砂漠の戦争: イラクを駆け抜けた友、奥克彦へ

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163659800

作品紹介・あらすじ

奥大使よ、あなたの死を決して無駄にはしない。首相補佐官のイラク回想録。

感想・レビュー・書評

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  • 2003年11月29日。イラク北部の町で、日本の外務省職員ふたりの
    乗った車が銃撃された。乗っていたのは奥克彦参事官と井ノ上正盛
    書記官。運転していたのはイラクの日本大使館に25年間務めていた
    イラク人運転手。

    イラク戦争後、イラクの復興支援の為に派遣されたふたりは、
    イラクの人々にとって何が必要なのかを考え、イラク中を奔走
    していた。その最中の死であった。

    本書は小泉政権当時、首相補佐官であり奥氏とも親交のあった
    著者による国際支援の在り方を考える書だ。

    中盤からは著者が考える支援の在り方、自衛隊の海外派遣に
    対する考え方が記されているが、前半と後半に現場で懸命に
    働いた愛すべき日本人外交官の仕事振りと人柄が綴られている。

    真に惜しい人だった。戦争をおっぱじめたアメリカの本音なんて
    関係ない。フセイン政権の下で怯えて暮らし、多国籍軍の空爆に
    晒され、何もかも失った人たちに対し、最優先事項は何かを見極め
    る目と心を持った人だった。

    アメリカの意向に逆らったこともある。それが一因なのだろう。奥氏の
    死については謀殺説さえあるくらいだ。

    上司とはどんなにやりあっても、部下に対しては声を荒げることの
    なかった人だったという。誰にでも笑顔で接し、煩雑な手続きにも
    ほぼ苛立ちを見せることもない。奥氏のような人こそ、日本の国際
    支援を支える人だったのになぁ。

    元首相補佐官という立場の著者なので、全面的に賛同出来ない
    部分はあるが奥氏の人物像を描いた部分は満点である。

    「(前略)あんたはテロと言うが、これはテロとかゲリラの範囲を
    超えて、アラブのアメリカに対するレジスタンスになってんじゃない
    かと、この点だ。背景にパレスチナ問題に対するアメリカのダブル
    スタンダードへの反感が間違いなくある。それだけに自衛隊派遣
    は面倒なことになるんじゃありませんか。レジスタンスならそのほう
    に正義があると、人は思うよ。そういうところに日本を追い込むのは
    まずいよ。
    (中略)あんたたち、戦(いくさ)をやったことがあるんですか」

    自衛隊のイラク派遣について著者と話した時の、後藤田正晴の
    言葉だ。奥氏とは直接関係はないが、自衛隊を都合よく使おうと
    している政治家センセイに読んで欲しいね。特に最後の一文は。

  • 03年12月イラクで後輩の井上正盛氏と共に命を落とした外交官・カツこと奥克彦氏。その男性的な魅力を感じさせてくれます。日本がイラクに貢献したいという情熱を持ってイラクに行った奥氏を通して日本を美化しているようにも思いましたが、ヨルダン・イラク国境から片道3車線の道路を一気に160キロ以上で走り抜けなければ危険だという記述には臨場感がありました。そして第2の都市モースルの美しさをはじめ、砂漠の国の印象があるイラクが実は水の豊富な美しい国であることを描いている文章は感動的ですらあります。イラクそして隣接国のイラン、シリアの記述も詳しく中東の入門書にもなります。著者が書いているようにもう一人の井上氏の記述が少なかったことは残念ではありました。

  • 国家間の国際協力の正義について改めて考えさせられた一冊でした。あとやっぱ「軍隊」ってすごい。

  • 岡本行夫さんはこんな風に、物事を感じ、考える人なのか。
    彼の眼から見えた世界は、美しいです。

    人間味溢れる素敵なエピソードの一つ一つに泣きそうになりました。 奥さん、井上さんみたいな温かい人間がいてくれたこと。 ありがとうと感謝の気持ちでいっぱいです。

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著者プロフィール

外交評論家。2020年4月24日、新型コロナウイルスによる肺炎で逝去。1991年外務省退官後、岡本アソシエイツ設立。橋本内閣、小泉内閣と2度にわたり首相補佐官を務めた。 MIT国際研究センターシニアフェロー、立命館大学客員教授、東北大学特任教授などを歴任。2020年『岡本行夫 現場主義を貫いた外交官』(朝日文庫)がある。

「2021年 『フォト小説 ハンスとジョージ 永遠の海へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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