- Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150703585
感想・レビュー・書評
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カーの作品を読むのは18作品目だが、読後の印象がとても良く、個人的にはカーのベスト5に入れたい作品。
川沿いに建つ塔で起こった不可能犯罪の殺人事件1件と、その6年後に起こった殺人未遂事件1件。作者らしい不可能犯罪や、オカルト趣味の「空飛ぶ吸血鬼」の話を織り込んではいるが、どちらも比較的地味な内容。しかしながら、作中人物の人物造形や、ラブロマンスを織り込んだストーリー展開、登場人物の心理分析がすばらしい。とりわけ、行く先々で悲劇をもたらす、妖しく儚げなヒロインのフェイ・シートンが魅力的。
派手さはないし、すごいトリックが使われているわけでもないが、フェル博士の真相説明を読むと、様々な手掛かりが1つの線となって上手くつながっていき、すべての状況がきちんと説明されていて、納得できる。また、手掛かりや伏線の盛り込み方の見事さには感心せざるをえない。
フェル博士は、非常に細かい手掛かりをいくつも拾い上げて推理しているので、読者がこの真相を推理をするのは難しいのではないだろうか。
冒頭の殺人クラブでの出来事から話を始めていく手法に、カーのストーリーテラーとしての巧みさを感じた。
また、最後の方で判明する、ある人物の正体に関するサプライズも面白いと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
フェル博士もの。フェル博士が参加している<殺人クラブ>という、ミステリのクラブにゲストで参加しているマイルズが、リゴー教授から、六年前に起きた事件について話を聴く。それは、塔の上で殺害されたブルック事件についてで、その事件は監視の目があり、誰も殺害できる状態ではなかった。
六年前の事件について、途中まではとても興味を持って読むことができたのだけれど、その後の展開で少々だれてしまい、結果が出た時も驚きやらないし、こういうのもあるんだなーと思う感じだった。故に、この作品があまり有名でないのはそういうところがあるからなのでしょうか。もうひとつ起きる、こちらも不可解な事件についても、トリックがあるわけでもなく、これといった驚きもなく。
マイルズの冒険といった側面もある本作で、随所に散りばめられた事件の伏線は見事で、最後の推理でもそれらの伏線回収は鮮やかで、こんなに散りばめられていたのかと思うほどでした。謎解き要素が多いわけではないのですが、推理を楽しめる作品でした。 -
フェル博士シリーズです。
今回は吸血鬼伝説が物語の主となっていて、いつものカーの怪奇趣味、オカルティズムが全編に漂っています。
事件は過去と現在の2つの事件があります。
特に現在の事件の謎、外傷はないのに瀕死の状態でマリオンは発見されるのですが、マリオンは神経質でも超自然的なものを信じている訳でもないのにショック死しそうになったという謎が魅力的です。
この殺人未遂のトリックはかなり素晴らしいです。
ただ、今回のロマンスについてはあまり物語に入り込めなかったのが残念に思えます。
フェイのような特異体質に生まれたばかりに男を魅惑し、多情な薄幸の美女は男性から見ればヒロインのように感じるのでしょうが、私にはあまり好ましく感じられませんでした。
本文中にも女性であるマリオンやバーバラが言っていた事に共感します。
ですが、トリックや犯人には驚けますし、プロットも素晴らしく、かなりお勧めの作品ではあります。 -
2020/06/27読了
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結局、この物語で語りたかった事は何だろう?
不可能状況、不可解状況を作り出すためにわざわざ登場人物達を歪曲したような感が強く、興醒めした。物語を語るのなら、例え登場人物に通常考えられないような奇癖、性格を持たせても、納得できるような描写、説明が必要である。現実にありえない事でもそれを思いつき、理論立てた作者の力量に感嘆するのだが、本作にはそれが皆無である。
だから真相を明かされても、ご都合的だと思われ、カタルシスがないのだ。
あ~、とても残念だ。