- Amazon.co.jp ・本 (421ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122055643
感想・レビュー・書評
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百貨店の寝具売り場に勤めながら日々の記録を書き綴り、「ロンリーハーツ読書俱楽部」に所属する〈小さな男〉。
日曜深夜にラジオのパーソナリティをつとめる34歳の静香。番組名は〈静かな声〉。
〈小さな男〉と〈静かな声〉の二つの物語が交互に語られていきます。
とりとめなく散りばめられた言葉たちが、まるでシャワーを浴びているように心地よく降りかかってきます。
これから何が始まるのだろうか。
いえ、もうすでに物事は始まっているのです。
日曜日の深夜にふと耳にしたラジオ放送。
その瞬間に得られたささやかな幸福感。
そして、何かが少しずつ変わりはじめます。
そのきっかけは自転車、赤い手帳、一通の絵葉書、初めてみたDVD…。
頑なに閉ざしていた心が解きほぐされ、日々の暮らしが愛おしく感じられ、読み終わると何だか嬉しくなります。
何とも言えない不思議な物語です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ゆっくりゆっくり時間をかけて読了。
なかなか前へ進まないのに、
もどかしさはなく、心地いい。
重松清さんが解説で、
「ささやかな日々のいとおしさ」と表現されていますが、まさに。
どこか夢心地なのに、
ちゃんと日常が存在している。
吉田篤弘さんの作品は決して浮上しすぎない。
その安心感ゆえに、身を預けることができる。
忙しない日常から離れたいけれど、
戻れないほどの現実逃避はしたくない。
月曜日からまたちゃんと頑張る自分でいたい。
そんな私の気持ちを満たしてくれる作品。
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3読目。
文庫本ははじめまして。
大好きなお話。
表紙をちらりと見ただけで、幸せいっぱいになってしまう。
こういう本をもっと何度も読みたい。
はじめましての本との出会いももちろん大切だけど。
お久しぶりの「小さな男」と「静かな声」のお二人。
お変わりないような、ちょっとだけ前よりお二人に近付けたような。
私も成長したのかしら。
それとも込み入ったことになりつつあるのかしら。
ただひとつ確かなのは、前よりもこの二人のことが好きになってしまったということ。
そして他にもミヤトウさんや、小島さんや、妹さんや、弟さんのことも。
前もかなり好きだったのに(小島さんに関してはもしかしたら少し胡散臭いものを感じていたかもしれないけど)、もっと好きになってしまった気がする(小島さんの胡散臭さまでも)。
これも私の成長の証かもしれない。
成長というより老いの証なのかもしれないが、こんな特典付きなら大歓迎だ。
またこの本をめくる日が待ち遠しい。
今すぐにも読み始めたいくらいだけど、お久しぶりですの距離感が心地良い気がするから。
今回の収穫はもうふたつ。
ひとつは「小さな男」の秘密(大げさ)。
吉田篤弘さんのエッセイに書かれてたいろんなお話が「小さな男」のつぶやきの中にちらほら散らばっていた。例えばノートのこととか。
なんとなく「小さな男」と吉田篤弘さんが重なる瞬間があって、にこにこ、にんまり。
そうかそうか、と何かが分かったような気分。
次の再会の時にはもっと近付けてるといいな。
もうひとつは重松清さんの解説。
