別冊NHK100分de名著 時をつむぐ旅人 萩尾望都 (教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著)

  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (169ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784144072710

作品紹介・あらすじ

少女漫画の概念を変えた稀代のストーリーテラー。その先進性と深遠な哲学に迫る!

少女漫画史に燦然と輝くトップランナー、萩尾望都。半世紀にわたって、ファンタジー、ミステリー、SFなど幅広いジャンルを舞台に、実存、不条理、魂の救済、差別、家族の相克など普遍的な哲学的命題を提示し続けてきた。その深遠な世界観を、いずれ劣らぬ萩尾愛に満ちた4人の論者が語りつくす! 2021年正月に放送され反響をよんだ番組「100分de萩尾望都」待望のムック化。萩尾望都自身のインタビューも収載。
【内容】
『トーマの心臓』をよむ――小谷真理
『半神』『イグアナの娘』をよむ――ヤマザキマリ
『バルバラ異界』をよむ――中条省平
『ポーの一族』をよむ――夢枕獏
萩尾望都インタビュー

感想・レビュー・書評

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  • 番組を見損なった。萩尾望都大ファンの番組プロデューサー(秋満吉彦)が満を持して放つ100分de名著。番組よりも論者は更に加筆したようだし、論者たちをア然とさせたらしい萩尾望都ロングインタビューも完全版で載っている。番組観なくても、こういうムックで読む方がよっぽど役に立つ。

    【内容】
    『トーマの心臓』をよむ――小谷真理
    『半神』『イグアナの娘』をよむ――ヤマザキマリ
    『バルバラ異界』をよむ――中条省平
    『ポーの一族』をよむ――夢枕獏
    萩尾望都インタビュー

    ここで新たに提示されている萩尾望都論は、それなりに新しい視点ではあるけれども、驚くようなことは書かれてはいない。かつて80年代の初めに漫画評論誌「ぱふ」に於いて橋本治が「花咲く乙女たちのキンピラゴボウ」で指摘した時から、萩尾望都は文学評論の水準で語られてきた。まだまだ汲めども尽きぬ視点が出てくるだろう。

    ここの論者たちが繰り返し指摘している視点がある。
    「異端者」としての主人公=作者が、どうやって世間と折り合いをつけてゆくか。
    「ここではないどこかへ」というのは、21世紀から出てきた萩尾望都短篇のテーマではあるが、それはそのまま萩尾望都の生涯のテーマであるというのである。
    それはその通りだと思う。
    じゃ、それは単なる「世間」なのか?
    というのが私の問題意識である。
    それはもっと手強い「世界」ではないのか?
    言葉にできない「世界」に対する不安。
    それは同時に私たちの問題意識でもある。
    萩尾望都が何度も読み返されるのには、理由がある。

    小説では描けないものを描いているから、萩尾望都はマンガを描いているのである。と、インタビューで萩尾望都は明確にしていた。ネームの作り方は、最初は登場人物の心理状態も全て書くらしい。そのあと絵で還元できるものは全て削って、最後にうまく絵にならない部分が、あの夢のように流れる「モノローグ」として残るらしい。曲のない歌詞が歌ではないように、絵のない言葉はマンガではない。「悲しみの天使」という映画とヘルマン・ヘッセの小説に刺激されて「トーマの心臓」が出来たようだが、一度その両方を見て、私にも「トーマ」がつくれるか試してみたい(笑)。

    論者たちの討論では、「イグアナの娘」のラストシーンに出てくる小さなトカゲの正体について、議論があったそうだが、インタビューではあっさり「それはお母さんです」と明かしている。ヤマザキマリは放送された番組を観てズッコケたらしい。この場合、娘とお母さんの和解は成立していたようだ。

    その他、新「ポーの一族」で「アランは復活させます」とあっさり語っていたり、とっても重要なことをさらっと言っている。

    萩尾望都を読んでいくために、新たに重要な本がまた誕生した。

    • りまのさん
      kuma0504さん

      「アランは復活させます」
      キラーン✨!眼が星になりました♡
      わくわく、嬉しいな!
      kuma0504さん

      「アランは復活させます」
      キラーン✨!眼が星になりました♡
      わくわく、嬉しいな!
      2021/08/02
    • kuma0504さん
      りまのさん
      アランが復活するか否かは、新シリーズのキモのような気がするのですが、萩尾望都は頓着しないんですね。萩尾望都は、主人公でさえ殺すこ...
      りまのさん
      アランが復活するか否かは、新シリーズのキモのような気がするのですが、萩尾望都は頓着しないんですね。萩尾望都は、主人公でさえ殺すことがよくある。「アランは復活する」けれども、改めて「消滅」するかもしれない。或いはエドガーが「消滅」するかもしれない。ともかくこれが最後のポーの一族となる予感。
      2021/08/03
    • りまのさん
      kuma0504さん

