- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163277806
作品紹介・あらすじ
矢を射た男と、扇をかざした女。男は女を欲し、女は海に囚われた。落日の平家をめぐる女人たちを華麗な筆致で綴る第87回オール讀物新人賞受賞作収録の処女短編集。
感想・レビュー・書評
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平家物語を題材に、平氏一門の勃興あるいは凋落に派生する人間模様を掬い取った、珠玉の歴史短編集。
源平好きには馴染みのエピソードやモチーフを扱いつつも、料理の仕方は教科書めいた収束とは異なり、一癖も二癖も技ありで見事。
動乱や政争の狭間に埋もれゆく女人たちの姿が、実に丁寧に、しめやかで美しい筆致でもって綴られる。
読中、彼女たちの生や体温が身近に迫りくるような気配は、安定感があるのに刺激的。
冒頭の「常緑樹」、安易ななよなよしさとは隔たる常盤御前と、一条長成との安らいだ結びつき。
「啼く声に」、鬼界ヶ島に取り残された俊寛の、豹変の哀しさ。
終編「後れ子」にて、政治的無能を取り沙汰される建礼門院の性向に、温かく手を差し伸べる筆者の解釈。
物語は、やがて環に連なり、あるいは途絶え、流れゆくものは流れてゆく。
原典や史実との擦り合わせなどと、野暮は傍らにうっちゃり、流麗な文体がもたらす、歴史と虚構の交錯する世界を楽しみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読みやすかったです。
丁寧に綴られた言葉が醸し出す情景を味わい、平安の世に思いを馳せてはページを捲っていきました。
登場人物ひとりひとりの心情の機微は現代人にも通ずるものがあって、親しみやすく共感を抱きました。
読んだ後穏やかな気持ちにさせてくれるような素敵な本でしたが、若干物足りなさもありました。
心の美しい人物ばかりで・・自分にとっては綺麗すぎたのかもしれません。
(図書館蔵書) -
平家物語の登場人物を主にした短編集。
今回の五つ星は六話目の「後れ子」に捧げたものです。
大原の地で、足の不自由な伴の者の手を取りながら花摘みをする建礼門院徳子の姿にグッときて、思わず目が潤んでしまいました。
平家物語を読んだことがある人にお勧めです。
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「伴の者の手を取りながら」
良いですね、、、情景が目に浮かびます。
奥山景布子は、「時平の桜、菅公の梅」を文庫にならないかなぁ~と思ってい...
「伴の者の手を取りながら」
良いですね、、、情景が目に浮かびます。
奥山景布子は、「時平の桜、菅公の梅」を文庫にならないかなぁ~と思っているのですが、こちらも加えたくなりました。2013/04/02 -
この本は、奥山さんの美しい文体が、とても良く出ている短編集ですよね。雅やかな雰囲気が好きです。この本は、奥山さんの美しい文体が、とても良く出ている短編集ですよね。雅やかな雰囲気が好きです。2013/04/03
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「奥山さんの美しい文体が」
そうなんですね。。。
つい先日図書館に予約しました。今から楽しみです!「奥山さんの美しい文体が」
そうなんですね。。。
つい先日図書館に予約しました。今から楽しみです!2013/09/02
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著者の別の本が面白かったため、図書館で見つけて読んでみた。
この方の文体がなじみが良く、読みやすい。
源平合戦の周辺の女性達の短編集。
「常盤樹」「啼く声に」が特に好き。 -
世の中に平家物語を軸にした話は多いと思いますが、女人たちに焦点を当てて奥山景布子さんが書いたとあっては、平家物語に疎い私でもするりと落日の平家の世界に入っていけました。
奥山さんの古語の混じる美しい文体も心地良く、しんと物語が胸を打ちます
山本周五郎の「日本婦道記」を思い出し平家物語を書いてみたらこのようなものであるかなあとふと思いました。 -
平家物語にまつわる六編の物語。
常盤御前、俊寛、那須与一、静御前、熊谷直実、平徳子。
この小説だけでもいいですが、平家物語や背景を知っている方が面白いと思う。個人的には徳子の話が好きでした。
初めての作家さんでしたが、みやびやかですが読みやすさを失わない文体でした。 -
それほど凝った表現はないのに、しっとりとしたきれいな文章を目で堪能でき、十分に満足。好きな時代なので内容は言うことなしだが、『常緑樹』『平家蟹異聞』『二人静』が特に好き。
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平家物語を題材に、有名なエピソードを周囲の人物目線で描いた作品集。
「常緑樹」源義朝の妻であった常葉は清盛と子をなすが、その後藤原長成のもとへ嫁がされ・・・。
「啼く声に」島に住むミチは流されてきた成経の赦免にともない一緒に都へ向かい、千鳥となるが・・・。
「平家蟹異聞」那須与一が射抜いた扇をかざしていた松虫。その扇をかざしていたがゆえに・・・。
「二人静」捕らえられた静御前だが御台所政子の助けにより・・・。
「冥きより」平敦盛の首をとった熊谷次郎直実はそのために・・・。
「後れ子」生前の父・清盛から「後れ子」といわれていた建礼門院徳子は最後の時も皆に遅れたと日々淡々と過ごしていたが・・・。
正直、平家物語読んだことありません。教科書に載ってた?ぐらいの勢いです。
しょっぱなの「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」のくだりは覚えてますけど。
知っていたのは源頼朝、義経、平清盛、北条政子、常葉御前、静御前の名前くらい?
それもどこかの漫画での記憶かも・・・。
ああ、でもさすがに那須与一のエピソードくらいは知ってたかな。
それでもじゅうぶん面白く読めました。
とにかく文章が美しい。雅です。
当時の官位役職、生活品などわからない単語もありますが、流れるような文章に身を任せ気持ちよく読むことができました。
「後れ子」のラストをこうもってくるあたりが憎かったですね~。
思わずまたはじめから読み返してしまいました。
これがデビュー作とのこと。これから楽しみな作家さんができて嬉しいです。 -
新人離れしたと形容されてますがまさしくその通りで古典をベースに源平の狭間で揺れる女心をしっかりと堪能することができる六つのドラマが描かれています。
短いながらも構成がしっかりしてるし美しい文章は声に出して読みたくなる日本語の素晴らしさが伝わってきました。
古典に疎い僕ですがそれでもしっかりと平安ロマンを感じることができました。
作者は中世文学の研究者と言うことですが古典の中にこれだけのドラマを紡ぎ出せる力量はすごいものがあると思いました。