ボリス・ヴィアン全集〈9〉ぼくはくたばりたくない

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152002594

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  •  「ぼくはくたばりたくない(Je voudrais pas crever)」は、ボリス・ヴィアンの詩とエッセイのアンソロジイであります。

     前半が「詩・シャンソン篇」。ヴィアンは詩も小説同様、不条理感が漂ふのであります。表題の「ぼくはくたばりたくない」では、生への執着を見せてゐますが、ヴィアンらしくひねくれた、素直ではない、露悪的な表現を駆使してゐます。この人は心臓が悪い癖にトランペットを吹くのを辞めず、短命(享年39)を予見してゐたフシがあります。それを思へば、諧謔調の中にも何やらもの悲しさを醸し出します。

     他にも、「人生は一本の歯のようだ」「ぼくは脊柱ガンで死ぬのさ」「ぼくはスノッブ」など、死を予見させる作品があります。ただ、ヴィアン流の韜晦術か、クスリと笑はせるフレーズも多数。後半になると、人種差別の問題や反戦歌が目立つてきます。有名なシャンソン「脱走兵」は、大衆音楽用の歌詞だからか、分かりにくい寓意とかを忍ばせることなく、ストレートに反戦を主張します。“大統領閣下”へ宛てた書簡体の詩で、兵役を拒否し、殺人を拒否する心中を告げてゐます。そして、自分は何の武器も持たないから、撃ち殺していいと憲兵に伝へてくださいと結ぶのです。

     後半は「エッセイ篇」。といつても、その殆どがジャズ時評みたいなもので、文章自体は面白いのですが、ジャズに無知なわたくしとしてはその真価が分からぬのです。ただ、黒人差別に関しては怒りを隠してゐません。
     一部シャンソンに関する文章もあり、シャルル・アズナヴールやジルベール・ベコー、ブラッサンスやレオ・フェレらがバリバリ現役の時代の文章に逆に新鮮さを感じました。

     現在こそヴィアンのCDは容易に入手出来ますが、わたくしが学生の頃はさうでもなく、新宿「フランス図書」を中心にカセットテープで揃へた覚えがあります。色色懐かしく思ひ出す青春の一冊と申せませうか。ただ万人向けかと問はれると返答に困るので、自信を持つてお薦めです、とは言へませんねえ。

  • 黄色い蝶々を見たら、もう一度読み返したくなった。

  • ボリス・ヴィアンの描く世界は、わたしたちの暮らす世界のルールから逸脱した
    不可思議で幻想的なものだ…というような言説をよく聞く。
    それは的外れではないが、いくつかの作品を読んでいるうちにわたしは
    彼はわたしたちのものとは違うけれどあるひとつの、彼なりの秩序を持った世界を
    別に持っていただけなのだとぼんやりと思うようになっていた。
    この本に収録された詩やシャンソンは、そうした思いをよりいっそう強める。
    「ぼくはくたばりたくない」というタイトルに表されるように
    彼の中には生への、「強烈な生々しさ」を伴う生への憧れが渦巻いていたのだろう。
    時に諧謔的に時に素直に、生きることへの疑問や苦しさを連ねるが
    それでも生を愛し、しがみいてしまう痛々しいほどの執着がほとばしっている。

     人生は 美しくて 大きいんだよ
     代る代るにやってくる 局面があるし
     奇蹟的ともいえる 規則正しさをともない
     ひとつの局面に続いて いつだって その次がやってくる
     人生には いろんな面白いことがあるんだよ
     去っていき、やってくる……縞馬みたいに

    「人生についての詳細」という詩の一部だが
    この言葉に彼の価値観がすべて凝集されているのではないだろうか。
    彼の人間くささというか、やわらかい部分を垣間見た気がする1冊だった。
    ただ後半のエッセイは完全にジャズの評論なので
    音楽に明るくないわたしとしてはちんぷんかんぷんだった。そのため星は3つ。

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著者プロフィール

(Boris Vian) 1920年、パリ郊外に生まれる。エンジニア、小説家、詩人、劇作家、翻訳家、作詞・作曲家、ジャズ・トランペッター、歌手、俳優、ジャズ評論家など、さまざまな分野で特異な才能を発揮した稀代のマルチ・アーチスト。第二次大戦直後、「実存主義的穴倉酒場」の流行とともに一躍パリの知的・文化的中心地となったサン=ジェルマン=デ=プレにおいて、「戦後」を体現する「華やかな同時代人」として人々の注目を集め、「サン=ジェルマン=デ=プレのプリンス」 とも称される。1946年に翻訳作品を装って発表した小説『墓に唾をかけろ』が「良俗を害する」として告発され、それ以後、正当な作家としての評価を得られぬまま、1959年6月23日、心臓発作により39歳でこの世を去る。生前に親交のあったサルトルやボーヴォワール、コクトー、クノーといった作家たちの支持もあり、死後数年してようやくその著作が再評価されはじめ、1960年代後半には若者たちの間で爆発的なヴィアン・ブームが起こる。

「2005年 『サン=ジェルマン=デ=プレ入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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