とっても素敵な解説だった。
この本の紹介文としては最良のものではないか。
私の長々とした駄文が、こんな素敵な解説に化けてくれたらいいのに。
その気持ちもまた次の再会に取っておきましょう。 -
”そこには共有の喜びと独り占めの喜びが、矛盾しながらも同居していた。” (p335)
まさに、です。
わたしにとって吉田篤弘さんの本は、まさにこれなのです。
わたしは、彼の本が大好きです。他の作家の本も楽しんで読むけれど、彼は好きな作家でダントツ1番なのです。
同じ様に音楽の中でもダントツ1番のアーティストがいます。こちらに関しては本とは違って、他の音楽は聴かなくていいから、彼らの音楽を聴きたいってくらい大好きです。
それでわたしは、彼らのようなわたしの中の「ダントツ1番」を知り合いに薦めて共有したいだなんて思いません。独り占めしたいと思ってます。彼らの言葉や詞や物語や歌は全部、わたしのために向けられたものだって思いたいし、そんな気が(勝手に)しています。
だからわたしは、知り合いにおすすめの本や音楽を聴かれても彼らを薦めません。(良いファンではないですね。ただ、私が薦めなくても、彼らの作品を好いている人を見つけたら、嬉々として話しかけたいと思ってはいます。残念ながら未だ見つけたことはありませんが。)
でも、でもです。
吉田篤弘さんにしても、某バンドにしても、私以外にも沢山のファンはいます。私が薦めなくても、彼らの生み出すものを、私と同じ様に「好きだ」「素敵だ」と思う人たちが多くいるのです。私はそういう私以外のファンの人たちと(直接の知り合いではないけど)、大好きなものを「好きだ」「素敵だ」と共有できることに喜びを感じるのです。 -
二人の日常が交互に描かれている小説。水のようにサラサラ読める(気がする)はずなのに、解説で重松清さんが言うように、読むのにかなり時間がかかった。なんか「大豆田とわ子と三人の元夫」的な日常感とそれを自分に当てはめて考えてしまうリアリティのある小説。終わりに行くに従って登場人物が二人とも愛らしく見えてくるのも良かった。読んだって何か変わるわけではないけれど、読んだ後は日常に対するアンテナを高くできるような、そんな小説でした。
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これ重松さんがあとがきで仰って入る「(いい意味で読むのに)時間がかかる。」本で所謂一気読みでグイグイ読み進んじゃうタイプの本の真逆にあるような作品なんだけど。それがまさに「読みかけの本を伏せて机に置き、ふう、と息を継ぐときの心地よさが味わえる」本。好き。
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現実感と非現実感が合わさった絶妙なバランスで綴られる世界観がたまらない。。
好きなフレーズとか小話に線を引いたり印をつけながら読むとしたら、要領の悪いテスト前の学生の教科書みたいに全ページ線だらけになりそうなくらい、点々で良さとか気持ちよさの詰まった文章。それでいて読み進めると点と点が繋がってきたりしてまた心地よい。
2回目以降はふとした時に適当なページを開いてちょっと読むような楽しみ方も出来ると思うし、何度でも読み直したいと感じる。まさに至福の時間。
終わり方も好きが溢れる。
でもちょっと寂しい、、、
重松清さんの解説も素晴らしく、分かる分かると思いながら、言語化の仕方が流石だなあと感じました。 -
好きすぎて、今まで感想を書くことができませんでした。
ものがたりの筋が?言葉の言い回しが?一人称と三人称の交錯が?
