【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152099198

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  •  ノース・カロライナ州の湿地で、高校時代アメフトのスター選手だったチェイスという男の死体が発見される。
     疑惑の目は、村人から“湿地の少女”と呼ばれ蔑まされてきたカイアに向けられるようになる。
     チェイスを殺したのは誰なのか?
     チェイスの事件を追う時間、カイアの成長を追う時間を行ったり来たりしながら、やがて思いがけない結末を迎える…


     私はこの作品を読んで、恥ずかしながら貧乏白人(ホワイト・トラッシュ)という言葉を知りました。カイアはこれにあたり、差別を受け学校にすら通えません。家族にも置き去りにされ一人きりになります。
     そんな彼女に黒人の夫婦ジャンピンとメイベル、それに村の物静かな少年テイトだけは手を差し伸べてくれるのです。

     ジャンピンとメイベルの優しさにはもうグッときました。この二人がいなかったらカイアは生きていられなかったと思う。

     そして、テイトが読み書きを教えてくれなかったら、カイアは孤独に耐えられなかったと思う。先の人生も全く別物だった。


     物語の所々に差し込まれる詩も印象的です。

     
     そして関わってくるチェイス。まあもうひどいクズ男です。ぜひ読んでクズっぷりを味わってください。カイアのことをすごく愛してるんだな なんて読みながら思った瞬間もあったんですが。もう思い出したくないくらい。


     読んでカイアから教えられたのは、
     人に裏切られても、打ちのめされても、自分はどう思ってどうしたいのか、自分に向き合って恐れず、もう一度誰かを信じようと踏み出す強さ。負けない気持ち。私もそんなシンプルな強さを持って生きていきたい。

     「自然に善悪はない」…始まりも結末も答えは“ザリガニの鳴くところ”に。

     

  • 主人公カイアは、ある朝、母親が出て行くところを目撃する。
    飲んだくれでDVの父親に虐待された兄や姉も次々と出て行く。
    その父親もカイアが9歳くらいの頃に行方知れずに。
    孤独のなかでサバイブしていくカイア。
    ジャンピンとアマンダ、そしてテイトという友を得て生きるためのスキルを身に着けて行く。
    大学進学するテイトとの別れ、募る孤独感。家族も友達も誰もいない。「湿地の少女」には誰もかまわない。
    食糧とボートのガソリンを買うために寄る店のジャンピン&アマンダの夫妻とも必要最小限の会話しかしないほど孤独の中で自分の殻に入り込んでしまったカイア。
    この辺はカイアの憐れな境遇に読むのを何度も中断した。
    またそこに付け込むクソな輩もいる。その男が死体で見つかった(この辺は物語の冒頭から並行して綴られている)
    逮捕されたカイアの裁判。
    無事に無罪放免となりテイトと末永く暮らしましたとさ。
    64歳没。そしてテイトが発見したものは。。。
    最後の最後に、ああなるほどね、という結末。
    スッキリもしなければ、かといって裏切られたとかも思わない。
    それにしても父親はドコで野垂れ死んだのかね?

    以下Amazonより紹介-------------------
    この少女を、生きてください。
    全米500万部突破、2019年アメリカでいちばん売れた本

    泣いたのは、森で一人ぼっちの彼女が、自分と重なったからだ。──同じ女性というだけで。島本理生氏(小説家)
    ずっと震えながら、耐えながら、祈るように呼んでいた。小橋めぐみ氏(俳優)
    素晴らしい小説だ。北上次郎氏(書評家、早川書房公式note流行出し版「勝手に文庫解説2」より)


    ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。
    6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。
    以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。
    しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……
    みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。


    ★★★書評・ご紹介★★★
    「目利きが選ぶ3冊」日経新聞夕刊 2020年3月19日付★5(北上次郎氏)
    「本よみうり堂」讀賣新聞書評 2020年4月5日付(宮部みゆき氏)
    「今週の本棚」毎日新聞書評 2020年4月18日付(仲俣暁生氏)
    産経新聞書評 2020年4月28日付(新田啓子氏)

