音楽嗜好症: 脳神経科医と音楽に憑かれた人々 (ハヤカワ文庫 NF 414)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150504144

作品紹介・あらすじ

ピアノを弾く認知症患者、雷に打たれた音楽偏愛者など、音楽と脳の関係を医学的に解明

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。この本ほど「自分にとっての音楽とは何か?」を真剣に考えさせられた本はありません。また、これほどまでに音楽的才能というのが解剖学的遺伝(つまり生まれつき)からの影響に支えられている事に驚き、自分には自分が生まれつき持っている手札で鍛錬していくことしか出来ないのだという事実と、自分には自分が生まれつき持っている手札を存分に使って良いのだと選択肢を貰いました。私と貴方が聴いている音楽への認識に、例えどれほどまでに違いが合ってもそれはそれで良いのだ。名著。

  • 音楽に取りつかれるということ、脳の虫、才能、絶対音感、共感覚、音楽と身体機能、音楽と感情、音楽と記憶、認知症。
    今まで論じられてきたこと、あるいは、語られることなく、個人的な「あるある」でバラバラに済まされてきたような諸々が「脳」をキーステーションにして展開される。その纏め上げだけでも面白いが、さらに特筆すべきなのは、それぞれに紐づけされた事例の多さ。
    脳科学者である筆者自身が診察した患者、過去の研究、筆者のもとに手紙で寄せられた体験談、歴史上の人物や作曲家についても考察や分析が及ぶ。
    自分の身に覚えがある事例もあり、納得したり感心したり、時には感動もしながら読み進められた。
    基本的にはただの音楽好きが読んでもついていける平易な筆致。ただし、脳の知識(たとえば部位ごとの機能マッピングなど)が頭に入っている人なら、ずっと面白く読めるのだろうなと思った。

  • amazon 2018.8.28 405-

  • プロの音楽家の脳は一瞬のためらいもなく見分けることができるらしい……他の芸術家、作家、数学者とかの脳は、ほとんど不可能なのに。それくらい、音楽家の脳梁は肥大しているし、運動野、聴覚野、視覚空間野(?)、小脳も発達しているんだって。あと、音楽に定期的に触れることで、脳の音楽を聞いたり演奏したりするために協調しないといけない部位の発達が刺激されるから、音楽は読み書きと同じように教育上重要なんだとか。私も音楽したくなった。自分の子どもにも経験させてあげたくなった。

  • 文字通り“雷に打たれて”以来、ピアノを弾くことに取り憑かれてしまった医師。隣人の家から大音量で流れるレコードプレーヤーの音楽のような幻聴。聴覚は機能しているのに脳が音楽を構成する要素をうまく感知できず、無感動になってしまう失音楽症。反対に、言語に不自由を抱えている人たちが音楽の力によって、コミュニケーション手段やアイデンティティを取り戻す過程。脳神経科医の著者が出会い、あるいは送られてきた手紙や時に自身の体験談から、音楽とヒトの脳の関係を語ったノンフィクション。


    私が本書で一番興味深かったのは絶対音感にまつわるくだり。ニューヨークと北京の音楽学校で行った調査で、4歳から5歳のあいだに音楽の訓練を始めた生徒のうち、中国人生徒は約60%が絶対音感の基準を満たしていたが、英語話者の生徒は約14%しか基準を満たしていなかったという。この差は中国語が言葉の意味を区別するのに音の高低パターンを用いる「声調言語」であることに関わっている。幼児期において言語能力の発達はふつう絶対音感の保持を妨げるのだが、声調言語はそれ自体音感を必要とするために、絶対音感も保たれるということらしい。
    これは同時に乳幼児はみな絶対音感の潜在能力を持っているのだが、言語を習得するため、あるいは聴覚情報を総合的に処理できるようになるために抑制されていくものだということも表している。話はさらにネアンデルタール人の時代へ飛び、原始の人類は音楽でコミュニケーションをとっていたはずなのだが、言語の発達により大部分の人間は絶対音感を失くし音楽能力が縮小した、というスティーヴン・ミズンの仮説を紹介している。
    まるで「文字禍」。他の章では古代ギリシャ人が膨大な「イーリアス」や「オデュッセイア」を覚えていられたのは叙事詩に節がついていたからだ、という当然の指摘もあり、ネアンデルタール人と比べて音感が退化してからも人びとは音楽で記憶をつなぎとめていたとわかる。言葉と文字が音楽をコミュニケーションの中心から追いやってしまったのだろうか。
    もちろん音楽は今でも人間の記憶と感情を喚起させる力を失ってしまったわけではない。本書第3部、第4部で紹介された音楽療法で救われたさまざまな人たち、特にチック症状に悩むトゥレットの患者たちがドラムを叩くことで解放されていく姿にはとても感動した。視覚・聴覚・知覚に障害を抱える人みなに音楽が作用するのはそれが〈振動〉に他ならないからではないかとも思い、コロナ禍の今、現場で音楽を共有することの意味をまたもう一度考えることになった。
    音楽に救われた人だけでなく、音楽に苦しめられた人びとも紹介されている。その多くは耳をよく使う音楽家だ。蝸牛管の衰えによって大脳皮質における音のマッピングが歪んでしまい、音感がズレてしまった作曲家の「自分がもっている耳で仕事をするんですよ。自分がほしい耳ではなくてね」という言葉には胸が痛んだ。聴覚が変調をきたすと、その空白を補うために脳が幻聴を聞かせることもある。ヒトの脳は〈意味〉を求め、〈意味〉をつくりだすことから逃れられないのだ。

  • 音楽『嗜好』症というタイトルだけあって、29章すべてで音楽をKEYとして、様々な脳機能上の欠損(事故、病気、先天性、手術)を原因として起きる様々な症例が扱われる。

    異常に音楽が好きになった、音楽が嫌いになった、楽しめなくなった…そして音楽に救われた、等の話が様々な症例とともに詳細に紹介される。

    どれもこれも人間の脳機能の不可思議さに驚くばかりだが、こうなることが誰にでもありうると思うと怖くなる。

    音楽(主にクラシック)の素養があるともっと理解が深まるかもしれないが、さほど素養が無い私の様な読者でもYouTubeなどで動画を見ながら読むとより一層楽しめた。

  • 音楽嗜好症: 脳神経科医と音楽に憑かれた人々 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 音楽の話と思うと外れかも。精神医学の視点で、まさに音楽に関する病気になった人の本。

  • 自分に音楽の感覚・知識がないのと、オリバーサックスの直接の患者ではなく手紙による報告によるものが多いので、他の作品よりもエピソードに精彩を欠くように感じた。
    あと、長い。オリバーサックスに限らず、グールドやドーキンスにしても、欧米の科学啓蒙本ってなんでこんな分厚いんだろう。

    それはそうと、オリバーサックスは2015年8末に亡くなったそうです。
    R.I.P.

  •  難しい本だった・・・。時間かけすぎたかもしれない。色々な症例をもとに、医学的、哲学的、工学的にその分析をする。分析結果がどうつながるのかは分かるものもあればわからないものもある。と、目的を掴むのに苦労する内容に思えた。こういう例があるので、応用すると何らかの音楽的才能が開ける、とかいう話ではなかった(少しその辺に期待してしまった)。

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