いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学

  • 早川書房
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感想 : 57
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152095244

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。
    久しぶりに噛みごたえのある本に出会えた感じ。
    自分としては珍しく2日に分けて読んだ(殆ど1日で読み切るようにしている)。


    とはいえ、言ってしまえば「貧すれば鈍する」ということを経済学的、行動経済学的に解き明かしているだけなのだけれども。

    【キーワード】
    欠乏による処理能力への負荷。

    限界効用逓減の法則。

    欠乏とは必要を満たすだけの資源がないという主観的な感覚。

    スラック‥‥(余裕…と訳すよりも怠惰というニュアンスが強い?)があると豊かさを感じられる。スラックはたんなる非効率ではなく、心のぜいたくでもある。
    トンネル‥‥トンネルの内側のものは鮮明に見えるが、トンネルに入らない周辺のものは何も見えなくなる視野狭窄のことである。
    「写真を取るというのはフレームに入れるということで、フレームに入れるということは締め出すということだ」(スーザン・ソンタグ)。


    <blockquote>豊かであれば、より多くの品物を買えるだけではない。そんざいに荷造りするぜいたく、考えなくていいぜいたく、そしてまちがいを気にしないぜいたくが許される。ヘンリー・ディヴィット・ソロー(*アメリカ合衆国の作家・思想家・詩人)が言うように、「人の豊かさは気にしないでいられる物の数に比例する」(P.118)</blockquote>

    <blockquote>人の気を散らすもの、心を占領するものは、外からくるとは限らない。人は自分でそれを生み出し、その雑念は本物の列車よりも集中の持続を邪魔する。この至高という列車は個人的な心配事という轟音を響かせる。(P.62)
    外部の騒音が明晰な嗜好を邪魔するのと同じように、欠乏は内因性の混乱を生む。(P.62)</blockquote>

    <blockquote>貧困そのものが知力に負担をかけるのだ。(P.84)</blockquote>

    <blockquote>貧困者はたしかに富裕者より有効能力が低いと言える。これは彼らの能力が低いからではなく、知性の一部が欠乏によって占拠されているからである。(P.84)
    </blockquote>
    <blockquote>欠乏はトレードオフ思考を強いる。満たされていないニーズが注意を引きつけ、最優先事項になる。お金に困っている人は、払わなくてはならない戡定すべてに気を配っている。総ての戡定が頭にあるので、何か他のものを買うことを考えるとき、トレードオフがはっきりわかる。厳しい締め切りに追われている人は、やらなくてはならないことすべてが頭のなかで全面に出ている。(P.99)</blockquote>

    <blockquote>欠乏によって処理能力に負荷がかけられると、人はいっそう、いまこの場に集中する。将来のニーズを推し測るには認知資源が必要であり、現在の誘惑に抵抗するには実行制御力が求められる。欠乏が処理能力に負荷をかけるため、人が現在に集中してしまい、借りを作ることになる。(P.148)</blockquote>

    <blockquote>欠乏は人を大きなまちがいへと導く。処理能力に負荷がかかると、人はまちがいを犯しやすくなる。多忙な人はさらに大きな計画錯誤を犯しやすい。
    欠乏は目先のことしか見ない行動を生む。(P.161)</blockquote>

    <blockquote>欠乏の問題は人を今日に縛り付ける。明日も(時間またはお金が)乏しいかもしれないが、それは別の問題であり、別の日まで放っておく。人の心を選挙する欠乏はいまのことであり、それがトンネリング税(重要なことを後回しにするツケ)を海、人を近視眼的な行動に導く。
     しかしこの説明で注目すべきは、近視眼は個人の怠慢ではないことである。(P.162)</blockquote>
    <blockquote>
    欠乏の罠を避けるのに必要なのは単なる豊かさではない。使いすぎたり先延ばしにしたりしても、ほとんどのショックをなんとかできるだけのスラックを残せるくらい、十分な豊かさが必要だ。ぐずぐず引き伸ばしても、予想外の期限に間に合わせられるだけの時間がちゃんと残るくらいの豊かさが必要だ。欠乏の罠にはまらないためには、世間がもたらすショックや自分で背負い込むトラブルに対処出来るだけのスラックが求められる。(P.184)</blockquote>
    <blockquote>
    欠乏が人を引きずり込む力は強いかもしれない。しかしその論理を理解することで、ネガティヴな影響を最小限にとどめることができる。自分の環境を「対欠乏症」にすることもいくらか可能になる。(中略)たった一瞬のひらめきがあとあとまで恩恵をもたらすこともありえる。(P.287)</blockquote>

  • 欠乏が引き起こす様々な現象を実例をあげて示していくれる。対策はスラックを作ることが一番かと思った。

  • トンネリングすると集中できるメカニズムは確かに納得。家で捗らないレポート作成が、スタバでは不思議に捗るのも、こういうことかと。あとはスラックの大事さ。時間的・空間的な遊びが無いと、却って非効率になる。

  • 行動経済学
    欠乏は心を占拠する。トンネル効果。ニュールック心理学。
    研究の種となる話題が多かった。購入しよう。

  • とても長く感じた 同じことの繰り返しのように

  • トンネリングなど、とても勉強になった

  • 時間欠乏の影響は、まったく異なる多くの分野で観察されている。大規模なマーケティング実験で、一部の顧客には有効期限つきのクーポンを送り、ほかの顧客には同じような期限なしのクーポンを送った(8)。すると、期限のないクーポンのほうが使える期間は長かったにもかかわらず、使われる確率は低かった。時間があまりないと思われないと、クーポンは注目を引かず、忘れられることさえありえる。
    締め切りが有効なのは、まさに欠乏をつくり出し、注意を集中させる

    なぜ欠乏がトレードオフ思考を生むのか、その理由が明らかになる。スーツケースが大きければ、人はいいかげんに荷づくりする。隅から隅までぎっしり詰めることはしない。あちこちに使われていないスペースが残る。私たちはこのスペースを、本来はゆるみやたるみを意味する「スラック」と呼ぶ。詰め方がゆるいので何も入らずに残る部分だ。

    トンネリングと借金  なぜ人は何かが欠乏した状況に直面すると借金をするのだろう? トンネリングを起こすからだ。そして借金をすると、将来的にはさらに深みにはまる。今日の欠乏が明日の欠乏を生む。

    重要だが緊急でない活動を後回しにするのは、借金に似ている。それをしないことで、今日は時間が浮く。しかし将来につけが回る。

  • タイトルはビジネス啓発本によくある時間管理術ようだが、内容は本格的で、視野が広い。

    貧困に対する対応への提言などは重いものだ。

    いくつも紹介されている行動心理学の実験もいちいち面白い。

  • ・欠乏(scarcity)は短期的な集中力を得るが、その他に関する処理能力は下がる。
    ・(時間・お金・人間関係に)裕福な人間は欠乏による影響を受けないため、貧困な人間個人の能力が低いと錯覚してしまうが、環境が処理能力の低下を引き起こしている。
    ・本の内容は重複が多いので、4割コンパクトにできてれば★5だった。

  • 行動分析学に詳しい方推薦図書。時間がないということに対する思考や行動と、お金がないということに対する思考や行動が似ていることがこの本からもよくわかります。欠乏状態によるメリットやデメリットを考えると、多少集中力がアップすることがあっても、欠乏のままいくのではなく、ゆとりへと捉え方を変えていく方法のほうが、人生や仕事で効果的なことが多いと思います。病院でも、手術室を一部屋あけておくことで、急患の受け入れ、スタッフの余裕、対応の余裕が生まれて業務の効率、売上貢献という成果につながった例など、とても興味深い。

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