    「ダ・ヴィンチ」2020年4月号(3月6日発売)「4人のブックウォッチャー絶対読んで得する8冊」ご紹介(山崎まどか氏)
    「ダ・ヴィンチ」2020年4月号(3月6日発売)「注目の新刊」コーナー
    「週刊文春」2020年3月12日号「ミステリーレビュー」★4.5(池上冬樹氏)
    「渋谷のラジオ」渋谷の柳瀬博一研究室 2020年3月18日(柳瀬博一氏)
    「ミステリマガジン」2020年5月号(3月25日発売)「勝手に文庫解説2」(北上次郎氏)
    「本の雑誌」2020年4月号(3月10日発売)「ミステリー春夏冬中」(宇田川拓也氏)
    「Post Book Review」週刊ポスト 2020年4月19日発売(鴻巣友季子氏)
    「週刊新潮」2020年4月23日発売号 書評欄(佐久間文子氏)

    「北上ラジオ」第13回Presented by 本の雑誌社 2020年3月11日(北上次郎氏)
    「基本読書」2020年3月9日(冬木糸一氏)
    読書メーター「週間おすすめランキング情報 Vol.375」小説部門第1位
    「Realsound」bookカテゴリ「山崎まどかの『ザリガニの鳴くところ』評:多くの問題を内包する大ベストセラーの魅力」2020年3月16日(山崎まどか氏)
    「文学Youtuberベル 2ndチャンネル」 2020年4月20日「本・雑誌が7冊も! 3月分 #のベルズ プレゼントを紹介します! 」Youtube(文学Youtuber ベル氏)
    「BIRDER」2020年5月号 書評欄


    ★★★早川書房公式note★★★
    ザリガニはどこで鳴くか~北上次郎の早出し版「勝手に文庫解説2」(書評家・北上次郎氏)2020年3月4日
    きっと、あなたのための本──『ザリガニの鳴くところ』レビュー(梅田 蔦屋書店・河出真美)2020年3月5日
    ザリガニの鳴くところに思いを馳せて──『ザリガニの鳴くところ』訳者あとがき(翻訳家・友廣純氏)

  • 本屋大賞受賞作品で気になっていた作品。
    ノースカロライナ州の湿地を舞台に、家族を失った少女とある不審死事件が交錯していくミステリー作品。
    差別、偏見、貧困という現実のなか、たった独りぼっちで生きるカイアの孤独感・切なさには、胸にこみあげてくるものがあるが、それゆえに彼女が自然と戯れる場面はとても美しく、また、ネイトやジャンピンとの交流は心温まる。

    物語終盤からは事件の真相が気になり、ページをめくる手が止まらない。
    どんでん返しの結末で、読了後もしばらく放心状態でした。

  • 読みたかった1冊を1年2ヶ月ぶりの出張のお供に選びました。

    往復の新幹線、宿泊先のホテルも含めて読み終えることが出来ましたが、まるで自分が舞台となる湿地にハマり、抜け出せなくなってしまったかのように惹き込まれた作品でした。

    2019年アメリカで1番売れた本、読みながら「納得」って感じの大満足の作品でした。

    主人公はノースカロライナ州の湿地で暮らすカイア。

    本作はそんなカイアが住む湿地で男の死体が発見されるところから始まります。

    そして時間は死体発見の17年前の1952年に遡ります。

    そう、カイアの子供時代と現在を行き来しながら、男の死の謎を追うことに。

    って、いわゆるサスペンス作品とかミステリー作品と思いきや、そこから二味ぐらい違うのが本作。

    幼少期のカイアは貧困、家庭内暴力、家族との別離、孤独...闇の部分がたっぷりと描かれています。

    学校にも行かず(実際は1日だけ行くのだが)、文字を書くことも、読むことも、数字の29の次が何なのかも知らずに生きていきます。

    同時にカイアは湿地という世界に生き、自然や動物たちと共に生きています。

    そんなカイアに読み書きを教えた少年の名はテイト。

    いつしかテイトに惹かれ始めたカイアだったが、大学進学を機にテイトはカイアの前から姿を消してしまう。

    またもや1人ぼっちとなったカイアに近づいたのは村の少年チェイス。

    チェイスは甘い言葉でカイアに近づき、結婚をチラつかせながらついにカイアの処女をも奪ってしまう。

    チェイスとの未来を信じ始めた矢先、カイアはチェイスが他の女性と婚約したことを知り、自分が騙されていた事に気づく。

    ひとりぼっちで過ごした幼少期、信じたテイト、チェイスの裏切りによってカイアは三度孤独の闇に突き落とされる。

    カイアを裏切り、利用したチェイス。

    そう、巻頭で死体となり発見されたのは他の誰でもないチェイスで、まわりからは「湿地の少女」と呼ばれてきたカイアがチェイス殺害の疑いで逮捕され、裁判員裁判にかけられてしまう。

    カイアの関与を示すような状況証拠により、危うく有罪になりかけたカイアだが、裁判では「無罪」となり放免される。

    そして初恋であったテイトとの復縁、結婚。

    いや、待て...

