥らないところが、この作品の醍醐味かな。
    コーヒーを飲んでミートパイを食べなから読みたい一冊。

  • 素直に面白かった。 
    時系列的にはこの後に出版されているものが先になるようですが、シリーズすべて読み終えてからまたこの本を読んだら、より深く入り込めるんだろうと思う。

    このままの気持ちで次の作品を読みたい

  • 見ようと思ってスイッチを入れたのかスイッチを入れたらたまたま放映していたのか覚えていないが、テレビで見た映画版に心を惹かれたので、いつか原作も読んでみようと思ってから早くも10年以上が過ぎて、覚えているのは、綺麗な映像だったことと、なんだか救いのない話だったという曖昧な印象だけになってしまったが、ふと思い立って手に取ってみたら、映画版は、記憶にある限りでは、原作の雰囲気をよく再現していたことが分かって感心した。それにしても、結末が違うような気がするものの、やっぱり救いのない話だった。

著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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