いやもう別にそんな評論めいたことはどうでも良いのです。
小さな男が、静かな声が、その声を嫌う彼女が。
アレキサンドリアが。詩としての灯が。自転車が。
日曜日の新聞が、支度中が、ココアが。
クリームソーダが、心の中の姉が、「ついに」が。
この本の中の文章すべてが、活字すべてが、一冊まるごとの存在が。好きで好きで大好きで愛しているのです。 -
変わりたいと思うのは簡単だけど実行するのは難しいなぁ。あらたまっていくって表現がしっくりしてクスリとなる。弟になりたかった話とか、独りではなくて一人が好きなのだとか。そんなニュアンスの記述があったなぁ~。いや読み終わるのに何ヵ月もかかったので。重松清氏の解説にもフムフムなのである。
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読み始めてすぐ、「雑貨屋とかに置いてある大人のオシャレ童話?!」と後悔したが、まあ少し様子を見よう…とちびりちびりと読み進め、「ロンリーハーツ読書倶楽部」が出てきた時点で、もう、安心して手に取れる素敵な本に変わった。
どんな本かは、巻末の重松清による解説が、まさに言い当てている。私が感じた印象どおりとおりのことが書いてあり(読み飛ばせる部分がなくて時間がかかる点とか)、しかも内容についてはほぼネタバレなしなので、買おうか迷うのなら、この解説を読めば間違いないです。
百貨店の寝具売り場という、起伏のあんまりなさそうな仕事を持つ「小さな男」だけれど、その日々は実に満ち足りている。自分の周りの世界を丁寧に観察し、深く考え、驚き、幸せを感じて生きているから。
「静かな声」の方はというと、主人公というより、脇役気味に感じたけれど、この物語の要であることは間違いない。彼女のDJ、眠れない夜に聴いてみたい。 -
読み出してしばらくは、大好きな映画のおとな りを思い出していました。大きな起伏のない物語で、最後の方で、小さな男と静かな声が交差するのではないかと。
ネタバレのない範囲で行くと、おとな りの結末とは違うゆるりとした接点しかありませんでした。
それでも大事な物語が一つ増えた気分です。
吉田さんの作品に触れるたび、知っていることをもっと大事にしようという気分になります。どうあがいても生涯知ることができないことの方が圧倒的に多くて、偶然にも知ることのできたことを大切にしようと、そういう気分になります。クラフトエヴィング商會の本とか、せっかく出会えて知れたのだから、仲良くしよう、大切にしよう、と。
知っていることと知っていることのあいだには、とてつもない知らないことがぎっしり詰まっている(本文引用)から。 -
タイトル通り「小さな男」と、「静かな声(を持つ女性)」のパートが交互になる構成。大きな事件はとくにおこらず、二つの物語もほんの少し交差するだけだけれど、ディティールで共感できるので、寝る前に1章ずつ、ゆっくり読むのが丁度良い感じでした。とくにラジオDJで独身30代の「静かな声」の静香さんサイドは、共感できる部分が多かったかな。
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「くどくど」は酢味噌和えなんかどうだろう。
「くりごと」ってひらがなで書くと栗の煮物みたいだよな。ってなことを考えながら読んでました。
「小さな男」の章と「静かな声」の章が交互に、そして一人称と三人称の語りが交互に、手編みのような本でした。
「小さな男」の章でじんわりと、「静かな声」の章で軽やかに読みすすめるかんじで、そのリズムも気持ちよかったです。 -
小さな男と静かな声の女の日常的な話が交互に繰り返される作品なのですが、2人の独特の拘りをもった目線によって語られる内容が心地よい。
毎日2人の章を1話ずつ、ゆっくり時間をかけて読みました。
吉田氏らしい上質な大人の作品です。 -
残しておきたいことや言葉はこぼれ落ち、どうでもいいことや言葉は残る。
それが愛すべき人生。
小さな男と静かな声。
ワクワクもドキドキもないこの2人。
なのに心の奥に火を灯す。
だからこそその火の思いがけない温かさに泣きそうになる。 -
解説の重松清氏の言うとおり、読むのに時間がかかる。体感的には、文庫本3冊分の長編を読むのに時間がかかった気がする。
それほど濃厚なんだったと思う。話の一つ一つが物凄く印象に残っていると言う訳ではないのだが、どこか読み手の心を掴んで離さない気がするのだ。
小さな男のこだわりや静かな声の素朴な疑問やら、じっくり読むのが楽しかった。
小さな男の職場である百貨店の従業員用専用通路は、九龍城を連想した。
本当にそうなってるんじゃないのかと地元にある大丸を疑問を抱かずにはいられない。