    ここまで来ても残りページがそこそこ残っている...

    そう、ここから描かれる本作の結末は私の予想を超えていました。

    読み終えた多くの読者は自然の描き方、貝や昆虫、鳥、等の生き物の描き方の旨さ、まるで自分がそこにいるような音や匂いを感じることが出来たのではないでしょうか。


    説明
    内容紹介
    この少女を、生きてください。
    全米500万部突破、2019年アメリカでいちばん売れた本

    泣いたのは、森で一人ぼっちの彼女が、自分と重なったからだ。──同じ女性というだけで。島本理生氏(小説家)
    ずっと震えながら、耐えながら、祈るように呼んでいた。小橋めぐみ氏(俳優)
    素晴らしい小説だ。北上次郎氏(書評家、早川書房公式note流行出し版「勝手に文庫解説2」より)


    ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。
    6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。
    以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。
    しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……
    みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。


    ★★★書評・ご紹介★★★
    「目利きが選ぶ3冊」日経新聞夕刊 2020年3月19日付★5(北上次郎氏)
    「本よみうり堂」讀賣新聞書評 2020年4月5日付(宮部みゆき氏)
    「今週の本棚」毎日新聞書評 2020年4月18日付(仲俣暁生氏)
    産経新聞書評 2020年4月28日付(新田啓子氏)

    「ダ・ヴィンチ」2020年4月号(3月6日発売)「4人のブックウォッチャー絶対読んで得する8冊」ご紹介(山崎まどか氏)
    「ダ・ヴィンチ」2020年4月号(3月6日発売)「注目の新刊」コーナー
    「週刊文春」2020年3月12日号「ミステリーレビュー」★4.5(池上冬樹氏)
    「渋谷のラジオ」渋谷の柳瀬博一研究室 2020年3月18日(柳瀬博一氏)
    「ミステリマガジン」2020年5月号(3月25日発売)「勝手に文庫解説2」(北上次郎氏)
    「本の雑誌」2020年4月号(3月10日発売)「ミステリー春夏冬中」(宇田川拓也氏)
    「Post Book Review」週刊ポスト 2020年4月19日発売(鴻巣友季子氏)
    「週刊新潮」2020年4月23日発売号 書評欄(佐久間文子氏)

    「北上ラジオ」第13回Presented by 本の雑誌社 2020年3月11日(北上次郎氏)
    「基本読書」2020年3月9日(冬木糸一氏)
    読書メーター「週間おすすめランキング情報 Vol.375」小説部門第1位
    「Realsound」bookカテゴリ「山崎まどかの『ザリガニの鳴くところ』評:多くの問題を内包する大ベストセラーの魅力」2020年3月16日(山崎まどか氏)
    「文学Youtuberベル 2ndチャンネル」 2020年4月20日「本・雑誌が7冊も! 3月分 #のベルズ プレゼントを紹介します! 」Youtube(文学Youtuber ベル氏)
    「BIRDER」2020年5月号 書評欄


    ★★★早川書房公式note★★★
    ザリガニはどこで鳴くか~北上次郎の早出し版「勝手に文庫解説2」(書評家・北上次郎氏)2020年3月4日
    きっと、あなたのための本──『ザリガニの鳴くところ』レビュー(梅田 蔦屋書店・河出真美)2020年3月5日
    ザリガニの鳴くところに思いを馳せて──『ザリガニの鳴くところ』訳者あとがき(翻訳家・友廣純氏)



