ぼくもいくさに征くのだけれど: 竹内浩三の詩と死 (中公文庫 い 103-1)
- 中央公論新社 (2007年7月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122048867
作品紹介・あらすじ
僕だって、戦争へ行けば忠義をつくすだろう。僕の心臓は強くないし、神経も細い方だから-映画監督を夢見つつ二十三歳で戦死した竹内浩三が残した詩は、戦後に蘇り、人々の胸を打つ。二十五歳の著者が、戦場で死ぬことの意味を見つめ、みずみずしく描いた記録。第36回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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グ…グムー…!!表紙で損しているような気もするし、本書らしいといえばらしいし、何とも言えんぜ…!
私にとって、新しい視点を開いてくれたという意味では実にノンフィクションらしくノンフィクションらしい一作。
まず、私は全く不勉強ながら竹内浩三という彼の事は知らなかった。学生時代に授業でやったのかもわからないけど、ともかく覚えていなかった。その前提で冒頭・浩三の少年時代の写真や教科書のらくがき、そして出征直前の写真を見た上での〈〈序〉伊勢にて〉で紹介される『五月のように』と『骨のうたう』の詩でいっぺんに関心を呼び起こさせられた。
少なくとも彼は「反戦派詩人」などという狭隘な枠組みに収むられるべきではない人物であると感じた。言ってしまえばただの若者であり夢見る青年であり、天賦の詩才を持った一兵卒であるというマルチな創作者だったのだと思う。
遅読かつ行動力に乏しい私だけれども、藤原書店『定本 竹内浩三全集 戦死やあはれ』(9784894348684)は是非とも入手して彼の言葉・姿にもっと触れてみたいと思った。
さて、本書については2004年当時(文庫は2007年)、未だ世に知られざる竹内浩三その人を周知せしめたという大きな意義を持った決定的な一冊だと思うが〈第二章 伝えられてゆく詩〉において竹内浩三を後世に伝えるべく奔走した人達や、作品集の出版に関わった多数の人物が登場・紹介をなされる訳だが、このあたりの情報がやや過多な気がしてならない。竹内浩三に魅せられた人達が次々に現れ、場合によりその方達の足跡や成果が述べられるのだけども、相関図や時系列がちょっと難しい…というよりも『戦死やあはれ』と『戦死ヤアワレ』が別々の書籍・出典を指しているあたりなど、仕方がないのだが読み進めるのに中々苦労してしまった。
そして、著者である稲泉連先生ご自身はどういった経緯で『竹内浩三全作品集―日本が見えない』(9784894342613)を手に取られたのか。23歳当時にたまたま偶然作品に触れたというのは図書館だったのか書店でか、誰かから聞いたのか直感だったのか、その’竹内浩三最期の地・フィリピンまでわざわざ赴き、現地の空気感まで感じ取りたいと願うに至る程までに後押ししたもの’が割と曖昧なままするする進行していったのが個人的には物足りなさというか、疑問符が付いたまま読み終わってしまった。ご自身も’それが何故か’を知りたくて、不明瞭な渇望により取材を続けられたという事だろうか。
戦争を知らない世代の我々が、ウクライナ・ロシアの有事を目の当たりにした時、そして極東情勢の不安定さの露骨な表面化に抱いた色々な思いを含んでいるような、近くて親しみが湧く彼のことばの数々はもっと広く知られた方が良いと思います。
ともあれ、新しい知を得た読書でした。
3刷
2023.4.6詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
[未知にたじろいで]23歳の若さで戦死した竹内浩三。彼が生前に遺した詩や手記の数々に共感を覚えた著者は、それらを手がかりに、自らが経験したことのない戦争の実像、そして竹内にとっての戦争とは何であったのかに迫ろうとする。いわゆる「戦争を知らない」世代に属する人間が試みた、切ないまでの模索を描いたノンフィクション。著者は、本作によって、26歳の若さにして大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した稲泉連。
不勉強にして竹内浩三の名前と彼の作品を知らなかったのですが、厳しい世相の中での素朴な心情の吐露と柔和な言葉遣いに、著者や本書で登場する人物同様、自分も衝撃を覚えました。大きな物語としての戦争ではなく、小さな物語としての戦争が当時どのようなものであったかを考える上で非常に感じるところが多かったです。竹内の詩をめぐるドラマの数々も、少し不適切な表現かもしれませんが、何か運命じみたものを感じ、彼が非業の死を遂げたことに対して、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちにさせられました。
「戦争を伝える」、「戦争の記憶を語り継ぐ」という言説は多く見かけるものも、その先代からのメッセージを受け取る側がどのように解釈し、そしてときに「戦争を知らない世代」と位置付けられることへのコンプレックスを抱えながら格闘しているかを知る上でも有益な一冊。いくらもがいても戦争を知らないという事実を前にして、それでも往時の人々の心に迫ろうとした著者の労苦には本当に頭が下がるとともに、同世代の一人して自らもその姿勢を学びたい思いでいっぱいになりました。
〜人一倍弱かった彼は、「ぼくの戦争を書く」と決めないことには、兵隊として戦争に行くことを心から受容することができなかったのかもしれない。しかし、それは兵隊であると同時に、”詩人”としても生きていく方法を、彼が見つけ出したということであると思う。〜
これだけ著者に共感を覚えた作品も珍しい☆5つ -
三重県伊勢市出身の詩人、竹内浩三の生涯と彼を世の中に知らしめた人達の人生を著したノンフィクション。
最初は竹内浩三のみの人生を描いた作品だと思ったが、彼が世の中に紹介されるために尽力した人たちが少なからずおり、その人たちがどのような経緯で竹内を紹介したかを著している。竹内にとっても、また彼を紹介した人たちにとっても第二次世界大戦が重く背景にある。
戦争が終わって80年近くが経とうとしている。歴史の一幕としてしか、知らない日本人がほとんどになってきている。今一度、市井の人々にとっての戦争はどのようなものだったかを知る必要があるだろう。 -
先日、水木しげる氏の戦時記を読んだばかり。こちらの竹内浩三氏は23歳で戦死した。不自由ない環境でのびのび育ち、映画監督になることを夢見た青年は、数々の詩を残しこの世を去った。行きて帰られたら、どんな人物になっていただろうか。戦争は未来ある人々の命をいとも簡単に奪ってしまう。
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単なる評伝ではなく、竹内浩三に関わった人々…著者自身も含め…の、浩三との関わりがその人たちの人生に及ぼした影響にまで、丁寧に踏み込まれていて良かったと思う。戦地での死も、空襲を受けた日本での死も、生き残った人たちのその後も…たくさんのことを改めて考えさせられた。
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請求記号 911.5/In
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2007年69冊目
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未読