- Amazon.co.jp ・本 (720ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151201127
作品紹介・あらすじ
盲目のフランス人の少女と、若いナチドイツ兵士。"見えない光"が繋ぐ、一瞬の邂逅。ピュリッツァー賞受賞の傑作をついに文庫化
感想・レビュー・書評
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第二次世界大戦下。フランス・パリの博物館で働く父と暮らす盲目の少女。一方は、ドイツの炭鉱町にある孤児院に妹と暮らすラジオに興味を抱く少年。
国も境遇も違う、戦争が無ければ決して巡り合わなかった二人の人生が、時間軸を前後しながら短い断章として交互に語られていきます。次第に戦争に巻き込まれて行く盲目の少女と少年の心情。そして、二人を中心とした他の人との交流が丁寧に描かれていて、美しい文章表現と相まって話しに引き込まれていきます。
ただ、読み終えた直後は、期待した結末ではなかったので、しばし呆然という感じでした。しかし、少し時間をおいてみると、この結末だからこそ、二人の邂逅がより輝いて感じられることに気付かされました。
それをより強調するためか、ドイツの下士官が追いかけているダイヤモンドが、気が遠くなるほど太古の昔からの時間軸の長さを表し、少年の親友が好きだった鳥が、目に見える空間の広がりと自由を表し、少女が好きな貝殻が、深淵な海の広さと深さを象徴していたかのようです。
それらの目に見える物資世界の広大さと経過した時間の長さに比較して、二人を引き寄せるきっかけであるラジオの音は、すぐ消えてしまい形が無く目に見えない儚いものです。そんなことを思い返してみると、タイトルと相まって感慨深い気持ちがしてきます。とはいえ、戦争の話しなので理不尽で悲しい気持ちも残りますが、それらの感情も含めて、とても良い読書体験ができたと思っています。
なお、盲目の少女が夢中になっていた、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』の内容が少なからず引用されています。『海底二万里』を未読でも大丈夫ですが、既読の人はより楽しめると思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
時間軸や人物の視点が次々に入れ替わっていく、パズルのような構造の物語。第二次世界大戦を背景に、戦争が人々の人生を否が応でも変えていってしまう中盤まで、膨大な文章量も相まって読むのにエネルギーを使う。しかし、それまでの伏線を回収しながら全ての話が繋がっていくラストの約100ページは圧巻。
長編小説ではあるが、ノンフィクションの要素も、ミステリーの要素も、詩の要素も、神話の要素も散りばめられている。作者の大胆かつ緻密な構成と、優しく丁寧な人物描写が素晴らしい作品。いつかまた読み返せたらと思う。 -
WW2の時代。盲目の少女マリーとドイツの若い兵士・ヴェルナーのラジオを通した物語。
「空気は生きたすべての生命、発せられたすべての文章の書庫にして記録であり、送信されたすべての言葉が、その内側でこだましつづけているのだとしたら。」
印象に残った場面は、戦争が激化していく中でドイツ国内でフランス語を使うことをためらうエレナ先生。戦争終結後ユッタ(ドイツ人)がフランスへ行くとき、拙いフランス語を使うことでドイツ人とばれるのを恐れる描写の対比。
また、ユッタがフランスのサン・マロで見た銘板(あれは実在だそうです)。そこにドイツ人兵士の名前はない。立場が変われば見えてくるものも違う。
ただ、1つ1つの話が3,4ページで変わっていくので、ストーリーに入り込むことがうまくできなかった。炎の海というダイアモンドの話も浅い部分で終わった気がする。マリーの父は主要人物かと思いきやそうでもなく、ヴェルナーの妹・ユッタもそう。ちょっと物足りなさを感じた。 -
まだナチス・ドイツが台頭してくる前の時代。
パリの国立自然史博物館の錠前主任を父に持つマリー=ロール・ルブランは幼い頃に目木見えなくなる。手先が器用でさまざまな難解な鍵を作る父は彼女の為に正確な街の模型を作り、マリー=ロールはその模型を手で辿る事で街の構造を覚え、盲目でも目的地まで街中を歩けるようになる。
一方でドイツ、エッセン地方のツォルフェアアインという炭鉱の街では炭鉱夫だった父を落盤事故で亡くしたヴェルナー・ペニヒと妹のユッタ。二人は孤児の集まる施設で育つが、ヴェルナーは科学に興味があり、ラジオを自作して遠い異国から流れてくる電波を受信して妹と二人で夢中になる。
ナチスが台頭してくると、ヴェルナーはその才能を買われ、ユッタを残してヒットラー・ユーゲントに入り、そこで敵軍の無線機を探知する仕組みを作るなどして、ドイツ軍に。
フランスがナチス・ドイツに蹂躙されマリー=ロールと父は海辺の街サン・マロに疎開し、引きこもりとなった大叔父と、彼の面倒を見る老婦人の世話になって暮らす。
盲目となり光を失ったマリー=ロール。電波という見えない光を追いかけるヴェルナー。全く知らない同士の二人が、第二次大戦のサン・マロという海辺の壁に囲まれた要塞のような街で交錯していく。
大戦前の豊かなフランスと、貧しいドイツ。
大戦初期のナチス・ドイツがフランスを占領しようとする頃。
そして戦争末期、連合軍と戦いを続けながらもフランスから撤退し、滅びようとしているナチス・ドイツ。
という三つの時間を行き来しながら、さらにはフランスのマリー=ロールとドイツのヴェルナーの周辺が交互に短い文章で断片的に語られる。
短い断片の積み重ねが読みやすい一方で、場面が頻繁に変わるので物語としては読みにくいところもある。
物語自体は歴史的な背景を知らなくても楽しめるが、ヒットラーが各国の美術品や宝飾品を集めていたこと、サン・マロはナチスの侵攻によって崩壊した連合軍が海に逃れた拠点であったことなど、歴史を知っているとまた違う読み方ができる作品。 -
文庫化にて再読。
素晴らしいな、初読時の自分は何を読んでたんだか。 -
余韻の残る読後感、心がしばらくこの小説の中を漂いました。深く考えさせられる内容であり戦争のむごさに震えましたが戦後の主人公達の生きる姿にも触れられていて少しホッとしました、また人が生きる強さも感じました、
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違う時間、違う場所にいる登場人物たちの視点で語られる断片的な情景がひとつの物語に集約されていく描写に圧倒された。映画を観たというかもはや自分で撮ったように感じるくらい引き込まれた。
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第2次大戦のフランスの盲目の少女マリー=ロールとドイツの機械に強い少年兵ヴェルナーの邂逅の物語です。マリー=ロールの物語とヴェルナーの物語が交互に入れ替わる形で著され、物語の先が徐々に明らかになっていく技法は小説独特で、盲目の少女の感覚と重なるようなイメージを読者に与えているような気がします。マリー=ロールの持つ宝石の行方も気になる読者も多いと思います。物語の終わりは、世代の移り変わりによって、消えゆく者の定めを著しているように思えました。傑作だとは思うのですが、過去に読んだ名作と比べてののめり込み度合の部分で星4つにしました。