シーソーモンスター (中公文庫 い 117-2)

著者 :
  • 中央公論新社
3.70
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本棚登録 : 4393
感想 : 259
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122072688

作品紹介・あらすじ

バブルに沸く昭和後期。一見、平凡な家庭の北山家では、元情報員の妻宮子が姑セツと熾烈な争いを繰り広げていた。(「シーソーモンスター」)
アナログに回帰した近未来。配達人の水戸は、一通の手紙をきっかけに、ある事件に巻き込まれ、因縁の相手檜山に追われる。(「スピンモンスター」)

時空を超えて繋がる二つの物語。「運命」は、変えることができるのか――。

感想・レビュー・書評

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  • 伊坂幸太郎が、螺旋「企画」の仕組みをかなり詳しく話してくれている。そもそも編集者の思いつきを、彼の発案で「企画」にまでに具体化して、大きな約束事は8人の作家全員で決めたらしい。

    実は螺旋シリーズはこれで2冊目。最初は朝井リョウの作品を、そうとは知らず4年前に読んだ。かの作品は平成を舞台にしているから、話を大きく出来ないだけあって、内に内に籠るストーリーで、好きにはなれなかった。伊坂さんは中編一話目がスパイもの、二話目が近未来もの、ということで、サービス精神いっぱい、テーマも国家構造にまで及んで、私の好みだった。

    「人間の歴史は、全部、争いだろ」
    「え」
    「争いの合間に小休止があるだけじゃないのか」
    (略)
    「だけど、争えば人は傷つくし、物も壊れる。ないほうがいい」
    愛読していた子供向けの本のことが頭によぎった。(略)その主人公マイマイが発する定番の台詞がある。「争わないほうが好ましい」僕はそのことを思い出した。「争いたくなる気持ちはわかる。だけど、争わないほうが好ましい」と心優しきマイマイは言うのだ。
    「一人一人の気持ちだとか、目先の社会のことを考えれば、争いは悪いことかもしれない」檜山景虎は言った。「ただ、違う次元の話なら、争いはなくてはならないものだ。実験室でビーカーの中を撹拌するのと同じだ。かき混ぜなければ実験にならないだろ」(略)「できるだけたくさんの方向性を増やす方向に、物事は進む。撹拌して、拡散する。だから争いは起きなくてはいけない」(236〜239p)

    このように、突然「長い問答」が始まるのも「お約束」だったのだと、伊坂さんは打ち明けてくれている。言い出しっぺだから、かなり煮詰めたテーマをぶっ込んでいる。「人間の歴史は決して争いじゃないんだよ」と、私としては檜山くんに言いたいところではあるが、伊坂さんの言いたいのは、そこじゃない。「争いは人間の本能だ」とは伊坂さんは言ってない。檜山くん(伊坂さん)は、「とりあえず、この数千年間はそうなのだから、それで人類が進化した面は確かにある。でも、その渦の狭間でどうにか穏やかに生きていく努力は、平和をつくる努力は必要だ」という落とし所のようだ。うーむ、ちょっと違うかな。でも悪くはない。

    この前、伊坂幸太郎トラウマから脱したばかりで未だぐずぐずしながら読んだ。割と長いことかかった。螺旋シリーズは、やはり手を出したくはない。

    • 傍らに珈琲を。さん
      kumaさん、こんばんは~☆

      螺旋シリーズ、手を出したくないのですね(*T^T)
      実は大感動を胸に読み終えた私です。。。
      kumaさん、こんばんは~☆

      螺旋シリーズ、手を出したくないのですね(*T^T)
      実は大感動を胸に読み終えた私です。。。
      2023/12/02
    • kuma0504さん
      傍らに珈琲を。さん、
      コメントありがとうございます♪
      螺旋シリーズは、
      古代の海彦山彦物語が好きなだけに、ホントは少しは興味あるのですが、
      ...
      傍らに珈琲を。さん、
      コメントありがとうございます♪
      螺旋シリーズは、
      古代の海彦山彦物語が好きなだけに、ホントは少しは興味あるのですが、
      基本的に全部揃えようとする未来の自分が見えて嫌になるのです。
      私は基本的に流行作家や流行小説は追わないと決めいます。
      できるだけ、小説はファンになった人しか読まないようにしたい。
      何故なら、そこにはまり込むと、読みたい本が無限に増えて行くから。
      伊坂幸太郎は、文庫本は一時期ほぼコンプリートしつつあったので、ファンです。でも一冊がなかなか読めなくて今スランプ状態から少し抜け出し中。
      螺旋シリーズコンプリートするのは避けたい。自分の性格から、いろいろその世界観にいちゃもんつけそうな気がする。
      2023/12/02
  • 対立により生まれるもの、新たな価値や意味。それでも対立しない方がよいかも、それで生まれる価値や意味もあるから。ただ、対立は避けなくてもよい、向き合う対立ならば、根底がつながっていれば、めざすものが同じ方向ならば。

