猟犬 (ハヤカワ・ミステリ 1892)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150018924

作品紹介・あらすじ

〈「ガラスの鍵」賞/マルティン・ベック賞/ゴールデン・リボルバー賞受賞作〉過去の事件での何者かによる証拠捏造が発覚。停職処分を受けた警部は記者の娘と真相を追う。ノルウェーの警察小説

感想・レビュー・書評

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  • 警部ヴィスティングのコールドケースカルテットを読み進める前に、一旦著者ヨルン・リーエル・ホルストの本邦初訳だった本作品を。
    とはいえ本作もヴィスティングシリーズの第8作目とのこと。
    『カタリーナ・コード』がシリーズ何作目なのかは手元の情報だけではわからないが、是非ここまでの、そして歯抜けがあるのであればその作品達も邦訳して欲しい作家の一人だ。

    『カタリーナ・コード』に始まるコールドケースカルテットは過去の未解決事件をヴィスティングが解決していく展開が特徴的な4部作だが、本作は過去の解決済事件に端を発する物語。
    17年前に少女誘拐、監禁、殺害、死体遺棄の罪で有罪となり服役していたハーグルンは、半年前に釈放され、当時の証拠は警察に捏造されたものだとの訴えを起こした。
    当時の責任者は若き日のヴィスティング。
    メディア慣れしているが故に、疑念に対して手のひらを返したように大々的に報じる新聞各社。
    挙句の果てに副署長からは、当時の責任者ということで引責停職を命ぜられる。

    あの証拠は捏造だったのか。
    ハーグルンに科された罰は冤罪によるものだったのか。
    過去の捜査資料をつぶさに見直し、捏造したとしたら誰が?、ハーグルンが犯人でない可能性はあるのか?を北欧ミステリらしく、しっとりと着実に紐解いていく。

    あくがなく、懐が深く、終始冷静で内省的なヴィスティングがかっこ良く好感度大。
    自分的にはノルウェー版ジミー・ペレスといったところ。
    また、新聞社に勤める娘リーネを信頼し、ときに2人3脚のような形で事件と向き合っていく姿も微笑ましい。
    リーネはどちらかというと行動派で、危なっかしいところもあるのだが、それを否定することなく、むしろ自分にはない資質的に捉えているところなんかも清々しい。

    騒動の結末は、おぉそっちとそっちで落とすかという感じで意外とまではいかないものの、ありきたり感はなく最後まで楽しめた。
    さて、コールドケースカルテットは『鍵穴』まで読んでいるので、次は『悪意』。

  • ノルウェーの現役警察官(当時)による警察小説。

    17年前に起きた20歳の女性の失踪・殺人事件の犯人として服役した男が、犯行の決め手となった証拠は捏造されたものだったと訴えてきた。当時捜査の指揮を執ったヴィスティング警部は、その責任を負い停職処分となる。捏造した犯人を捜しだして身の潔白を証明する必要に迫られたヴィスティングは、新聞記者である娘のリーネと共に17年前の事件を再捜査する。

    違法捜査が繰り返されるハードボイルド系は苦手なのだけれど、本書は現役警察官が書いた小説だからか、主人公の捜査は地に足がついていて安心して読み進められる。
    一方、ヴィスティングと交互に語られるリーネのパートでは、彼女の新聞記者という身軽さを活かしてアクティブな調査が繰り広げられ、読者の気をそらさせない。
    地道に情報や証拠を積み上げ、精査していく「静」のヴィスティングと、鋭い直観と自由な発想で身軽に動き回る「動」のリーネ、という対比が物語に緩急をもたらし、バランスのよい作品となっている。

    物語は、17年前の失踪・殺人事件と証拠を捏造した犯人捜しを軸としながら、現在進行中の少女の失踪事件とリーネが遭遇する男性の殺人事件が同時並行で進んでいく。これらの事件は次第につながり、すべての謎の解決へと結びつくのだが、話の進め方が秀逸で、続きが知りたくて頁をめくるスピードがどんどん早まっていった。
    さらに、過去の捜査を顧みて葛藤するヴィスティングの心情や、捜査が進むにつれ変化する恋人スサンネとの関係性なども丁寧に描かれ、物語に奥行きを与えている。

    本書はシリーズ8作目だが、日本での翻訳はこれが第1作目だそうだ。刑事ヴィスティングシリーズとして続編が次々と刊行されているので、楽しみに追っていきたい。

  • どっかで聞いた登場人物だなと思ったら、8/17に読了したヴィスティング警部シリーズ。
    https://booklog.jp/item/1/4094066543

    この「猟犬」は「カタリーナ・コード」より何年さかのぼるのだろう?
    娘リーナはまだ子供いないし。父親も生きている。
    妻とは死別して、付き合い出したスサンネはカフェを出して、そっちの方が生甲斐になってしまい気持ちもすれ違ってきた。

