第三の銃弾 完全版 (ハヤカワ・ミステリ文庫 テ 3-11)

  • 早川書房
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150704117

感想・レビュー・書評

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  • カーター・ディクスン名義で発表された作品だが、主人公はおなじみのH・M卿ではなく、短編でおなじみのマーチ大佐の前身であるマーキス大佐。発表当時、エラリー・クイーンの片割れ、フレデリック・ダネイが大幅に削除したそうだが、今回はそれらを含めた完全版である。

    物語の謎自体、シンプルながら、どこか辻褄の合わない論理の違和感でどんどん話を膨らませていく作品で、読中、セイヤーズの作品を想起した。

    今回は登場人物たちがそれぞれ何らかの嘘をついていることがテーマか。嘘をついていることで殺人計画が予想外の方向転換を余儀なくされた結果、2発の銃声に3種類の銃弾が発生するという奇妙な事件を招く。
    この、どうにもすわりが悪い状況設定を最後に論理で解き明かしていくのは素晴らしい。

    今回の作品の特徴として、新たな事実が発覚するにつれ、また新たな謎が生まれる畳み掛けの手法が挙げられる。カーの持ち味とも云うべきこの手法だが、今回はこの畳み掛け方が絶妙だった。

    銃声2発に対し、犯人から発射された銃弾は1発→現場で発見された別の銃の意外な持ち主→遺体から摘出された銃弾がその2丁の拳銃のどれでもない第3の銃弾だった→第3の銃の意外な発見場所→奇妙な窓の足跡→第2の殺人の発生、と謎また謎の連続である。

    しかも220ページの薄さでこれだけの状況展開を繰り広げられるから物語のスピード感が違う。今までのカー作品の中でも随一の速さを誇っていると思う。

    そして今回嬉しかったのが部屋の見取り図がちゃんと付いていた事。コレがあるのと無いのとでは物語の理解度が違う。
    そして田口氏による改訳により、いつもの時代がかった大仰な表現が鳴りを潜め、非常に読みやすかった。

    犯人は今回も意外だった。事件現場にいないであろう人物その人だったからだ。
    しかしこれについて衝撃を受けるようなほどでもなかった。ただし、状況は整然と整理され読者の前に提示された。

    しかし、やはり窓の足跡については蛇足であると感じた。他者へ疑惑の目を向けるための工作だったが、開かない窓から脱出する足跡という謎は魅力的だったものの、その存在を十分に納得させるだけの論理性は薄弱だと感じた。
    恐らくダネイはこの部分を削除したのではないだろうか(後で解説を読むと、どうやら削除されたのは登場人物の描写が中心らしい)?

    しかし御大カーの作品を削除して発表させる事が出来るのはこの人ぐらいだろう。この2人による贅沢なコラボレーションは当時、かなり話題だったに違いない。

  • 不可能犯罪捜査課シリーズのマーチ大佐の原型となった、マーキス大佐が活躍する非シリーズもの。かっこいいなぁ。マーキス大佐。

    引退した判事を「殺してやる」と脅していた青年。かけつけた警察の目の前で銃声が響き、直後に部屋に飛び込んだところ、そこには元判事の死体と銃を握りしめた青年が。がしかし、判事の命を奪った銃弾は、この銃から発射されたものではなかった…。

    カーの作品によくある怪異系のおどろおどろした雰囲気はなく、さらりとしてて読みやすい。関係者に話を聞くたびに、謎が広がっていき全員が怪しいんじゃないかと思えるほど(笑)
    ラストの謎解きがちょっと飛躍しすぎじゃないかという気がしなくもないですが(マーキス大佐の犯人の心理分析について「ええーそこまで犯人の心理が読めちゃうのー?」とつっこみたくなり…中編だからしょうがないか)、タイトルでもある「第三の銃弾」ネタの発想が面白かったので良しとします。

  • ちょっと物足りない

  • 殺害されたモートレイク判事。モートレイク判事に有罪判決を受けむち打ち刑に処せられたホワイト。ホワイトの復讐。2発の銃声。ホワイトの拳銃ともう1丁のけん銃。判事の身体から摘出された弾丸は別の物。3つの銃弾の秘密。モートレイク博士の2人の娘・アイダとキャロリンの秘密。ホワイトの身分の秘密。マーキス大佐の捜査。

     2010年8月6日再読

  • 短いながらも
    なかなかいい味を出している
    カーの作品。

    珍しく残酷めいた表現が存在しないため、
    読みやすくなっています。
    ただし、それゆえか犯人の推理が
    若干容易です。

    だってねぇ、怪しい人がいるんですもの。
    それと構成上疑える人が
    限られちゃうからなぁ。

    でも最後のマーキス大佐は
    非常にかっこよかったなぁ。
    犯人にビシッと言っちゃうんですから。

  • 話の進め方がとても上手い。謎が広がり、わくわくしながら読めた。結末はあんまり好きじゃないけど。

  • さすがカー!といった感じ。密室状況の部屋の中、死体と一緒にいたのは絶対に犯人ではありえない人物と二つの銃、そして三つの弾丸。なんかもう読み進めていくにつれて簡単に思えた事件がどんどん不可解になっていくのがそそることこの上ない。個人的にあまりカーの怪奇趣味は好きじゃないのでその辺がすっきりしていたのも良かった。解決の複雑さと見事さには感心。ここまで不可解な事件をまとめてしまうし納得もしてしまう。

  • 2020/08/10読了

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著者プロフィール

Carter Dickson (1906-1977)
本名ジョン・ディクスン・カー。エラリー・クイーン、アガサ・クリスティーらとともにパズラー黄金時代を代表する作家のひとり。アメリカ合衆国のペンシルベニア州に生まれる。1930年、カー名義の『夜歩く』で彗星のようにデビュー。怪事件の連続と複雑な話を読ませる筆力で地歩を築く。1932年にイギリスに渡り、第二次世界大戦の勃発で一時帰国するも、再び渡英、その後空襲で家を失い、1947年にアメリカに帰国した。カー、ディクスンの二つの名義を使って、アンリ・バンコラン、ギデオン・フェル博士、ヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)らの名探偵を主人公に、密室、人間消失、足跡のない殺人など、不可能興味満点の本格ミステリを次々に発表、「不可能犯罪の巨匠」「密室のカー」と言われた。晩年には歴史ミステリの執筆も手掛け、このジャンルの先駆者ともされる。代表作に、「密室講義」でも知られる『三つの棺』(35)、『火刑法廷』(37)、『ユダの窓』(38)、『ビロードの悪魔』(51)などがある。

「2023年 『五つの箱の死』 で使われていた紹介文から引用しています。」

カーター・ディクスンの作品

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