  • 伊坂さんが何か面白い事やってるー。と楽しみにしていた本。やっと読めました。
    面白かったーー。みやこさんかっこよすぎ。
    伊坂さんの本はいつも読みながら顔がニヤニヤしてしまう。やっぱ最高だぁ。
    なんだかんだ考えさせられたりする場面もあるんだけど、単純に楽しかったー、と思えるのが伊坂作品。
    今回も楽しかったです。
    帯に「あなたの伏線、私が拾おう」だって。
    螺旋プロジェクト、制覇したくなるなぁ。

  • 「シーソーモンスター」
    螺旋プロジェクト、昭和後期編。バブル全盛期。
    中世・近世編の「もののふの国」の壮大な歴史観や
    昭和前期編の「コイコワレ」の戦争を絡める悲壮感から、一転。まさかの嫁姑バトルとは。揺るぎない伊坂作品スタイル。プロジェクト作品と、身構えて読みはじめましたが、一挙にリラックス。
    相容れない山・海族の対立を、大人の解決。

    「スピンモンスター」
    螺旋プロジェクト、近未来編。シーソーの嫁が90歳で元気に登場。近未来では、幾つかのトラブルでデジタルからアナログへ回避が起こるという面白い設定。海山族の対立の象徴となる青年達は、子供時代の不幸な交通事故から、知り合い、その相容れない感情を持ち続ける。
    民族の対立より、人工知能と対立の様な感じ。自分の記憶の曖昧さ、記憶の塗り替えに戦慄する近未来が、読みどころです。テンポ良く、次々起こるトラブルを潜り抜ける伊坂さんっぽい作品と思います。
    対立が進化を促し改革を起こす、が主題かなあ。

    忘れないうちにプロジェクト作品を読もうと思い、
    残り一冊となったのですが、隠されたメッセージを読み解ける気がしない。

  • 両方の話共に考えさせられる話でした。AIについて最近考えること多かったので、参考になりました。1番大切なことは自分の心に正直であるかですよね。心で見て、聞いて、判断して生きていくのがストレスもなく真っ当ですよね。

  •  「螺旋プロジェクト」云々に関係なく、伊坂幸太郎作品を単純に楽しみたいと思い、読み始めました。2篇が収められています。

    ○「シーソーモンスター」
     昭和のバブル期日本。米ソ〝冷戦〟の陰で、北山家では嫁姑問題の〝熱戦〟が日々勃発し、その板挟みで悩む直人。おっと、得意の恐妻家登場?
     疑心暗鬼と不穏さの中に、程よいミステリー要素やアクションなどが、コミカルな描写とともに絶妙に配置されています。あ〜、伊坂節全開だなぁ、この塩梅がいいんです。
     人との距離感や必要に迫られる選択で、シーソーのバランスはどちらにも傾き、モンスターになり得るのでしょうね。

    ○「スピンモンスター」
     時代は2050年の日本。AIが益々発達し、異様な監視社会になっています。本篇での対立は、共に事故で家族を亡くし生き残るという、消したい記憶を持つ二人の少年。やがて追う者と追われる者となり‥。更に究極の対立は人間とAIでしょうか。
     フェイクニュースのように、情報を操作する者が対立を煽る構図は、人間不信にしかなりませんね。人間の進化のために変化が必要で、故に停滞を撹拌し、対立を生む必要があるという考えには一理ある気がしますが、一歩誤れば恐ろしいです。
     宮子の再登場に、なぜかホッとします。嫁姑の対立の方が、人間臭く面白いからでしょうかね。

     正直、螺旋プロジェクトの他作品を読みたくなったか? と問われると、微妙なところです。

  • 何も知らずに買ったので、最初のページを見てちょっとビックリ。
    『「共通ルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をみんなでいっせいに書きませんか?」という伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8作家による競作企画』って、へぇ~、なんだか面白そう。
    その共通ルールというのが、①「海族」vs.「山族」の対立を描く、②共通のキャラクターを登場させる、③共通シーンや象徴モチーフを出す、というもの。覚えておこう。

