怒り(下) (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
3.91
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本棚登録 : 3528
レビュー : 431
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062146

作品紹介・あらすじ

山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。三人のなかに、山神はいるのか?犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    人を心から信じる事の難しさ。そして、自分が人に信じてもらう事の難しさ。
    それがこの作品のメインテーマでしょう。
    物語自体のミステリアスな描写や、真犯人である田中の猟奇性も目に留まったが、やっぱり「信じることの難しさ」が読んでいて痛切に心に残った。
    そういう意味で、人と人とのつながりを表すヒューマンドラマだったんだなと読み終わって感じた。

    特に、上巻に続き、優馬と直人の友情には心にグっときたね。
    結局、二人は死別してしまったが、直人は最期まで優馬の事を信じていて、優馬は直人に対する誤解を解くことができ、そのあたりは読んでいてちょっと涙がこぼれました。
    (読者である自分さえ、心のどこかで直人を信じてやれなかったので・・・・)

    そして、もう一組の田代・愛子親子のエピソードも、結局は途中で田代の事を信用できなくなってしまったのだが、最終的に元の鞘に収まって良かった。
    この2組が特に、相手の事を信じながらも疑ってしまう葛藤を繰り返していたので、月並みな言い方だがハッピーエンドで終えて安心しました。
    逆に、田中の最期は呆気なさすぎたが・・・笑

    最後に、事件を追っていた刑事も、この3組と同じように「この人を信じきれない」という悩みをプライベートで抱えていて、こちらは他と違ってバッドエンドで終わってしまったのが可哀相だった。
    普通に言えばよかったのに。。。笑

    ていうか、この吉田修一は「パレード」の原作者でもあるんですね。
    映像化されている作品が多くて、素晴らしい作品が多いなぁ。
    機会があれば、この作者の別の作品も読みたいなと思いました。


    【あらすじ】
    山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。
    洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。
    日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。
    三人のなかに、山神はいるのか?犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!


    【引用】
    1.中学卒業後、直人は施設を出て静岡県の自動車工場で働きながら定時制の高校に通い、卒業後に都内の小さな旅行会社に転職、国家資格も取ろうとしていた。
    だが丁度その頃、心臓に疾患が見つかり、薬を飲みながらうまく付き合っていくしかない病気を持つことになる。
    直人は体調が悪くなっていき、勤め先は働き方を工夫してくれたが、結局退職を決める。
    優馬はその直後に直人と出会った。

    2.上野署から電話があったその前日、上野公園の茂みに倒れていた直人が発見された。
    司法解剖の結果、死因は心臓疾患による呼吸停止であった。
    上野署から電話があった時、俺はあいつを裏切った。大西直人という男など知らないと言った。
    あの時、俺は逃げた。あいつを裏切って逃げたのだ。


    【メモ】
    怒り 下巻


    p231
    直人がそんな男ではないと分かっていたくせに、最後の最後で信じてやれなかった。上野署から電話があった時、俺はあいつを裏切った。大西直人という男など知らないと言った。
    「知りません。」
    あの時、俺は逃げた。あいつを裏切って逃げたのだ。


    p252
    「このカフェであった時、直人、初めて優馬さんと暮らしていることを私に教えてくれたんです。優馬さんと一緒にいると、なんだか自分にも自信が湧くんだって」

    直人は両親2人に愛されて育ったが、4歳を迎えた頃、両親が交通事故で亡くなった。
    直人は母親の兄夫婦に引き取られたがうまくその家に馴染めず、数ヶ月ほどで施設に預けられた。
    この施設で知り合ったのが彼女だった。以前直人が妹だと言った彼女だ。血は繋がっていないが、今でも兄妹だと思っていると彼女は言った。

    中学卒業後、直人は施設を出て静岡県の自動車工場で働きながら定時制の高校に通い、卒業後に都内の小さな旅行会社に転職、国家資格も取ろうとしていた。
    だが丁度その頃、心臓に疾患が見つかり、薬を飲みながらうまく付き合っていくしかない病気を持つことになる。
    直人は体調が悪くなっていき、勤め先は働き方を工夫してくれたが、結局退職を決める。
    優馬はその直後に直人と出会った。

