世界のすべての七月

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163226903

感想・レビュー・書評

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  • 2000年に53歳を迎えた人たちの群像劇を描いた小説。

    まずこの小説を読んだ際に少し(自分に対して)残念だったのは、
    アメリカの時代背景を知らなかったこと。
    1969年に何が起きて、彼らはどのような時代を生きてきたのか。
    その次代の文化や史実を知っていれば、この小説も
    もう幾分かは面白く読めたかも知れない。

    読み物としては、どこか終着点へ向かうでもなく、
    大きな山や谷もなく、そういう意味では面白みに欠けるし、
    村上春樹独特の言い回しも顕在で、
    まったく受け付けない人も少なくないだろう。
    ただ、人の生臭さみたいなのが滲みでていて、
    個人的にはついつい引き込まれてしまうような小説だった。

  • 村上春樹訳。
    舞台は2000年、アメリカ。

    なんとか大学の1969年度卒業生の同窓会の模様と、
    それぞれの損なわれた人生について交互に書かれている。

  • 例えば向田邦子を読んでズルいと感じたりするのは、
    その章、その一編の最後の一文(ときにそれは、一行の空白の後に"置かれる")が全てもっていってしまうからだと思う。

    余韻の残し方が、ずるいくらいに巧い作家。
    向田邦子の場合は、それ以外の要素(言葉の使い方や文章の流れ、テンポの緩急)も含めて巧いから、問題の余韻の残り方についても巧すぎてずるいとすら思う。
    本来はどんな巧い締めでも、そこまでに積み重ねられた味わいのようなものがあって初めて余韻が生まれるのであって、巧いだけじゃ何も残らないとは思うのだけども。
    *

    「世界のすべての七月」を読んで向田邦子を連想するのはおかしいのだけれど、
    ただ章ごとの余韻の残り方が共通して私好みに良かったわけです。
    さらっていく感じ。
    全て明らかにしました、という呈で、しらっと謎かけを残していく。
    『1969年7月』でがつんとやられて、そこからは一息。

    但しエッセイや短編と異なって凄まじいのは、
    長編の群像劇であるからには各章の「余韻」を、「群」になっている『1969年度卒業生』の同窓会シーンで回収していくところ。
    (これについては、本当に回収しきれているのかしきれていないのか危うさもあるけれど)

    「過去」が形成されるまでの経過があり、過去の「余韻」を残す現在としての同窓会が描かれる。
    当然、別に「過去」が形成されるまでの彼と、「余韻」を抱えた現在の彼とが劇的に別人格になっているわけではない。
    なるべくしてなったとも言えるけれども、でも人が「過去」として記憶することはほんの一部で、
    その一部の前と後として、彼自身にとって彼の人生という時間は記憶されていく。

    だから区切りであるところの「過去」を、巧過ぎる一文でくるっと浚うのは、ありなのだと思うのです。

  • 舞台は、50代の同窓会。
    お酒を飲んだり、踊ったり、愚痴ったり、後悔したり、恋に落ちたり。
    まるで自分がそこにいるかのように、シーンに浸ることができる。
    まだその年齢に達していないけど、なぜか「気持ちが分かる」ような気にさせる。

    話にのめりこむ分、読むのに時間がかかったし、疲れた。
    あのボリュームがあってこそ完成、なのは十分承知してるけど。

  • この間「硫黄島からの手紙」を見たので,触発されて読み返してみた。

    このティム・オブライエンという人は,デビュー当時から一貫してベトナム戦争の題材を扱ってきた。

    今回は今までような直接的なアプローチではなく60年代のカウンターカルチャーを過ごした卒業生が集まる同窓会が舞台になるが,それでもやはり出てくるのは戦争のフラッシュバックのような死の匂いである。

    というわけで今回のステキなフレーズ。

    「私たちは世界を変革しようとしていた。でもそれでどうなったと思う?世界が私たちを変革しちゃったのよ」

    物語にどっぷり心震えるひとときを,楽しんでみるのもいいかも。

  • 2011.7.18読了。

    人生は、世界は、こうして続いていく。
    不器用で下手くそで奇天烈でアメリカ!

  • おちゃらけて、馬鹿に、そして強引に諦めや、悲しみを詰め込んだ群像劇だ。
    人が背負う影の部分を明るく描写する。だからこそ逆に際立つ影が印象的だった。

  • 突っ込みを入れることはいくらでもできる。
    いい年をしてなにやってんだ、とか。
    いくら30年ぶりの同窓会だからって破目外しすぎだろ、とか。
    でも、思うように行かなかったり恥をかいたり悲しかったり、
    生きていくとそんなことが当たり前なんだと
    肌身で分かる年齢になった今では、
    ごちゃごちゃばたばたしてる彼らの気持ちが少し分かる気がする。
    彼らと同い年の53歳になったときもう一度読んでみたい。

  • なんかむなしさ漂っている。

    「人生というのはそういうことによって初めて人生らしくなるのよ」という言葉に集約されているか。

    群像劇だが、同窓会で、一晩の情事におちていく意味がよくわからない。すぐそうなってしまうという発想がアメリカっぽい。

  • ある大学の同窓会で30年ぶりに出会う人たち。その人たちの30年と今を組み合わせたオムニバス小説。

    自分の好きな作家(村上春樹)が、好きだと言っている作家(ティム・オブライエン)の作品を翻訳している。
    ファンとしては読まずにはいられません。

    それぞれ登場人物たちの物語には結末がありません。
    落ちどころのないまま終わります。
    「人生はもっと複雑なもので、死ぬまで続いていく。」
    つまり登場人物たちの物語はまだ続いているのです。
    混沌とした感じがティム・オブライエンの魅力です。

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著者プロフィール

(Tim O'Brien)1946年ミネソタ州生まれ。マカレスター大学政治学部卒業後、1969年から1年間ベトナムで従軍。除隊後ハーヴァード大学大学院博士課程で政治学を学び、1973年に自らの体験をもとにしたノンフィクション『僕が戦場で死んだら』(中野圭二訳、白水社)を出版。『カチアートを追跡して』(生井英考訳、国書刊行会)で1979年に全米図書賞を受賞した。他の著書に、『ニュークリア・エイジ』(1985年)、『本当の戦争の話をしよう』(1990年)、『世界のすべての七月』(2002年、以上村上春樹訳、文春文庫)、『失踪』(1994年、坂口緑訳、学習研究社)などがある。

「2023年 『戦争に行った父から、愛する息子たちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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