いつも「時間がない」あなたに: 欠乏の行動経済学

  • 早川書房 (2023年9月29日発売)
3.50
  • (0)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 2
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「貧すれば鈍する」と言われる。常におカネや時間などの不足分に気を取られて(どんな手を使ってでも埋め合わせよう!)IQが下がってしまっているという。「まな板の法則」のように不足分に関する雑念がCPUを専有して、切るべき具材を置くスペースが狭くなるのだ。つまりピンチ度合いが増すほどに酔っ払っているくらい思考力が低下してしまうということ。本書はそんな「欠乏の行動経済学」について解説されている。

    (行動)経済学からの説明は本書に譲るが、自己啓発系の本家「7つの習慣」の第一の習慣「主体性を発揮する」ためのマインドセットとしても本書は重要である。つまり「0の習慣」ともいうべきなのが「心身ともに余裕のある状態を作ること」である。本書のアドバイスに従えば、「第三の習慣」で最重要視される「緊急ではないが重要なタスク」を継続できるようになる。
    行動経済学の権威であるダニエル・カーネマンが「ファスト&スロー( https://x.gd/18Q0p )」で説いた認知バイアスの「システム1」に囚われないようにするためにもまずは「余裕のある状態」に自分を置くことである。
    そのためにはおカネも時間もギチギチに使い道(予定)を詰め込むのではなく3~4割程度の余裕(バッファー)を設けておきたいところだ。

  • ハーバード大の経済学教授とプリンストン大の心理学教授による共著で、行動経済学をテーマとしたもの。原著は『Scarcity: Why Having Too Little Means So Much』。「欠乏」がいかに人の認知能力をむしばみ、抜け出すのが難しい罠に陥らせるかを説く。

    本書にはその事例がいくつも挙げられているが、もっとも印象的だったのはインドのサトウキビ農家に行った調査。手持ちの金が少なくなる収穫前は、いつもよりIQにして13ポイント程度の認知能力の低下が見られるという。日本には「貧すれば鈍する」という諺があるが、まさにその通りのことが起きているのが証明された。

    時間や金銭の貧困は我々の処理能力の「バンド幅」を奪い、意思決定能力や生産性を低下させる。すると直前のタスクにのみ気を取られ、長期的な計画や目標を軽視しがちになる。そうなれば突発的な事態に対処できず、先送りや借金を繰り返す羽目に陥ってしまう。

    この問題に対処するには自分のバンド幅の限界を自覚して事前に策を講じることの他に、「スラック」を確保することの大切さを強調している。余裕やゆとりを意味する言葉で、スラックがあれば予想外の事態が起きても「火消しの罠」に陥ることなく切り抜けられる。

    セントジョーンズ病院では従来、常に手術室を予約で埋めていたのを一室だけ緊急手術用に空けておくことにしたところ、緊急手術の患者の死亡率は10%以上下がり、院全体での年間の手術数も10%前後増えたという。

    本書から導かれるのは忙しい人や貧しい人ほど余裕とゆとりを持つべきという逆説的な主張だが、これも経済学の知見は直感に反するという好例かもしれない。スラックの大切さは、これからの人生に心に留めておきたい。

全2件中 1 - 2件を表示

センディル・ムッライナタンの作品

最近本棚に登録した人

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×