    上野署から電話があったその前日、上野公園の茂みに倒れていた直人が発見された。
    司法解剖の結果、死因は心臓疾患による呼吸停止であった。


    p260
    美佳は背中を丸めてしゃがみ込み、段ボールの中の猫を撫でながら、「頑張ったねえ、頑張ったねえ」と繰り返す。
    その背中を北見は見つめた。

    ふと、誰なんだ?と思う。
    今、目の前で泣いている女は誰なんだと。

    この背中を信じたい。泣いているこの女を信じたい。彼女が誰であろうと、自分の気持ちは変わらない。目の前にいるこの女を俺は信じている。

    「なぁ」
    その背中に北見は声をかけた。
    「もう、耐えられないんだ。なぁ、俺と結婚してくれないか?調べたんだ君のこと。勿論、悪いと思っている。でも、その上で、君のこと全部知った上で、俺は結婚したいと思っている。一生大切にしたいと思ってる」
    もちろん嘘だった。彼女の過去を調べてなどいない。
    ただ、彼女がどこの誰で、どんな事情があろうとも、自分は彼女を愛し続ける自信があると伝えたかった。

  • 3つの場所での話と殺人事件がどう絡むのかが気になり
    下巻はものすごい速度で読めます。

    ううむ、
    胸の中にどろっとしたようなものが残る作品。
    だからといって読んだ後悔はないけれど。

    相手を信じる大切さ
    もそうなんだけど
    じゃあ信じれば報われるかというとそうでもない。
    信じた人と信じることが出来なかった人、
    どちらかを正解としていないところが良いなと思った。

    ちなみに
    信じることが出来ずに失敗した人は
    反省して今後は相手を信用するかというと
    そうではない気がする。私自身がそういうところがあるからかもしれないけど。

    映画化の配役の観点でいくと
    渡辺謙と宮崎あおいが小説から読む私の印象とは違ったかな。
    もう少しダサい港町の親子なイメージなので
    この2人じゃシュッとしすぎている。

    他は、特に妻夫木聡や森山未來、広瀬すずあたりは適役かなと。

  • ミステリー小説と思って読んでいくと、もやもやした終わり方だなーと思うけれど、信頼関係の話、と思って読んでいくと、納得して読み終えることができるのかな。

  • 喪失感と遣る瀬無さを感じた結末。

    やはり、惨殺事件の犯人・山神一也を中心としたミステリー、サスペンスというよりは、間接的に山神一也に翻弄される人びとを描いたヒューマンドラマだった。

    逃亡を続ける山神一也の正体に驚愕することもなく、『怒』の正体も知ることもなく、読み手に精一杯生きることに対する不信感を抱かせるような結末だった。

  • 上下、一気に読めた。
    詳細を話してくれない人をどうやって信じるのか…自ら話す人だって、もしかしたら嘘かもしれない、それを信じられるか?
    問い質して後悔するか、聞かずに後悔するか…
    あぁ〜後悔、後悔って…私ってほんとマイナス思考なんだなぁ。



  • 人を信じて裏切られ悲しい結末を迎える、人を疑って後悔して失った後に気付く愛の深さ、人を信じられず裏切るが再び信頼を取り戻そうと生きていく。
    三者三様の人間の醜さと美しさが描かれて胸に迫る。
    結局、沖縄が悲しみを背負わされることになるのは本当にやるせない。

  • 人を信じることの難しさ、信じて裏切られた怒り等、考えさせられる作品でした。
    最後は少し希望が見えたかな。

  • 若い夫婦が自宅で惨殺され、現場には「怒」という血文字が残されていた。
    犯人は山神一也、二十七歳と判明するが、その行方は杳として知れず捜査は難航していた。
    そして事件から一年後の夏。
    房総の港町で働く槇洋平・愛子親子、大手企業に勤めるゲイの藤田優馬、沖縄の離島で母と暮らす小宮山泉の前に、身元不詳の三人の男が現れた。


    「これってミステリなのかな?」

    「うーん。トリックとか犯人捜しとか、そういう謎をメインに据えた物語ではないから、ミステリと呼ぶには少し違和感があるな。犯罪小説、って言う方がピンとくるかもしれない」

    「犯罪小説……かあ。定義が難しいね」

    「ある犯罪を物語の軸に置いているという点では本格ミステリと同じなんだけど、本格がその犯罪にまつわる謎を解くという部分に特化しているのに対して、犯罪小説はその犯罪にまつわる『人間模様』を中心に描いているというイメージかな。うーん……自分で言っていてもピンときていないけど」