      そうですね。
      新刊が出るのが待ち遠しいです。シリーズが完結するまで、いえ、その後もずっと、萩尾望都さんには、お元気で...
      kuma0504さん

      そうですね。
      新刊が出るのが待ち遠しいです。シリーズが完結するまで、いえ、その後もずっと、萩尾望都さんには、お元気でいてほしいです!
      お返事ありがとうございました。
      2021/08/03
  • 2021年1月に放送された「100分de名著 萩尾望都」が大変面白かったので、その魅力を追体験しようと購入。出演者達が、萩尾先生の名作を更に深掘りした作品論となっており、これまた大変面白かった!とにかく皆さんの熱量がすごい!!
    「トーマの心臓」(小谷真理)、「半神」「イグアナの娘」(ヤマザキマリ)、「バルバラ異界」(中条省平)、「ポーの一族」(夢枕獏)と、各界著名人がそれぞれの作品を熱く解説。そして、萩尾先生のインタビューもまた読みごたえありだ。特に「ポーの一族」の章の、発表順・時系列順の一覧表はありがたかった。勿論、どういう順で読もうと面白いことに間違いはないのだが。
    そして、各章に出てくる時代の出来事や関連作品などを簡潔に説明した注釈。更に視野が広がるきっかけとなった。「ポー」の章で、吸血鬼をテーマにした作品として「ドラキュラ」に触れており、併せて取り上げられた「吸血鬼カーミラ」や石ノ森章太郎の「きりとばらとほしと」はちょっと読んでみたいなと思った。
    萩尾作品のすごさを再認識できたことは勿論だが、「100分de名著」という番組の面白さを知ることができたのも収穫だった。NHKのテキストは番組とはまた違ったオリジナルの面白さがあり、つくづく今回買ってよかったと思えたのだった。

  • 「時をつぐむ旅人 萩尾望都」小谷真理・ヤマザキマリ・中条省平・夢枕獏著、NHK出版、2021.06.30
    170p ¥1,210 C9470 (2021.07.26読了)(2021.05.26購入)

    【目次】
    はじめに ここではない、どこかへ!
    『トーマの心臓』――小谷真理 (究極の愛と、解放される魂)
    『半神』『イグアナの娘』――ヤマザキマリ (実存の命題に迫る 母娘の寓話)
    『バルバラ異界』――中条省平 (現代の巫女が生みだした SFの枠を超える傑作)
    『ポーの一族』――夢枕獏 (ひとりではさびしすぎる 新たな旅の始まり)
    萩尾望都先生へリクエスト!
    萩尾望都スペシャルインタビュー
    萩尾望都 略年譜

    ☆関連図書(既読)
    「トーマの心臓」萩尾望都著、小学館文庫、1995.09.01
    「トーマの心臓」萩尾望都原作・森博嗣著、メディアファクトリー、2009.07.31
    「半神」萩尾望都著、小学館、1985.03.20
    「戯曲・半神」萩尾望都・野田秀樹著、小学館、1987.10.20
    「イグアナの娘」萩尾望都著、小学館、1994.07.20
    「バルバラ異界(1)」萩尾望都著、小学館、2003.07.20
    「バルバラ異界(2)」萩尾望都著、小学館、2004.04.20
    「バルバラ異界(3)」萩尾望都著、小学館、2005.01.20
    「バルバラ異界(4)」萩尾望都著、小学館、2005.10.20
    「ポーの一族(1)」萩尾望都著、小学館、1974.06.01
    「ポーの一族(2)」萩尾望都著、小学館、1974.07.01
    「ポーの一族(3)」萩尾望都著、小学館、1974.08.01
    「ポーの一族(4)」萩尾望都著、小学館、1976.02.05
    「ポーの一族(5)」萩尾望都著、小学館、1976.09.05
    「ポーの一族 春の夢」萩尾望都著、小学館、2017.07.15
    「ポーの一族 ユニコーン」萩尾望都著、小学館、2019.07.15
    「ポーの一族 秘密の花園(1)」萩尾望都著、小学館、2020.11.15
    ・ヤマザキマリ
    「テルマエ・ロマエ(Ⅰ)」ヤマザキマリ著、エンターブレイン、2009.12.08
    「テルマエ・ロマエ(Ⅱ)」ヤマザキマリ著、エンターブレイン、2010.10.05
    「テルマエ・ロマエ(Ⅲ)」ヤマザキマリ著、エンターブレイン、2011.05.07
    「テルマエ・ロマエ(Ⅳ)」ヤマザキマリ著、エンターブレイン、2012.01.05
    「テルマエ・ロマエ(Ⅴ)」ヤマザキマリ著、エンターブレイン、2012.10.05
    「テルマエ・ロマエ(Ⅵ)」ヤマザキマリ著、エンターブレイン、2013.07.04
    「国境のない生き方」ヤマザキマリ著、小学館新書、2015.04.06
    「for ティーンズ」ヤマザキマリ・瀬名秀明・若松英輔・木ノ下裕一著、NHK出版、2018.08.01
    「ナショナリズム」大沢真幸・島田雅彦・中島岳志・ヤマザキマリ著、NHK出版、2020.09.30
    ・中条省平
    「恋愛書簡術」中条省平著、中央公論新社、2011.12.10
    「アルベール・カミュ『ペスト』」中条省平著、NHK出版、2018.06.01
    ・夢枕獏
    「西蔵回廊」夢枕獏著・佐藤秀明写真、知恵の森文庫、2002.04.15
    「夢枕獏の奇想家列伝」夢枕獏著、NHK知るを楽しむ、2005.08.01
    (アマゾンより)
    少女漫画の概念を変えた稀代のストーリーテラー。その先進性と深遠な哲学に迫る!
    少女漫画史に燦然と輝くトップランナー、萩尾望都。半世紀にわたって、ファンタジー、ミステリー、SFなど幅広いジャンルを舞台に、実存、不条理、魂の救済、差別、家族の相克など普遍的な哲学的命題を提示し続けてきた。その深遠な世界観を、いずれ劣らぬ萩尾愛に満ちた4人の論者が語りつくす! 2021年正月に放送され反響をよんだ番組「100分de萩尾望都」待望のムック化。萩尾望都自身のインタビューも収載。