    内容(「BOOK」データベースより)
    ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。
    著者について
    ジョージア州出身の動物学者、小説家。ジョージア大学で動物学の学士号を、カリフォルニア大学デイヴィス校で動物行動学の博士号を取得。ボツワナのカラハリ砂漠でフィールドワークを行ない、その経験を記したノンフィクション『カラハリ──アフリカ最後の野生に暮らす』(マーク・オーエンズとの共著、1984年)(邦訳は1988年、早川書房刊)が世界的ベストセラーとなる。同書は優れたネイチャーライティングに贈られるジョン・バロウズ賞を受賞している。他にも,動物にまつわるノンフィクションであるThe Eye of the Elephant、Secrets of the Savanna(ともに共著)を発表。また、研究論文は《ネイチャー》誌など多くの学術雑誌に掲載されている。現在はアイダホ州に住み、グリズリーやオオカミ、湿地の保全活動を行っている。70歳で執筆した本作が初めての小説である。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    オーエンズ,ディーリア
    ジョージア州出身の動物学者、小説家。ジョージア大学で動物学の学士号を、カリフォルニア大学デイヴィス校で動物行動学の博士号を取得。ボツワナのカラハリ砂漠でフィールドワークを行ない、その経験を記したノンフィクション『カラハリ―アフリカ最後の野生に暮らす』(マーク・オーエンズとの共著、1984)(早川書房刊)が世界的ベストセラーとなる。同書は優れたネイチャーライティングに贈られるジョン・バロウズ賞を受賞している。また、研究論文は“ネイチャー”誌など多くの学術雑誌に掲載されている。現在はアイダホ州に住み、グリズリーやオオカミの保護、湿地の保全活動を行なっている。69歳で執筆した初めての小説である

    友廣/純
    立教大学大学院文学研究科博士課程中退、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • ようやく順番が回ってきました。この作家さん69歳のデビュー作が本作とは圧倒されました。

    映画は観てないのでノースキャロライナの湿地ってどんなとろなんだろうかって、汽水域にあるようでマングローブの林とかあるのかな?ワニとかいそうな気もするけどどうなんだろう? なんて想像してました。
    6歳で湿地にある小屋に一人生活するとか逞しい。貝を売って最低限社会と関わって必要なものを揃えて暮らすとかコミュ症もここまでくると芯がある。母親をはじめ1人ずつ兄姉達は小屋を去り、酒癖の悪い父親も去って行った。
    残ったのは湿地の少女と呼ばれたカイヤだけに。
    その後に現れるボーイフレンド達もダメすぎる。
    再会の約束を破った気弱なテイト、結婚を餌に言い寄った女癖の悪いチェイス。自立したカイヤなら男に頼らず生きていけると思うのですが癖のある男に靡いてしまうのは本能なのでしょう。カイヤに女友達がいれば良かったのにって思いました。
    各章ごとに西暦が記されておりカイヤの少女時代の話と沼地での殺人事件の話の2つの時間軸で織り込まれたストーリーが1970年で合流し、湿地での平穏な暮らしを手に入れる。

    カイヤが敬愛する謎の詩人アマンダ・ハミルトン
    雌のホタルに気をつけろ

    6歳の時から彼女の成長を見届けてきた私には最後がねえ。真犯人は他にいると思いたいのですが・・
    生態系を観察してきた彼女にとっては、したたかで残酷な生物の戦略には善も悪もなく子孫を残すため必要な行為とかに映るらしい。ならば、アルファ雄はチェイスだと思うのだけど何故に受け入れなかったのか、テイトも気を引こうと出版者紹介したり、チェイスの悪い噂をカイヤに流してたのでそれは弱者の戦略だったのかっw

  • 面白かった!!主人公であるスワンプガールのカイアの生活にとても憧れる。
    デリア・オーウェンス単独の作品を読むのは初めて。"City of the Kalahari"は昔読んだ。
    アメリカで一昨年にベストセラーになっていて、去年和訳が出版され、書店で平積みになっているのはみて、気にはなっていたが、帯やポップが”泣ける”といった文字が目立ったので、違うかな、、と読んでなかった作品。図書館で目についたので借りてみた。私個人の感想としては、帯に書かれている”有名人”の感想とは程遠い。泣けるところはほぼなし。ただ、セクション31(p298)からの、カイア(主人公)の最初の本『東海岸の貝殻』の見本版が届けられたときには、ポジティブに感動して胸がつまった。嬉し泣き。訳もとてもすばらしい。
     物語としては、1969年に起きた殺人事件と1952年(カイア6歳)から始まるカイア成長の歴史が行ったり来たりしながら描かれる。各章タイトルに年が書かれているので、とてもとっつき易い。小学校にすら通っていない、ドメスティックバイオレンスとネグレクトの被害児が、少ない友人の助けなどがあり、素晴らしいシチズンサイエンティストになっていく。ノースカロライナのあたりの素晴らしいラグーンの自然博物学がベースになっていて、読んでいて非常に心躍る。確かに”街”に群れ住む人間からすると”カワイソウ”な女児かもしれないが、読めば読むほど、カイアが羨ましくてならなくなってくる。憧れの生活がここにある、という感じ。カイヤが人間も自然の生物、たんなる哺乳類と捉えているところが、非常に読んでいて気持ちが良い。強く美しい、南部の自然が目の前に見えるような、そんな作品だった。
     1970年代、80年代の南部の差別事情やいわゆる”ホワイトトラッシュ”についても触れられているが、ここらへんの歴史的な事情や、現在の状態などについての知識はある程度必要だと思われる。ここらへんと、ナチュラリストの知識があるかどうかで、この小説の好き嫌いが分かれるところではなかろうか。
     でまあ、殺人事件もあるんだが、まあ、どうでもええというか、どうでも良くない殺人事件、最後の最後まで、犯人がわからんままで終わりそうな雰囲気なんだが、ところがどっこい、めちゃくちゃスッキリして終わる。これは、読了感が素晴らしい。
    原題のザリガニが”Crawdad"になってるのが、最初に気になった。調べてみると、NCのあたりから中央にかけてはCrawdadっていうらしい。カイアの母親がニューオリンズ出身という設定なので、Crawfishでも良いとは思うが、そこらへんは土地柄を考慮したんだろうか。