    「この小説には謎はない?」

    「いや、あるよ。房総、沖縄、東京…と三つの都市にあらわれた正体不明の男。この男のうち、誰が逃亡殺人犯である山神なのか、というのがこの物語の最大の謎」

    「ただ、その謎解きに重きがおかれていないってことなんだね」

    「そうだな。もちろん、それが物語の最大の謎ではあるんだけど、そこが物語の眼目ではない」

    「と言うと?」

    「たとえば房総に現れた正体不明の男は港町で働く女性、愛子と恋仲になる」

    「映画では宮崎あおいさんだね」

    「作中ではあまり愛子は美人として描写されていないけどな。まあ、それはいいとして、東京で悪い男に騙され、ボロボロになって帰郷した愛子にとって、再び恋をした男が殺人犯だったらショックなんてもんじゃないよな?」

    「そうだねえ」

    「相手のことを信じたい。でも本当に信じていいのかわからない。愛子のそんな葛藤と、愛子を見守る父親の不安…それがひしひしと伝わってくるんだ」

    「犯罪を中心にして人間を描く、っていうのはそういうことなんだね」

    「東京ではゲイの男が、最近同居し始めた男の正体に不信感を抱く。でもそれを相手にぶつける勇気はない」

    「これは映画では妻夫木聡さんだね」

    「映画の配役で言うと、最後は広瀬すずさん。孤島で隠れ住んでいる男と知り合いになる」

    「……さすがに、これは怪しすぎない? だって人目を避けて隠れ住んでいるんでしょ?」

    「しかもすずちゃんに『誰にも言わないで』とか口止めするしな」

    「うーん。ますます怪しい」

    「で、ミステリ的面白さで言うと、この三人の中で誰が逃亡犯かという話なんだけど」

    「誰? 誰?」

    「言わねーよ。ネタバラシになるしな」

    「えー」

    「少しだけ言うと、後味は良くない。誰がそうだとしても信じていた人間が裏切られる結果になるのだから、後味が良くないのは最初からわかっていたことだけどそれにしても、だ。暗い犯罪小説であることは間違いないし、同じく映画化した『悪人』と似た読み味があるから、そういうのが好きな人にはオススメかもしれない」

    「吉田修一さんらしいとも言えるね」

    「そうだな」

    「映画も同じなのかな」

    「観てないから何とも言えないけどな。個人的にはソイツが逃亡犯じゃなくて、コイツの方が絵になるんじゃないかなあって思ったのはあるけど」

    「予想外ってこと?」

    「まあ読んでみてくれよ。抜群に面白い作品ではないけれど決して退屈はしないから。予想外と言う意味では、タイトルの『怒り』が最後までよくわかんねーところが一番予想外かな(笑)」

  • 気分が滅入る
    テーマは人を信じる事の難しさ
    ミステリーというよりヒューマンドラマです。
    ミステリーという点ではスッキリしません(笑)

    下巻では、
    山神の特徴が公開捜査される中、それぞれが、徐々に疑いを持ち始めていきます。

    洋平は愛子と同居を始めた田代が偽名と知って、その過去を確認しようとします。
    優馬は直人が女といるところを目撃。その後、直人が行方不明に。さらに警察から連絡が..
    泉と辰哉は田中が住む無人島であるものを発見。

    下巻はとても盛り上がります。

    それぞれの日常のなかで、疑惑が深まり、それぞれが葛藤していきます。
    そんな中、一人ずつ、その疑惑が明らかになっていきます。
    結果、相手を信じられなかったことによる後悔。つらさ。
    さらに、信じていたが故に起きた悲劇的な結末...
    これは衝撃でした..

    人を信じるということがこれほど辛いことになるのか、と読者の気持ちをえぐってきます。

    そんなわけで、山神の事件を通して日常の生活から描かれる人と人のつながりを描くヒューマンドラマ
    しかし、ミステリーという点では、
    なぜ、現場に「怒」の血文字を残したのか?
    なぜ、若い夫婦が惨殺されたのか?
    といった謎はそのままです。なので、ミステリーなんだろうけどポイントはそこではない(笑)

    ということで、読後感は滅入った気分になりますが、お勧めです。

  • 三者三様いろんな終わり方。ちょっと切なかったり。

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著者プロフィール

吉田 修一(よしだ しゅういち)
1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業後、スイミングスクールのインストラクターのアルバイトなどを経験。1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞しデビュー。同作は第117回芥川龍之介賞候補にもなった。2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞を同年「パーク・ライフ」で第127回芥川龍之介賞、2007年『悪人』で第61回毎日出版文化賞及び第34回大佛次郎賞、2010年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞、2019年『国宝』で第14回中央公論文芸賞をそれぞれ受賞。2016年には芥川龍之介賞選考委員に就任している。その他の代表作に、2014年刊行、本屋大賞ノミネート作の『怒り』。2016年に映画化され、数々の映画賞を受賞。

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