    というわけで、『ネタバレを含みます』という年表は飛ばして、“バブル期の気弱な勤め人の悩みは嫁姑の過激すぎるバトル”という昭和後期の話となる「シーソーモンスター」から。
    語り手が交互に変わっていくスタイルで、バブル期の日本人に対する皮肉も利かせながら話は進む。
    気弱な勤め人こと直人のパートもサラリーマンの悲哀や嫁姑の板挟みになる夫の溜息でユーモアとペーソス溢れて普通に面白いのだが、その嫁・宮子のパートになっては思い切り意表を突かれる展開。
    宮子も宮子だが、お姑さんのセツも、そりゃ手強いはずだ。共通ルールの①「海族」vs.「山族」というのもあって疑心暗鬼が煽られたが、嫁姑の間柄って案外あんな感じでバランスが保たれているのかもね。
    何にも知らない直人が安寧を取り戻せて良かったよ。

    続いて“ある天才科学者が遺した手紙を携え、二人の男が世界を救うべく疾走する!”という「スピンモンスター」に入る。
    主人公が新幹線の中で見知らぬ男から手紙を託され知らぬ間に警察から追われる身になるという巻き込まれ型のサスペンスで、主人公とともに読んでいるこちらも右往左往させられる。
    「シーソーモンスター」とのリンクもあって楽しめたが、直人と宮子には子どもが出来ていたんだ。良かったな。
    舞台が2050年頃の近未来とあって、こちらは随所に今の社会に対する批評も滲ませながら話が進むが、とりわけ、記憶の加工や情報の操作ということが話の肝となる。
    あまりハッピーな終わり方ではなかったが、それでも『未来を創るのは、情報と事実だけじゃない。むしろ、人の感情だ』という言葉に、この作品でも人間の善い部分を信じる作者の気持ちが伝わってきた。

    因縁の相手が登場したり、対立について語られたりすることはあるが、あまり共通ルールに囚われることもなく、話のスパイスとしてそれらが巧く使われていたという印象。
    この「螺旋」プロジェクトやら、他の作者さんのものも読んでいこうと思った(もはや出版社の思惑に乗せられてしまったな)。

  • 昭和後期(シーソーモンスター)と近未来(スピンモンスター)の話。伊坂幸太郎さんの描く嫁姑問題は面白い。まさかという展開で楽しめる。そしてスピンモンスターとの繋がりは嬉しかったが、結末としてはどうなんだろう。

  • 螺旋プロジェクトの中で初めて読んだ作品。

    これだけでも楽しめるけれど
    他のプロジェクト作品を読んだらより楽しめるだろうな〜という印象。

  • めちゃめちゃ面白かった!
    螺旋シリーズとは知らずに購入。
    こちらの1冊だけでも十分楽しめるけど、他の作品も読みたくなる…

    "螺旋プロジェクトとは"
    「共通ルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をみんなでいっせいに書きませんか?」
    伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8作家=朝井リョウ、天野純希、伊坂幸太郎、乾ルカ、大森兄弟、澤田瞳子、薬丸岳、吉田篤弘による競作企画。本作はこの企画から生まれた。

    歴史は正直興味がない私なので、全部読破するのは諦めてるけど、でも読んでみたいような…笑
    こちらの伊坂幸太郎さんの"シーソーモーンスター"はこの企画の昭和後期と近未来を描いてる。
    平成担当の朝井リョウさんは買ってみた。楽しみ♪

    こちらの作品で描かれる昭和後期は、主人公一家の嫁姑問題にスポットが当たっている。
    その内容がこの螺旋プロジェクト自体楽しめる構成にもなってるし、第2章(?)の近未来を描いた"スピンモンスター"にもしっかり繋がってて本当に素晴らしい構成だと思う。

    近未来はまだ我々には見えてない世界だけど、実際にありそうですごく気に入った。

    こちらの1冊だけでも楽しめるので、伊坂幸太郎さんファンや気になった方はぜひ読んでみてほしい。

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著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、デビューする。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で、「吉川英治文学新人賞」、短編『死神の精度』で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞。08年『ゴールデンスランバー』で、「本屋大賞」「山本周五郎賞」のW受賞を果たす。その他著書に、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『重力ピエロ』『フーガはユーガ』『クジラアタマの王様』『逆ソクラテス』『ペッパーズ・ゴースト』『777 トリプルセブン』等がある。

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