    • ありが亭めんべいさん
      わたしも初めにcrawfishとどこが違うのか気にしてました笑 未読ですが。
      わたしも初めにcrawfishとどこが違うのか気にしてました笑 未読ですが。
      2021/08/22
    • jubeさん
      >ありが亭めんべいさん
      気になるポイントですよね(笑)
      >ありが亭めんべいさん
      気になるポイントですよね(笑)
      2021/12/12
  • ミステリーと紹介されているが、メインはミステリーではない。そして、心優しいテイトとのラブストーリーでもない。
    生きとし生けるものが「寿命を全うする」ということは本来どういうことを意味するのか、動物学者らしい著者の目線で描かれた壮大ないのちの物語ではないかと思う。
    アル中、DV、差別や偏見、自然破壊。社会問題がふんだんに盛り込まれている。

    酒乱でDVをする父親のせいで、わずか6歳にして母親に捨てられ、父にも捨てられ、ついにたった一人で生きていくことを強いられた孤独な少女カイヤ。
    貧しく孤独な生活の中で、カイヤは広大な湿地に1人、美しくも過酷な自然と、そこに居る動植物と共存しながら、逞しく成長していく。その姿を見守る読者の情緒は激しく揺さぶられる。
    雄大でまぶしい自然の緻密な描写は、作者の自然への愛情が感じられる。
    それとは対照的に、明かりを灯すことすらできず、古びたボロ屋で一人ぼっちで小さくなって過ごすカイヤの夜の暗闇の情景が、彼女の孤独をより際立たせている。

    あまりに人に裏切られ蔑まれ、孤独の中で生きるカイヤがたった一人で自分の命を守り通すことは、偽りの愛のメッセージを送るホタルや交尾相手を食べるカマキリでも、そして感情や知恵を持つ人間に於ても同じこと。
    生命の行為に善悪はなく、あるのはただ拍動する命だけなのだ。
    彼女は純粋に自らの命を守るため、生き延びるために「行動」を起こした。だからこそ、殺人犯として裁かれている最中も無実を訴えることなく、ただひたすらに自由を求め、拘束中に唯一「猫」を心の拠り所としたのだろう。
    しかし人としてそれは誰にも言えないことであり、理解されないこともカイヤは十分に解っており、愛するテイトにすら一生隠し通し、多くの人の前に姿を現す事を拒み続けたのだと思う。
    これこそ作者が伝えたいテーマである生物の野性的本能ではないか。
    カイヤの野性的な強さと人としての生き方の覚悟に脱帽する。
    とはいえ、テイトという唯一無二の存在があって本当に心救われた。本当の愛を手に入れられて、良かった。。

  • とても濃密で読み終わった時にため息が出るような、素晴らしい作品でした、、
    中盤までは主人公のカイアが家族に捨てられ、村人に虐げられながらも、強く孤独に生きていく姿が彼女の心情を交えながら重厚に描かれており、中盤以降の殺人容疑をかけられたところからミステリー調の展開が始まり、めくるページが止まらず一気に読み終わりました。
    作者が動物学者とのことで、湿地の自然や動物たちの描写がとにかくリアルで想像が膨らみますし、主人公カイアが逆境の中強く生きてく姿に全力で応援してしまいます。
    もはやミステリー要素がなくても面白い作品なのに、そこにしっかりミステリーも組み込まれており、ベストセラーなのも納得の作品でした。

