黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ミステリ 1846)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150018467

作品紹介・あらすじ

霧深いエーランド島で、幼い少年が消えた。母ユリアをはじめ、残された家族は自分を責めながら生きてきたが、二十数年後の秋、すべてが一変する。少年が事件当時に履いていたはずの靴が、祖父の元船長イェルロフのもとに送られてきたのだ。急遽帰郷したユリアは、疎遠だったイェルロフとぶつかりながらも、愛しい子の行方をともに追う。長年の悲しみに正面から向き合おうと決めた父娘を待つ真実とは?スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀新人賞に加えて英国推理作家協会賞最優秀新人賞を受賞した傑作ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 四季シリーズの最後「夏に凍える舟」を読んだらとてもよかったので、改めて第1作の「黄昏に眠る秋」を読む。1年前に50ページ位でやめてしまっていたのがうそのようにずんずん読み進む。シリーズ最後の「夏に凍える舟」でイェロフ爺さんに親しみを覚えたので、老人ホームや別荘、ボートハウスが身近に感じたのかも。

    前回はイェロフ爺さんと娘ユリアの関係がどうもなじめなかったのだが、今回はそんなことはなく、幼い息子が行方不明になってずっとそこから立ち直れないユリア、どうか何らかの道筋を、と願いながら読んでいったのだが・・

    1972年9月、ユリアの幼い息子イェンスは霧の中、家から散歩に出てずっと行方不明のまま。20数年が経ち、イェロフのもとにイェンスのサンダルが送られてきた。そこでイェロフとユリアは心当たりの人物を訪ねて回る。当日、イェロフはいつもよりボート小屋で作業を長くしていた、ユリアの母は居眠りしてしまった、そしてユリアは本土へ出かけていた、と間が悪いことが重なった、その思いでユリアとイェロフの関係はずっと冷えている。そのユリアの心情が丁寧に語られる。

    ・・が、しかし。最後は、えっ? この人が? と思う着地。これは思いもよらなかった。自分のなかで決着をつけたかにみえたユリア、これからどうなるんだろう。


    物語は過去と現在が交互に語られる。これは「夏に凍える舟」でも同じで、というかシリーズ最後から読んでしまったので、最初からこの手法だったのだと分かる。島の土地持ちのカント一家とイェロフの家族が主軸。カント一家の息子ニルスの動向がニルス10才の1936年から語られる。このニルス、土地持ちの息子なので、その傲慢さがニルス自身の道を逸らせることになったのか。でもちょっとした間の悪さなのかとも思う。途中1945年の部分もあり、スウェーデンの第二次世界大戦での立ち位置からのエーランド島の出来事と島人ニルスのかかわり、というのが興味深い。

    訳文もいい。
    「Skumtimmen」(2007)の英訳「Echoes from the Dead」(2008)からの全訳。

    2007年発表
    2011.4.15発行 図書館

  • 大切な人の死を受け入れるまでの心の旅

    20年前突然の不幸で始まった「時」の重みが心の奥に染み付いた家族へ、片足だけの子供用サンダルが封筒で送られてきた時、再び迷いや悲しみが表に現れ、動き出す。

    そしてもう一つの旅、ニルス・カントの彷徨える魂が、物語を一層深くする。

    舞台となる「スゥエーデン エーランド島」は、バルト海に浮かぶスゥエーデンで2番目に大きな石灰の島で、観光と農業でなりなっている小さな地区
    (Wikipediaヽ(´▽`)/)
    物語にとって重要になる「石灰岩平原」は、日本の秋吉台(カルスト台地)を、
    「岩棚のある海岸」は、日本海特に越前海岸のような台地から切れ落ちて直ぐにある岩場の海岸線を、
    読みながら思い浮かべて、一緒に旅をしていた。

    夏には石灰岩の「白」と草原の「緑」、空の「青」が美しい避暑地が、秋になり台地は「こげ茶」に変わり、漂う霧で「白」と「青」は交わって色を失っていく。
    暗く冷たい北欧の冬の足音がひそやかに迫りくるころ、生を持つ者は油断するとすぐに死に呼び込まれる。

    ラストは悲しい、だからこそ人の強さが希望となる物語。

    これから1年かけて「冬」「春」「夏」をそれぞれの季節で読もうと思います。

  • 年も改まって、以前から気になっていた「エーランド島4部作」に手を出してみた。

    犯人探しの結末は、意外な犯人であったにせよ、やや稚拙に感じられた。何より目を向けさせる悪役の結末があれでは、はった伏線がやや反則気味だとも思える。

    「こっちに目を向けさせておいて、実は身近なこいつって怪しくない?」って結構早期に真犯人に疑いの目を向けてしまうのである。俺程度のミステリー読みに、そう思われてしまうのはちょっと難易度が低すぎるんじゃないかと思う。

