囁く影 (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-8)

  • 早川書房
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本棚登録 : 69
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150703585

感想・レビュー・書評

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  • カーの作品を読むのは18作品目だが、読後の印象がとても良く、個人的にはカーのベスト5に入れたい作品。

    川沿いに建つ塔で起こった不可能犯罪の殺人事件1件と、その6年後に起こった殺人未遂事件1件。作者らしい不可能犯罪や、オカルト趣味の「空飛ぶ吸血鬼」の話を織り込んではいるが、どちらも比較的地味な内容。しかしながら、作中人物の人物造形や、ラブロマンスを織り込んだストーリー展開、登場人物の心理分析がすばらしい。とりわけ、行く先々で悲劇をもたらす、妖しく儚げなヒロインのフェイ・シートンが魅力的。

    派手さはないし、すごいトリックが使われているわけでもないが、フェル博士の真相説明を読むと、様々な手掛かりが1つの線となって上手くつながっていき、すべての状況がきちんと説明されていて、納得できる。また、手掛かりや伏線の盛り込み方の見事さには感心せざるをえない。
    フェル博士は、非常に細かい手掛かりをいくつも拾い上げて推理しているので、読者がこの真相を推理をするのは難しいのではないだろうか。

    冒頭の殺人クラブでの出来事から話を始めていく手法に、カーのストーリーテラーとしての巧みさを感じた。
    また、最後の方で判明する、ある人物の正体に関するサプライズも面白いと感じた。

  • フェル博士もの。フェル博士が参加している<殺人クラブ>という、ミステリのクラブにゲストで参加しているマイルズが、リゴー教授から、六年前に起きた事件について話を聴く。それは、塔の上で殺害されたブルック事件についてで、その事件は監視の目があり、誰も殺害できる状態ではなかった。

     六年前の事件について、途中まではとても興味を持って読むことができたのだけれど、その後の展開で少々だれてしまい、結果が出た時も驚きやらないし、こういうのもあるんだなーと思う感じだった。故に、この作品があまり有名でないのはそういうところがあるからなのでしょうか。もうひとつ起きる、こちらも不可解な事件についても、トリックがあるわけでもなく、これといった驚きもなく。
     マイルズの冒険といった側面もある本作で、随所に散りばめられた事件の伏線は見事で、最後の推理でもそれらの伏線回収は鮮やかで、こんなに散りばめられていたのかと思うほどでした。謎解き要素が多いわけではないのですが、推理を楽しめる作品でした。

  • 5-

    導入部はやや唐突で、何が起こっているのか、何が起ころうとしているのかを把握するのに苦労させられる。何だかよくわからないまま、結局はリゴー教授の“6年前の事件の話”に引き込まれざるを得なくなるのだが、それはそれで良いのかもしれない。何しろそれ以降は、著者の卓越したストーリーテリングで、最後まで目が離せないことになる。真相が明かされるシーンでは、バラバラになっていたピースが、ピタピタとはまり込んでいく様が目に浮かぶようで、感嘆するほかない。

    トリックについても、過去の事件の真相についてはさして驚きはないが、現在の事件の方は“おお、なるほど!”と膝を打つほどで、とても感心させられる。

    吸血鬼だ何だと騒がれる怪奇要素については、添え物程度と考えて良い。結局は、不可思議な出来事に遭遇した村人Aが「ありゃ幽霊の仕業ぢゃ!天狗様ぢゃ!河童ぢゃ!」と喚いているのと大差ない。ただし著者の巧みな筆致によってその怪し気な雰囲気は増幅されている。

    人間関係にご都合主義的な要素はあるものの、巧みなストーリーテリング、秀逸なプロット、驚きのトリック、意外な犯人、そして戦後という時代背景など、様々な要素が渾然一体となり、かつ絶妙なバランスで成立している本作は著者の傑作の一つと言って差し支えないだろう。



    ただ、そもそもフェル博士は“何故”マイルズを〈殺人クラブ〉に招待したのだろう? 〈殺人クラブ〉は通常、会員以外は講演者しかゲストに呼ばないというし、その日はリゴー教授が講演をする予定だった。フェル博士はリゴー教授の話をマイルズに聴かせたかったのだろうか、何のために? マイルズが所用でたまたまロンドンに来ていて、単に会いたかったから? だったらわざわざ〈殺人クラブ〉でなくても良いだろう。わからない。どこかにそのことに関する記述があっただろうか。ありそうなところをざっと読み返してみたが見つけられなかった。(ちなみに“リゴー教授の話を聴かせたかった”説を突き詰めていくといろいろと妄想できて楽しい。)

    まあマイルズがそこを訪れなければ話は始まらないので、プロットのためにはそれは必然、故に理由まで気にしなくても良い、という気もしなくもないのだが、やはりどうにも腑に落ちない。

  • フェル博士シリーズです。
    今回は吸血鬼伝説が物語の主となっていて、いつものカーの怪奇趣味、オカルティズムが全編に漂っています。
    事件は過去と現在の2つの事件があります。
    特に現在の事件の謎、外傷はないのに瀕死の状態でマリオンは発見されるのですが、マリオンは神経質でも超自然的なものを信じている訳でもないのにショック死しそうになったという謎が魅力的です。
    この殺人未遂のトリックはかなり素晴らしいです。
    ただ、今回のロマンスについてはあまり物語に入り込めなかったのが残念に思えます。
    フェイのような特異体質に生まれたばかりに男を魅惑し、多情な薄幸の美女は男性から見ればヒロインのように感じるのでしょうが、私にはあまり好ましく感じられませんでした。
    本文中にも女性であるマリオンやバーバラが言っていた事に共感します。
    ですが、トリックや犯人には驚けますし、プロットも素晴らしく、かなりお勧めの作品ではあります。

  • 2020/06/27読了

  • 結局、この物語で語りたかった事は何だろう?
    不可能状況、不可解状況を作り出すためにわざわざ登場人物達を歪曲したような感が強く、興醒めした。物語を語るのなら、例え登場人物に通常考えられないような奇癖、性格を持たせても、納得できるような描写、説明が必要である。現実にありえない事でもそれを思いつき、理論立てた作者の力量に感嘆するのだが、本作にはそれが皆無である。
    だから真相を明かされても、ご都合的だと思われ、カタルシスがないのだ。
    あ~、とても残念だ。

  • フェル博士シリーズ

    12年前ブルック家で起きた殺人事件。ハワード・ブルックが雇った避暑・フェイ・シートンとハワードの息子ハリーの恋。フェイに関する噂。ハワードの元に送られるフェイに関する醜聞の書かれた手紙。話し合いの為塔に集まった3人。塔の下におりたフェイ。親子の会話。リゴー教授と共に塔をおりたハリー。直後自らの仕込み杖で刺殺されたハワード。密室殺人。未解決のままダンケルクで戦死したハリー。殺人クラブでの事件の検証。マイルズ・ハモンドが雇い入れたフェイ。マイルズの妹マリオンが盛られた毒。マリオンの婚約者スチーヴ・カーティスの秘密。

     2002年3月3日購入

     2002年3月8日読了

     2011年7月4日再読

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著者プロフィール

別名にロジャー・フェアベーン、カー・ディクスン、カーター・ディクスン。1906年、アメリカ生まれ。新聞や学生雑誌への寄稿を経て、30年に「夜歩く」で作家デビュー。長年の作家活動の業績から、63年にアメリカ探偵作家クラブ賞巨匠賞、70年には同特別賞を受賞した。1977年死去。

「2020年 『帽子蒐集狂事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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