サン=フォリアン教会の首吊り男〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房
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本棚登録 : 121
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150709549

作品紹介・あらすじ

メグレが尾行した不審な男が拳銃で自殺した。事件の陰にちらつく異様な首吊男の絵の真相とは。シリーズ初期の傑作が新訳で登場!

感想・レビュー・書評

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  • はじめ厨二病こじらせたとかTwitterに書いたんだけど、終盤のベロワールの話をもう一度読み返したら、確かにそうなのかも知れないけど、それがそれぞれの抱える問題の中で取り憑かれたように本気に受け止める人が出てしまったことなのだろうなと思った。あれはまあ表面的な感想だったと思う。

    過去の取り返しのつかない事件をどう乗り越えていくのか?贖罪の手段はそれぞれだとして、表向き平穏そうに生き延びた彼らは生き抜くことで乗り越えようとし、反対にもう一方の彼らは破滅が贖罪になってしまったのかな?破滅を選んだわけではなくても、自然とそちらに向かうように選び取ってしまっていた。人を殺すことなんかよりその後の方が難しい命題なのだと思う。

    凝った話ではないけど、シムノンの人の描き方は鋭い。どの時代でも受け入れられるものだと思う。奇抜さが好まれるこの世の中にも、このお話の彼等のような人間はでてくるのではないでしょうかね。

  • メグレを読むなら、やっぱり読んでおきたい1冊。青春物として読める。

  • 不審な男を尾行していたメグレは、男の荷物をすり替えた。そのことに気づいた男は自殺してしまう。自殺した男の荷物を巡る物語→

    めちゃくちゃ個人的な感想だし異論は認めるんだけど、私的にはドストエフスキーの「罪と罰」に似た感覚を受けるお話。
    ラスコーリニコフがおる……と思いながらクライマックス読んでました。なんとまぁ。

    ミステリというよりは、人間ドラマなんだよなぁ。味わい深い。

    シムノンのミステリって、「どんでん返しうはー!」「この謎どうなる??」みたいなんじゃなくて、こう、切なさや苦しさを感じるんよね。特にこの話はそう。苦しい。

    あ、瀬名秀明氏の解説がとても良いです。わかりやすい。

  •  出張でベルギーのブリュッセルにいたメグレは不審な男を見かける。男は貧相ななりにもかかわらず3万フランもの大金を郵送した。彼を追い掛けてみることにしたメグレは、途中、彼のトランクケースをすり替えるなどして、ドイツのブレーメンまで来てしまう。宿泊したホテルでトランクをすり替えられたことに気づいた男は、突如ピストル自殺してしまう。それを目撃していたメグレ。「自分は一人の人間を殺してしまった」。彼は何者なのか、なぜ自らの命を絶ってしまったのか、メグレは彼の足取りを捜査していく。

     とても魅力的な幕開け。
     死んだ男の身元が割れ、彼の妻などから彼の生活や性格などが徐々に明らかになっていく。そしてなぜかメグレの捜査に馴れ馴れしく近づく男や、彼との関わりを否定する男など。果たして……

     最近刊行された「メグレと若い女の死」に続き本書を読んで、メグレものはいわゆる謎解きものではないことがはっきりと分かった。なぜ彼は、彼女は、死ぬことになってしまったのか、そうしたことをしてしまったのか。そうした「なぜ」が、メグレの捜査によって明らかにされていく、そのプロセスに面白みがある。
     本書でも、関わった者たちは比較的早い段階で分かるが、過去に何があったのか、終盤に長い告白によりそれが明らかにされる。青春時代のある出来事がそれぞれの人生に影響を及ぼす。とうとう抜け出すことができなかった者、いつまでも引きずる者、何とか新たな生活を築いた者。真実が明らかになったとき、メグレは……。

     一気に読める面白さなのだが、若干の疑問。最後に出てくる部屋はそのままの状態だったとのことなのだが、借家なのに長期間そうだったというのはやや不自然ではなかろうか。そうでないとクライマックスの舞台として不十分になったことは分かるが。

     また、現在シムノンについての長期連載をしている瀬名英明氏の解説により、フランス警察組織とメグレの所属や位置の関係が理解できた。そこまで正確なことをあまり気にしたことはなかったが、大変ありがたい。

  • メグレ好きではないのでそこまでは、ではある。

  • ▼メグレを読んでもう三十年くらいになるかと。父親が本棚に河出書房新社のシリーズを数冊おいてあったことが馴れ初め。そう思うと亡父に多謝。以来、断続的になんだかんだ、メグレさんはちょいと気取って言うと自分には不可欠な相棒としてふとしたおりに再読したり。ただ、日本語訳が出てるものを全部読んではいません。河出書房新社のシリーズは八割ほどは読んでいるかと思いますが。まあでも、まだまだ買い直したり再読したりするでしょう。

    ▼パトリス・ルコントがメグレを新たに映画にしたからか、ハヤカワ・ミステリから新訳が3点、嬉しい限り。本作はしかも初読。

    ▼メグレシリーズは1930年代から1970年代まであり、30年代のものはその後に比べると、なんというかコリコリしてます(笑)。歯ごたえがある。悪くないです。

    ▼解説も面白かった。モーリス・ルブランが、メグレを絶賛したという、など。

    ▼読書的には、司馬遼太郎さんの小説も、これまた初恋の人のようなそしていちばんの幼馴染のようなものなんですが(笑)、ここ最近ようやく「街道をゆく」の面白さに開眼して読み進めており、その中で司馬さんが「メグレシリーズがこよなく好きで、全作品を何度も読み返している」という趣旨のことを書いているのを読んで、個人的にしばし呆然とするくらい不思議で、そしてなんだか恥ずかしながら滑稽ながら、胸が熱くなるような感じでした。なんだか出会うはずのない自分の長い長い知人二人が、幼馴染だった、みたいな(笑)。






    ※以下ネタバレ※


    ▼メグレがたまたま気になった、犯罪の香りがしたみすぼらしい男。尾行。なんと男はホテルの部屋で不可解な自殺をしてしまう‥‥。つまりは10年前のベルギーでの、芸術家気取りの若者たちの狂気の中の殺人事件。遺体は処理して完全犯罪。犯人は自責の念で自殺。ある種の共犯者たちのその後。心をやんでまともな社会生活を送れなかった者と、まっとうに家族を持って社会的に成功した者たちとの間の温度差。唯一の証拠の死者の衣服。たまたまその一人と、運命が錯綜したメグレ。全て最初は謎。そして時効が迫る…。

  • 新訳続けて出ているのありがたい〜の気持ちで、メグレ警視2作目。

    警視、単独で気になる人を外国まで追いかけていったり、かなり自由な印象。組織に属して部下がいるとは思えない、私立探偵のようなフットワークの軽さ。
    メグレ警視含めて、主要登場人物たちが贖罪の気持ちに動かされている。
    ラストシーンで触れる神の概念は日本人とは違うだろうから、母国語の人たちの受け止めはまた違うのかな?など気になった。

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著者プロフィール

1903年、ベルギー、リエージュ生まれ。中学中退後、転職を繰り返し、『リエージュ新聞』の記者となる。1921年に処女作“Au Pont des Arches” を発表。パリへ移住後、幾つものペンネームを使い分けながら数多くの小説を執筆。メグレ警視シリーズは絶大な人気を
誇り、長編だけでも70作以上書かれている。66年、アメリカ探偵作家クラブ巨匠賞を受賞。1989年死去。

「2024年 『ロニョン刑事とネズミ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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