教養が身に付く本ではなく、最近の国際社会のトレンドは実はこんな背景があるんだよということをうすーくひろーく紹介している本です。元NHKキャスターらしい本ですね。
まず初めに私の持論の話をしてしまいますが、私は池上さんがこの本で述べている教養の定義については賛同できません。教養とは自分を知ること、と池上さんは独自解釈を述べていますが、私の考える教養とは後述するような「知識の身につけ方を知っている人がもつ知識」だと思っており、この時点でこの本に対する読む意欲が半分失せていました。
この本の冒頭部でマサチューセッツ工科大学の先生の話が出てきます。先生は、「社会に出て新しいものが出てきても、それを吸収し、あるいは自ら新しいものをつくり出していく、そういうスキルを大学で教えるべきでしょう」と述べ、それが教養だとしています。私が察する範囲でしかないですが、この先生が伝えたいのは、以下の内容だと思っています。
・何でもかんでもwikipediaを漁ることが重要なのではなく、知ることと経験すること・理解することは別である。
・1つの内容でも深く理解するプロセスを経験することで、社会に出て自分の知らない分野と相対することになったとしても、物事をその背景・過程まで理解しようとする姿勢を身につけてほしい
・その結果として、幅広い分野の知識が身に付く、それを教養というのではないか
教養をこのように捉えた時、この本で語られている内容はある意味教養とは程遠く、雑学披露本に近くなってしまっている気はします。もちろん約200ページに多様な話を入れ込もうとすると、ある程度の内容が省かれてしまうことは仕方がないのですが。
持論が長くなってしまいましたが、内容について少し触れておこうと思います。
細かい話までピックアップすると冗長になるため、3つの内容に絞ってみます。
①(2014年に出版された本なので、内容として古い箇所はありますが)宗教の項目では、よく聞く宗教の成り立ちやその主だった教えについて述べられており、この項目を読めば日本以外の国で生じている宗教にまつわる動きが理解しやすくなった気がします。例えば、アメリカでイスラム教徒が増えている理由として、格差の激しいアメリカ社会では「紙の前では全員が平等である」というイスラム教の教えに惹かれる人が多いからだ、という理由が挙げられていますが、なるほどなと思いました。
国教がなく宗教と深い結びつきのない生活を送る人の方が多い日本では理解しておくべき内容の一つなのだと思います。
余談ではありますが、個人的には、「仏陀が説いた哲学だろう」(池上さんではなく他の人が発言した内容)という言葉には少し驚きました。宗教の定義が何なのかよくわかりませんが、確かにそうかもしれません。
②宇宙の項目では、仮説の立案と検証の積み重ねで地動説〜ヒッグス粒子の発見までが読み解かれてきた流れがわかりやすく書かれています。当たり前ではあるのですが、仮説検証は理系の実験の流れと同じなので、理系の人が読むと興味が湧くかもしれません。
ただし、途中の宗教との結びつきはあまり要らないように感じており、そういう文脈で読み取ることが池上さんは好きなんだろうなと感じる部分でもあります。
③経済学の項目は、経済社会をよくする方法について4人の人物が時代に合わせて提言してきたという内容をわかりやすく順序立てて説明されており、読むに値する項目だと思います。よく聞く「見えざる手」についての雑談や、社会主義が生まれた背景など、一番身近な内容が記載されているのではないでしょうか。
総じて雑学を列挙しましたという感じの本ですが、ニュース番組の見方が少し変わると思うので、高校生〜大学1、2年ぐらいの人にはお勧めする本です。
ある程度の理解ができ、かつわかりやすい本というのは1冊でストーリー立てて結論へと導く形式だと思っていますが、そういう本だと思って読むとがっかりすると思います。一方で、読んだ結果としてこの中の一つの項目でも興味を持ってその後より詳しい本を読むなど、興味をもつきっかけになるのであれば意味のある本かなとは思います。