【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ
- 早川書房 (2020年3月5日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152099198
感想・レビュー・書評
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本屋大賞受賞作品で気になっていた作品。
ノースカロライナ州の湿地を舞台に、家族を失った少女とある不審死事件が交錯していくミステリー作品。
差別、偏見、貧困という現実のなか、たった独りぼっちで生きるカイアの孤独感・切なさには、胸にこみあげてくるものがあるが、それゆえに彼女が自然と戯れる場面はとても美しく、また、ネイトやジャンピンとの交流は心温まる。
物語終盤からは事件の真相が気になり、ページをめくる手が止まらない。
どんでん返しの結末で、読了後もしばらく放心状態でした。 -
ようやく順番が回ってきました。この作家さん69歳のデビュー作が本作とは圧倒されました。
映画は観てないのでノースキャロライナの湿地ってどんなとろなんだろうかって、汽水域にあるようでマングローブの林とかあるのかな?ワニとかいそうな気もするけどどうなんだろう? なんて想像してました。
6歳で湿地にある小屋に一人生活するとか逞しい。貝を売って最低限社会と関わって必要なものを揃えて暮らすとかコミュ症もここまでくると芯がある。母親をはじめ1人ずつ兄姉達は小屋を去り、酒癖の悪い父親も去って行った。
残ったのは湿地の少女と呼ばれたカイヤだけに。
その後に現れるボーイフレンド達もダメすぎる。
再会の約束を破った気弱なテイト、結婚を餌に言い寄った女癖の悪いチェイス。自立したカイヤなら男に頼らず生きていけると思うのですが癖のある男に靡いてしまうのは本能なのでしょう。カイヤに女友達がいれば良かったのにって思いました。
各章ごとに西暦が記されておりカイヤの少女時代の話と沼地での殺人事件の話の2つの時間軸で織り込まれたストーリーが1970年で合流し、湿地での平穏な暮らしを手に入れる。
カイヤが敬愛する謎の詩人アマンダ・ハミルトン
雌のホタルに気をつけろ
6歳の時から彼女の成長を見届けてきた私には最後がねえ。真犯人は他にいると思いたいのですが・・
生態系を観察してきた彼女にとっては、したたかで残酷な生物の戦略には善も悪もなく子孫を残すため必要な行為とかに映るらしい。ならば、アルファ雄はチェイスだと思うのだけど何故に受け入れなかったのか、テイトも気を引こうと出版者紹介したり、チェイスの悪い噂をカイヤに流してたのでそれは弱者の戦略だったのかっw -
面白かった!!主人公であるスワンプガールのカイアの生活にとても憧れる。
デリア・オーウェンス単独の作品を読むのは初めて。"City of the Kalahari"は昔読んだ。
アメリカで一昨年にベストセラーになっていて、去年和訳が出版され、書店で平積みになっているのはみて、気にはなっていたが、帯やポップが”泣ける”といった文字が目立ったので、違うかな、、と読んでなかった作品。図書館で目についたので借りてみた。私個人の感想としては、帯に書かれている”有名人”の感想とは程遠い。泣けるところはほぼなし。ただ、セクション31(p298)からの、カイア(主人公)の最初の本『東海岸の貝殻』の見本版が届けられたときには、ポジティブに感動して胸がつまった。嬉し泣き。訳もとてもすばらしい。
物語としては、1969年に起きた殺人事件と1952年(カイア6歳)から始まるカイア成長の歴史が行ったり来たりしながら描かれる。各章タイトルに年が書かれているので、とてもとっつき易い。小学校にすら通っていない、ドメスティックバイオレンスとネグレクトの被害児が、少ない友人の助けなどがあり、素晴らしいシチズンサイエンティストになっていく。ノースカロライナのあたりの素晴らしいラグーンの自然博物学がベースになっていて、読んでいて非常に心躍る。確かに”街”に群れ住む人間からすると”カワイソウ”な女児かもしれないが、読めば読むほど、カイアが羨ましくてならなくなってくる。憧れの生活がここにある、という感じ。カイヤが人間も自然の生物、たんなる哺乳類と捉えているところが、非常に読んでいて気持ちが良い。強く美しい、南部の自然が目の前に見えるような、そんな作品だった。
1970年代、80年代の南部の差別事情やいわゆる”ホワイトトラッシュ”についても触れられているが、ここらへんの歴史的な事情や、現在の状態などについての知識はある程度必要だと思われる。ここらへんと、ナチュラリストの知識があるかどうかで、この小説の好き嫌いが分かれるところではなかろうか。
でまあ、殺人事件もあるんだが、まあ、どうでもええというか、どうでも良くない殺人事件、最後の最後まで、犯人がわからんままで終わりそうな雰囲気なんだが、ところがどっこい、めちゃくちゃスッキリして終わる。これは、読了感が素晴らしい。
原題のザリガニが”Crawdad"になってるのが、最初に気になった。調べてみると、NCのあたりから中央にかけてはCrawdadっていうらしい。カイアの母親がニューオリンズ出身という設定なので、Crawfishでも良いとは思うが、そこらへんは土地柄を考慮したんだろうか。-
2021/08/22
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2021/12/12
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とても濃密で読み終わった時にため息が出るような、素晴らしい作品でした、、
中盤までは主人公のカイアが家族に捨てられ、村人に虐げられながらも、強く孤独に生きていく姿が彼女の心情を交えながら重厚に描かれており、中盤以降の殺人容疑をかけられたところからミステリー調の展開が始まり、めくるページが止まらず一気に読み終わりました。
作者が動物学者とのことで、湿地の自然や動物たちの描写がとにかくリアルで想像が膨らみますし、主人公カイアが逆境の中強く生きてく姿に全力で応援してしまいます。
もはやミステリー要素がなくても面白い作品なのに、そこにしっかりミステリーも組み込まれており、ベストセラーなのも納得の作品でした。 -
ミステリー好きの友人のおススメで読みました。
町の人気者、チェイスが死んだ。事故死か殺人か。疑われたのは湿地のほとりに住むカイヤ。
父の暴力から逃れるために母が家を出て、きょうだいが家を出て、父も家を出てしまい、カイヤは7歳から一人で生きている。
やがて兄の友人テイトとの距離が縮まるが…
湿地の美しい情景描写と生き物の様子をベースに、黒人差別、貧しいものへの差別、初恋、家族愛、DV、殺人事件、法廷、自然保護、詩…と要素が重なりながらストーリーが展開されていきます。
描写が凄すぎて、これってミステリーなん?と思ってしまいました。
カイヤの頑張るところと頑張れないところ、人から離れて生きていく怖さと人と接する怖さ等、悲しみとフラストレーションがダイレクトに響きました。
恋人とキャリア。自分らしく生きること。それを理解してくれる人がいること。安心して暮らすことの大切さを改めて考えさせてくれました。
裁判中にわかった町の人々の気持ちに、心温まるものがあります。
結末は、もうページ残りわずかで真実はどうなるんや、と最後までハラハラしました。