薔薇密室 (ハヤカワ文庫 JA ミ)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (638ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310646

作品紹介・あらすじ

第一次大戦下のドイツ・ポーランド国境近く。脱走兵コンラートは古い僧院に身を寄せる。そこでは所有者のホフマン博士が、人間と薔薇を融合させる常軌を逸した実験を行なっていた。コンラートはある思惑のもと、博士に協力を申し出る…。そして十数年後、ナチス・ドイツの弾圧から逃れたポーランド人の少女ミルカが見た、僧院の恐るべき真実とは?戦争と美への欲求という人間の深い業を流麗な筆致で描く歴史ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • なんて美しく、退廃的で、歪んだ世界!
    「死の泉」同様、どっぷりと皆川ワールドに浸ってしまいました。

    美青年を薔薇と結合させ、永遠の美しさを保つ。
    「死の泉」で、少年の美声に異常なまでに執着した医師を思い出します。

    夢と妄想と現実。読んでいるうちにその境目が曖昧になる。
    何冊か読んできましたが、皆川さんの真骨頂はそこなのかな、と。
    美しい悪夢のような物語に溺れてしまいそう…

    一読しただけでは、とても理解できたとは言えませんが、
    幻想的な世界観をたっぷりと堪能できました。

  • 美しい悪夢の中を存分に彷徨った。これほどの没入感を読者に与えられる作家はそうそういないだろう。まさに小説を読む醍醐味。これは、耽美な妄想と厳しい現実が入り混じり溶け合う作品だ。物語を必要とする人々に、幸あらんことを。

  • 3時間越えの重厚な映画を観たあとのような読了感。それなのに全く長さは感じず、先が知りたくて一気に読み進めてしまった。戦争のどさくさに1人の男が作ろうとした幻想世界に取り込まれてしまった人達の物語。

  • 馥郁、芳醇、妖艶、幻惑、眩惑。薔薇を彩る形容詞ばかり読後感としてふさわしい。

  • 悪夢のように恐ろしく、どこまでも美しく、そしてどこか哀しい。「物語を必要とするのは、不幸な人間だ。」と記したのはヨハンネス・アイスラー(ヨハン!ヨハン!)だが、その一文は作中の世界のみならず、薔薇密室という物語を今まさに彷徨っている私たちにも突き刺さる。…でもこの物語を読むためなら不幸であることすら構わないと思ってしまうほどの背徳的な甘美さに酔う幸福が、この物語にはある。

  • 何処までが現実で、何処までが幻覚、或いは妄想なのか…。
    色々な物の境界線が曖昧で、知りたくてどんどん引き込まれていきます。
    最初は倒錯的な嗜好の男性が語り手となっている所為か、
    一寸読みにくかったですが、視点が切り替わる事で、
    ぐっと作品に惹かれます。
    耽美、退廃、背徳、戦争…沢山の要素がぎっしり詰め込まれていて、
    濃厚且つずっしりと感じる物語。
    今年読んだ中で1番じゃないかと思う作品でした。
    詠み手は選ぶかもしれませんが、好きな人はどっぷり嵌れます。

  • 初皆川作品。圧倒され、惑乱させられた。次々と語り手が交代していくことにより、たった今まで現実と思って読んでいた物語が虚構に切り替わり、そして次に読んだ物語も虚構へと……、現実との境界が分からなくなっていく。どれも完結しない物語。登場人物が感じる混乱が私にも伝播し、酔う。ミステリ作品として、最終的には現実が提示されるわけだが、それでも残されたひと筋の非現実-詳細は伏せる-により、この惑乱は解けずに終わる。

    薔薇の僧院。薔薇と人間を合体させる狂気の研究。男娼と黴毒。姉の美しい恋人。美しき劣等体。ナチとSS。重厚な文体。出てくるモチーフは確かに倒錯、耽美なのだが、そこには頽廃のような爛れた空気よりも、「業」という名の毒と閉塞さを感じた。(それにしても、ドイツ語の響きの耽美に聞こえることよ。)

    作中で繰り返し唱えられる「物語を必要とするのは、不幸な人間だ」という一文、これが本作品が投げかける「業」の主たる要素だと思う。舞台は第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけてのドイツとポーランド。ドイツ第三帝国というヒトラーの大きな物語、ここを舞台に更なる自分の物語を紡ごうとする登場人物。そして読み手たる私はこれを一つの物語に構築しようと試みる。つまるところ人間は皆不幸なんだな。

