聖なる侵入〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-29)

  • 早川書房
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本棚登録 : 163
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150119881

作品紹介・あらすじ

外宇宙で生を受けたマニーは、地球に帰還。謎の少女ジーナと出会い、覚醒していく……

感想・レビュー・書評

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  • 〈ヴァリス〉三部作の第二弾。
    難解な神学談義が続いた前作に比べ、まずSFとしてストーリーを楽しめたのが大きい。辺境惑星、冷凍生命停止、巨大人工知能システム、飛行タクシー、スマホ(のような端末)などが存在する未来世界の中での、『覚醒』をめぐる宗教的・スピリチャル的な物語。難しそうに思えるテーマだが、文章も読みやすく、筋運びそのものが素直に面白かったといえる。その上で、聖書の世界観を通じて語られる「世界」「神」「人」などについての論議は学ぶことが多く、たくさんのメモを取りながら読むことになった。自分はやはり知識が追いつかないところもあったが、聖書に興味がわき読みたくなったことがかえって嬉しい。
    さらに良かったのが、巻末の訳者あとがきがとても秀逸なこと。作品の全体像をわかりやすく再確認させてくれる上、これだけでひとつの読み物になっていて面白かった(※ネタバレ全開なので先に読む場合は注意)。
    ディック教?における、ある種の到達点といえるだろうか。個人的にかなり収穫のあった一冊。

  • ヴァリス3部作の2作目。
    わりとSFっぽいつくりになっている。

  • ヴァリス2

  • 【ノート】
    ・ヴァリス三部作の2作め。本作は一番ちゃんとSFしてる。他の惑星も出てくるし、超越的存在も出てくる。未来世界も面白く描かれてる(「キリスト・イスラム協会」なんてのが世界を牛耳ってる)。
     前作でその存在を提示されたヴァリスも出てくるし、作品としてまともにまとまっている。

     ただ、ラストの解釈はどうしたもんなんでしょうかね?

    【目次】

  • ヴァリス3部作の中では一番わかりやすかった。他の2部作は妄想や雑談が大半で、これ小説なのかといった感じだったが、今作は一応物語の体をなしていたと思う。

  • 2017/2/28購入

  • 新訳版の第二部。
    巻末の解説によると、本書が、三部作の中で最も『SF』であるらしい。が、読んでみると、第一部よりもこちらの方がよっぽど宗教的に感じられる。第一部の神学論争がちょっとぶっ飛びすぎ……というのも理由のひとつだろうかw

    余談だがこの解説がベリアル視点のエッセイ風の一文で、面白かった。

  • 辺境の惑星で引きこもり暮らしをしていたハーブ・アッシャー。処女懐胎し聖なる息子エマニュエルを授かり邪悪なゾーンに覆われた地球に向かうライビス・アーミーの手助けをすることになり、ライビスの夫になり行動を共にすることになる。しかし地球行きの際の事故でライビスは命を失いエマニュエルは記憶を失うが、特殊学級で出会った少女ジーナによって自らの役割に気づきはじめる。やがてエマニュエルとジーナは世界救済を巡ってハーブの現実に介入することになる・・・。

     エマニュエルとジーナがハーブの人生を素材に実験する、という枠組みがポイントになるので(解説の序盤でもふれられていて)重要なのだが、これがよく分かりにくくとまどった。ハーブはエマニュエルの仮とはいえ父親で(蒲田行進曲のヤス?)恩人なわけで、聖なる役割を担う人のはずなんだが、その人を実験の素材にするというのがちょっと変。さらにエマニュエルやジーナは当然ハーブの関係者なので、二人が介入しているハーブの現実にも度々二人が登場して読者として混乱した。例えば人間が小さい世界の支配者として介入するSFの古典『フェッセンデンの宇宙』だったら介入する側と介入される側の現実は完全に分断されていて、混在することはない。
     と少々読みにくい小説だったが、解説と小説をいったりきたりしていくうちにディックらしさが各所に感じとれるようになり最終的には面白く読み終えることができた。枠組みとしては上記のようにはなるんだけど、ディック流のダメ人間小説としては全然違う話になる。ディックの多くの小説に出てくるダメ人間の一人であるハーブは気の弱さから、世界の善と悪の闘いに巻き込まれてしまう。半信半疑の彼だったが、世界の真実が大好きな歌手リンダ・フォックスの歌にこめられていることを知り、覚醒しはじめる。やがて(これはエマニュエルとジーナの実験でしかないのだが)彼はリンダ・フォックスと会いことになり、ますます彼女に惹かれていくことになる。その結果、(実験中の現実ではまだ生きている)妻ライビスと不仲になってしまう。といった、世界の真実というスケールの大きい世界と煮え切らない三角関係という小さい個人的な世界が電波的な啓示(と前のめり気味の神学論議)でつながるいかにもディック的な小説なのだ。さらにリンダ・フォックスには作者自身のお気に入りと同じリンダ・ロンシュタットの名前が当たられているばかりか、作中にもリンダ・ロンシュタットが登場してしまうアンバランスさもらしいというか脱力してしまう(もしリンダ・フォックスが作中でリンダ・ロンシュタットの化身であるなら、リンダ・ロンシュタットの名前を普通の作家なら出さないように思う)。一方神学論議は元々得意ではないのでそれについてのことはおいておくと、作中の<ヴァリス>の言葉が何度か登場するものの、『ヴァリス』とのストーリー上の結びつきは直接あるとは感じられなかった。
     神学論議についてはどうしても集中できずその部分でのディックはいまだに測りかねているのだが、ディックのダメ人間には共感するものが常にある。多くの人は世の中に出て生きていくうちにいかに自分の人生がままならないものかを思い知らされるが、かといって悟りを開くほどの高潔な人物になるわけでもなく、グズグズと過去を悔んだり小さいことに慰めを得たりしながら日常をやり過ごしているのではないか。そんな人も第三者からみれば何らかの考えの偏りを持ち自己流神学にハマり込んで抜け出ることができなくなったディックとさほど変わりがないかもしれない。そんなことを考えながらディックの小説を読んでは「こいつらダメだなあ(苦笑)」などと思う。最近はそんな風にディックとつきあっているのである。

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