夜の真義を

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163299907

作品紹介・あらすじ

ロンドンの街の底を歩み、法律事務所のために裏仕事を請け負う男エドワード・グラプソン。英才と謳われ、名門イートン校入学を果たした男が、なぜ暗闇の街路で刃を握り締めるに至ったのか。その数奇なる半生が、いま語られはじめる。第二十五代タンザー男爵ジュリアス・デュポート。エドワードの実の父親は、この男爵かもしれない。母の遺品からそのことを知ったエドワードは、己の素性を隠し、裏稼業で知った手管を駆使して、父子関係の証拠を探しはじめた。だがやがて、男爵の寵愛を受ける若き詩人フィーバス・ドーントが姿をあらわす。ドーントこそが、かつてエドワードをイートン校放校に陥れた仇敵であった…。

感想・レビュー・書評

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  • 時は1854年英国、宿敵フィーバス・ドーントに復讐を遂げるため、予行演習として無関係な一般人を殺めるエドワード・グライヴァー。
    ことの発端は突如イートン校を追われることになったフィーバスのエドワードに対する謀略。

    イートン校追放後は母の親友が残してくれたというまとまった金をつなぎに身寄りのない人生を逞しく生き延び、ロンドンの法律事務所の裏仕事で才覚を現す現在に至る。
    これまで通過してきた様々な出来事が其処かしこで絡み合いエドワードの人生はフィーバスへと引き戻されていく。
    己の生きるはずだった人生に思いを馳せるあまり、執着し、半ば狂気に駆られる男の一大復讐譚。

    裏稼業で生計を成すだけに用意周到、緻密かつ冷静にことを運ぶのかと思いきや、どちらかというと思い立ったが吉日的な猪突猛進タイプで、忍び寄る敵に気づかなかったり、色仕掛けにまんまと陥ったりと抜かりありまくりな顛末。
    ただ、それ故にエドワードの一心不乱な狂気が助長され、何とも言えないノワール感を醸し出す。

    母の手紙に託された本当の幸福とは何かという命題に心を打たれ、正気に返るどころか微塵も心を動かされず、地位の奪還に固執するあたりに復讐心の罪深さを感じた。

  • 数奇な運命をたどる男の復讐を描いた歴史小説。

    19世紀半ばのイングランド。
    図書館で発見された告白の書という体裁で、書かれています。
    建物や町の様子が臨場感に溢れていて、魅力的です。
    ディケンズの「デイヴィッド・コッパーフィールド」が発表されている時期。
    おそらく当時の文体まで再現し、雰囲気たっぷり。

    エドワード・グライヴァーは、小説家として忙しく執筆する母親に、豊かではないが愛情深く育てられた。
    12歳の時に紋章入りの木箱を渡され、中に入っている大金に驚く。
    エドワードを可愛がっていた母の旧友が遺したもので、しかも、イートン校に入る手続きが済んでいるというのだ。
    フィーバス・ドーントという学生が友達の一人になるが、彼に陥れられて、エドワードは放校になってしまう。

    将来を断たれたエドワードは、名をグラプソンと変えて、法律事務所のために裏仕事を引き受けるようになった。
    資格はないが教養豊かで、知識人の友人も出来る。
    美しいベラとは、ベラが高級娼婦になる前からの知り合いで、商売抜きの仲の愛人。

    一方、ドーントは、詩人としても名を成し、タンザー男爵デュポートのお気に入りとなる。
    エドワードは、次第に自らの出生の秘密を探り出す。
    タンザー男爵こそが実の父親らしいのだ。
    領地を訪ねたエドワードは美しい土地に魅了され、しかも幼いときに来た覚えがあることに気づく。
    だが、証明しようとするのは難しい。
    そこに、ドーントの犯罪が絡んでいることに気づき…

    1854年、エドワードは見も知らぬ男を殺したという衝撃の出だし。
    なぜそこまでのことになったかは、終盤に至るまではっきりしません。
    途中だと、そこまでしなくてもという思いに駆られます。
    他の登場人物に感じる疑問も、最後まで読むと、それなりに筋が通り、因果応報が実感されます。

    重厚な手応えを堪能出来る小説。
    重すぎて、一度には読み切れず、他の軽い作品を挟みながら、少しずつ読んでいきました。
    でもどうしても、続きが知りたいのよね~。
    そういう興味は引っ張ってくれます。

    2006年の作品。
    著者は1948年、イギリス生まれ。
    1971年、ケンブリッジ大学を卒業、音楽業界に。1989年よりオックスフォード出版局で編集者となる。
    この作品は30年も構想をあたためていたが、ガンによる失明の危機から2004年に執筆開始。作品は、英国史上屈指の高額で落札されたそう。
    2008年には続編を発表。