    確かに見た目は"厚い"けれど、決して"長く"は感じない一冊。

    (ちょと苦言、冒頭の小序、これは最後に持ってきて欲しかったなぁ。恐らく救いになっていると思われるが、ほとんど結末を提示しているに等しいので。結末ももうひとひねり欲しい気はした。)

  • とても良い香りで、味も抜群の料理を食べていると、不意に奥歯で砂利を噛んでしまった。

    温かくて手触りの良いストールを巻くと、ちょうど首の後ろの部分にに何かの棘がついていた。

    靴に入り込んだ小石。

    わずかに漂ってくる悪臭。

    そんな決定的に不愉快だとは云えないまでも、落ち着かない気分になる物語。

  •  第1次世界大戦から第2次世界大戦にかけてドイツ・ポーランドの国境近くの修道院で行われた秘密の実験。
     
     脱走兵に、ポーランドの少女、修道院の作男、と、語り手は変動していく。でもって、どれも<信用のならない語り手>なのだ。
     なので、翻弄され困惑し、気がつくとがっつり世界に取り込まれている。

     にしても、薔薇と人間を融合させるという実験が、あの病気の治療云々につながっていくとは…。
     とはいえ、まぁ、どれもこれも共感できない人物のオンパレードで、ある意味、人間の基本的な嫌な部分、というか自分自身が嫌悪していることを凝視させられる気になる。
     やっぱ、怖いです、皆川博子。

     でも、癖になる面白さ。

  • ずいぶん前に読んだものの再読。
    前半部分しか憶えていなかった。
    それと、「物語を必要とするのは、不幸な人間である」という、ものすごく印象に残っている言葉を知ったのは、どうやらこの本だったらしい、ということがわかった。
    ミルカとユーリクは、最後に薔薇の僧院で再会するように記憶していたんだけど、ぜんぜん違った!それこそ私の脳が勝手につくった物語だ。
    前半をよく憶えているのは、私の好きな「物語」だからだろう。薔薇の咲き乱れる僧院という箱庭、アンネの日記のようなミルカの生活、いい人そうなホフマンさん。

    最終的に、ミルカとユーリクは「現実」へ戻っていく。
    ヨリンゲルたちは僧院に残るけれども、それは「物語」ではなく、続いていく「日常」だ。
    ナタニエルだけが、「物語」を追い続ける。

  • 始めスゴいファンタジーで、ヤバかったけど、やっぱり半ばくらいから引き込まれていった

  • 視点が変わるごとに、ああ、そうなのかと。世界と世界が繋がった瞬間にああ!あなたはそうなのか、と思った。はじめのコンラートの話がありえないほどに非現実的だったのも腑に落ちました。

    終わりはヨリンゲルの語りで締め括られるのだけど、敢えてミルカを止めなかったのは、どこかでその惨状を乗り越えられるだろうと思ってるのだろうか。ミルカとユーリクを再会させてあげたかったな。

    そして新たな創造世界を求めて狂気の支配者は南米へ。誰かに悪夢の種を植える所業は続けられるわけだね。

    身体は大人で心は子供のナタニエル、身体は子供で心は大人のユーリク。対照的な二人にそれぞれの形で愛されたミルカ。

    どっぷりと皆川博子さんの世界を堪能しました!

  • 死の泉という作品を読んだあとに、こちらの作品にあたりました。
    第二次世界大戦前後のドイツ、マッドサイエンティスト、政治や社会から隔絶された不気味な空間、登場人物たちそれぞれの運命の糸が絡み合うドラマチックな展開、などなど、死の泉と共通点がいくつもあるものの、ここでは全く異なる世界が繰り広げられ、新たな感動を得られました。こんな充実感に浸れる作品は中々出逢えません。

    長年にわたりソ連やドイツはじめ周辺国に翻弄され続けているポーランドのことも詳しく知ることが出来ます。なぜドイツとポーランドを舞台にしたのかは、最後まで読めば理解できるようになっています。勘のよい方は、もしかしたら結末を予想できるやもしれません。