    そんな中で過去の事件の証拠捏造疑惑で窮地に陥る主人公。
    事件や、降りかかった疑惑を解決することは出来るが、人生の秋、ほろ苦な結末が待っている。

    Amazonより------------------------

    証拠捏造疑惑をかけられた刑事は、名誉をかけて事件の真実を探る。
    北欧のミステリ賞を独占した傑作警察小説。

    17年前の誘拐殺人事件で容疑者有罪の決め手となった証拠は偽造されていた。
    捜査を指揮した刑事ヴィスティングは責任を問われて停職処分を受ける。
    自分の知らないところで何が行なわれたのか? 
    そして真犯人は誰なのか? 
    世間から白眼視されるなか、新聞記者の娘リーネに助けられながら、ヴィスティングはひとり真相を追う。
    しかしそのとき、新たな事件が起きていた……。
    北欧ミステリの最高峰「ガラスの鍵」賞をはじめ、マルティン・ベック賞、ゴールデン・リボルバー賞の三冠に輝いたノルウェーの傑作警察小説

  • くたびれた中年オヤジの刑事が登場する警察小説が好きである。本書は北欧ミステリの最高の栄誉であるガラスの鍵賞を受賞した、間違いなく面白い作品。ヴィリアム・ヴィスティング警部を主人公とするシリーズの8作目で、本邦初登場である。少し前の刊行でその時は手に取らなかったが、今年になってドラマ化され、なぜか版元を小学館に変えて過去のシリーズが続々と刊行されており、見過ごせなくなった。

    物語の発端は17年前の女性誘拐殺人事件。ヴィスティングはこの事件の捜査指揮をとり、犯人逮捕に至ったが、ここにきてその証拠が捏造されたものだったという告発をされてしまう。マスコミに叩かれ、停職扱いとなり、苦しい立場に追いやれられるヴィスティング。次第にパートナーとの関係もギクシャクし始める。自分は間違ったことはしていない。だが、あの逮捕ははたして正しかったのか。仲間内に違法な捜査をした者がいたのか。ヴィスティングは自ら過去の事件の再点検を始める。彼の葛藤が丁寧に描かれ、派手な描写はないが、ストーリーに説得力がある。徐々に引き込まれていく読書感が心地よかった。

    ヴィスティングには新聞記者の娘リーネがおり、自分の属するマスコミが父親を窮地に立たせていることにいたたまれない思いでいる。リーネが別の事件を追いかけるサイドストーリーが挟まれ、それが物語に深みを与える。

    ただ、気になったのは、この娘の存在。協力を申し出るリーネにヴィスティングは捜査資料を渡してしまうし、情報も開示していく。リーネはリーネで父親宛に関係者が残した証拠を勝手に受け取って中身を確認してしまう。2人の間で特に問題にはなっていなかったが、そんなのあり? ノルウェー的にはOKなんだろうか。謎。

    とはいえ、全体的に期待を裏切らない面白さ。というわけで、小学館からのシリーズも入手して読んでいこうと思う。

  • 「ガラスの鍵」賞を受賞した、ノルウェーの警察小説。
    手際のいい書きっぷりで、スリリング。
    楽しめました。

    ヴィリアム・ヴィスティング警部は、警察勤務31年のベテラン。
    17年前の事件で証拠捏造があったとある日突然訴えられ、停職になってしまう。
    捜査権もない立場で、自らの無実を立証できるのか‥?

    娘のリーネは新聞記者になって5年。
    ある事件の取材中、父の危機を前もって知り、特種をとろうと必死になっていた。
    それぞれに限界はある身だが、真相を突き止めようと協力し、離れていても支えあう父娘。

    ヴィスティングは長く連れ添った妻をなくし、その後に思いがけずにスサンネという恋人が出来た。
    だが、スサンネは店のほうが大事らしく、こちらはどうも隙間風が吹き出しているよう‥?

    17年前の事件というのは、少女失踪事件。
    ヴィスティングが初めて捜査の指揮を執った事件だった。
    そして、今もまた少女が行方不明となり、その捜査に加わることも出来ない‥
    飽きさせずに動きがあり、絡み合う事件が思わぬところから手がかりを見せる。
    リーネの応援や旧い仲間との繋がりが、道を切り開いていきます。

    作者は1970年生まれの警察官。
    2000年に作家デビュー。2012年のこの作品が8作目で、このときまでは警察に勤めていたそう。
    北欧のミステリに与えられる最高の賞であるガラスの鍵賞をはじめとする賞を独占した高評価なのも、うなずけます。

    ヴィスティングは作者よりも一回りぐらい年上ですね。
    理想の警部像なのかな。
    この現実味と渋さがなかなか魅力的なシリーズ。
    他の作品も読んでみたいです!