  • 11人いる!
    スターレッド
    バルバラ異界
    私の、モー様ベスト!

  • 四人の執筆者たちが萩尾望都の作品をとりあげ、その魅力を語っています。また巻末には、「萩尾望都スペシャルインタビュー」が収録されています。

    小谷真理が解説しているのは『トーマの心臓』です。小谷が主要なフィールドとしているフェミニズムとSFという二つの観点から考察をおこない、とくに美しい少年たちの物語としてえがかれたこの作品が、女性たちにどのように受け入れられたのかということが論じられています。

    ヤマザキマリが解説しているのは『半神』と『イグアナの娘』です。おなじマンガ家としての立場から、表現技法などに立ち入った話がなされるのかと思っていたのですが、むしろ作品のテーマを掘り下げる議論が展開されています。

    夢枕獏は『ポーの一族』をとりあげていますが、巻末のインタビューで萩尾自身が明かしているように、四十年ぶりに続編の執筆が再開されることになったきっかけを提供した人物ということもあって、この作品に対する愛があふれだしています。

    中条省平は『バルバラ異界』をあつかっています。フランス文学の研究者でありマンガの評論・研究も手がけている著者だけに、この複雑なテーマをもつ作品をどのように読み解くのか、個人的にもっとも関心があったのですが、いくつかの解読のための切り口が示されているにとどまっている印象です。本格的な評論を執筆してくれることを待ちたいと感じました。

  • 放送のまとめに、もーさまのインタビューもプラス。

  • お正月に放送された素晴らしい番組の本が出てたので買った!スペシャルインタビューも。じっくり読みますよ

  • 俄然、『ポーの一族』シリーズを読み返したくなる。
    そして読んだことのない、『バルバラ異界』が気になる。

  • 番組があったのを知らず、偶然本誌を見付けて愕然…。

    映像は見えないけれど文章でじっくりと味わいました。
    出演者の皆さまの愛と作者のインタビューを堪能いたしました。
    色々と再読したくなります。

  • (「ポーの一族」はファンからも続編を期待されていたが、もう描けないと言ってきた)「そんな中でも、夢枕獏さんは甘え上手で「ぼく、あの続きが読みたいな、読みたいな」ってまるで乙女なの。何年も会うたびにそんな風におっしゃるものですから、こんな親切な方の期待に応えられるといいな、と私もつい思ってしまったんですね。」
    獏ちゃんは「おぼえてるよ魔法使い」て言ってもらえた人なんだなあ。

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著者プロフィール

1958年富山県生まれ。薬剤師を経てSF&ファンタジー評論家。日本のコスプレの草分け。
日本SF作家クラブ会員。ジェンダーSF研究会発起人。2003年より日本ペンクラブ女性作家委員会委員長。
『女性状無意識』(勁草書房)で1994年度日本SF大賞受賞。
その他の著書に『聖母エヴァンゲリオン』(マガジンハウス、1997年)、『ファンタジーの冒険』(ちくま新書、1998年)、『おこげノススメ』(青土社、1999年)、『ハリー・ポッターをばっちり読み解く7つの鍵』(平凡社、2002年)、『エイリアン・ベッドフェロウズ』(松柏社、2004年)、『テクノゴシック』(ホーム社、2005年)、『星のカギ、魔法の小箱』(中央公論新社、2005年)など。

「2010年 『リス子の SF、ときどき介護日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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