    一番素敵なポイントは、主人公のうちの一人(この作品は見方によって主人公が変化します、そこも見所です)である、ミルカという薄幸の少女の内面描写です。
    彼女の持つコンプレックス、恋への憧れ、健気さ、打算、家族への愛と本心、、様々な場面でミルカ自身が語ります。女性の方なら特に、ミルカの、ユーリクに対する自然な愛情と、一瞥しかしていない端正なヨアヒムに対する盲目的な恋慕が共存する複雑な乙女心に、グッと来るかもしれません。
    大抵の人が直視したくないような自分の弱さや醜さを、よくもまぁこんな自らえぐり出してくれるな笑、とツッコミも入れたくなるのですが、これだけ描写してくれるからこそ、最初から最後まで彼女のことを自然と応援したくなり、結果どんどん皆川さんワールドにはまりこんでいくことになります。
    皆川さんは、極限状態にいる人間のなかの美徳&悪徳をほんとうに違和感なく表現してくれるので、どのキャラクターも厚みがあります。なぜこのキャラクターがここでこんな行動をとるのか、ちゃんと筋が通っています。万が一わからなくても、読み進めれば必ずや理解できるよう仕掛けています。そのため、
    [なんだこのキャラ、ウザいな。このキャラは嫌い]
    と感じることは基本的にないと思います。
    読み進めるほどに、何が真実で何が夢想なのか、今どこの視点にたってる描写なのか、徐々に倒錯していく耽美な混沌に、溺れること間違いなしです。
    是非手に取ってみてください。


  • とっっっっても良かった。
    図書館で借りてるんだけど、読み終わって速攻楽天でポチりましたわ。

    あらすじ通りの話かとおもったら…見事に騙された。
    非常に濃密な読書体験。まだ、この世界から出たくない。

    コンラートパートは、クセの強い主人公だな〜という感想で、フムフムと思って読んでた。
    続いてガラっと変わって子供たちの話になると、はてなが飛びまくる。
    ミルカパートから物語にぐんぐん吸い込まれて、途中「え!?私が今まで読んでいたのは何…?」となる。ミルカと一緒に疑心暗鬼になる。

    後半のミルカは本当にかわいそうでかわいそうで辛かったけど、ヨリンゲルの幸福度は高まっていって見てるこっちがしあわせになる。
    ヨリンゲルもミルカもユーリクも、とっても魅力的で大好きになる。

    尻切れトンボとか噂を聞いてたけど、私的にはそんなことなかったな。ちょっと切なく、でもしあわせもあり、良い終わり方だった。
      

  • とても面白かったです。仄暗い世界観にひきこまれ、くらくらしながら読みました。どこまでが幻覚なのか、正気の在り処を見つけられませんでした。戦時下の描写は胸に痛く、皆川さんにしか描けないだろうなと思ってしまいます。薔薇と若者や少年の融合も狂気的でしたが、綺麗だろうな。幻想的な物語でした。

  • 長編ゆえに一気には読めず、また所用もあったので読了まで1日かかったのだが、作品に触れていない間のおそろしさといったら……! 何が現実で何が嘘なのか、あるいは、用意された虚構なのか狂気なのか。混乱・混線し、作品世界から帰ってくることができず頭をぐるぐるさせていた記憶がある。しかしこのような混乱(人間が、知恵をめぐらして建てた秩序が壊れた状態)こそが逆にたしかなものなのかもしれないと思う。「なにもない状態が「ある」」というように。時代に、なんらかの理由で(環境や信条、性質など)置き去りにされることを考えたとき、以前読んだキーンの著作を思った。

  • 美しいバラの花と腐乱した死臭、
    生きた精液がかおるような妖しい序盤の物語から一転、
    謎の語り手の物語に。
    そして、語り手は少女に移り。
    物語は視点を変えながら、事実か創作か幻覚か夢想か
    あやふやになる記憶と現実が、ミステリーの騙しの
    ためではなく、この物語の世界として溶け合い
    一気にラストまで読み手を導いていく。
    そして、それまでの世界を一気に転換してしまう
    ような最後の最後。人が現実の中で
    爽やかな愛を胸に力強く立ち上がる姿よ。

  • 弟に借りた本。

    最初は何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。
    一度挫折して、少し寝かしておいて、数カ月後に改めて読了。