吉田篤弘氏の作品を読む毎に魅力にハマっていく自分がいる。 -
解説の重松清に同感。
時間がかかるのである。
作品のボリュームに比して読み終えるまでの時間が、思ったよりも長くかかるのである。 -
解説(重松清)の「幾晩もかけて読んでほしい」という箇所に触れ、眠る前に少しずつ読み進めました。百科事典の執筆に勤しむ<小さな男>と、深夜ラジオのパーソナリティを務める<静かな声>の日常が、それぞれ交互に章立てされ、一つの章も一人称→三人称→一人称……と視点を変えて描かれた少し不思議な構成ですが、滑らかに視点が切り替わるので、読んでいてすんなり内から外に、外から内にと入り込めました。最後まで読むと、各章を読み進めるごとに拾い集めたものがいい塩梅で満たされ、心地よく眠れそうな一冊でした。
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エッセイの様にも思えますが、小説なんでしょうねw。吉田篤弘 著「小さな男*静かな声」、2011.11発行(文庫)。小さな男と静かな声の物語が交互に続いていく展開。普段、気づかないような小さなこだわりと日常のささやかな違和感。読むのに時間はかかりましたが結構楽しめました。朝起きて最初のひと口、その日の第一声、手帳に記録するかどうかは別にしてw、意識してみようと思いました。通勤してた時は坐ってる私の前におヘソを出した女性が立ちはだかる光景もありましたが、今はどうなんでしょう・・・。
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訥々と語る系長編のときの吉田ワールドだった
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再読も面白かったです。
読みにくいわけではないのですが、読みながら考え込んでしまう時間が多くて、読み終わるまでに時間がかかりました。
「小さな男」パートより、「静かな声」パートが好きです。静香さんのラジオみたいなのがあったら聴きたいなぁ…「月下虫音」「眠れない貴女へ」はわりと近い気がしますが。
そして、「あらたまりつつある」と思えば、年を取るのも悪くないなと思いました。
まだまだ難しいところもたくさんありますが、生きづらさは年を取る毎に減っていっている感覚です。
でも、知らないこともたくさんなのでもっともっと!と思います。ミヤトウさんの感覚、わかります。
小さな男も静香さんもミヤトウさんも、なんかこんな人いるなぁ…と思って穏やかな気持ちになりました。 -
なんとも不思議な、なんとも静かな、なんとも楽しいお話です。みんなが思っていることなのにこんなに上手に表現できるなんてほんとすごい。
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再読。
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語るっていうのは、ことばを灯す、みたいなことなのかな。
うまくいえないけど。 -
ここ最近の吉田篤弘本。
百鼠の文庫で語られていたように、一人称と三人称の物語。しかもそれが一人ではなくて二人で。
案外ね。読みやすかったですが。でも、確かにじっくりと読んでみたいなぁ、2度3度と。 -
図書館をぶらぶらしてたら、吉田氏と、吉田氏のユニットの本はほとんど持っていると思っていたけれど、なぜかこれは持って無かったので借りてみた。ううむ、彼の長編はやはり苦手だなぁ。
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朗読劇のような、あるいはひとり芝居のような語り口。
ともに一人暮らしの、味ある小さな男と静かな声の主。
ふたりの直線じゃなく点線でつながっているような、ゆるい距離感がなんとも面映い。
そのほかの登場人物や小物たちまでもが、派手じゃないけどそれぞれの色を放っているようで愛おしい感じ。
せんえつながら、空想だか妄想だか、自分と似た何かを感じてしまった。
まるで自分自身をのぞかれているようで、なんとも体がモゾモゾ。
うまく表現できないけれど、個人的に身の置きどころに困るような、とっても不思議な感覚を味わった作品だった。 -
小さな男と静かな声の日常生活が
交互に描かれていて、二人の生活が
時々ニアミスで近づいたり、思いがけない
共通な友人が居たり、まったりと読めました。 -
小さい男の小さな生活と、静かな声の主のやはり静かな生活。なんでもない物語が淡々と語られているだけなのだが、読んでいると心が落ち着く。読後に「なんにも得るものがなかった、時間の無駄だった」とがっかりしてしまうようなものでもない。読めば分かる良作です。