  • 初めて読む刑事ヴィスティングもの。
    17年前のセシリア誘拐殺人事件、犯人は捕まったが、今になって当の犯人が弁護士を通じ、証拠が警察によって捏造されたと訴えを起こす。そのスクープ記事を載せるのがヴィスティングの娘が記者をしている新聞紙。はたしてヴィスティングは停職処分となってしまう。

    では一体真犯人は別にいるのか? ヴィスティングは17年前の調査書類や退職した当時の警官も訪ね真実を追求してゆく。そこに娘も記者として事件を追ってゆく。おりしもまた男性の殺人事件と、またしても女性の誘拐事件も起きる。事件がつながってゆく過程がなかなかおもしろかった。ヴィスティングの人物像も好感が持てた。地図もついているので、グーグルでまた検索して画像を見ながら読む。

    ヴィスティングは過去の書類のコピーを自宅に持ち帰っている。別な書類は書庫に忍び込んで持ち出しているが、基本書類のコピーは堂々と持ち帰っている。これってあり? モースとかボッシュとかイギリス、アメリカの刑事ものみてると今調べている事件の書類を自宅に持ち帰っている場面がけっこうある。これってありなのか? ドラマとはいえ気になってしまった。

    オスロ、ヴィスティングのいるラルヴィク、そして関係者を追ってスウェーデンヘ、なんとヴァランダーのいるイースタも出てきたのでおおっと感動してしまった。


    2019年にノルウェーでドラマ化されていた。

    2012発表 ノルウェー
    2015.2.15発行 図書館

  •  17年前の証拠偽造の責任を問われて停職処分になったヴィスティング刑事が新聞記者の娘と共同して真実を暴く物語。休日中や停職中の刑事を主人公にしたミステリというのは、それがシリーズ作品であったりすればなおのこと個性的なストーリーになることが多い。停職により、銃器やバッジを携帯していなかったり、警察署の資料を公的に漁ることができなかったり、底意地の悪い上司の妨害に合ったりするのが定番だからだ。

     いわゆる普通の捜査ができずハンディキャップを背負っている刑事である。しかも自分を罪に問う疑惑を、その逆境から自力で救い出さねばならない。主人公であるヴィスティングはノルウェイでは人気のシリーズでありながら、初の邦訳となる。北欧のミステリに掲げられる栄冠『ガラスの鍵賞』を獲らなければぼくらの眼に触れることは未だなかった作家であったことだろう。賞の意味は主に海外ミステリ市場が活発とは言えない日本の餓えた読者にとってはとても大きい。賞さえ取れば出版社は翻訳に漕ぎ出す。

     さて本書の構成であるが、反骨の気概たくましいベテラン刑事の孤立した捜査を表し、『ダーティ・ハリー』ばりのオーソドックスを基本とし、さらに連続少女誘拐の過去そして現在とタイムリミット型追跡エンターテインメントとしてまさに王道。さらに主人公の脇を固める娘、恋人、元同僚らと、それぞれの距離感も絡んでくる中で奇をてらわず地道なストーリーテリングに終始する本物志向の好感溢れる索引となっている。

     主人公と娘リーネのコンビネーションもよく、とりわけスリリングな活劇の半分以上はリーネとその仲間たちに持って行かれているくらいである。新聞社では娘もまた直属上司との軋轢の中で実力を発揮、仲間たちとともに胸のすく活躍を見せてくれる。

     逆境から逆転に向けて様々な困難を跳ね除けて真相に迫り、悪という悪を根こそぎにしてゆこうという、まさに警察小説の鉄板ストーリーであり、ノルウェーという遠い遠い国の中で進んでゆく展開ながら、安心して身を委ねられる重量感を持ち合わせている。スピードと重さと人間たちの魅力とどれを取っても一級品の娯楽小説。これを機にヴェスティング刑事シリーズの翻訳がさらに進むと嬉しいのだが。

     また北欧ミステリは今やブランドとも言えるほど信頼性のおける作家・作品の目白押しである。しかしノルウェイはその中でもかなりマイナーな部類だろう。この作品をきっかけにフィヨルドを背景にした珍しいミステリが、続々日本に紹介されることを願ってやまない。

  • ノルウェーミステリ。
    北欧独特の重苦しい感じはなく、非常に読みやすかった。
    刑事の父親と新聞記者の娘。この二人の関係が実にドライで、なのに相手を思いやる気持ちがしっかりと根底にあり、ものすごくいい!
    お互い自立していて、1対1の人間同士って感じで妙に新鮮。
    事件捜査に各々の立場から挑むことで、事件が多面的に描かれる。これも効果的。
    事件の真相とかではなくて、きちんと事件を追うミステリ。シリーズ8作目というのが全く気にならなかったし、むしろ続きを! ここまでの7作を!激しく希望。
    いや、コレいいよ。

  • 図書館で。
    警察内で証拠物件の改ざんというか不正が行われたという事で矢面に立たされる警部。というか、ここでマスコミに追い掛け回されるのが捜査本部のトップというのがお国柄の違いかな、と思ったり。日本だと殺人事件の捜査責任者って表に出てこなさそう。

    娘さんの追っかけていた事件とリンクしているのはちょっと出来すぎ感はあるけれども、立て続けに死人が出たりしないのはこのシリーズ良いなと思う。

  • 17年前の誘拐殺人事件で容疑者有罪の決めてとなった証拠は偽造されていた。捜査を指揮したヴェステイングは停職処分を受ける。同じ頃、新聞記者をしてるヴェスティングの娘リーネは殺人事件を追う…。
     渋いわー。なんか落ち着いた大人のミステリー。シリーズの途中らしく、登場人物の前の出来事も踏まえて描かれている。ラストが気になるのに、ゆっくり読んだ。

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