    が、この作品の価値はそこではない。親子(娘)愛を基本に置いた人間ドラマ。スウェーデンの片田舎、本土と橋でつながっているとはいえ、離島である舞台の環境とともに生きていく人々の人間ドラマが実に良いのである。

    物語進行のリズム・流れもよい。ジェットコースター的展開のアクションサスペンスが乱造されるなかにあって、こういう悠久の時間とともにじわじわと進む物語というのは格別なものがある。

    ハラハラする心持はありながらも、ゆったりとした物語時間にゆだねる心地良さ。小説を読む醍醐味は緊張感を味わうだけではないんだなと思える。

  • 順番を間違えた、こちらが第1作目。おじいちゃん探偵の登場。というほど華々しくはなく、関係者として暗く重く関わっていく。現在と過去が絡み合って未来へ進む。じっくり味わえた作品。それにしても日本語タイトルの素敵なこと。

  • 二十数年前に失踪した少年の祖父の元に少年のものと思われるサンダルが送られてきた。
    少年の母親と祖父は長い断絶のときを超え、真相究明に乗り出す。

    主に事件を捜査するのは祖父なのだが、これが老人ホームに隠居の身で、病を得て儘ならぬ身体を抱えている。
    読んでいるこちらが心配になるほどなのに、事件の中心へとただ直向に突き進んでいく。
    この祖父が犯人ではないかと疑っているかつての犯罪者が、故郷を追われ、流浪の身となり、ついには故郷へ戻ってくるまでが交互に語られる。
    事件の真相が過去と現在から徐々に明らかになっていくあたり構成が巧いなあと思う。先が気になりとどんどん読み進んでしまった。
    そして犯人との対決を経て語られる意外な真相。
    これが結構意外で切なくて。
    その過去とそれっぽく張ってある伏線から事件にいっちょ噛みしているんだろうなとは思っていたけど、そんな絡み方をしてくるとは想像してなかった。
    静かな話なだけに、しみじみと読めたミステリだった。

  • 幼い息子が消えたことを二十年も悼み、塞ぎ続けることはいけないことなのだろうか。当事者でない者は前を向けと言う。死んだ人間もそれを望んでいるのかもしれない。暗くて陰気でいつもその話題ばかり。しかし、口に出して言えるのはその苦悩を知らないからだ。明るく振る舞っていても、暗く塞ぎ込んでいても、喪った悲しみはいつも心の底にある。ただそれが目に見えるか見えないかの違いだけで。事件が解決して、はい終わり、なら何も悩まなくて良いのに、無情にも現実は続く。息子が死んでいるのはとっくに分かっている、が心の何処かで生きていて欲しいと願い続ける母親。どうしてあの時家に居なかったのかと悩み続ける祖父。自分を責め続け死んだ祖母。後悔はずっと胸に存在して、自分自身を許すことが出来ない。単純な利権の問題に巻き込まれてしまった幼子。読者である私でさえ、思った。どうしてあの日に外出したのか。せめて別の日なら違う未来もあったかもしれないのに。真実が分かって一区切りはつき、父と娘の関係は修復された。それが最後に見えた希望であり、救われたと感じる。それでも胸の痛みは消えることは無い。ただほんの少し、軽くなっただけ。でも、母親にとっては前を向くきっかけにはなったはずだ、と思いたい。

  • 途中までペースがつかめず
    後半になるにつれピッチがあがって最後まで途切れなかった
    春夏秋冬の四部作らしいので、このあとが楽しみ!

  • 派手さはないけど、読後、じわ〜っと心に染み入る良さがあった。おもしろかった。

  • 何年か前に読んだが再読。
    全体のぼんやりした所以外、細かいところをかなり忘れていたので、また新鮮な気持ちで読んだ。
    秋だから相応しいかと思いましたが、エーランド島の秋は既に冬に近いものがありますね。
    このシリーズの全体に漂う静謐さのようなものがとても好きです。自分がせかせかしがちな人間なので、イェルロフのような人が身近にいてもらいたい。

  • あらすじ
    スウェーデン、エーランド島。夏には別荘地としてにぎやかになる島も、秋には人口が減り霧が深い。20年前、幼い少年が消え、母ユリアはいまだに立ち直れない。ところが、ユリアの父元船長イェルロフの元に、孫の靴が送られてくる。

    イェルロフが主人公かな。元船長で、なまってて、昔気質。老人ホームに入り、関節が痛む病気をなだめながら事件の真相を探る。力になってくれる友人も老人。島から逃亡した資産家の息子で犯罪者のニルス・カントの人生も織り交ぜながらじっくり読ませた。

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