  • ミステリー好きの友人のおススメで読みました。

    町の人気者、チェイスが死んだ。事故死か殺人か。疑われたのは湿地のほとりに住むカイヤ。
    父の暴力から逃れるために母が家を出て、きょうだいが家を出て、父も家を出てしまい、カイヤは7歳から一人で生きている。
    やがて兄の友人テイトとの距離が縮まるが…

    湿地の美しい情景描写と生き物の様子をベースに、黒人差別、貧しいものへの差別、初恋、家族愛、DV、殺人事件、法廷、自然保護、詩…と要素が重なりながらストーリーが展開されていきます。
    描写が凄すぎて、これってミステリーなん?と思ってしまいました。
    カイヤの頑張るところと頑張れないところ、人から離れて生きていく怖さと人と接する怖さ等、悲しみとフラストレーションがダイレクトに響きました。
    恋人とキャリア。自分らしく生きること。それを理解してくれる人がいること。安心して暮らすことの大切さを改めて考えさせてくれました。
    裁判中にわかった町の人々の気持ちに、心温まるものがあります。
    結末は、もうページ残りわずかで真実はどうなるんや、と最後までハラハラしました。

  • 読書を趣味に定めてから幾年月、もちろん感動した作品には出会ってきたし涙が出そうな程に心動いた作品もあったけれども、マジに自然にこみ上げる涙を止められなかった作品というのはそうそうあるものではないです。本作はそんな稀有な出会いとなった物語でありました。

    得も言われぬ読み心地だと感じてはいたのだが、その正体は(おそらく)初版オビに寄せられたと思しき俳優・小橋めぐみさんのコメントの一部「祈るように」という表現が一番しっくり来る。そう、私は祈りながら読んでいたのだと思う。どうか「湿地の少女」〈カイア〉にとって救いを齎すような結末に向かって欲しいと。
    とりわけその気持ちが強まったターニングポイントは〈27 ホッグ・マウンテン・ロード 一九六六年〉の章。「ヤシの木の形をしたネオンライト」(p267)、「けばけばしい赤と緑の光」「窓の外で点滅する”空室”の看板」(いずれもp268)という描写がどれもこれも、それまでに描かれてきた湿地の自然や生き物達の様子とは真反対の下卑て偽りに満ちて情欲に塗れた無機質で生命力に欠けた異質の空気であり、狭く重く息苦しい。つらい。なおかつ本章にも冠されている’ホッグ’=’hog’には「大人の豚」「利己的・貪欲・欲張りな人」という意味があるようで、暗にカイアをこんな場所に連れ込んだアイツの事を指して強烈にディスっているのではないかと思われる。いや、カイアは何も悪くないよ…。

    ミステリとして見た場合はいわゆる’ホワットダニット’に分類される’なにがそうさせたか’を読み解く物語だと思うのだが、本作はそんな’いわゆる’なんて許されない程の凄味で圧倒する力・生命力と野性、そしてどうにも抗い難い差別と悪意に満ち満ち溢れている。とはいえ、きちんと理解者もいてくれるので特に終盤に向かうにつれて痛みを分かち合う事により和らいでいくのだが。MVPは〈サンディ・ジャスティス〉で決まりでしょう。
    判決を待つ間に高まる緊張感が本当に凄まじい。判決が読み上げられた行(p475)で私は泣きました。

    結末は読者に判断を委ねるタイプのぼやんとした終わり方だと思うのだが、作中で示唆されているカマキリの生態やホタルの詩を思うとまあ、きっとそうだったのかなと。ゴイサギの喩えがよく分からなかったのだが、ゴイサギという鳥は藪や茂みに隠れるのが上手らしいのでその辺を表しているのかな?

    タイトルの『ザリガニの鳴くところ』については「そんなに難しい意味はないよ。」(p155)とテイトが語る通り、種族を超えて皆がのびのびと暮らし、あまりにのびのびしてるので思わずザリガニまで声を出しちゃうくらいのこの世の楽園、理想郷を指していて、反語的に人間には辿り着けない世界の事を示しているのではと思ったのだがどうだろうか。

    あっと言わせるトリックや謎解きがある訳ではないので、それを期待するのはちょっと違うかも。
    瞼の裏に遠く大西洋を臨む湿地の風景を思い浮かべながら、じっくりと文章に向き合えた読書となりました。行ったことないので全て想像ですが。


    29刷
    2023.7.8

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