  •  父親を早くに亡くし、経済的には豊かとはいえなかったが、小説家の母によって愛情豊かに育てられたエドワード・グライヴァー。12歳の誕生日を迎えた日、母は大金を彼の前に示し、驚くエドワードに彼をとてもかわいがっていた友人から贈られたものだと告げ、名門イートン校の奨学生となる手続きを終えているとさらに驚かす。
     しかし、成績も優秀、友人にも恵まれ、順調に見えたイートン校での生活にも突然ピリオドが。根も葉もないことを根拠に学校を追われることとなったのだ。その首謀者が友人の一人フィーバス・ドーントと確信したエドワードは深い失望と、フィーバスへの憎しみで心をかき乱される。
     フィーバスによって将来の希望を絶たれながらも、自分の生き方を模索するエドワード。そんな中、亡くなった母の遺品から己の出自を知ることになったエドワードは、真実を探し始めるが、そこにはまたしても宿敵フィーバスの影がつきまとい……

     物語は、エドワードという男性が、学生時代の友人フィーバスを宿敵とばかりに憎んで、彼を殺すために練習として殺人を犯してしまうというところから始まります。しかも、このフィーバス、エドワードを名門校から退学に追いやった首謀者なんですが、その後ものうのうと詩人になり、本を出したり、親戚の大金持ちのおじさんから甘やかされたりと、知る人にとってはとんでもない狡猾な男なのですが、世間では成功者とみられているのですね。
     そんな中自分の出生の秘密を知ったエドワード。その秘密こそフィーバスの悪事を暴き、彼を陥れるものだと確信したエドワードは、秘密裏に名前を変え、真実を探そうとするのですが……。
     登場人物が出そろうまでは、様々な出来事と、人物の名前や相関関係を整理するのが大変ですが、中盤以降はもどかしくってもどかしくって…これは、時間のあるときに読まないと徹夜なんてことになってしまいそう。
     ラストの好みは別れるところかもしれませんが、気になった人は一読の価値ありです。

  • 久々に海外の小説を読んだせいか、重厚感をひしひしと肌で感じた。
    英国特有のちょっとじめっとした薄暗い街並みが目に浮かぶような描写。

    類稀なる才能を持ち合わせながら、それを復讐に費やしてしまう悲しい男の悲しい復讐劇。頭がいいはずなのに自分自身の愚かしさには気づかないという不条理…。

  • ミステリ

  • 読み始めは 何と独りよがりの主人公だろう・・・
    と思ったのですが 段々引き込まれました。
    哀しい結末だけど これしかないわよね。

    現代に書かれたヴィクトリアン・ノワール?
    ロンドンの街の描写も田舎の様子も 
    ディケンズの小説を彷彿させて 上手いわァ。
    翻訳でも 元々の文体は重厚だと感じられるのも凄い。
    本好きの登場人物が多いので蘊蓄も多くて 面白かった。

  • 19世紀のロンドンや、郊外の古い大邸宅とか、好きな人には楽しいと思う。
    本当に古い時代の人が書いているようで、面白い。
    20話くらいでBBCとかでドラマ化しないかな。

  • 分厚いので少し時間がかかったが、
    何とか読み切りました。

    主人公の生涯と復讐劇が題材。
    私は復讐劇を楽しみたかったので、
    そういう意味では少し盛り上がりにかけました。
    しかし、交錯する人々の描写は素晴らしかったと思います。

  • 13/03 とにかく読むのに時間がかかった。ラストにさしかかったときはやはりそうきたか!とニンマリ。重厚な小説でした。でも憎むべき相手が名前だけで全然出てこないのは感情移入がしにくい。

  • (チラ見!)

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著者プロフィール

マイケル・コックス Michael Cox
イギリス生まれ。サッカージャーナリスト、解説者。2010年、サッカーの試合やチーム、戦術史を独自の視点で解説するウェブサイトZonal Marking を立ち上げる。
当時のイギリスでは珍しかった戦術分析の専門家の一人として注目を集め、様々なメディアに寄稿を開始する。
現在は『ガーディアン』や『インディペンデント』等の高級紙や、『ESPN』等で健筆を揮う傍ら、解説者としても精力的に活動。
戦術分析で高名な先駆者、ジョナサン・ウィルソンに憧れてジャーナリストに転身した第二世代にあたり、本書が初めての著書になる。

「2019年 『プレミアリーグ サッカー戦術進化論 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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