    幻想なのか、現実なのか。
    繋がるとは思えなかった人間が繋がっていく。
    今はいつなのか、これは誰なのか。
    難解な小説だったが、最後にはすっきりと読み終えられたのが不思議。

  • 皆川博子の作品は、作中小説が出てくる複雑な構造になっているものが多いですが、その中でもこれは白眉じゃないでしょうか。めまぐるしく入れ替わる語り手、謎の手記、誰の書いた物語なのか、どこまでが真実で、どこからが虚構か、どこまでが現実で、どこからが妄想か、とにかく最後まで翻弄されまくりました。

    作中でヒロイン自身が何度か思うように「カリガリ博士」的な、誰が本当の狂人かわからくなる怖さ(日本でいうならドグラマグラ的な)。あやしい実験をしている博士の一族の名前が「ホフマン」なのも象徴的。ナタニエル・ホフマンの「ナタニエル」は、「砂男」で狂気に陥る主人公の名前だし。

    ナチスドイツの時代、薔薇の僧院と薔薇の士官、集められた奇形の子供たち、と、作者のお得意の耽美的モチーフ満載なのだけれど、読後の個人的印象は、「雪の女王」。ヒロイン自身が、自分をゲルダになぞらえていたことで(童話のように少年を救い出すことはできなかったけれど)、アンハッピーエンドの純愛小説のような余韻が残りました。

  • 面白い。
    読者に驚きを与えるために綿密に練られた文章と感じた。騙されたい、筆者の思うままに身を委ねたいと思った。
    幸せのような不幸のようなふわふわとした気持ちのまま最後まで読み進み、小序を読み直して、ガイドの名前と語る内容を見てミルカの幸福な一生を感じて読了した。 小説でしか味わえない驚きがあるのがとても好き。

  • すばらしい。頽廃が醸し出す芳醇な香り、現実と虚構のあやふやな境界で私の三半器官は狂いっぱなし。美酒に悪酔いした気分。それでも現実を本当のことを知りたいと渇望する登場人物の心根があるからこの小説は退廃しない。実は生きるための物語。複雑なプロットの繋がりやミステリーとしての謎解きも見事。贅沢すぎる一冊。

  • 読み始めると、いつの間にか巨大な迷路に飲み込まれてしまったような感覚。現実なのか夢なのか、はたまた他者に操作された記憶なのか、アイデンティティという物が頼りなくなって来る。過去と今、彼方と此方が離れた点から次第に近づき交差する巧みさ、濃密な香りが纏わりつくような空気感は、皆川さんにしか出せないでしょう。「すごい、すごい、すごい!」だけで既読者の間では意味が通じるかもしれませんw。

  • 皆川博子の世界に導かれたきっかけ
    濃厚でちびちび読み進めました
    官能的かつ美しい

  • 世界観が凄くて感想が書けない。

  • 「死の泉」では読後、というよりは最後の一文でぷんと濃いウイスキーのような悪の匂いが立ち上った。
    本作では中井英夫直系の人間=薔薇というオブセッションを受け継ぎながら、なおかつナチスを題材に取りながら、最後にはさわやかな柑橘の香りが。
    これはあくまでも良きにつけ悪しきにつけではあるが。

    視点の多様性、語ること書くことへの思索、幻想の混入、など真骨頂。

    いい気分で酔わせてもらった。

  • 記憶と時間と物語が交錯して幻惑されてしまう。
    耽美で倒錯度合の強い「コンラートの物語」にうっとり。

  • 作中作と作中現実(?)が入り混じる物語。読み解こうと進めば進む程、こんがらがってくる。薔薇と人間の融合、等というモチーフを扱いながらもSFに走ること無くミステリーとして仕上がっていて、本当に素晴らしい小説だと思う。作中の言い回しを借りると、どんなに不幸な人間をも陶酔させる力を持った物語です。
    第一次世界大戦が舞台となっていて、最初は取っつきにくいかと思ったけれども、一度世界に引き込まれたらさくさく読めます。

  • 耽美すぎて挫折。

  • 幻かそれとも現実か
    美しさと醜さが入れ混じり
    官能的な物語に浸れる一冊
    個人的に好きでしたが好き嫌い分かれると思います

  • 文章の完成度に打ちのめされた。美しい言葉の美しい構造体。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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